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第四十三話 予選、二

今回はハクの戦闘回です!

では第四十三話です!

「よし、そろそろいくか」


 俺は徐にそう言うと、席を立った。

 現在、ステージでは第四グループの試合が行われており、既に光球が二つ壊されている。

 そろそろ控え室に向かわねば、遅れてしまいそうだ。

 ちなみに、ギルが出場していた第三グループの試合が終わると、俺たちはシラちシルの作ってくれた弁当を食べた。それは野菜や肉がぎっしりと詰め込まれたハンバーガーで、その味は舌がとろけるほど美味なものだった。

 アリエスにいたっては物凄い速度でそのハンバーカーを頬張り、少し赤く染まった頬にソースを付着させていたり、いきなり食べ過ぎて喉を詰まらせそうになって水をかきこんだり。

 それはもうとても賑やかな昼食となった。

 俺はシラとシルの二人に、ありがとう、と呟き食事を進めた。最近は宿のご飯やそっけないパンのみを食べる生活が続いていたので、正直言って物凄く臓腑にしみたのだ。

 さすがは俺のメイドだぜ!まったく素晴らしいな!

 と、心の中で叫びながらふとステージに目をやってみると、そこは絶賛整備中であった。さすがにあれだけの人数が一度に戦いを始めれば、ステージ自体のダメージを凄いらしく、いたるところに傷や地面の抉れが出現していたので、その修復だろう。

