第六十五話 いざ第二ダンジョンへ
今回は第二ダンジョンへ向かうまでの道のりを書かせていただきました!
では第六十五話です!
第二ダンジョンの最奥。
そこに何者かが侵入し居座っている。第二神核はそう言った。
しかもそいつはダンジョンだけでなく、王都にも危険を及ぼす可能性があるという。
俺はそのことをアトラス国王に告げた。
「むう………。まさかそんなことになっておるとは………。であればそなたらはそこに向かうというのか?」
「ええ。神核を自分で倒した以上、それくらいの後始末はつけなければいけないと思っていますから」
本来神核は人類の最大守護者として機能している。今回も第二神核が万全の状態でダンジョンにいれば、このような事態は防げていただろう。
だが、あの神核の怯え方は尋常じゃなかった。第二神核が危険だと感じるほどの生命体。そんなやつが暴れまわるとなると、おちおち旅などしていられない。
しかもこれに関しては星神が絡んでいるのかも、わかっていない。この世界の生命式図がどうなっているか知らないが、神核クラスの強さを保有する奴がいるというだけでも脅威になるだろう。
「そうか………。正直言ってあのシーナが敵わない相手などわれわれが兵を出しても足を引っ張るだけか………。ではすまないが、第二ダンジョンの様子の観察、頼んだぞ。もし命が危なくなったら直ぐに戻ってきて構わない。逃げることを最重要項目とすること。これでいいか?」
「ええ、大丈夫です。エリアの準備が出来次第直ぐに向かいます」
俺はそう言うと、アリエスたちをつれて謁見の間から姿を消した。なんでもエリアの準備はまだ少しかかるらしいので俺達は城門の前でエリアを待つことにした。
しばらくするとようやくエリアが姿を現した。
その姿は肩を出し、白い布で胸を覆っており腰には金属の幾何学模様の腰当。またその腰当から伸びるのは下半身を隠す大き目のマントで正面は短めのスカートを穿いていた。
うん、ここまではいいよ。
何も問題はない。
だが。
その後ろに抱えているとてつもない大きな荷物に俺は顎が外れた。
「ハク様―――――!おくれて申し訳ございません!」
「あ、あの、エリアさん?そ、その後ろに抱えているのは……………?」
「え?これですか?全て私の着替えです!」
こ、これがお姫様というものなんだろうか………。自分の常識が通用しなさ過ぎて頭がくらくらする。
「なあ、アリエス。女子ってこれが普通なの?」
するとアリエスはもの凄く微妙な顔をして俺の質問に答えた。
「う、うーん……。ま、まあ確かに女の子は服が多くなりがちだけど、さすがにこれは…………ね」
エリアが担いでいるその荷物は軽く二メートル以上あり、普通の旅行クラスの量ではない。とはいえここでまた選びなおさせると余計に時間がかかりそうなので、俺は顔を引きつらせながら、その荷物を蔵の中に放り込んだ。
「えーと………。まあ何はともあれ、エリアが俺達のパーティーに入った。みんな仲良くするんだぞ」
「はーい!」
「了解しました!」
「了解です………!」
『うむ、承知した』
皆の言葉を聞いたエリアは一度、服の調子を確かめると、スカートの裾を軽く持ち上げ貴族風の挨拶をしてきた。
「これよりお世話になります。エリアといいます。皆様との交流を深められれば本望です!よろしくお願いいたします!」
一通り挨拶が済んだところで俺は蔵から、あの移動アイテムを取り出す。
「こい、翼の布」
それは俺達がこのシルヴィニクス王国に来るときに乗ってきたものであり、馬車や竜車よりは、遥かにスピードも乗り心地もいい。
「さて、それじゃあ行くぞ。本当なら転移を使えば直ぐにでもいけるが、そのダンジョンにいる奴が周りにどんな被害を及ぼしているかわからない。それも観察しながらダンジョンに向かう」
