第二十六話 星神、そしてこれから
今回は戦闘はありません!ダンジョンに挑む間のお話です!
では第二十六話です!
「あ!おかえりー!ハクにぃ!」
「ああ、ただいま……ってゴフッ!?」
俺は神核との戦闘を終え冒険者ギルドに戻ってきていた。戦場から転移で戻ってきたのだが、戻った瞬間アリエスが俺にいきなり飛びついてきた。
それはあまりにも突然で俺は受身も取ることができず、アリエスの体を全身で受け止める形になってしまった。
そのせいで俺の体力バーが何本かもっていかれた気がする……。
するとその後ろからシラとシルも続いて顔を現した。どうやらセルカさんの言ったとおり冒険者ギルドに避難していたようだ。
「お帰りなさいませ、ハク様。お怪我はありませんか?」
「お帰りなさいませ…………。ハク様……」
「あ、ああ……。ただいま……」
そして俺は一通り仲間に声をかけると、改めてギルド内を見渡してみた。
そこは普段よりも遥かにたくさんの人が集まっていた。商人や冒険者、はたまた奴隷の様な者まで、ありとあらゆる人種が一堂に会していた。おそらく神核が現れたという知らせを聞いて村中の住民が避難してきたんだろう。
と、思いに耽っていると人ごみを掻き分け、茶色く長い髪を伸ばした女性が近寄ってきた。
「ハク君!帰ったんだね!そ、それで神核は?い、一体どうなったんだい!?」
そう、このギルドの受付チーフのセルカさんだ。
「ええ、まあ色々ありましたので、奥で話しましょう。今はジルさんもいるんですか?」
「あ、ああ。ギルマスも君の帰りを待っている。では奥に行こう」
そう言うと俺たち四人はセルカさん後をついていき、二階にあるギルドマスターの職務室にたどり着いた。
中には椅子に座ってなにやら考え込んでいるジルさんの姿があった。
「ん?……あ!君たちか!よく来てくれた。ささ、とりあえず座りたまえ」
「失礼します」
そう言うと俺たちは横並びになるように長いすに腰をかけた。
「ではハク君。いったい何があったのか教えてくれ。こちらは君が転移させた冒険者たちの対処は済ませてある。それ以降の話を頼むよ」
「ええ、わかりました。実は……」
そして俺は皆に出来るだけわかりやすく話し出した。
「…………。そうか……。そんなことになっていたのか。にしても神核が君を狙うとは……。一応聞いておくけど君は人類を滅ぼす気なのかい?」
「冗談でも怒りますよ、ジルさん。そんなことするわけないじゃないですか」
何が人類全滅だ。そんなこと死んでもやらん。
「そうか、そうだね。気はそんなことする人じゃないことぐらい私も十分にわかっているつもりだ。だがそれなら神核が言った言葉が気になるね……。星神だっけ?」
「ええ、そうです。神核曰く『星神から告げられたのだ。いずれ人類を絶滅に追い込む冒険者が現れると……』と言っていました。その星神というのが俺にはよくわかりませんが、二人は知っていますか?」
すると、二人は一度目を合わせて、はぁ、とため息をつくとその存在についてセルカさんが語りだした。
「はぁ……。君が世情に疎いのは知っていたけれどまさか『星神』のことも知らないとはね……。正直言って隣にいるアリエスちゃんやシラとシルだって知ってることだよ」
ま、まじでか!
どうやら星神というのはこの世界において知らないものはいない、というくらい有名なものらしい。
いくら俺でも今の雰囲気からならそれくらいのことは把握できる。
うん、だって、隣にいるアリエスたちが「え?そんなことも知らないの?」と言いたそうな目を向けてきたのだ。こんな状況なら嫌でも悟ってしまうだろう。
というか、そんな目向けないで!惨めになってくるから!
