第六十三話 気配創造
今回はハクの無双回です!
そして最後には新たな問題が!?
では六十三話です!
気配創造。
これは真話大戦中に発現した妃の器の二番目の能力である。
一番目は気配探知、そして二番目がこの気配創造だ。
これはリアとの初めての戦闘でも使用し、先日のルモス村での大蹂躙でも、その一端を見せた。
俺はこの能力を神核に使うと決め、発動する。
「いくぞ、神核。消される準備はいいか?」
「ぬかせ!!お前ごとき人間にやられるわけがなかろう!消えるのはお前のほうだ!!」
その瞬間、神核の姿がブレる。その気配は俺の真後ろに出現し、俺に殴りかかってきた。
俺はそれを振り返らず、空いている左手で掴み取るとそのまま投げ飛ばす。
「な、なに!?」
俺は、投げ飛ばした神核をただ只管眺める。ただそれだけ。
するとまたもや神核のスピードが上がり、今度は長く伸びた爪で攻撃してくる。先程俺の腹を切り裂いたときより鋭さが増しているようだ。
が、その爪は俺に届く前に崩れ去る。
「ば、馬鹿なああああ!」
瞬間、俺はこの能力の真価を発揮する。青い光とともに俺の頭上に一本の剣が作り出された。その力は神核であっても測定不能な波長を帯びており、見ただけではその威力を測ることはできない。
当然俺はこれにどれだけの力が宿っているかは知っているが、それを奴にわからせるほど隠蔽は下手ではない。
それは柄もなければ紋章もない、ただの刃。力の塊。
否、気配の塊である。
存在している以上、その全てのものに気配はついている。それは生命の根幹であり、命の養分。力の源。
俺はそれを吸出し、自分のものにすることが出来る。これは自分の身体強化に使えるだけでなく、あらゆるものを具現化し創造することが出来るのだ。
また戦火の花とこの気配創造は根本的に違う。
戦火の花は生命の生気という物理的なエネルギーを吸い出すのに対し、この気配創造は存在そのものを奪い取る。これが全て吸われると、命だけでなく記憶や魂ごと消滅するのだ。
もともとこの力はリアがこの妃の器を発見するまで、器が消滅しないようにするための力と言われており、俺の存続を第一に考えた能力なのだ。
ゆえにこの能力は全て俺の見方をする。
何が起きようとそれは絶対不変の掟なのだ。
俺は作り出した剣を神核に向かって投擲した。
それは寸分違わず神核の体を穿つ。
「ぐっがああああああああああああああ!!1」
神核はその身を折りたたみ、地に膝をつける。
さらに俺は万物から気配をかき集め、無数の刃を形成する。また同時に自分の体にも力を通していく。これにより普段はついて行くことのできない神核の動きにも完璧に対応できるのだ。
「お、お前!!!この剣は一体なんだああああああああ!」
神核が俺の創造した剣を見ながら、悲痛な叫びを上げる。その剣は一度刺されば抜くことはできない。なぜなら奴の気配そのものに突き刺さっているから。
物理的な干渉もそうだが、その剣は存在の気配をも穿つ。それゆえ身動きがとれない。
「さあな、教えてやる義理はないだろう?」
「ぐがああああ!ゆ、許さんぞおおおおお!」
瞬間、神核は自らの掌から青と赤の火炎を繰り出してきた。それは瞬く間にステージを覆いつくし、一気に灼熱の地獄に変わる。
気温は既に六十度を越えているようだ。アリエスたちは必死に自身の氷魔術や水魔術でこの暑さを凌ごうとしている。
「吹き飛ぶがいい、人間!」
神核はその後、自然操作の能力を使い、爆風と電撃、氷柱をあわせたような暴力的な球体を作り上げた。
表面は雷撃と氷の刃が突き出しており、とてつもない威力ということは見ただけで読み取れる。
「それはこちらの台詞だ」
俺は先程、作り出した無数の剣をその力に一斉掃射した。
瞬間、とてつもない爆風とともに、ステージの中を力の嵐が巻き起こる。それは観客席にも甚大な被害を及ぼし、闘技場はいとも簡単に崩壊する。
その力の鬩ぎあいは、とてつもない爆発とともにこの会場を飲み込み、俺達の視界を奪ったのだった。
「す、すごいね………。ハクにぃ」
