第五十四話 本選、八
今回はラオ、カリスの過去、そしてギルVSフードのあの人です!
評価や感想、レビューも待ってます!
では第五十四話です!
第二回戦サードバトル終了後、ラオは控え室前の薄い暗がりの廊下を歩いていた。一応試合後いつも通り上空に飛ぶことも出来たのだが、さすがに気温が上がり始め暑くなってきたので、一度地上で休むことにしたのだ。
ラオは闇魔法が得意なのであまり氷魔法には慣れていない。よって体温調節をしようとしてもなかなか難しい。
もちろんある程度は使えるのだが、それでも闇魔法ほど絶大な威力は期待できない。
よってラオはしばらく涼もうと地上に戻ってきたのだ。
カツカツと鎧のブーツが石畳の廊下を叩く。
すると目の前からもう一つ足音が聞こえてきた。初めは次の試合の選手か?と思ったのだが、直ぐにその考えをごみ箱に投げ捨てる。
これは強者の気配だ。
そうラオの勘が告げた。ラオはそのまま腰の剣に手をかける。
しかし目の前に現れたのは意外な人物だった。
「久しぶりですね………ラオさん」
その男は少し長めの金髪の髪をしており顔についている二つの目は碧眼。鎧は銀よりも磨きのかかったプラチナ色。
そう、聖剣士カリス=マリアカ本人である。
ラオはその姿を見ると、警戒は緩めず腰の剣から手を引いた。
「誰かと思えば、お前か聖剣士」
「覚えてくれていたんですね。僕としては嬉しいですが。あなたにするとそうでもないんでしょうね」
「そりゃそうだ。俺はできればもう二度と会いたくないと思っていたぞ。だが会っちまったもんはしょうがねえ。…………で、何のようだ?」
するとカリスはいきなり腰の聖剣を抜きラオの真正面に構えた。
「用件は一年前と同じです。僕と勝負してください!」
その言葉を聞いたラオは眉間に皺をよせ、確実に鬱陶しそうな顔をカリスに向けた。
「なんでそこまで俺に固執する?SSSランクになりたいのなら俺以外にもたくさんいるだろう。何がお前をそこまで駆り立てるんだ?」
そのラオの言葉はカリスに当てたものであったが、それは自分に対しても言えることであった。
ラオはSSSランク冒険者となり、常に強者を捜し求めてきた。時には圧倒的な力で有名な冒険者を蹂躙し、時には有象無象の魔物を狩り、ありとあらゆる生物と戦ってきた
しかしそれでもラオの心は満たされなかった。
まだ何かが足りない。何かを取りこぼしている。
そう考えるのが日課になってしまうほどに、ラオは自分でもわからないものを求めていた。
だからこそ気になったのだ。
この聖剣士のなにがこの執念を燃やしているのか。
「僕は、一年前、あなたに手も足も出ず無様に負けたんです!それは僕にとって屈辱でした。今まで誰にも負けたことがなかった僕は、自分が最強だと思い込んでいた。それをあなたは木っ端微塵に打ち砕いたんです。それから僕は必死に自分を鍛えなおした。あなただけに勝つために!」
それは言ってしまえば自分勝手な願望なのかもしれない。
しかしそれは聖剣士の願望に火をつけるには容易かった。激しい感情は時に人を大きく成長させる。それが良い方向だろうが、悪い方向だろうが、なにかしら進歩はある。
おそらく、それが今のラオに足りていないことであるのだ。
SSSランク冒険者ゆえ、目指す目標がない。負けることすらない。
そのような状況ではたして人間は成長できるだろうか?
