第四十話 魔武道祭前日
今回は魔武道祭前日のお話です!
では第四十話です!
魔武道祭前日。
俺は昨日とほぼ同じ時刻に目を覚まし、朝食を取っていた。ホットコーヒーと焼きたてのパンを口に放り込み咀嚼する。
やはりというべきなのか、この世界には米というものはなく、基本的に炭水化物の主役はパンが務めている。まあ俺自身とてつもない米派というわけでもないのだが、やっぱりこうもパンばかり食べていると米の存在が恋しくなってきているのだ。
だからどうにか能力で創造できなかと考えているのだが、これがなかなか難しい。俺は大抵何かを作り出すとき、構造や材質をイメージして作り出すのだが、それは俺オリジナルのものを作るときは問題ない。だが既存のものとなるとそれを再現するのは骨が折れるのだ。
というわけで俺の米創造計画はまたまた発展途上なのである。
そんなことを考えながらパンをもそもそと頬張っていると、俺の隣にいたシラが話しかけてきた。
「ハク様、今日は魔武道祭の参加票を取りに行く、という予定でよろしいでしょうか?」
「ああ、それで大丈夫だ。シラたちは買い物に行くんだろ?」
「はい、僭越ながら休暇を楽しみたいと思っています」
すると俺の真似をして苦いコーヒーと格闘していたアリエスが顔をあげて話し出した。
「今日は、完全に女子オンリーだからね!たまにはこういうのもいいでしょ?」
「うん…………楽しみ!」
アリエスの言葉にシルも大きく頷き同意する。
「そうか。まあクビロがいれば問題ないだろうが、できるだけ注意しとけよ?なにせ俺たちはワイバーンの一件で相当目立っている。なにがあるかわからないからな」
そう、あのワイバーンの一件は確かにほぼ全てのワイバーンは俺が倒したが、アリエスたちだって空中に浮きながら善戦していた。これが目立たないはずがない。
またなんといってもアリエスたちは美人過ぎる。これは世の男どもを無条件で引き付けてしまうはずだ。
「クビロ、ないか怪しい奴が来たら影を使って遠慮なくぶっ飛ばせ。命だけあればいいからな」
『了解じゃ。アリエスたちには指一本触れさせんよ』
まあクビロの強さであれば、下手をするとこの王都が壊滅する可能性があるのだが、そこはクビロ自身も調節するだろう。
それと、俺はあともう一つ言っておかなければならないことがある。
「ああ、それと、俺は今日帰りが少し遅くなる。もし十九時までに帰ってこなかったら先に夕食を食べておいてくれ」
その言葉に朝食を囲んでいた全てのメンバーが首を傾げた。
「?それってどういうことハクにぃ?」
「少し、行くところがあるんだ。まあ危険でもなんでもないから直ぐに終わると思うけどな」
するとなにか安堵した表情でアリエスは呟いた。
「ふーん、ならいいけど。でも私たちはハクにぃが帰ってくるまで待ってるからね!ハクにぃを置き去りになんてできないよ」
それに同意するようにシラとシルも、うんうんと頷く。
「了解。できるだけ早く帰るよ。まあ確かに明日は魔武道祭だからな。俺も体は休めたい」
そう言って俺は立ち上がると、宿屋の扉に向かって歩き出した。
「お金に関してはシラに預けてあるから、好きなだけ使っていいぞ。それじゃ、俺は行くからな」
「うん!いってらっしゃい!」
「いってらっしゃいませハク様」
「いってらっしゃいませハク様………」
そして俺は宿から外に出た。
俺はそのまま、自身に透明化を施し、上空に転移する。
そして俺は蔵からこの王都の地図を取り出し、目的地の場所を確認した。
『まーたしょもない嘘をついておったな主様?』
「…………なんのことだ?」
『とぼけるでない。あれのどこが危険がないんじゃ?』
そういわれて俺は少し押し黙る。
俺が闘技場の後に向かおうとしている場所。
それは確かに安全とはいいがたい場所だ。というよりそれはおそらく俺限定になるのだが、それでも一度立ち寄っておきたかったのだ。
「まあ、今日攻め込むわけじゃないし、どうにかなるだろう」
『まあそうなればいいのじゃが』
俺はそうリアとやり取りをすると、闘技場の場所を確認する。それは王城の少し西に進んだところに位置しており、地図から見ただけで、その大きさが垣間見えた。
俺はその場所を確認すると、すぐさまその場所へ飛んでいく。
やはり、下を見てみるとそこは人でごった返していて、もはや道という道がまったくみえない。ここにきて魔武道祭の大きさが身にしみてわかってきた。
これ、本当に大丈夫なのか?なんか出場した瞬間、野次やら罵倒が飛んで来そうな未来しか見えないんだが………。
俺は内心青ざめながら、そのまま闘技場を目指した。
すると、前方にとても大きなドーム状の建物が姿を現した。闘技場ということだけあって、俺のイメージしていた姿そのままで、外壁は薄い茶色というか土を塗り固めた様な造りをしており、そこには剣やら魔術やらの跡がくっきりと残っていた。
そしてその中。つまり観客席だが、そこは一万人の人が来ても軽く入ってしまうだろうという破格の大きさをしており、舞台は半径三百メートルはあろうかという大きなフィールドだった。
さらにその舞台と観客席を隔てるように、五重に結界が張られており、既にフィールドを隔離していた。おそらく、なにか会場に設置して不正をさせないようにするためだろうが、ガッチガチの警備である。
俺はそのまま、闘技場の入場口まで降下していき、地面に着地した。
やはりそこもかなりの人がわいており、何度もぶつかりそうになってしまう。俺は咄嗟に透明化を解除して、その流れに従う。
やはり透明化をしていると相手側には見えていないので、お互いとても危険なのだ。
そのまま流れに沿って俺は魔武道祭の受付を目指すと、そこにはかなりの人が行列を作っていた。並んでいるのは皆、腕に覚えがありそうな連中ばかりで、並んでいる間も筋トレや武器の話で盛り上がっていたりしている。
うわー、まじかよ…………。俺、あんな人達と戦うの?なんか物凄く怖いんですけど!?