そう俺が言うと、エリアを除くメンバーたちが翼の布に飛び乗る。その様子を不思議そうに見ていたエリアは人差し指で翼の布を突くと徐に言葉を漏らした。
「変わった乗り物ですね………。絨毯なのに宙に浮いているなんて………。これは私が乗っても大丈夫なのでしょうか?」
「大丈夫、大丈夫!エリア姉も速く乗ろう!」
そう言ってアリエスはエリアの手を引っ張り翼の布に乗せた。
俺はそれを確認すると翼の布の舵をきる。
「よし、出発だ!」
その掛け声とともに、翼の布は勢いよく空に飛び出し、第二ダンジョンへと向かった。
空は相変わらず雲ひとつない晴天で、その日差しは俺の肌をじりじりと焼いたのだった。
「ハク様!お疲れではありませんか?なんでしたら私が癒して差し上げますよ!」
そう言ってエリアは俺の背後から腕を回し、その暴力的な大きさの胸を俺に押し付けてきた。その瞬間、あの薔薇のような匂いが鼻を擽る。
「ちょ、ま!待てって!全然疲れてないから!だからそんなにくっつくなって!しかも当たってるし!」
すると、その光景にキラーンと両目を輝かせたアリエスたちが抗議の声をあげる。
「エリア姉!いくら仲間になったからってそういうことは禁止なんだから!」
「そうです!私でさえハク様に抱きついたことないんですよ!」
「エリア………ちょっとここにおすわり」
「えー、いいではありませんか。私もハク様の手助けをしたいのですよ!これぐらいは当然です!ね?ハク様?」
いや、ね?って言われても………。
というか、童貞でチキンの俺にはもうどうすることもできないというか……。
と、とにかくできるだけ速く離れてください!エリアさん!
『フフフ、モテモテじゃのう主様』
『黙れ!見てないで助けろ!』
『フーンだ。私以外の女子にうつつをぬかす主様なんぞ誰が助けるものか。少しは反省するといいのじゃ!』
『な!?言いがかりだ!俺はそんなラノベの主人公みたいなことは………』
「もう、ハク様!少しくらいは反応してくれないと困りますよ!」
ぎゃああああああああ!?
こ、これ以上その柔らかいものを当てないでええええ!頭が溶けそうです!
「早くハクにぃから離れて!」
「「そうです!」………!」」
そう言ったアリエスたちが一斉にエリアに襲い掛かる。しかしそれはエリアの身のこなしによって全てかわされてしまう。
俺はなんとか思考を別の方に持っていこうとし、周囲の様子を気配探知を使いながら調べる。
半径一キロメーターほど策敵範囲を広げてみるが、そこには目立つような異常はなかった。
強いて言うなら、普段は殆ど見かけることのない精霊がよく見受けられたことぐらいか。
みればアリエスの肩の上に乗っている氷の精霊オカリナも、どこか普段とは違った雰囲気を滲ませていた。
精霊はこの世界の遥か昔から存在している。その誕生は神核と同時期とされ、人類の第二の守護者といわれていたりもするのだ。また気に入った相手には好意的に懐き、今のアリエスのように魔術や魔法といった人間の叡智に力を貸してくれたりするのだ。
また精霊の種類は大方、魔術や魔法と同じような分類がなされ、火精霊や水精霊といった下位の属性七種に加え、炎精霊、氷精霊といった上位の属性六種に分けられる。
相当力を持った個体は例外的に属性の分類には当てはまらないらしいが、それは例外中の例外なのだとか。
そして精霊は力の弱いものほど視認できないという特性をもつ。アリエスの精霊はまだ比較的弱い部類に入り、俺以外には見て取ることが出来ない。
よって、第二ダンジョンへの道中で精霊に気づけたものはおそらく俺だけだろう。俺は普通にしていても精霊は視認できるが、今は更に魔眼を使用している。これはどれだけ小さな異変でも見逃さないようにするために使用していたが、それは精霊の存在も的確に捉えているようで、その反応は手で触れるかのごとく感知することが出来た。
俺はアリエスたちに引っ張られているエリアをそっと自らの体から離すと、珍しくアリエスの側から離れていたクビロに話しかけた。
