表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
33/1020

第三十二話 旅へ

第一章完結!

では第三十二話です!

 神核との戦闘後、俺たちは直ぐにダンジョンを転移で脱出していた。ダンジョンの前まで戻ってきてみれば、あたりは既に赤い夕日の光に包まれており、地平線の彼方の沈む太陽は黄昏を誘う鋳込むように沈みかけている。

 風が吹き、髪を揺らす。それは一時の間であったが、激戦の後の安堵感を掻きたてた。

 俺たちはそのまま空中浮遊で、第一ダンジョンを後にする。どうやら神核がいなくてもダンジョンには 魔物は出現するらしく、気配探知を使ってみるとすでに何体かスポーンし始めていた。

 これらならばこのダンジョンで鍛えようとする他の冒険者も問題はないだろう。

 そんなことを考えながら俺たちは空を飛ぶ。

 正直、転移を使えば一瞬でつくのだが、今はどうしても使う気にはならなかった。後ろからついてきているアリエスたちは事あるごとに「ねぇ!もう本当に大丈夫なの?ねえ!聞いてる?」としつこいぐらい俺の身を心配している。

 とはいえ、これに関しては俺もよくわかっていない。

 神核との戦闘終盤、アリエスが攻撃されたことで理性を失った俺は普段の俺では考えられないほど凶暴になり神核を叩きのめしたのだという。

 そのときは俺の自我はなく、記憶も頭には残っていなかった。

 そんなこともあり、少し風に当たりたかったのだ。沈み行く夕日を背に空を駆けていく。空気は少し湿度が高いようで、夏の空気感を醸し出していた。目の前には大きな積乱雲が聳え立っている。

 かつて、まだリアと出会っていないころ。

 俺はもし自分の力で空を飛べたらどんなに気持ちのいいことか、と考えることがよくあった。今ではそれは現実となっているが、それでも空中を飛び回るというのはとても気持ちがいい。

 しばらくそのまま、空を飛んでいると大きな村門が目立つルモス村が姿を現した。やはり何度見ても大きいな、と心の中で呟くと俺はスピードをあげルモス村へと降り立った。







「やあ、おかえり。その様子だとどうやら首尾よくいったようだね」


 ギルドに入るなり、カウンターで待ち構えていたセルカさんと目が合ってしまった。見ると既にそこには避難していた住民の姿はほぼなくなり閑散としている。

 セルカさんは一人アイスコーヒーを口に運びながら、俺たちに席を勧めた。


「今日の仕事はもう終わりですか?」


「いや、本来ならもっと遅くまでやっているんだけどね。今日はカラキの奴がこの村全ての仕事を禁止にしたのさ。避難していた村の住民も冒険者が村に散開することで、安心して自分たちの家に戻って行ったよ」


「ではセルカさんはなぜここに?」


 カランとコーヒーの中に入っているロックアイスに音を立てながら口をつけると、当然といわんばかりに、こちらを見つめてきた。


「そりゃ、私は君に神核の討伐を依頼した張本人だ。いくらギルドの仕事がなくとも、君たちの身はいつでも案じているさ。それにギルマスも二階にいる。まああの人は今日一日かなり動き回ったから疲れて寝ているようだけどね」


 どうやら、ダンジョンに向かった俺たちだけでなくこのギルドも相当忙しかったらしい。カラキさんが仕事を禁止にし皆に休むように施したらしいが、それでも神核が人を襲うというイレギュラーな事態だ。ギルドの負担も相当なものだっただろう。

 俺たちはセルカさんを挟むような形で椅子に腰を下ろした。


「一応話を聞く前に聞いておくけれど、何か飲むかい?基本的に何でも出せるよ?」


 と、言われたので俺たちは各々飲みたい飲み物をセルカさんに注文し、それで喉を潤した。俺はセルカさんと同じくアイスコーヒーを注文したので、口の中が少々苦いが、それは逆に俺の頭を冴えさせていた。


「よし、それじゃあ聞かせておくれ。……全員無事に帰ってきているところを見ると、結果は大体わかるけれど、できるだけわかりやすく頼むよ」


「はい、では。…………」


 そして俺はセルカさんに第一ダンジョン内で起きたすべての事を話した。正直、俺の豹変については話すか迷ったが、セルカさんなら問題ないだろうと思い、それも包み隠さず話した。しかし元の世界についてはさすがに言わなかったのだが…、まあそれは許してほしい。

 それは約一時間続き、そのころには外はすっかり夕闇に包まれていた。







「………………。なるほど……。色々大変だったんだね……。それにしてもアリエスちゃんはもう大丈夫なのかい?そうとうひどい一撃を受けたそうだけど……」


「はい!全然問題ありません!ハクにぃが治してくれたので!……それより私はハクにぃのほうが心配……。もう本当になんともないの?」


 まだ言うか……。

 豹変しているときの俺は一体どれだけの恐怖をアリエスたちに与えたのだろう?ここまで心配させてしまうと自分のしでかしたことの重大さを身にしみて感じてしまう。


「それは大丈夫だ。今はなにも起きる気配はないよ。そんなに心配することじゃないさ。で、セルカさん。これからのことについてなんですが……」


 するとセルカさんは二杯目のアイスコーヒーを空にしてこちらに振り向いてきた。


「ああ、先程の話からすると、君たちはダンジョンに行くんだろう?だったらここから一段近いのはシルヴィニクス王国の管轄にある第二ダンジョンだろうね。まああそこはとてつもなく大きい王国だし、生活に困るということはないだろう。それで直ぐに出て行くのかい?」