アリエスたちは、その神核とハクの戦いをまじまじと見つめていた。
先程、ハクの助けにでもなればと思い、自分の最大魔術を放ったがそれはいとも簡単に神核に吹き飛ばされてしまった。
ゆえに今は時々飛んでくる攻撃の余波や瓦礫から自分の身を守りつつあの戦いを見守るしかなかった。
「まったく、なんという戦いだ!次元が違いすぎるぞ!」
シーナが吹き荒れる風に揺らされる自身の髪を抑えながらそう呟いた。
『むう、しかし主はなかなか苦戦しておるようじゃのう……』
クビロがアリエスの頭の上でそう呟いた。確かに先程までのハクは確実に押されていた。だが今のハクは………。
「でも今のハク様は、なにか変わりましたね」
そう、あるときを境に雰囲気というか、纏っているオーラが変わったのだ。先日の凶暴化したときのようでもなく、単純に元のハクの存在がより神秘性を帯びたような、そんな感じだった。
「ああ、しかも落ち着きも取り戻してやがる。これはいけるかもしれねえぞ!」
ギルがそう嬉しそうに言葉を発する。
しかし次の瞬間、ステージを灼熱の熱気が覆い尽くした。
「きゃあ、な、なに!?」
それはどうやら神核が繰り出した技のようで、ステージが燃え盛る火炎で包まれていた。
アリエスたちは魔術を使い、自分達の周りの温度調整を行う。なにせこの会場は今、おそらく六十度以上あるのだ。そんなところに何もせず立っていたら、暑さにやられて倒れてしまう。
だが、またここで問題が起きた。
神核が新たに大きな魔力を携え、爆雷球を作り出したのだ。
それは闘技場にあった瓦礫やごみを巻き上げる。また先程からずっと降り注いでいる雹も空中を漂い始めた。
空気が急速に乾き、空間を振動させる。
アリエスたちは必死にその巻き上げられた障害物を破壊していく。でなければ自分達に当たって怪我をしてしまうからだ。
だがそんなことは知らないと言わんばかりに、暴風はさらに勢いを増す。
その風にアリエスの髪は一瞬煽られ目元を隠した。
「アリエス!前を見なさい!危ない!」
シラの緊張した声が鳴り響く。
「え?」
アリエスが気づいたときには目の前に、巨大な瓦礫が迫っていた。
アリエスは咄嗟に魔本を開こうとするが、もう遅い。
そのままアリエスは目を閉じ、衝撃に身構えていると、なぜだかその衝撃はやってこなかった。
アリエスは恐る恐る目を開けてみると、そこには赤茶色の片手剣を構えながら、闇魔法でその瓦礫を押さえ込んでいる、青黒い鎧に身を包んだ一人の冒険者が立っていた。
「え?……………な、なんで………私を……、助けるの?」
するとその冒険者、ラオは軽く微笑みながら答えた。
「やっと口を利いてくれたな、嬢ちゃん」
「あ………」
ラオは昨日からずっとハクに言われたとおりアリエスに認められようと、ずっとアリエスに話しかけていたのだ。しかしそれの全てをアリエスは無視し続けていた。
「まあ、理由なんてものはないが、俺も冒険者の端くれだ。いざというときは人助けくらいするのさ」
「で、でも!私はあなたを無視し続けたんだよ!それなのに、どうして………!」
その言葉に、ラオは照れくさそうに頬を掻くとこう答えた。
「そうだな………。確かに俺は嬢ちゃんに無視されて多少は傷ついたし、師匠についていきたいっていう一心で嬢ちゃんに話しかけていたさ。でも俺はどうひっくり返っても冒険者なんだよ。冒険者は困ってる人を助けるのが、一番の仕事だ。強さを求めるのもいいが、俺はそれをつい最近まで忘れていたらしい。だから今くらいは冒険者らしいことをしたいのさ」
そうラオは言うと襲い掛かってくる瓦礫や氷を闇魔法で一掃した。
「……………」
アリエスはそのラオの言葉に、返す言葉がなかった。
ラオは自分の大好きなハクに攻撃を仕掛けてきた張本人だ。それを許す気もないし、認めることもできない。
だけど、それはラオにも考えがあっての行動だった。昨日ハクから聞いた話では、冒険者の目標を失って路頭に迷っていたらしい。
それを踏まえて考えると、この冒険者は本当に悪い人なのだろうか?