 その整備が一通り終わり、休憩時間もちょうど一時間経過し、ようやく第四グループの試合が開始された。

 昼食時間は、閑散としていた観客席も再び人の山に変わり騒がしい雰囲気を取り戻しているおり、熱狂が会場を包んでいる。

 俺は先程と同じように、誰か注目すべき選手はいないかと目を凝らしていたのだが、どうやらこのグループには大した奴はいないらしい。

 まあ強いて言えばAランク冒険者が混ざっているそうなのだが、少なくともセルカさんクラスの動きは出来ないらしく、俺にすれば他の有象無象となんら変わらない。

 よって俺は光球が二つ壊された段階で席を立ち上がった。


「あ、ハクにぃ行くの?」


 と、立ち上がったアリエスが俺の顔を見上げて問いかけてくる。


「ああ、もう少しでこの試合も終わりそうだしな。控え室に向かうよ」


「了解。それじゃ、頑張ってねハクにぃ!まあハクにぃが負けるとは思わないけど、一応手加減はしないとだめだよ!」


 アリエスは俺にそう言うと人差し指を立てて、め!、と俺の顔前で念を押してきた。

 俺はそれを両手を上げて、降参のポーズをとると呆れながら返答した。


「はいはい、わかってますよ………。とはいえ、俺もなめられたら嫌だからそこそこの力は使うけどな」


「はい、それで問題ないと思います。頑張ってくださいハク様!」


「頑張ってくださいハク様………!」


 と俺の言葉に続くようにシラとシルも俺を応援してきた。


「ああ、それじゃ、行ってくる」


 俺はそれだけ口にすると、軽くアリエスたちに左手を上げその場を後にした。

 この観客席から控え室に向かうには、一度入場口の階段を下り、選手専用のフロアまで移動しなければならない。

 そこは当たり前といえば当たり前なのだが、観客席と違い人の姿はほぼなく、すれ違うのは同じ参加者かスタッフの面々だけだった。

 俺は五分ほどかけて、第五グループの控え室に到着すると、その目の前にいるスタッフと、目が合った。

するとそのスタッフは、こちらに駆けてきてこう呟いてくる。


「あの、第五グループの参加者の方ですか?もしそうであれば指輪を見せてください」


「ああ、これでいいか?」


 俺はそう言われたので大人しく従い左手の指輪を見せた。それは緑色に光る一つの小さな宝玉がはめ込まれており中央には「五」という数字が書かれている。


「はい、確認しました。控え室はこちらですので試合が始まるまでもうしばらくお待ちください」


 そして俺はその手招きされた部屋に向かう。そこからはなにやら騒々しい声が聞こえ漏れていた。

 俺はそんなものをものともせず、部屋の扉を開ける。

 そこには既に戦闘準備完了!といった選手たちがズラリと集まっていた。

 どうやら俺は中でもくるが遅かったらしい。

 俺はその様子を扉の前で見渡し、どこか一人になれるところはないかと思いきょろきょろいていると、後ろから物凄い勢いで扉を開け罵声を浴びせてくるやつがいた。


「おい!ちんたらしてんじゃねえ!邪魔なんだよ、ガキ!」


 そいつは顎にひげを生やし、身長と同じくらいのハンマーを担いだ大男だった。

 その男が思いっきりあけた扉のせいで俺は控え室の壁際まで吹き飛ばされ、壁にめり込んでいた。


「……………。いつつ………。なんでこんなことに………」


 と俺は愚痴りつつもなんとか態勢を立て直し、できるだけあいつには関わらないように少し距離をとった。

 するとそこでは吹き飛ばされた俺を見て何人もの参加者が腹を抱えて笑っており、大男は近くにあったテーブルにドサっと腰を下ろし喋りだした。


「まったく、雑魚がボサッとしやがって。俺様の前に立つなんざ百年早いんだよ!ガキごときがこの大会に出てんじゃねえ!」


 その大男の言葉に誇張するように、複数の参加者たちが、そうだそうだ、と言わんばかりに頷いている。

 かくいう俺はというと、ああいう面倒なことには出来るだけ付き合いたくないので、先ほどよりも距離をとり、壁の際まで身を寄せていた。

 できることなら、今すぐにでも試合が始まってほしい!と頭の中では思っているのだが、現実とは非情でなかなか始まる気配を見せない。


『何様なのじゃ、あのでくの坊!主様に危害を加えただけでなく、それを威張り散らすじゃと!?その罪万死すらも生ぬるい!!!!』


 と、リアが俺のために猛抗議しているのだが、それは明らかに歯止めが効きそうにないので、できるだけ落ち着くようになだめておいた。


「ああ、もう。別に俺は気にしてないから。そんなにカリカリするなよ。俺のために怒ってくれるのは嬉しいんだが、今は抑えよう、な?」


『むう…………。主様がそういうなら仕方ないのじゃ………』


 俺はその後、辺りを見渡し、誰か強そうな人がいないか見ていたのだが、不意に誰かが俺の近くに寄ってきた。


「あなた…………強いね」


 そいつは、フードを深く被っており顔はよく見えなかったのだが、声色から女ということは読み取ることはできた。

 しかしそいつはいきなり現れて、俺の実力を見破ってくるという芸当をやってのける。

 その言葉が嘘か真かわからないが、なにやら普通の奴とは違うらしいといことは俺の勘が告げていた。


「何者だ、お前?」


 するとその女はくるりと俺に背を向けると何も言わずに俺の前から立ち去った。


『あいつ、どう思う?』


『さあのう、主様の力を見極めたというのなら、そこそこの強者じゃろうし。適当なことを言っておるなら、単純なアホなのか………。ともかくあのでくの坊よりは注意しておいたほうがいいじゃろう』


『そうだな』


 俺はリアのその言葉に頷くと、両腰に釣り下がっている愛剣を軽くなでた。それはこれから頼む、という意志も込めていたし、愛剣の調子を確かめるものでもあった。

 俺が自分の剣に触れていると、なにやらスタッフの人が控え室に乗り込んできた。


「お待たせしました!ただ今よりステージへと移動します!ついてきてください!」


 お、いよいよか。

 俺は体重を預けていた壁から体を離し、前へと歩き出した。

 そのスタッフに続くように他の参加者もぞろぞろと動き出す。

 百メートルほどの廊下を抜け、外の光が差し込んできた。おそらくもうステージに出るのだろう。

 こういうものは意外に緊張してしまうな………。いうなれば部活動の公式試合の直前のような気分だ。

 体は動くのにこころが緊張で震えている。いくら神妃の力を得ようと、やはり大勢の人の前に出るのは緊張するようだ。

 そしてとうとう俺はステージの上に立つ。

 そこは大量の観客と耳が痛くなるほどの轟音が鳴り響き、会場を震わせていた。

 視線を耽れば、アリエスたちもこちらを見ている。


「さあ、予選グループの試合も大体半分ほど進んでまいりました!お次は第五グループの皆さんです!このグループには、大暴漢ジジル=ダジマ選手が参加しており、かなり期待できる試合になりそうです!」


 大暴漢ジジル=ダジマというのは、おそらく俺と突き飛ばした大男のことだろう。そのアナウンスがかかった途端顔をにやけさせていたし。

 そして俺は先程、俺に話しかけてきたフードの女の場所を確認していた。気配探知は使用しているので見失うことはないが、警戒しておいて損はないだろう。


「では、第五グループの予選スタートでーーーす!!!!!!」


 その瞬間、宮廷魔道師が光球を三つ空中に投げ出した。

 一応今回できるだけ俺の存在は明るみにしないでくれ、と国王に伝えてあったので実況でも俺の名前は呼ばれることはなく、俺に向かってくる参加者は少なかった。初めは大量に俺を攻撃してくるかと思っていたが、どうやら俺が想像していたより、「朱の神」と俺の顔が脳内で一致しているやつは少ないらしい。