だってもう体から殺気が出てるし、もう足がガクガクなんですけど!?
『どこがやねん』
となにやら関西弁交じりの突込みをリアから頂戴したところで、俺もその列に並ぶ。
一応俺はローブのフードを深く被り顔を隠す。ワイバーンを倒した影響か、どうやら俺の顔は相当われているようなので、面倒ごとを避けるためにも顔は隠しておく。
ここで騒ぎにでもなられたら困るからね!
そしてついに俺の番に回ってきた。
俺は受付の男性に、参加票がもらえないか聞いた。
「すまない、多分国王から連絡がいっていると思うが、この魔武道祭に参加することになったハク=リアスリオンだ。参加票を受け取りに来たんだが」
すると、その男性は明らかに訝しげな表情をしながらこう答えた。
「申し訳ありませんが、身分証明が出来ない限り、参加票を渡すことは出来ません。まして国王陛下から通達された参加票をそんなに深々とフードを被っている人に信用して渡せると思いますか?」
なるほど、ごもっとだ。
俺がこの男性の立場なら同じことをしているだろう。
俺は今、限りなく気配を薄くしているし、見た目で言えば顔を隠したいだけの変人にしか見えない。
そう思い俺はフードをとり、ついでに冒険者カードを取り出し、男の前に突き出した。
「ほら、これでいいか?」
その瞬間、男性の顔が驚愕の色に染まり、俺の冒険者カードと俺の顔を交互に何度も見ている。
「え、あ、え?こ、これは、失礼しました!まさか本物だとは思いませんでしたので」
俺がそのフードを取った瞬間、俺の後ろに並んでいる参加者たちも驚きの声をあげ、偶に黄色い声も聞こえたりしている。
なんとまあ、有名になったものだ。
「本物?その言い方なんか妙だな。なにかあったのか?」
「え、ええまあそうですね………。ハクさんたちがワイバーンと討伐して以降、急激に『ハク=リアスリオン』だとか『朱の神』だとか、そのような偽名を使って参加登録される方が後を絶たなかったんです。ですので今回もその類かと………申し訳ありません!」
な!?