「ええ、まあ明日には出て行こうと思っています。出来るだけ早いほうがいいですから」


「ふむ、それもそうか……。しかしそうなると寂しくなるな……。何だかんだいって君と過ごした時間は楽しかったよ。久しぶりのいい刺激だった」


 百年も生きていれば、ただ淡々と一日を消費していく日々は本当に退屈なのかもしれない。そう考えれば、俺がやって来てから二週間、この二週間は本当に色々なことがあったと思う。それはセルカさんからすれば本当に待ち望んでいたことなのかもしれない、と俺は考えてしまった。

 人間は常に何かをしている生き物だ。それは仕事をしていても、学校にいても、引きこもっていても、人間はなにか生産的なことを追い求めている。そのベクトルは人それぞれ違うかもしれないが、それは人生の糧となり人間を成長させる。

 エルフやハーフエルフはその人生が人族の何倍もあるのだ。人生の刺激をより多く求めたくなるのはわからなくもない。


「また会えますよ、今から死にに行くわけじゃないんですから」


「君の場合は死ににいくようなものじゃないか……。まあ君が死ぬ姿なんて想像も出来ないんだけどね。……それと君は馬車は持っているかい?」


「馬車ですか……?」


「君は空も飛べるし、転移も使える。だけど旅と言ったらやっぱり馬車はつきものだろう?もし持っていないなら私が明日までに用意しておこうと思ってね」


 うーん、馬車か……。

 確かに空を飛ぶよりは遥かに遅いのだが、それでもやはりロマンというものである。乗ってみたいという男心が叫びだす。しかし……。


「いえ、それは大丈夫です。一応それに変わるものを持っているので」


『「「「「え?」」」」』


 するとクビロを含めた五人が驚いた声を上げた。

 ん?なにかまずかっただろうか?


「は、ハク様……。本当に何か代わるものがあるのでしょうか?普通馬車は商人でもなければなかなか高くて手の出せるものではありません。これは貰っておいたほうがいいのではないでしょうか?」


「ならばなおさらだろう。セルカさんにそんな大金を出させるわけにはいかない。それに俺の持っているそれは多分馬車よりもいいものだぞ?」


 その俺の言葉に追随するようにリアも皆に聞こえるように喋りだす。


『心配せんでいいのじゃ。あれは馬車よりもよっぽど乗り心地がよいぞ?』


「はあ……。もう君が何をやっても何も不思議に思わないけど、やっぱり規格外だね君は。それじゃ、なにか必要なものがあったらまた言ってほしい。今の私にできることなら何でもしよう」


「わかりました。……では今日はこのあたりで失礼します。セルカさんも疲れているなら早めに帰ったほうがいいですよ?」


 そう俺が言うと、セルカさんはフッと顔を緩めると、肩の力を抜いた。


「ふう……。それもそうだね。さすがに今日は早めに帰るとするよ」


「はい、では」


 そうして俺たちはギルドを後にした。

 その後俺たちは宿にて少し遅めの夕食をとり、明日の準備をして眠りにつくのだった。


 しかし俺はなかなか寝付けずにいた。俺の中にいるリアはどうやらとっくに寝てしまっており、俺は一人で窓から差し込む月の光を見ていた。

 今日は本当にいろんなことがあったな……。

 たくさんの力も使ったし、常識外な敵とも戦った。

 それに、俺の豹変。

 それは真話大戦のときですら起きなかった現象。まったく原因がわからず、解決策も見つかっていない。

 これからこの村を出て、神核を倒し、星神を止めることでそのことも解明できるのだろうか?

 なんだかいきなりやることが増えたな……。

 まあやることがないよりは遥かにいいんだが。

 すると既に寝ていたはずのアリエスが俺の隣に近づいてきた。


「ハクにぃ大丈夫?」


「何がだ?」


「ハクにぃは自分で気づいていないかもしれないけど、ハクにぃは何かに思いつめているときすごくボーッとしてるんだよ?今もそんな感じだった」


 ボーットしていたか…………。

 その言葉を聞いて俺はある少女から言われた言葉を思い出す。



『ハクって戦闘時はあんなに動き回ってるくせに、気が抜けると直ぐにボーットしちゃうんだね』



 それはいつだっただろうか。その少女との思い出は濃密過ぎていつその言葉をかけられたのか思い出せないが、なぜか心の中に深々と刺さっていた。


「大丈夫だ。アリエスは心配性なんだな。俺ももう寝るからアリエスも遅くならないうちに寝よう?」


「う、うん……。でもなにかあったら何でもいってね?」


 俺はそう言うアリエスに一度だけ微笑み返すと自分のベッドに戻り、枕に顔を埋めた。すると自然と睡魔がやってきて俺の意識を刈り取ったのだった。






 翌朝、俺たちは各々の荷物をまとめ、それを俺の蔵に放り込むと宿の朝食であるパンを何個か啄ばみ、宿の女将さんに今までの分の宿泊代を払いそこを後にした。

 そして俺はアリエス、シラ、シル、クビロ、リアをつれ村門へと直行した。一応アリエスには家族に会いに行かなくていいのか?と聞いたのだが、俺についてくる際に済ませてあるそうなので、問題ないらしい。

