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第四十六話 本選までのひと時

今回は本選までの間のお話です!

では第四十六話です!

 俺は、そのSSSランクの冒険者ラオが起こした騒動の後、すぐさまスタッフの聴取を受けた。

 スタッフからすれば、観客の安全装置である十枚の結界が一度に壊されたのだ。その渦中にいた俺を取り調べないわけがない。

 よって俺はそのときの状況を詳しく聞かれていたのだが、それが何と言っても長い!先程は午後四時半くらいだったのだが、既に取り調べが始まって一時間以上たっており、辺りは夜の気配を色濃く醸し出していた。

 正直外に待たせているアリエスたちが心配なので、できるだけ早めに終わらせようと真実ばかりを告白したのだが、それが余計に自体を悪化させた。

 なんでもSSSランク冒険者とは、一般人からすればヒーロー的なポジションであるらしく物凄くいいイメージが定着してしまっていた。そこに俺が、あのSSSランク冒険者がいきなり攻撃してきた、なんて言ったところでなかなか信じてもらえなかったのだ。

 とはいえ俺とて自分を悪者にするつもりはないので、必死に粘っていたのだが、そこに思いがけない存在が姿を現した。


「彼は、何一つ間違いは言ってないよ。早く解放するといい」


 それは、赤髪の髪を後ろでまとめ、体のラインを残したフルプレートの鎧を着ている人物だった。

 そう、シーナ団長だ。


「で、ですが!いくら朱の神とはいえ結界を全て破るなど………」


「だからそれをやったのは彼じゃない。私はこの目で見ていたんだ。それとも何か?ここのスタッフは王国騎士団の団長の言うことは信じられないか?」


 俺の取調べを行っていたスタッフがなにやら抗議の声を上げるが、それはむなしくもシーナ団長の威圧に潰されてしまった。


「い、いえ!とんでもございません!」


「ふむ、では行こうかハク君。君もいつまでもこのようなところにはいたくあるまい?」


 俺はその言葉に半分苦笑しながらも、立ち上がってその金色の目を見ながらこう答えた。


「ええ、そうですね。仲間を待たせています。さっさと行きましょう」

 そして俺とシーナ団長はこの闘技場の取調室を後にするのだった。




「あ、ハクにぃ!おそいよ!もう一時間以上たってるよ!」


俺は仲間たちの下に戻るなり、とても大きな声でそのような言葉を投げつけられた。


「はは………。悪かったよ、みんな。どうも頭が固い奴が多くてな」


するとシラとシルも俺の身を案じてくる。


「どうやら、相当苦労なされたようですねハク様?」


「まあな。でもこのシーナ団長が助けてくれたから大丈夫だ」


 俺はそう言うと、俺の後ろにいたシーナ団長を指差した。シーナ団長は俺にそう言われると俺よりもさらに一歩前に出て、アリエスたちに向かって腰を折った。


「今回は、あなたたちの大切な主人を束縛してしまって申し訳なかった。王国の一人間として謝罪しよう。すまなかった」


「え!?あ、あ、は、はい………。こ、こちらこそ……。ハクにぃがお世話になりました!」


 いきなり謝罪してきたシーナ団長を前にして、アリエスたちはひどく驚いていた。

 普通に考えれば、悪いのは勘違いしていた闘技場職員のほうなのでシーナ団長が謝る必要など、まったくない。

 だがそれを一国の騎士団の団長として頭を下げたのだ。

 こちらにしてみれば逆に申し訳なくなってきてしまう。

 まあ、なにか狙いがありそうだけどな………。


「で、なんでこんなところにお前もいるんだ、ギル?」


 俺は話を変えるように近くの壁に寄りかかっていた、大剣男に話しかけた。


「お?いや、そろそろ飯の時間だからな。お互い、本選出場祝いってことで一緒に食べに行こうと思ってな。大方、そこの団長さんも同じ考えなんだろう?」


 そう言われるとシーナ団長は、口元を少しだけ緩ませ、その言葉に答えた。


「なるほど、君がギル=バファリ君か。王女様が世話になっているようだが、どうやら相応の実力を持っているらしいな」


「それはあんたもだろ?」


 と、二人視線が真っ向からぶつかり合う。

 なんだなんだ!?

 この二人仲悪いのか?

 というかここで何かまた騒ぎを起こせばまたあのスタッフが飛んでくるぞ!?

 いい加減そういうのはやめてくれー!