 俺はその真っ直ぐに俺に向かってきた参加者を腕を組みながら、足だけで弾き飛ばした。もちろん手加減しているので、気絶させるだけで留まっている。

 そして俺は周囲の状況を確認した。

 どうやら大暴漢ジジル=ダジマとかいうやつは、大量の参加者の相手をしているらしく、まだ光球に手を出せてはいない。

 俺が様子を窺っている女もなにやら仕掛けるタイミングを狙っていえるのか、動き出す気配がない。

 俺は攻めるなら今だな、と思いエルテナと絶離剣レプリカを腰から抜き両手で構えた。そのまま俺は気配探知と体の感覚を集中させる。

 正直言って、大規模な魔術や力を使用すれば三つ同時に破壊することも可能なのだが、それは目立ちすぎる上にかなり危険だ。

 俺ではなく、周囲の参加者たちがだが。

 というわけで今回は剣だけであの光球を叩き落すのだが、俺はあるタイミングを狙っていた。

 もちろん俺ならば一瞬で三つ同時に破壊することも出来る。

 しかしそれでは面白味がない。

 よって俺は少し演出的なことをしようと、そのときを只管に待った。

 幾度かの剣声と怒号が鳴り響き、土煙が舞い上がる中、そのときは訪れる。

 俺はその瞬間一つの光球めがけて飛び出すと、すぐさまエルテナの腹で光球を打った。

 切った、ではない打ったのだ。

 それは野球のボールよろしく、俺の思い描いた方向へ飛んでいく。

 その光球は、遥か高く打ちあがり再び本来の動きを取り戻そうとしていたのだが、そこに思いもよらぬ存在が近づいていた。

 そう、もう一つの光球である。

 つまり俺は普段なら絶対にありえない光球同士の衝突を演出しようとしたのだ。それはものの見事に上手くいき、二つの光球は空中で衝突しそうになる。

 俺はそのまま空に飛び上がると、光球同士が触れ合う直前、絶離剣レプリカをその中心に突き刺した。

 見た目は完全に光る巨大団子のようだが、それでも破壊したことには変わりない。

 瞬間の光球は音を立てて砕け散り、俺の本選出場が確定した。


「な、な、な、なんとーーーーーーー!?光球同士がぶつかる直前、あの白い青年が持っていた剣でその二つを突き刺したーーーーーー!なんという展開でしょう!?………えーと、彼の名前は………な!?彼の名前はハク=リアスリオン選手だ!あの朱の神としても有名なスーパー冒険者がここに現れたーーーーーーーーー!」


 そう実況の女性が声高らかに叫ぶと、今日一番の歓声が会場を包んだ。

 俺は光球を二つ潰した。

 つまりこのグループから本選に出場できるのは残り一人ということだ。

 俺は上空に漂いながら、いまだに大勢の参加者を戦っているジジル=ダジマに向かって哀れむような笑みを送った。

 それ気づいたジジル=ダジマは顔を真っ赤に染め上げたが、襲い掛かる参加者の対処に明け暮れて直ぐに視線を戻した。

 さて、こうなると一体誰が勝ち上がるかな………。

 そう思いながら地上の様子を観察していると、事態は思いかけず早く動き出した。

 俺が気にかけていた女がいきなり走り出し、壁を駆け上がったかと思うと、目の前に迫っていた光球を手持ちのダガーで切り落としたのだ。

 これにはさすがに俺も驚いたが、同時に奴が俺の実力を見破れた理由がわかった気がした。ようはあいつは俺の力を測れるくらい強いのだ。

 ジジル=ダジマなんて相手にならないほど。


「こ、こ、これはーーーーーーーーーー!またまた予想外!フードをを被った選手が一瞬で光球を叩き割ったーーーーーーー!この展開は一体誰が予想できたでしょう!?まさに前代未聞です!なんでもあのフードの選手は匿名希望だそうで、本名は出せませんが、これで第五グループの勝者が決定したーーーーーーーーーー!」



 するとまたもや会場が歓声に包まれ、空気を振動させた。

 おいおい、俺の正体は結構簡単に明かすくせに、ここは匿名かよ………。

 約束が違うと言わんばかりの感想を心に抱かせていた俺は一度その思考を捨て、そのままずっとそのフードの女性のことを見ていた。

 動き方は自然体で無駄がなく、よほど修練したのが窺えるのだが、どこかその正体がつかめない。

 だがこれでこの大会も少しは楽しめそうだな、と俺は思い始めていた。

 得体が知れずとも剣で語り合うことは出来る。俺はそのフード女性に興味を引かれた。強者との戦いは常に心躍る。

 俺はその胸に湧き上がった高揚感とともにステージを後にした。

 こうして俺の魔武道祭の予選は終了したのだった。


次回も少しだけ予選が続きます!

で、あまり関係ないのですがツイッターのホーム画像を自分で描いたイラストにしてみました!

実はこれ、この小説の第四章に出てくるキャラクターをイメージして描いたものなんです!

是非一度見ていただけると嬉しいです!

アリエス「なんで私を描かないの!」

え!?は、はい………。すみません……。いろいろ事情がありまして…。


というわけでこれからもこの小説をよろしくお願いします!

誤字、脱字がありましたらお教えください!

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