アリエスの頭の中をその疑問が埋め尽くした。
「あーそれと、俺はやっぱり師匠についていくのは止めにするぜ」
「え?」
「あの強さは尋常じゃねえ。確かに師匠についていけばあれくらい強くなれるのかもしれねえが、それじゃ師匠を越えることはできない。だから俺はもう一度、自分で強さってやつを見つめなおすぜ。そして今度こそ師匠に勝つ!」
その瞬間アリエスの中でなにかが、音を立てて崩れ落ちた。
瞬間アリエスは、ラオの隣に立ち魔本を広げる。
「氷の城」
それはアリエスたちを守るように城のような氷壁が展開する。
「嬢ちゃん………」
「私はあなたがハクにぃを攻撃したことは今でも怒ってる!でも、それでも、今のあなたは憎めないわ」
アリエスはその顔に笑顔を携えながら、ラオにそう呟いたのだった。
すると、ラオは嬉しそうに視線を目の前のハクと神核に戻すと、こう言ったのだった。
「ありがとよ、嬢ちゃん」
そしてその瞬間、ハクと神核の力が衝突した。
俺はその神核の攻撃を気配創造で作り出した刃で向い打った。
それはとてつもない衝撃波と爆発を生み、空気を吹き飛ばす。
だが俺には確信があった。
俺は口元をニヤッと笑わせると、土埃が晴れるのを只管に待った。
そしてその爆心地の様子が明らかになる。いくつもの雷が周囲を叩き、氷の破片が地面を抉った先には、見るも無残な神核が立っていた。
片腕はなく、腹には先程俺が突き刺した気配創造の刃が突き刺さっており、残っている四肢にも俺が打ち出した剣がいくつも肉を穿っていた。
「おま、おまえええええええええええええええええええ!!!!」
神核はそう叫ぶと、全身から血を吹き出しながら俺に突進してきた。
俺はそれを眺めながら、一度だけ指をパチンと鳴らす。
その瞬間、神核目掛けて残していた気配創造の剣がまたしても神核の体を切り裂く。そしてその剣たちは旋回すると、神核の体を空中に縫い付けた。
「があああ!?な、何をする気だ!?」
「何をって、当然。お前を正気に戻すのさ」
以前豹変した俺は第一神核を正気に戻すのに胸にエルテナを突きつけたという。
ならば今回もそれを試してみればいい。もしダメなら、それはそのときに考えればいいのだ。
俺は貼り付けになった神核に近づくと、勢いよく右手のエルテナを胸に深々と突き立てた。
瞬間、ガラス球が割れるような音が響き渡り神核を覆っていた見えない魔力が消失する。
「目覚めた気分はどうだ、神核?」
すると俺の言葉に呼応するように、目に光を取り戻した神核はこう呟いたのだった。
「最悪だ。罪悪感で押しつぶされてしまいそうだよ………」
こうしてイレギュラーではあったが、第二神核の解放は成功したのだった。
「で、なにを聞きたい人間?」
俺はその後神核に刺さっていた気配創造の刃を抜くと、神核を抱きかかえながら質疑応答を行っていた。神核は自分で歩けないほどダメージを負っているらしく、今は俺の膝に頭を預けて仰向けに寝ていた。
「とりあえずお前はどうやって星神に操られたんだ?」
これは今後神核と戦っていく上でとても大事なことだ。
「そうだな…………。私は竜の姿でたしか人間達を見ていたはずだ。何か以上はないか、何か問題は起きていないかと。そんなときだ、星神が心に問いかけてきたのは。なにやら人類を滅ぼそうとしている人間がいると、ただそれだけを告げられた気がする。………それからはなにがどうなったか、覚えていない」
うーん、なるほど。
心に話しかけるうちに、洗脳しているのか。っていうか、これだと回避できなくねえか!?ゼロ距離攻撃とか、なんというチート!