「フッ、すまない。馬鹿なことをした。まあ君の言ったとおり私は今日ハク君を食事の席に誘おうとしていた。それは間違いじゃないよ」


「なら決まりだな。………よし、ハク!今日は飲むぞ!ついて来い!」


 シーナ団長とギルはお互い殺気を抑えると、いきなり態度を変え、話をどんどん進めてしまった。


「お、おい!俺たちの意志はどこに行ったんだ!?俺たちはまだ行くとは一言も……」


「是非行きましょう!というか行きます!絶対行きます!」


 という俺の声はむなしくも腹ペコのアリエスの声によって遮られてしまった。

 ああ、もうこうなったら止められない………。

 なんといってもアリエスの食への執着は物凄いのだ。こればかりは俺でも止められない。


「はい!私も行きます!是非連れて行ってください!」


「美味しいご飯………食べたいです!」


 さらにシラとシルも追撃を加える。

 完全に俺の立場がなくなった。


「はら、どうしたハク?仲間がこういってるんだぜ?それでもパーティーのリーダーかよ?」


 するとそのギルの言葉と一緒に、シーナ団長が俺の右肩に手を置き慰めるように呟いた。


「君はどこにいっても苦労しているのだな。だが今日は私も君を帰す気はない。一緒に飲むとしよう」


 なんだその、拒否権はないぞ、って言っているみたいな顔は!

 なんか王城であったときよりも遥かに怖いですよシーナ団長!


「はあ…………。わかったよ。だけど、俺、取り調べで明日の本選の話とか聞けなかったから教えてくれよ?」


「ああ、もちろんだ!」


 ギルはそう頷くと、闘技場の出口まで足を伸ばした。

 俺たちもその後に続く。

 俺はその場から去る寸前、先程俺とラオが戦っていたステージが眼に入った。

 そこは地面に特大の切れ目が走っており、戦いの凄さを物語っていた。

 奴と戦うのも明日か……。気を引き締めないとな。

 俺はそう心の中で呟くと、腰の二振りの愛剣を鞘から一瞬だし、音を立てて入れ直した。




「では、改めて。私の名前はシーナ=ガイルという。知っていると思うが一応王国近衛騎士団団長を勤めている。よろしく頼む」


 そのシーナ団長の自己紹介から、宴は始まった。

 ギルが慣れた手つきで料理をガンガン注文している。どうやらこの店には初めて来るわけではないようで、店員さんとも顔見知りのようだった。

 俺たちが入った店は、見た目は物凄くカントリーな雰囲気を醸し出しており、居心地は割りとよく、落ち着いて箸を進めることが出来た。

 料理の注文をしているギルの隣にはアリエスがくっついており、横からさらにオーダーを追加している。

 正直言えば尋常じゃない量を注文しているのだが、まあこの面子なら食いきれないこともないだろう。

 なにかあればクビロに食べてもらえば問題ないし。

 しばらくすると料理が運び込まれてきた。

 その瞬間、アリエスとシラ、シルの腕が物凄いスピードで動き出す。もはや戦闘時並だ。


「すみません、シーナ団長。騒がしいですよね?」


「シーナでいい。君は王国関係者や騎士というわけではではないのだから、敬語も不要だ。それと食事は楽しいほうが美味しくなる。別に私は気にしてないよ」


 そう言いながらシーナも料理に手を付け始める。その姿は可憐な乙女そのもので、戦場で見せる鬼気らしさはまったく感じられなかった。

 まあなんとうか、騎士団長という重い称号を担いでいるわりには美人過ぎるのだこの人は!


「それじゃあ、シーナ。一つ聞きたいことがある。あのSSSランクの冒険者は何者だ?」


 するとシーナは意外そうな顔をして俺を見つめてきた。


「ふーん、私はてっきりどうして王城で手を抜いていたのかを聞かれると思っていたのだが……。まあ確かに今の君の心情を考えれば当然か」


 そうシーナは言うと、運び込まれてきた青色のお酒を手に持ちながら話し始めた。


「あの殲滅剣ラオ=ヴァビロンという男は、試合のときにも言われていたようにSSSランク冒険者序列三位だ。あれはその得意な闇魔法と腰に刺す魔剣で幾たびの戦場を駆け回ってきた。初めは自分の正義のために戦っていたそうだが、そのうち目的を見失い、強さだけを求めるようになったという。まあSSSランク冒険者というのは大抵皆そんなやつばかりだけどね」


 正義のためか………。

 本来冒険者は、特殊な資格も必要なく誰でもなれる職業なのだが、それゆえ夢見がちな目的を志すものが多い。

 それもそのはずなのだが、冒険者は時には住民を守るために剣を取り、戦場を駆け回る。これは自身の正義感に火を灯す着火剤には十分であり、冒険者の心を増徴させるのだ。

 しかし、現実とは非情なもので、冒険者を続けていく過程でその心を打ち砕かれる場合が多々ある。原因は色々なのだが、それは再起不能になるほどのダメージを冒険者の心に与えることも少なくないらしい。