答えは、もちろん否だ。
そしてそれにラオは薄々気づき始めていた。だからこそ、この大会に出場したのだ。今度は目的を持って強者を探すために。
「そうか。だが俺は辻試合でお前と戦う気はない。たしかに去年よりは強くなったようだがその状態ではまだ俺には勝てんだろうからな」
ラオとカリスが戦ったのは、丁度一年前。
カリスがギルドの依頼をこなしているときに、その聖剣士の噂を聞きつけたラオがいきなり戦闘を仕掛けたのだ。
結果はラオの圧勝。
それからカリスはラオだけを目指し、鍛錬してきた。
そして一年後の今日、偶然この魔武道祭で再会したということである。
「いいでしょう………。そこまで言うなら僕の実力をステージで見せてあげます」
その言葉にラオはフッと鼻で笑った。
「な、何がおかしいんですか!」
「いや、悪い。別にお前を笑ったんじゃない。ただお前も俺も無事に決勝でぶつかれるかわからないっていうだけだ」
このまま順当にいけば、シードであるカリスとラオがぶつかるのは決勝戦ということになる。
だがラオはそこにたどり着くまでの道のりが問題だ、と言う。
「ど、どういうことですか………?」
「俺は見つけたんだよ、ようやく。見た瞬間から絶対に敵わないって思える奴を。あのSSSランクの一位でもなく、それよりももっと圧倒的な存在をな。だがらそいつとぶつかったとき、多分俺はお前の前には立っていないとうことだ」
「ら、ラオさんにそこまで言わせるのですか………その人は」
「かくいうお前もおちおち安心してられないぞ。あのフードを被ったやつ、あいつは間違いなく強い。せいぜい覚悟しておくんだな」
ラオはそう言うと、聖剣士に背をむけその場から後にした。
そしてラオはその自分の目標となるであろう青年の顔を思い浮かべ、おそらくその青年と当たるであろう準決勝をただ只管に待ち続けた。
自分を完膚なきまでに叩きのめしてくれると信じて。
一方取り残されたカリスはその場に立ち竦んだまま、手に握られている聖剣を拳から血が出そうなほど握り締めていたのだった。
現在時刻午後一時半。
そこでは第二回戦、第四試合が決着を迎えようとしていた。
今回は男性剣士同士の戦いで、大剣と短剣の明らかにアンバランスな戦いとなっていた。
さすがにこの試合は大剣使いのほうが圧倒している。その腕はギルほどではないがそこそこの腕前をしており、振り回す大剣からは轟音が鳴り響いており、短剣の刃を悉く弾き返している。
この勝負の決め手は完全な間合いの取り様が重要なポイントになってくる。大剣使いは自分の間合いをいかに保つか、短剣使いはいかにして相手の懐にもぐりこむか、この勝負になる。
実際、この戦いは大剣使いに分があるようで、相手の短剣の刃は既に刃こぼれしている。
そしてついに、その短剣が折れた。
瞬間、大剣使いはそのまま首元に剣を突きつけ、第四試合は終了した。
俺たちはそのまま先程まで近くにいた同じく大剣使いの顔を思い浮かべる。
次の試合は、ギルとあのフードの女性なのだ。
ギルは今度こそは遅れない!と意気込んで数分前に控え室に向かった。俺はその姿を見送ると、隣にいるアリエスたちに現状の確認をした。
「おーい、気分の悪い奴はいないか?水分はこまめに取らないとダメだぞー」
そう言うと、その言葉に引きずられるように、全員が水を口にしだした。
かくいう俺は、特段水は取っていない。いや別に飲みたくないというわけではないのだが、神妃の力と同化した影響で体がもともとのリアのものに近づいているのだ。といっても性別が変わるとか、骨格が変わるとか、そういうことではなく、単純に神の機能として不要なものが削ぎ落とされているのだ。ある程度であれば、飲まず食わずでも生きてられるし、寿命に至ってはもうどれだけあるのか想像もつかない。
というわけで、俺は今は水を飲まなかったのだ。
そしてそうしている間にギルがステージに入場してきた。
相手は、ジーカーを下したあのフードの女性である。
するとそのフードの女性を見ていたシーナがなにやら首をかしげ呟いていた。
「ふーむ、あの女。フードを被っていて顔は見えないが………なんというか、他人には思えないな………」
「うん?シーナもか?俺も実はなんかそんな感じがしていたんだ。だけど、どれだけ記憶を引っ掻き回してもあんな強い奴に心当たりがない」
そう、これは前にも言ったことがあるが、俺はあの女性に違和感を覚えていた。特にあの足運びが独特で、どこかでみたような気がしてならなかったのだ。
「うーん、私もあれほどの強さを持った女性は残念ながら知らないな。………だが、今はギルがあの女性相手に、どれだけ粘れるかだな」
「そうだな。正直言って全力でも厳しい相手だからな」
ギルもBランクとは思えないほどの実力を持っているが、あの女性ははっきり言って別格だ。その相手にどこまで喰らいつけるか、これが今回の勝負の分かれ目になりそうだ。