 俺たちが村門の前に着くと、そこには既に大勢の人たちが集まっていた。それはよく顔を合わせていた冒険者やギルドの職員、はたまた露店の店員や村の一般市民まで、総勢三百人はいるように見える。


「い、一体なんなんだこれは……」


 するとその人ごみの中から、カラキさんとフェーネさん、セルカさんとジルさんが前に出てきた。


「すまない。君は騒がれるのはあまり好まないかもしれないけれど、皆君の見送りをしたいといってね。それでこういうことになってしまったんだ」


 そう俺にいうカラキさん。

 続いてフェーネさんが口を開く。


「アリエス。あんまりハクさんを困らせたらダメよ!そしていってらっしゃい!私たちはここで待ってるから世界を堪能してきなさい!そして帰ってきたときにはその話を聞かせてね。…………それと、ハクさん、シラさん、シルさん。我が娘をよろしくお願いします」


「お母さん……。う、うん!たくさん冒険して、お母さんにいい話が出来るように頑張るよ!」


 続いてジルさんが歩み出る。


「君には本当に助けられたよ。それに私のギルド初のSランカーだしね。君にはこれからも頑張ってほしい」


 そして最後にセルカさん。


「君は強い。だけれど誰かを頼ることを忘れちゃいけないよ。君はいくら神核を倒そうとまだ十八歳だ。無理せずゆっくりと旅をするんだ。そうすればきっと得るものはあるから」


「はい。心に留めておきます。今までありがとうございました!」


 俺はそう言うと四人に深々と頭を下げた。

 それは物凄く長かったと思う。俺はそれだけ感謝を伝えたかった。

 そして俺は顔を上げると蔵に手を突っ込み例のものを取り出す。


「来い、翼の布(テンジカ)!」


 それは青く編みこまれた絨毯で所々金の刺繍が入っていた。大きさ的に縦横七メートルほどの大きさでその布は広がると空中に浮き出した。

 また布の上にはベッドの天幕のような屋根が宙に浮かんでおり、日差しを遮っている。


「よし!いくぞ皆!」


 俺はそう仲間に声をかけるとその絨毯の上に飛び乗った。

 それに続くようにアリエスたちもその上に飛び乗る。


「それじゃあ、またこの村には帰ってきますので、そのときに」


「ああ、いっておいで」


 そうセルかさんが目に涙を浮かべながら呟いた。


 そして俺は翼の布(テンジカ)を上空に突き進めた。それは一瞬にして飛び上がり集まっていた人たちを飛び越え、山道に沿うようにルモス村から遠ざかる。

 この瞬間から俺たちの冒険は幕を開けた。

















「陛下、ご報告があります」


 シルヴィニクス王国、王城、謁見の間。

 そこにはシルヴィニクス王と住人の臣下たちがずらりと並んでいた。

 そして報告に来た兵士が喋りだす。


「述べよ」


「は、フィルファ公爵家の管轄であるルモス村周辺で地の土地神(ミラルタ)が出現したもうようです」


「な!?地の土地神(ミラルタ)だと!?SSSランクの魔物ではないか!?」


 と臣下の一人が叫びだす。


「さらにルモス村から数十キロ離れたところにある第一ダンジョンの神核がダンジョン外にでてきたという報告も上がってきております」


「神核だと!?」


 途端に複数の臣下たちが騒ぎ出す。それもそうだろう、地の土地神(ミラルタ)はともかく神核はほぼ神に等しい存在なのだ。しかも基本的にダンジョン内部の魔物は外にはでないのが鉄則だ。


「しずまれ」


 しかしシルヴィニクス王は顔色一つ変えず、兵士に問い返した。


「それで今はどうなっておる?」


「そ、それがなんでも一人の冒険者が両方とも無力化したとの報告が来ておりまして……」


 そこで初めてシルヴィニクス王は眉毛をピクリと動かした。


「ほう、そのものの名前はなんと言う?」


 そしてその兵士は国王にこう告げたのだった。




「朱の神」 ハク=リアスリオン と。


ようやく第一章完結しました!

一日三本投稿という無茶をやってきましたけど、たくさんの方にお読みいただいて本当に嬉しい限りです!

次回からは第二章に移ります!次はシルヴィニクス王国編です!お楽しみに!

誤字、脱字がありましたらお教えください!




今さらなのですが小説の段落がいつもおかしなことなってしまいます。打っている段階では普通なんですけどね。原因がわかる方がいらっしゃればお教えください。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