「で、できれば……。説明していただけると嬉しいです……」
「了解したよ……。星神というのはこの世界の神話に登場する唯一神だ。全てはこの神様から始まったとも言われていて、それは小説や児童書の題材になるほど有名なんだよ。その逸話は数多くあれど、誰もその姿を見たことがなく、伝承に残っているものは全て作者の創作だという噂さえ出るほどだ。しかし星神は間違いなく存在している。それを裏づけているのが、君も戦った……」
「神核、ですか?」
「そういうことだね。星神は世界の秩序と調和のために神核を生み出した。それは今の時代も健在でダンジョンの奥深くに鎮座している。神核というのは現存する魔術や魔法では解明できない、力を持っているため、それが星神の力の賜物という考えが一般的になっているんだ。だから君が言ったように星神が神核に接触していてもおかしくはないんだ」
これでわかったかい?とでも言いたげな視線をセルカさんが向けてくる。
まあ、なんとなくはわかった。つまり星神がこの世界の頂点であり、神核を作り出した。ということなのだろう。
「星神についてはなんとなく理解はできました。ではなぜ星神が俺を殺すように神核に命じたんでしょう?俺にはまったく心当たりがないんですが……」
するとその場にいる全員が首をひねり、手を顎に当て考え出した。
おいおい、なんだこの構図は……。異様な光景だな……。
「うーん、それについては私もわからない。そもそも星神が存在していたとして一介の人間であるハク君を殺す必要があるかと言われれば多分ノーだろう。しかも神核は「いずれ人類を絶滅に追い込む冒険者」としか言っていないんだろう?であればその冒険者が君じゃないかもしれない可能性だってあるんだ。神核がそんな間違いを犯すとも思えないけど、今は考えても仕方ないんじゃないかい?」
と、ジルさんは俺にそう問いかけてきた。
まあ確かに、そう言われてみるとそうなのだが、神核が俺を狙っている以上、このまま放置しておくわけにもいかないだろう。
「では、俺はこれからどうすればいいですかね?一応俺としては明日、ダンジョンにもぐってみようと思うのですが……」
「うーん、確かに神核の話はにわかに信じられないけど、実際に冒険者を襲っているからねえ。こちらとしてはダンジョンに行って神核を倒してきてほしいところだけど……。これではまた君に迷惑をかけてしまうね……」
ジルさんはそう言って顔を下に下げてしまった。
まあアリエスのときとクビロのとき、さらにはシラとシルのとき。その全ては今の俺にはとても掛け替えのないものなっているが、それでもジルさんたちからすれば、自分たちの願望を押し付けているような気分になっているのかもしれない。
しかし、今回はどういうわけか俺が狙われているのだ。むしろ迷惑をかけているのはこちらのほうだろう。
「いえ、別に構いません。というか俺が勝手に狙われているだけなので、こちらのほうが迷惑をかけてしまっています。ですのこの件に関してはこちらでけりをつけます。ですので、ジルさんとセルカはできるだけダンジョンに人を近づけないようにしてほしいんですけど、大丈夫ですか?」
すると、またもや二人は目を合わせて、今度はどこか呆れたような口ぶりで呟いた。
「まったく……。ハク君はお人よし過ぎるね……。普通神核なんて出てきたら怯えて声もでないよ?」
「そうだね。というかむしろそれくらいでいいのなら私たちに任せてほしい。全力で止めておこう。だから前にも言ったけれど、君は自分の命をもっと大切にしなさい。人間、命は一つしかない。君は強いけれどもっと自分のことを優先してもいいんだ。それだけ覚えておいてほしい」
命は一つしかないか……。
それは十分わかっていたはずだった。なぜらな真話大戦のときに何度も死にかけて、本当の意味で恐怖したからだ。
しかし、今の俺は神妃の力という絶対最強の能力を手に入れて、どこか自分は死なないなんて風に思っているのかもしれない。
これは少し、自分を見つめなおさないとな………。
「わかりました。では明日はダンジョンに向かいますので、俺たちはこれで失礼します」
そう言って俺たちは椅子から立ち上がり、職務室を後にした。
部屋を去るときに目の端に一瞬移りこんだセルカさんの顔は、どこか複雑そうな神妙な顔をしていた。
俺たちはギルドを出た後、もうほぼ自宅同然になっている宿屋に帰還していた。どうやら村の住民の中でも避難した者とそうでなかった者がいるようで、宿の女将さんはどうやら後者らしく、宿は問題なく運営していた。