「なあ、クビロ。地の土地神であるお前は今回の件についてどう考える?」
クビロは地の土地神になるほど、この世界に長く住み着きその実状を見てきている。俺はその知恵を借りたいと思い聞いてみたのだ。
『ふーむ。確かに神核があれほどおびえるというのは珍しいしのう。とはいえあの竜に敵う生物がいるというのも信じがたいのじゃ。……………まあ、主クラスの神格を保有しておれば別じゃがな』
神格。
それは第一神核の戦闘のときも、昨日の第二神核のときも耳にした言葉だ。俺はいまだにその言葉の意味を理解していない。
まあ多分神の力に関係していることなのだろうけれど、ここらで聞いておいてもいいかもしれない。
「その、神格っていうのは一体なんなんだ?」
『知らぬのか主?』
「ああ、よくわかっていない」
『ふーむ。それだけの力を持っておきながら神格についての知識を持っておらんというのは驚きじゃのう。…………そうじゃな、一言で言ってしまえば、神以外の生物が、神の領域に足を踏み入れたときに宿る神性というところじゃ』
「神性?」
『そうじゃ、神の性質とでも言うべきか。本来人は神の領域には絶対に到達しないのじゃ。だがそれでも例外は存在して、それらが神の領域に到達したときに目覚めるのが神格なのじゃ。といっても本物の神になるわけではないので、それに匹敵する力を得るということじゃがな』
なるほど。
人がさらに上のステージに到達したときに身に宿る神の気配といったところなのか。で、それが俺からもにじみ出ていると。
『しかし、正直言って主のそれは神格といっていいものではない。まさに神そのものの気配じゃ。かなり変わった雰囲気はするがのう』
あ、そうなんですね…………。
まあリアと同化している時点で、薄々感じてはいましたけどね。
「で、その神格を持っているやつが第二ダンジョンにいる可能性が高いと?」
『まあそういうことじゃ。そうでもなければあの神格があそこまで狼狽することはないじゃろうしな』
俺はそのクビロの話を聞き終わると、そのまま翼の布のスピードを上げ第二ダンジョンへ急いだ。
後ろを見れば、アリエスたち四人がなにやら取っ組み合っている。その様子に軽く俺はため息をつくと、真っ直ぐ前を見つめ第二ダンジョンを目指した。
翼の布を走らせること約一時間。
とうとうそのダンジョンが俺たちの目の前に姿を現した。
それは標高五千メートルはあろうかという巨大な山を削られて作られており、その頂上には濃厚な霧がかかっている。
聞くところによると、この第二ダンジョンも第一ダンジョンと同じく十階層構成になっているらしく、そうすると一階層あたりの登山距離は五百メートルを越える計算になる。
いったいどれだけ過酷なダンジョンだよ………。
王国の冒険者は毎日こんなところに来ているのか?
と、正直ダンジョンに入る前から嫌な汗が止まらない俺だったが、次の瞬間さらなる恐怖が俺を襲った。
な、なんなんだ!?あの気配は!?
俺の気配探知はすぐさまダインジョンの頂上にいるその圧倒的な気配を捉えた。基本的に俺の気配探知は気配の大きさまでは測ることは出来ないが、ここまで異質な気配だとさすがにわからないことでもわかってしまう。
さらに、そのダンジョンには不可思議なことが起きていた。
そのダンジョンの頂上周辺には、色々な色をした小さな生き物達が集結していた。それは微弱だが魔力を発し、アリエスの肩の上に乗っているオカリナに物凄く似ていたのだった。
「あ、あれは……。まさか、精霊か!?」
そして、その瞬間から第二神核を超える存在との戦闘が始まろうとしていたのだった。
実は今から戦おうとしている相手は少し前の話にチラッと出てきていたりします。
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