第三十五話 いざ王国へ、そして魔武道祭
さあ、物語はどんどん加速していきます!
では第三十五話です!
薔薇のような香りが俺の鼻腔をくすぐる。それは俺の思考を揺さぶり、なにごとか!と脳内で警鐘をならした。
ただ今俺は、水色の髪をした少女に抱きつかれている。それも物凄く密着して。
その少女は、水色の長い髪とその色とまったく同じ色の目を持ち、煌びやかなドレスを身にまとっていた。
「な、な!?ちょ、ちょちょちょっと!いきなり何やってるんですか!」
と俺の隣にいたアリエスがその少女と俺を引き離そうとする。もちろん俺も振りほどこうとしているのだが、相手が女の子なのであまり力を入れられず、四苦八苦していた。
というか、なんなんですか!このライトノベルよりも華々しい展開は!いきなりすぎるでしょ!
この水色の髪の少女、名をエリルミア=シルヴィニクスというらしい。なんでもシルヴィニクス王国第二王女らしく、貴族どころか本物の王族である。
どうりで馬車が豪華なはずだ。王族ともなればこの様な馬車は大量に所持しているだろう。むしろこれでもショボイ方なんじゃないのか?
「そうです!ハク様から離れてください!」
「離れてください………!」
とシラとシルもアリエスに続き猛抗議する。まあなんというか俺は別にこのままでもいいのだが、このままだとろくに動けないので俺も少し言ってみる。
「あーエリルミアさん?このままだと動きづらいから離してくれるとありがたいんだが……」
「エリアでいいですわ。親しい人はみんなそう呼びますの。…………冒険者様がそうおっしゃるのなら仕方がないですわ……」
そう言ってエリルミアことエリアは俺の体から腕を解いた。
するとエリアはそのまま少し後ろに下がると、ドレスの裾を両手で持ち上げると、いかにもお姫様といった風な口調で話し出した。
「このたびは、私たちを助けていただいて本当に感謝いたします。私の名前はエリルミア=シルヴィニクス。シルヴィニクス王国第二王女を勤めております。以後お見知りおきを」
その姿は何度も練習したかのように洗練されていた。さすがは本物のお姫様だ。風格が違う。もちろん貴族の娘であるアリエスも十分凄いのだが、やはりこれは経験の差というやつだろうか。エリアは見たところシラと同じくらいの年齢に見えるので、十六歳か十七歳だろう。それではアリエスと五、六年の差があるわけだし、当然といえば当然だ。
「ま、そういうわけだよ。驚いたかもしれないが彼女は本物の王女様だ。俺はこの方を無事に王国まで送り届けるための用心棒だったってわけ」
とギルが俺の前に立ちそう説明する。
「はあ…………。なるほど、一応理解した。だが一国の王女の護衛にしては数が少なすぎるだろ!?なんでお前と王女の二人だけなんだ?」
するとギルは申し訳なさそうに、顔を下に向けながらこう答えた。
「それは、エリア様の日課である、魔術練習をここから数百メートル離れたところでやっていたんだが距離も物凄く近いし、護衛は一人で十分だろ、という上の判断でな……」
なんだそれ!いや、まあ、日課というぐらいなのだから本当に毎日通っているのだろうけれどさすがに不謹慎すぎないか?