そして俺たちは一旦俺の部屋に集まると、明日のことについて話し出したのだった。
「明日、俺は一応神核のいるダンジョンに向かうが、ここで一つ提案がある」
「うん?なにハクにぃ?」
「なんでしょうか、ハク様?」
「ハク様……?」
アリエス、シラ、シルの三人が同時に頭の上に疑問符を並べる。
「明日は俺たちパーティー全員でダンジョンに潜ろうと思う。理由はできるだけパーティーメンバーと一緒にいたいからだ」
「……?それってどういうこと?いつものハクにぃならダンジョンに行くのは危険だからって止めるよね?」
アリエスの疑問はもっともだろう。本当に命の安全を考えるならば、クビロにアリエスたちを任せて俺一人でダンジョンに潜るのがいいはずだ。
当然、今までそうしてきたし、今後もそうしようと思っていたのだが、やはりパーティーとして一緒に生活している以上、なにかあったときに直ぐに助けられる場所にいたいのだ。
「それもそうなんだが、俺がいない間にお前たちの身になにかあった困るだろう?今回のように俺でも苦戦する奴が出てくるかもしれない。だったらもういっそ一緒に行動していつでも守れる場所にいたいんだ。それに多分これから俺はお前たちを頼ることもあるだろう。そういうときに助けてほしいんだ」
これは切実な俺の気持ちだ。
真話大戦のときはずっと二人で戦っていた。しかしそれは何かがあったときにどうしても対処できなくなるときがある。俺はそれを経験済みなのだ。
それにジルさんが言っていたように俺はもう少し自分の命を大切にしてみようと思ったのだ。いくら強くてもいつかは絶対に俺もぼろがでるだろう。
そんなときに回りにだれかいるのといないのでは天と地ほどの差がある。
と俺が言った瞬間、三人は同時に表情を柔らかくして、待ってましたとばかりに口をそろえてこう言ったのだった。
「「「まかせて!」ください!」ください……!」
ということで俺たちは各自明日に備えて、準備をし始めた。シラとシルはなにやら明日の昼食の相談をしているし、アリエスはリブロールをぺらぺらとめくりなにやら魔術について考えていた。
俺はというと、武器や能力の確認と神核との戦闘を整理していた。
すると、不意にアリエスの頭の上にいたはずのクビロが俺の肩に乗ってきて話しはじめた。
『主、今少しいいかの?』
「うん?どうしたんだクビロ?」
『先程神核のやつを見とって思ったことがあったのじゃ』
「そうか、ならば聞かせてくれ」
そう言って俺はクビロの話に耳を傾けた。
『あの神核はリアが言っておったようにおそらく操られとると思うのじゃ』
「どうしてそう思うんだ?」
『あやつは確かに、わしと戦ったときも不死性も反発の光も使っておったがあのような戦い方をするようなやつじゃなかったのじゃ』
「というと?……てか反発の光って何?」
聞きなれない言葉が聞こえてきたので思わず聞いてしまった。
『反発の光というのは主様の戦火の花を破った技じゃよ。あれは相手の能力の力を全て反射し破壊する能力じゃ。ゆえに主が戦火の花にどれだけ力を加えようと、その力が戦火の花自身に跳ね返るのじゃから、全て霧散してしまうのじゃ』
……。
あのとき、神核はそんなことをしていたのか……。そりゃどうしようもない。俺の力で俺の物を破壊したのだ。なんじゃ、そのチート!?と思うが神核にもなればそんなことも出来るのかもしれない。
「そうなのか……。で?あいつが操られているっていうのは?」
『ふむ、あやつは戦うときは常に後の手をとるのがスタイルじゃった。間違っても主よりも早く動き出すなんてことはありえんのじゃ』
なるほど。
確かに先程のあいつは常に俺の先へ先へ行動していた。しかしクビロが言うことが本当ならばバトルスタイルが違うにも程があるだろう。
『それと、あやつはもっと人間を大切にしておった。主と戦うためとはいえ人間を人質にとるようなまねは絶対にせんかった。だからわしはあやつは何者かに操られとると思ったのじゃ』
それは俺も思っていたことであり、クビロもどうやら同じだったようである。
あの矛盾した言い草。とても正気だとは思えない。
ともあれ明日、ダンジョンであいつに全て吐かせればいいだろう。
すると俺は肩の上のクビロを軽くなでた。
「それも全部、明日になればわかるさ。俺たちは明日あいつを倒す。それで万事解決だ」
そして俺たちはまた明日の準備に戻っていった。
明日、俺のなにかが変わるとも知らずに。
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