第六十九話 激闘の末に
ようやく、第二章のメインパートが終了します!
では第六十九話です!
全身から迸る神の力。
それは大地を揺らし、海を振動させ、空を開く。
俺の目にはもはや精霊女王キラ以外のものは映っておらず、豹変したことによる心の乱れは静まり、落ち着きを取り戻していた。
纏うのは殺気とも違う、神独特の絶対的風格。それは誰であろうとかき乱すことの出来ない超常的な空間を形成し、キラに圧倒的な威圧を放っていた。
「お、お前!?な、なんなんだ、その力は!?次から次へと変化するのも大概にしろ!」
キラはそう言うと、記憶具象化を使うのを諦め、右手に莫大な魔力を集めていく。
「私の力はなにも記憶具象化だけではない。その強大な神格を持って体現される!」
それ言葉通りキラの右手には燃え盛るような火炎が作られており、それは放たれる前から既に強力なものだと理解できる。
「根源の起爆」
瞬間、当たりが白色の光で覆いつくされた。
否、それは光でなく炎だ。だがあまりにも速く、熱いので火という根本を根底からひっくり返しているようだ。これこそが太古の炎。根源の火にして、精霊女王のみが使える根源の証。
根源の証とは、本来魔術でも魔法でも解明できない超常現象の一つで精霊女王たるキラのみが使える力だそうだ。すべての根源を見ることによって練成される世界最古の攻撃。
ゆえに防御する手段はほぼなく、避けることが推奨されるらしい。まあ避けられればではあるが。
そして何故俺がその情報を知っているかというと、それは全て今の俺の状態にある。
このプチ神妃化、どうやらこの世界においても相当高い地位位置するらしく、ある程度のものは見た瞬間、世界からその情報が与えられるようだ。当然普段の状態ではそんなことは起きないので、実に不便極まりないが、それでも今はその情報が助かっていたりする。
キラが放った根源の起爆は俺の体をすぐさま飲み込み、その体を焼き焦がす。
もはやマグマすら焼き焦がす炎は、人間一人の体など容易く融解させていく。
と思われたのだが。
「そんなしょぼい攻撃で俺を倒せるわけないだろう?」
俺は乱雑に右手を振り下ろすと、一瞬にしてその炎が消滅する。
「な、なに!?」
もはや神妃にとってそのような概念は通用しない。仮にも十二階神を全て相手にして生き残った存在の力だ。このような柔な攻撃が効くはずがない。
「どうした?その程度か?先程の威勢が感じられないぞ?」
「ぐぬぬぬ!?ぬかせ、人間が!妾は精霊の女王!お前の様な雑魚には負けるはずがない!」
だがその言葉はまたもや虚勢で終わる。
「寝言は寝て言えよ」
俺は音も、風も、気配も完全に消しキラの背後に忍び寄る。俺はそのままキラのわき腹に全力の蹴りを叩き込む。
「ぐああああああああ!?」
キラは俺が張った青天膜に衝突し、ずるずるとその体を地面につける。その表情は明らかに俺を敵視しており、憎しみの表情が浮かんでいた。
「図に乗るなよ…………。これくらのことで、妾が倒れることなど…………」
「散れ」
俺がそう言葉を口にした瞬間、絶大な威力が篭った風撃が繰り出される。それは第二ダンジョンの床をいとも簡単に砕き、キラの左頬と左腕を微かに掠め、青天膜に衝突した。それは薄っすらと赤い線を走らせ、次第に小さな赤い滴を作り出す。
「ッッッ!?」
言葉を遮られた挙句、その美しい顔傷をつけられたキラはワナワナと浮かび上がり、先程よりも更に多くの魔力をかき集めて、新たな攻撃に移った。
「どうやら、本格的に身の程を弁えさせなければならないようだな、人間!!!」
その魔力は空間に大きな穴をあけ、漆黒の渦を呼び出す。
そこから放たれるのは、根源の原初。
始まりの始まり。
とてつもない魔力とキラ自身の生命力が合わさった渾身の一撃。
「これは妾の最後の一撃だ。これを防がれれば妾に勝機はない。だがそう簡単に防げるとは思うなよ人間!!!!」
確かに、これまでの攻撃とは力の根本が違うようだ。単純な火力ではなく属性、調和、波長、全ての要素がバラバラで、おいそれと対処は出来そうにない。
その攻撃についてまたもや世界が俺に教えてくる。