ただ、それだけの理由で護衛を一人しかつけないというのはいささか怪しいな………。
少し聞いてみるか………。
「本当にそれだけなのか?俺にはどうも裏があるようにしか見えないんだが」
「!?…………なるほど、さすがはSランクだ。全てお見通しってわけか……。まあ正直言うと王国の宮廷魔道師がエリア様に強力な魔術を教えすぎて、王国内では練習できず、一度放てば被害がどれだけ広がるかわからないからなんだが………」
「ちょっとギル!イメージが悪くなるようなこと言わないで!」
その言葉を聞いた俺たちは全員引きつった顔をしていた。おそらく俺たちの頭の中には同じ台詞が浮かんでいたと思う。
ああ、これが俗に言う、お転婆お姫様か、と。
「コホン………。な、なんとなく事情はわかった……。だが今回のようなこともありえなくもない。今度からは十分に気をつけるんだな」
「ああ、返す言葉もない……」
するとギルに愚痴を呟いていたエリアがまたもや俺に接近し、顔を近づけてきた。
「それで冒険者様!お名前を聞いてもよろしいでしょうか!それとそこのかわいいお嬢さんたちも!」
「あ、ああ。俺の名前はハク=リアスリオンだ。………よろしく」
「アリエス=フィルファです。王女様だからってハクにぃに近寄りすぎないでね!」
「シラ=ミルリスです。私はハク様のメイドを勤めております。よろしくお願いします」
「同じくシル=ミルリスです………。よろしくお願いします……」
「アリエスにシラとシルですね、覚えました!そしてハク様!!!いいお名前ですわ!それでですねハク様、私あなた様に惚れてしまいましたの!あの鬼神のごとき剣裁き、心打たれました!どうです?私は王女ですし、生活に困ることはないと思いますよ?」
「「「だ、か、ら、なんでそうなるの!」ですか!」ですか………!」
俺はそのやり取りを半ば苦笑しながら眺めていたのだが、そこであることに気がついた。
『気がついたかの主様?』
『ああ、間違いない。少々弱いが魔力を感じるからな』
そして俺はそれをエリア本人に聞いてみることにした。
「なあエリア、お前のその目、もしかして魔眼か?」
するとエリアとギルが一瞬目を丸くして声を上げた。
「おいおいマジかよ………。そんなことまでわかるのか……」
「す、凄いですね……。出会って数分でそれに気づくなんて……」
魔眼。
それはその名の通り魔力を宿した瞳のことだ。
その能力は様々で、強力なものであれば睨むだけで物を粉砕したりできる。俺自身も魔眼に似たようなものはあるのだが普段は必要がないため出力を切っている。
どうやら今の反応からして、エリアは俺の予想どうり魔眼を所持しているようだ。
「私の魔眼は魅了の魔眼です……。効果はかなり薄いのですが、目が合った人に好感を抱かせるほどのことは出来ます………」
「え!?エリアさんって魔眼持ちなの!?………というかハクにぃよくわかったね」
「まあ、魔力の流れが少しおかしかったからな。訓練すれば誰にでもできる」
するとエリアの隣で一緒に驚いていたギルが、一歩前に出てこう呟いた。
「まあ、エリア様のどうしようもない馬鹿な発言は忘れて、これからお前たちはどうするんだ?一応俺たちはこのまま王都に向かうが………」
「ちょっとギル!人の発言を馬鹿とは一体いくらなんでも酷いですよ!」
「俺たちも王国に行こうと思っている。しばらくはそこに滞在するつもりだ」
「ハク様もしれっとスルーしないでください!」
俺とギルに挟まれるような形でエリアはキャンキャンと叫ぶが、その声はギルには届いていないらしい。なんとも扱いが雑な王女様だ。そのエリアをなにやら先程まで剣呑な雰囲気だったアリエスたちが慰めている。なにか思うところでもあったのだろうか?
「お、だったら俺たちと一緒に行かないか?ここで会ったのも何かの縁だろうし、できれば俺と一緒にエリア様の護衛を頼みたい」
「まあついでだから問題はないぞ。しかし王国に入ったら別行動だからな?」
このまま王女についていけば間違いなく面倒なことに巻き込まれるはずだ。それはもうアリエスのときに経験済みだ。
それに今回は俺にもやることがある。
早急にダンジョンに潜り、神核を倒さなければならない。
「わかっているさ。というか俺自身も関所まで送り届けたら、それで仕事は終了になる。お前の心配していることは起きないよ」
「そうか」
ならば心配なさそうだ。であれば俺たちは何の問題もなくダンジョンに潜ることが出来るだろう。
そう俺が考えていると、ギルが何かを思い出したように顔を上げ俺に尋ねてきた。
「そういえば、お前たち、この時期に王都に来るってことはやっぱりお前たちもあれに出るのか?」
は?