「さーーーーーて!第二回戦も大詰めになってきました!では今回の第五試合目の選手を紹介します!まず右コーナーからはBランク冒険者のギル=バファリ選手です!ギル選手はその長年培った経験と実力でテユ選手を圧倒し、駒を進めています!対するは左コーナー!匿名希望選手です!この女性は、Aランク冒険者で有名なジーカー選手を打ち破って勝ちあがってきているダークホースです!」
するとギルは肩に担いでいた大剣を抜き放ち、中段に構えた。
対するフードの女性も片手剣とダガーを取り出し、交差するように構え戦闘態勢に入った。
「では、第二回戦、第五試合開始です!!!!」
瞬間、ギルが白魔法による身体強化によって速度を上げ一気に接近した。そのままギルは全力で大剣を振り下ろす。
それをフードの女性は片手剣を前、ダガーを後ろに交差させ、その攻撃を防いだ。しかしギルの攻撃は強力で周囲の地面を反動で隆起させ、クレーターを作り出す。
フードの女性は一度体重を後ろに倒すと、そのままギルの剣を弾き返し、空中で体をひねった後、ギルの首元に片手剣を突きつけた。
その瞬間ギルの両目がわずかに光を帯びた。するとギルは、今まで見た事がないくらいスムーズで無駄のない動きで、その剣をかわし次の攻撃に繋げた。
俺はその光景を見て、ようやく予選でのギルの行動に納得がいった。
ギルが使っている能力は、魔眼である。
それもかなり上質なものだ。
それは「観察勘」。
観察勘とは観察眼とは違い、さらに上位に位置する魔眼である。本来観察眼は目に入ってくる情報を魔眼の力で整理するスタンダートな能力だ。これはわりと所持している人も多いらしく、魔眼もちの大半がこの能力だったりする。
しかし観察勘はこれとはまったく違う。
観察勘はあくまで目を魔眼の支点にすることによって、万物の一歩先の動きを予測する能力だ。それゆえ観察眼のようにずっと対象を観察している必要はなく、一度発動してしまえばこの能力が頭に直接情報を書き込んでくるのだ。
おそらくギルはそれがばれるのを恐れ、予選では目を瞑ったままその能力を使用していたのだろう。
これにはシーナも驚いたようで、感嘆の声を漏らしていた。
「な、なるほど、観察勘か……。まったくとんでもないものを隠していたな。………だが、このまま持つのか?」
そう、この観察勘は莫大な魔力を消費する。
この力を使い続ける以上、魔力量も計算に入れなくてはいけない。
見ると、ギルはまだ余裕そうだが、次第に追い詰められていた。
いくら観察勘を使えるといっても肝心の体がついてこなければ意味がない。
やはり体術はフードの女性のほうが一枚上手のようだ。
フードの女性は、ギルに接近した後、ギルの足を回し払うと、そのまま大剣の柄を蹴り上げギルの手から弾き飛ばした。
それでもギルは拳を振るいながら、応戦する。
しかし、大剣を失ったギルなどもはや勝てるはずもなく、女性の剣捌きに圧倒されていく。肩を吹き飛ばされ、鳩尾に蹴りを入れられ、浅く付けられたダガーの傷、これら全てがギルの体力を奪っていった。
すると、なにやらギルの表情がおかしい。
なにかあったのだろうか?
「お、お前は………ま、まさか!」
そうギルが口にしようとした瞬間、そのフードの女性はギルの後頭部を掴み、地面に押さえつけた。
そのまま、片手剣を口元にかざし、こう口にした。
「それ以上喋ったら、その口切るから」
その言葉に一瞬戸惑ったギルであったが、両手をあげ降参のポーズを示した。
「おおーーーーーーーと!これはかなり一方的な戦いになりました!激戦を征したのは匿名希望選手だーーーーーー!魔眼を持っていたギル選手にも驚きましたが、それを圧倒する透明希望選手は、実に冴え渡った動きでした!皆さん盛大な拍手をお願いします!」
その言葉を聞いた俺たちは、その光景を見つめながら今の試合について考えていた。
「ギルのやつ、あの女性についてなにか気づいたようだな」
「ああ、そしてそれを口にしようとした瞬間、あの女の動きが変わった」
これは一度ギルに聞いてみよう。
そうでなければ解決できる問題ではない。
俺はいまだにステージで倒れているギルの帰りを待った。しかしギルはそれからしばらく観客席に戻ってくることはなかった。
ギルが戻ってきたのは第二回戦が全て終了した、午後二時ごろだった。
その顔には明らかに迷いが浮かんでおり、表情も少しだけ硬い。
その後、ギルに対して俺たちから尋問がスタートするのだが、その結果はあまりに淡白なものだった。
「俺は何も言えない」
ギルはその一点張りで、俺たちは頭に疑問符を大量に並べるのだったが、これ以上は何を聞いても答えないだろうと判断して、尋問は切り上げることとなった。
そうして魔武道祭第二回戦の全試合は終了する。
俺たちがギルの隠している真実を知るのは、もう少し先の話となるのだが、今の俺たちは知る由もない。
次回はサクッと三回戦を書き、準決勝に入ります!
そろそろフードの女性の正体がわかってきたでしょうか?
誤字、脱字があればお教えください!