それは根源より立ち返る闇の波動らしく、キラの精霊権限をもってようやく使えるわざらしい。もといこの技は大地を一度消滅させるために生み出されたらしく、その攻撃の規模は大陸などでは収まらず、星全土にわたる火力を秘めているらしい。
これは神核であっても防ぐのは難しいようで、スペック自体も神核以上のキラがこの技を使った場合、一体どれだけの被害が出るかは世界側でも想像できない。
つまりはそれだけ精霊女王キラという存在は異質だということである。
なんでも精霊の起点は設けられていたらしいがそれがここまでの力を保有するのは、完全なイレギュラーで、神格を保有するものは大抵がそのイレギュラーに分類されるようだ。
だが世界としてはその様な存在を排除しようとはせず、むしろ受け入れようとしている。世界はそれこそが摂理と捉えているようだ。
そう世界が俺に教えてくれたところで、ついにその攻撃が放たれる。
「消え去るいい!!!根源の停滞!!!!」
瞬間、漆黒の波動が俺に向かって飛んできた。それはどこまでも黒く、感情がゆがみ、触れれば間違いなく、自ら崩壊することを悟らせる攻撃だった。
放たれた闇の波動は、俺の体にぶち当たるとそこに全出力が集中する。
その威力はどうやら外にも伝わっているらしく、アリエスたちは物凄く不安そうな表情で、また精霊達は怯えて物影に隠れていた。
で、かくいう俺はと言うと。
その攻撃を避けることもなく、弾くこともなく全身に受けていた。
しかもじわじわとキラに近づきながら。
「ば、馬鹿な!?なぜこの攻撃を受けても平気でいられる!?仮にも根源の原初なのだぞ!!!」
俺はそのままキラとの距離とつめていき、最終的には空間に空けられた漆黒の穴の手前までやってきた。
俺はそこまでくると、自分の相棒に話しかけながら目の前のキラの攻撃を絶対的な力で掴み砕く。
「なあ、リア。どうやら俺とお前の能力は、そこそこ異世界でも通用するらしいぞ?」
『当たり前じゃの!私を誰と心得るか。この神妃に不可能はないぞ主様?』
その瞬間、俺の手が漆黒の穴に伸び右手の腕力だけでその力を吹き飛ばした。
バキバキバキという音とともにそれは崩れ去る。
それの後にはなにも残らず、大地が破壊された痕跡も、空間が破れた跡も、ダンジョンが崩壊したこともなく、全てが無傷であった。
俺はそのまま、うなだれているキラの元に近づくと、キラの体を起こしその瞳をまじまじと見つめながら呟いた。
「お前は俺の大切な過去を掘り起こしたんだ。これからどうなるかわかるな?」
するとキラは、とても悔しそうな表情をしながら俺の言葉に返答した。
「す、好きにするといい………。根源の停滞を完膚なきまでに防がれた今、私に精霊達を守る手段はない………。できれば関係のない精霊は逃がしてほしいというのが本心だが、それも虫のいい話だろう」
どうやらキラは人間を嫌い、忌避しているのは精霊達を守るためにやっていたことであるようで、この第二ダンジョンにやってきたのも、精霊達の長として安心して暮らせる場所を探し続けた結果だったようだ。
だが俺はそれでもこいつをただでは許すつもりはない。
俺はキラに更に接近すると、右手を上段に構えて、力を放つ準備をする。
それにあわせてキラは目をぎゅっと瞑り、俺の攻撃に備えていた。
というわけで、俺の最後の攻撃は無慈悲に執行される。
「…………イタッ!?」
俺は振り上げた右腕をキラの眉間に向けると、できるだけ全力ででこピンを放った。
さすがに傷になるほどの威力ではないが、なにせ今の俺はプチ神妃化しているのでそこそこの痛みはあるはずだ。
俺は額を押さえる、キラに向かって少しだけ微笑みながら、こう呟いた。
「お前にも使命があって、そのためにこのような行動を起こしたことは理解したし、精霊達がどれだけ過酷な生活をしているかなんて俺にはわからない。だから、今回はこれくらいで許してやる。使命を全うしようとするのはいいが、あまり無茶はするなよ?」
俺は最後に、ニッと歯を出して笑いかけると、そのまま振り返り、倒れているアリエスたちのほうに向かった。
「お前…………」
なにやらキラが呆然としているが、俺は気にせず歩みを進める。