「それじゃあ、俺のもう一つの人格について、お前はどう考える?」
これに関してはなにやら第一神核から情報が伝わっているらしく、わざわざこちらから説明する必要はなかった。
「それか………。正直言って私はわからない、としかいえない。だが一つ言えるとすれば、まれにだが能力には意思が宿ることがあると聞く。お前のように多種多様の能力を持つ場合、それも視野に入れたほうがいいかもしれない」
すると、なにやら後ろのほうから足音が近づいてきた。
アリエスたちである。
見ると全員いたるところに傷を作っており、俺と神核の余波からくるものだろうというのは容易に想像できた。
あとで謝っておいたほうがいいかな、これは。
それと同時に、神核が苦悶の表情を見せる。
「どうやら、限界のようだ。第一神核も言ったようにわれわれ神核はエネルギーを消耗すると扉の鍵となる。それはお前に必要なのだろう?」
「ああ」
「ならばせめてもの罪滅ぼしだ、受け取ってくれ。それと私は神核の中では序列四位だが攻撃力の一点においてはおそらく最強だっただろう。少しでもこれからの旅に役立ててほしい」
なるほど、それはいいことを聞いたかもしれない。
であれば今後は防御よりも攻撃を優先していけばいいということになる。
「ではな、違う世界の神よ。私はそろそろ眠るとするよ………………………………な、なに!?あ、あれは一体なんだ!?」
眠りに就こうとしていた神核がいきなり目を見開き何かを警戒している。
「お、おい!いきなりどうしたんだ!?」
「わ、わからない!だが、何者かがわがダンジョンに侵入して…………この神格、まさか、あの女王か!?」
神核は今までに見せたことがないくらい真剣な表情をしている。
「どういうことだ!何が第二ダンジョンにいるんだ!?」
「………すまない、違う世界の神よ。最後まで不甲斐ない姿を見せてしまうな。だがあれはかなり危険だ。放っておけばダンジョンはおろか、この王都にも死人が出る。…………すまないが、一度見てきてほしい………、も、もう、お前に、し、しか、たのめ、んのだ…………」
そう言うと神核の体は跡形もなく消え去り、地面には紫色の宝玉が転がっていた。
俺達は神核が齎した新たな問題に、頭を悩ませるだった。
同時刻、とある秘境の洞窟。
そこは通常の方法では入ることはおろか、発見することも出来ず、目で捉えることも出来ない最奥の最奥。第一ダンジョン内にも第二ダンジョン内にもこのような狭間は存在しない。
その場所には一切の明かりは届くことはなく、床と壁だけがある異質な空間だった。
だがそこに一人の女性が佇んでいる。
その女性が腰掛けるのは、この部屋の唯一の明かりである輝石の柱。
その光によって照らし出されるのは、真っ赤な地面。まるで酸化する前の鮮血のような色。
その地面をその女性は右足で軽く撫でる。
すると当然、その足裏にはべっとりと赤い液体が付着する。
その光景に女性は一度微笑むと、いきなり喋りだした。
「クス…………。いいわねえ、あの子。なかなか面白そうじゃない。筋肉団子と駄竜を倒すなんて、正気の沙汰じゃないけど、ゾクゾクするわぁ。本当、食べてしまいたいくらいにね。まあ、帝国の勇者も面白そうだけど、こっちのほうが格別、おいしそうだわ」
そう、その女性は言うと床を覆い尽くす、赤い液体を手で少しだけ掬い上げると、それを指につけて、軽く口の中で回した。
「来なさい、異世界の神様。どこまでも残酷に私が食べてあげるから」
それは星神とはまた別の問題を生じさせようとしていたのだった。
いろいろな人物が出てきましたね(笑)
ですがこれらの人物たちはどれも重要な鍵を握っています!
一番近いものですとあの女王様でしょうか?
まだまだ二章は終わりません!これからも一緒についてきていただけると幸いです!
誤字、脱字がありましたらお教えください!