 おそらくラオも何か過去にあったと考えるべきだろう。


「そうか。まあ奴は明日俺がぶっ潰す。理由がどうあれ俺の仲間に手をかけたんだからな」


「フッ………実に君らしいね。王城で見せた殺気もそうだが実に肝が据わっているようだ。………で、そこにいるのが地の土地神(ミラルタ)かい?」


 そうシーナは言うと机の上で料理をもそもそとつついているクビロについて聞いてきた。


「ああ、今はクビロって呼んでいる。実力は折り紙つきだからあまり見くびらないほうがいいぞ?」


「いや、見くびるなんてことはしないよ。私では一合も持たないだろうからね。にしても君は本当に底がしれないな。強力な魔物を側に置き、SSSランク冒険者の攻撃を軽々と止めてしまうとは」


「なにを………。予選で俺の芸当を軽々真似してきた人が何を言ってるんだか……」


「ハハハ、あれは少し君に対抗してみたかったんだよ。よく出来ていただろう?」


 とシーナは言うと、つくねの様な肉団子を口に放り込み、頬を染めた。

 俺はその言葉にはあえて答えず、料理にがっついているであろう、俺のパーティーメンバーの様子を見てみた。

 するとそこには、先程まで山のように盛られていた料理が忽然と姿を消していた。


「な!?」


 見ればアリエスがさらに注文を加えようとしている。


「あ!店員さん!これと、これ、それとこれも!もう一つください!」


 ちょっと待てーーーー!

 これだけの量、一体どれだけの値段になるのだ?というか食べるの早すぎでしょ!俺なんてまだ一口も食べてないんだぜ!?


「おーーーーい、ハクーーーーー、飲んでるかー」


 そういいながら俺の背後からやけに酒臭い男が絡んできた。


「おい、ギル!酒臭いから近寄るんじゃねえ!」


「みずくせーこというなよー。俺とお前の仲だろ?」


「どんな仲だ!」


 こいつもう酔ってやがる。顔が真っ赤だ。

 対照的にシーナは物凄く酒に強いらしく、なにやら笑いながら呟いてきた。


「ハハハ、君はどうやら苦労する体質みたいだね」


「笑ってないで助けてくれーーーーー!」

 

 こうして魔武道祭の予選は終了した。

 会計の際に値段が十万キラを超えていたのだが、俺はそれを直視することが出来なかった。





 翌日、本選当日。

 俺たちは既に、闘技場に来ていた。

 その理由は、本選のトーナメント表の確認のためである。そこは既に大量の人がつめ掛けておりなかなかその大戦カードを確認することが出来なかったのだが、俺は能力の魔眼を使い、そのトーナメント表を確認した。

 俺が使う魔眼は、正確にはこの世界の魔眼とは違うのだが、それでもそこそこ強力なのでたまに使うことがある。俺は今回はるか先に掲示されているトーナメント表を確認するために使用した。

 そして俺は自分の名前を探す。

 すると俺の名前はまさかの、一番初めに書かれており、第一試合の一番初めということになるようだ。他の知り合いの選手も確認してみたが、第一試合では誰とも当たりそうになかった。

 本選。

 これは基本的に一対一の肉弾戦で行われ、敗者復活のない完全な勝ち残り戦である。また今回の本選出場者は全員で二十五人のため一人溢れてしまうことになるのだが、それはシード枠とカウントされ、勝者が奇数となる、準決勝まで自動的に勝ちあがるらしい。

 なんだそれは、ずるくね?

 と思うのだが、その枠はなんでも優勝候補が担うらしく、今回はあのイケメン剣士であった。奴は前回の優勝者でもあるし、まあ異議はないだろう。

 よって俺は第一試合の最初いうこともあり、急いで控え室に向かった。

 アリエスたちは昨日と同じ観客席に座っており、そこにはシーナとギルの姿もある。

 俺はアリエスたちに、行ってくる、と声をかけて、その場を後にした。




「ようやく本選か……」


『なんじゃ?緊張しとるのか主様?』


 俺はステージの一歩前の扉でそう呟いていた。

 耳に聞こえるのは、昨日よりも遥かに大きい歓声。

 俺はここで戦闘を繰り広げるのだ。

 緊張しないはずがない。


「まあな。…………でも負けるつもりはない」


『ああ、そうじゃろうな。主様は誰にも倒せんし負けんわい!』


 俺はそのリアの言葉を聞くとニヤリと口を笑わせると、足を前に踏み出した。


「それじゃあ。見せ付けますか。本当の強さってやつを!」


なんか、前回のあとがきに今回は本選!って描いた記憶があるのですが、まだ入れませんでした。すみません!

ですが次回からは完全に本選です!少々省略した、本選までの流れも書きたいと思います!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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