あれってなに?
意味がわからん……。話すときはしっかりと主語をつけましょう!
「あれというのは?」
「ん?またまた。それだけの強さを持っているのなら出場も当然するんだろ?魔武道祭だよ。優勝者には豪華景品がでるっていうやつ」
「……………すまない、その話初耳なんだが……」
「え?」
そしてその俺の発言にギルはピシリと音を立てて固まってしまった。
俺の目の端には今だにエリアを慰めているアリエスたちの姿が映っていた。
数分後、俺たちは馬車に揺られていた。
さすがに一緒に行くとはいえ、翼の布のようなものを出すわけにもいかないので、エリアの馬車にお邪魔させてもらうことになったのだ。馬の手綱はギルが引いており、俺はその隣に座っている。エリアとアリエスたちは奥の椅子に腰を下ろして何かを話し合っている。偶に黄色い声が聞こえるので、どうやら仲良くできているらしい。
冷静に考えれば、王女というのはとんでもなく高貴な存在なのだがエリアからはそんな雰囲気が一切感じられず、むしろ極普通の女の子にしか見えなかった。アリエスも貴族の娘ということもあり、接し方には慣れていたのかもしれない。シラとシルに至ってはどちらもしっかりしているから心配はなさそうだ。
そして俺は先程の魔武道祭の話をギルに尋ねていた。
「で、その魔武道祭っていうのはいったいなんなんだ?」
すると今でも信じられないといった様子でギルは顔をこちらに向け話し出した。
「マジで知らないのかよ………。まあいいか、それじゃあ説明するぜ。魔武道祭はシルヴィニクス王国が主催する、武道大会だ。それは三年に一度開かれて物凄い盛り上がりを見せる。魔武道大会は、別に剣や槍なんかの武器だけでなく、魔術や魔法の使用も認められていて完全な実力勝負の大会だ。戦いは大きく分けて、予選と本選に分かれており、毎回千人以上が参加する。その分優勝したときの景品も凄くて、三年前は物凄く強力な聖剣が贈られたとか何とか………。さらに冒険者であればSランクに自動的に更新されるというおまけつきだ。まあハクには関係ないだろうが、これは十分に参加者を引き付ける要因になっているんだ。まあこんな感じだがわかったか?」
ふーん、なかなか面白そうな催しではあるな。
しかも優勝すればもの凄い景品がもらえるのか……。男としては物凄く気になる……。
「ああ、ありがとう。十分だ」
「で、やっぱりお前も出るのか魔武道祭?」
「さあな、今は考えてない。それにこれは俺の独断では決められないからな」
「ん?どういうことだ?」
と不思議そうにギルは首を傾げてくる。
「俺たちにもやることはあるということだ。それを無視してうつつをぬかすわけにはいかない」
「そのやることっていうのは?」
「それは簡単には説明できない。………すまない」
神核とのことや星神のことはできるだけ人に広めたくはなかった。そんなことを言ってもただおかしい人に見えるだけだし、そもそも信じてもらえるはずがない。
「そうか、まあ無理には聞かねえよ。…………お、ほら見えてきたぜ、あれがシルヴィニクス王国だ」
そう言ってギルは目の前を指差す。
そこには全長三十メートルはあろうかという白亜の城壁と、それよりも遥かに大きな王城が姿を現した。
が、俺が驚いたのはそこではない。
ルモス村のことを思い出してほしい。村という規模であの敷地面積だったのだ。であれば王国ともなればそれはどういうことになるかというと………。
「でかすぎるだろ!この王国!」
目の前を埋め尽くしているのは、地平線を覆い隠すほどの面積を誇る巨大な王都だった。
次回はようやく王都に入場します!
誤字、脱字がありましたらお教えください!