俺の知らないところでここまで事態が大きくなっていたのか。これは物凄い罪悪感だ。
こちらのほうが迷惑をかけてしまっているではないか……。
「別にかまわない。むしろこちらの名前のせいで迷惑をかけたようだな。すまない」
「い、いえ!とんでもない!これも仕事ですので気にしないでください!」
この人は本当に人間が出来上がっている。
本来なら俺を見た瞬間後ろの連中のように騒ぎ出してもいいはずなのだが、そうはせず仕事を常に最優先にしている。
立派なものだ。
「では、参加票を貰えるか?」
「は、はい。これがハクさんの参加票になります。お受け取りください」
そうして俺はその参加票と自分の冒険者カードを受け取った。
それはなにやら緑色の小さな宝玉が埋め込まれた指輪のようで、その宝玉は鈍く輝いていた。
「これは?」
「これはこの魔武道大会の参加票になります。魔武道祭の期間中は出来るだけずっと身につけて置いてください。これを持っているだけで参加資格となりますので」
「そうか、わかった」
俺はその受けとった参加票の指輪を左手の人差し指にはめた。
「それと、予選の内容を説明しているのですが聞いていかれますか?」
「ああ、それじゃあ頼もうか……」
と、俺がその男性に説明を求めようとしたとき、俺の左隣から聞いたことのある声が飛んできた。
「お、ハクじゃねえか!こんなところでなにしてんだ?」
「ん?…………なんだ、ギルか。見ればわかるだろ?魔武道祭の参加登録だよ。参加登録」
そいつは肩をだした、アーマープレートを着ており方には大剣を担ぐ、ギルの姿があった。
「へー!やっぱりお前も出場するのか!で、登録は終わったのか?」
「今から、予選の説明を聞かせてもらうところだ」
「なんなら俺が説明してやるぜ?俺は前回の大会も出場してるからな」
ということなので、俺自身も経験者の話を聞きたかったのは本心だったので。受付の男性に軽く「すまない」と言うとその場を後にした。それにその男性は「いえ、かまいませんよ」と微笑を浮かべながら答えてくれた。
「で、その予選とやらはどんな内容になるんだ?」
俺はギルの元まで行くと、ギルと一緒にどこに行くわけでもなく歩き出した。
「それより、聞いたぜハク!お前ワイバーンを全て倒したんだってな!まったく凄すぎるぜ!」
「あ、ま、まあな。あれはその場の流れでやっただけだ。で、そんなことはいいいから、早く予選の説明をだな……」
「わかってるわかってる。予選は、グループに分かれて行われるんだ。その指輪に書かれた文字を呼んでみな」
俺は言われたとおりにその指輪を観察する。そこには数字で五と書かれていた。
「グループは全部で十グループ存在する。その中から条件を満たしたものだけが勝ち残るってシステムだ。ちなみに俺は三だがハクは?」
「俺は五だ」
「あっぶねー。お前と当たろうものなら、一瞬でやられそうだからな」
「で、その条件っていうのは?」
「ああ、その条件は宮廷魔道師のやつらが放つ魔術を打ち落とすことだ。その際他の参加者を攻撃しても問題はないし、まあ一風変わった乱戦だな」
なるほど、そういうことか。
ならばさほど問題はなさそうだ。
おそらく俺ならばエルテナを抜けば直ぐに切り伏せなれるだろうし、最悪、氷塊でもなんでも大技を突き落とせば一瞬で終わるだろう。
「なるほど、よくわかった。ありがとうギル」
「なーに気にすんなって!それでこれからお前はどうするんだ?よかったらこれから飯にいかないか?ちょうど昼時だしな」
しかし俺はその言葉に首を横にふり否定の反応を示した。
「悪い、俺はこれから用事があるんだ。申し訳ないがそれはまた今度で頼むよ」
「そうか………。それじゃあ、また大会の最中にでも行こう、それなら大丈夫だろう?」
「ああ、そうしてくれると助かる」
「了解!それじゃあなハク!また明日!」
「ああ、また明日」
そう言って俺たちは分かれた。
やはりギルは人当たりがいいらしく、話していて気分が軽くなる。
ああいう友人はぜひほしいものだ。
そして俺は意識を切り替えると、すぐさま次の目的地に移動し始めた。
今日の予定では、ここからが本番だ。気を引き締めないと。
俺はそのまま上空に飛び上がり目的地を目指した。
あれから三時間後。
俺はその目的地に到着した。
その場所は第二ダンジョン。
俺はその上空にいる。
見たところやはり入り口には王国の兵士が見張っており、そう簡単に入ることは出来そうにない。
かくいう俺も今から攻略を開始しようとしているわけではないので、別に心配することではないのだが。
ではなぜ俺がここに来たのか。
それは事前調査である。
第二ダンジョンの見た目は第一ダンジョンとはまったく異なった姿をしていた。そこは無数の岩山がそそり立ち、ダンジョンの禍々しさを表現していた。第一ダンジョンは地下に潜るタイプのダンジョンだったが今回は山の中を上っていくスタイルのようだ。
しかし上空からでもその頂上の様子は確認できない。なにやら白い靄のようなものがかかっており、視認することはできない。
そして俺はそのダンジョンの周りをグルグルと旋回しながら見てまわった。
俺がその後一通り見終わったかな、と思った瞬間、俺の全身を圧倒的な殺気が襲った。
「ッッッ!?」
それは神核と同クラスであり、むしろそれを少しだけ上回っているようだった。
おそらくこのダンジョンに住む神核だろう。
どうやらもう既に星神の洗脳が施されているようだ。でなければ俺に殺気を放ってくるはずがない。
「は、ははは………。もうとっくに気づいてやがるぜ………」
しかし、その神核は今は出てくる気がないらしく、俺はその間にここから立ち去ることにした。
『あれはまた骨が折れそうじゃろう』
「だな。願わくば、関係ない人は巻き込まないでほしいぜ……」
俺たちはそう言うとその第二ダンジョンから姿を消した。
これは本格的に時間がなくなってしまったと思う俺であった。
次回はようやく魔武道祭にの予選になります!
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