正直言って、あのアリスとの記憶を引っ張り出されるのはそうとうきつかったのだが、まあどうせ、過去のことだし現実のことではないのだから、そこまで起こる話ではないだろう。
とはいえ少しくらいは反省してほしいのだが………。
俺はそう思いながらアリエスたちに張った青天膜の側に到着するとその膜を解除し、アリエスたちに一言だけ声をかける。
「ただいま、皆」
「は、は、ハクにぃーーーーーーー!」
俺が青天膜を解除した瞬間アリエスが目に涙を携えた状態で俺に飛びこんできた。戦いの後の体には少々堪えたが、それでも俺はアリエスを優しく抱きしめる。
それに続くようにシラたちが駆け寄ってきた。
「だ、大丈夫ですか、ハク様?なにやらまた豹変していたようですが……」
「大丈夫だよ。とりあえず今は問題ない。それに解決策もないから、どうしようもないというのが本音だな」
「でも…………ハク様はもう少しご自分の体を大切にしたほうが良いかと………」
アリエスに続いて泣きそうになっているシルがそう呟いた。俺はそんなシルをアリエスとともに抱き寄せると、できるだけ優しく言葉を紡いだ。
「そうだな…………。王国に戻ったら少しだけ休むとするよ。心配かけてごめんな」
その言葉にシルは軽く頷くと、俺のローブに顔を埋めた。
『まあ主のことじゃから心配はしていなかったが、なかなかはらはらしたわい。シルも言ったが主はもっと自分を大切にしたほうが良いぞ』
クビロもシルの意見に賛成なようで言葉を重ねる。
「本当です!ハク様はいくら強くても体は一つしかないのです!無茶は駄目ですよ!」
めっ!と俺に向かって人差し指を立ててくるエリアは、なぜだかいつもよりかわいらしく見えた。目元が少し赤くなっているから、心配してくれたのだろう。
「ああ。肝に銘じておくよ」
俺はそう最後に締めくくると、もう一度アリエスとシルを抱きしめると、勢いよく立ち上がって、妙に力を入れた言葉でこう呟いたのだ。
「それじゃあ、帰るか!」
俺はそう言うと蔵から翼の布を探す。
すると俺に近づく気配があった。
「人間…………。私は………。どうやらお前を誤解していたようだ。この度の数々の無礼許してほしい」
そう言って精霊女王キラは俺に向かって頭を下げた。
その流れる虹色の髪は地面についてしまっているが、そんなことは気にしていないらしい。
「だから、別に気にしてないさ。お前も目的と言うか使命があったわけだし。まあ俺としてはこの場所に住み着くなら、あまり冒険者の邪魔はしないでほしいということぐらいかな」
するとキラは顔をあげ、なにやら顔を赤くし、モジモジと体をくねらせた後、再び喋りだした。
「そ、そのことなのだが…………。ひ、一つお願いがある」
「お願い?」
「私は今回の件で、もう一度人間と言うものを見つめなおしてみたくなった。それは当然世界のいたるところにいる人間を見てみたいのだ。ゆえに…………そ、その……なんというか……」
「え…………まさか………」
俺の脳裏に嫌な予感がちらつく。
「私と契約して、お前の旅に連れて行ってくれ!」
その声はこの第二ダンジョン全体に響き渡り、俺たちパーティーを凍らせた。
どうやらこの第二ダンジョンでの出来事はまだ終わりそうにないようです。
とある場所。
それは未だかつて誰一人と侵入できたことはなく、人類含め生物の未踏の地。
その中に一人だけ、なにもない空間を見つめ、佇んでいる人物がいた。
その人物の前には、とてつもない世界の裂け目が広がっており、それは今も再生と破壊を繰り返す不思議な空間だった。
そしてその人物は不意に口を開いて呟く。
「へえ。まさか、第一、第二神核だけでなく、あのイレギュラーまで手中に収めるとは。これはさすがに注意しておいたほうがいいかもしれないね。だけど…………」
さらに言葉は続く。
「ようやく会えそうだよ、神妃リアスリオン」
その言葉は誰にも聞かれることなく消えていったのだった。
次回はこの戦いの後日談を書きます!
そしてもうすこしだけ第二章は続きます!
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