第二十三話 夢、そして緊急事態
ようやくこのエピソードに入ることが出来ました!
このお話は今後のハクの冒険の指針になります!ですので力をいれて書いていきたいと思います!
では第二十三話です!
七月、某公園。
俺は最高気温が三十度を超えるであろう真夏日に公園のベンチに腰を落としある人物を待っていた。
待ち合わせ時刻は午前九時。すでに俺のスマートフォンは九時三十分を指し示しており、首筋には大粒の汗が湧き出ている。
そもそも、貴重な日曜日にわざわざこうして出向いてきているのに待たせるとはどういう了見だ!と思わず叫びたくなってしまうのだが、ギリギリのところで喉の奥に押し込む。
これが彼女とかそれに似た関係の人を待っていると言うのなら、まあまだ許せたかもしれない。しかしあいにくと俺たちはそのような関係ではない。
というか昨日出会ったばかりなのだ、俺たちは。
それも普通なら絶対にありえない邂逅の仕方なのだが、神様はなにを思ったか、そんな意地悪を俺に落としてきた。
まったくとんだプレゼントだ。
仕方がないので手に持っているスマートフォンを開き、一応毎日ログインしているソーシャルゲームを立ち上げる。
実は最近このゲームにはまっているのだ。特段リセットマラソンをやったわけではないのだが、いきなり最初のチュートリアルガチャで最高レアリティーのキャラクターが排出されたのだ。それも期間限定もので、学校の友達に見せると胸倉を掴んで「よこせよ!よこせよ!」と言い迫られてしまうほどだ。
誰でも強いキャラクターがでれば少しはそのゲームをやってしまうだろう。いわば俺はまさにその状態だ。
それもまさに今のような暇すぎて仕方がないというときによくログインしている。ゲームの内容としてはMMORPGのようで、自由度の高いMMOにしては珍しく、キャラクターが完全にガチャからしか排出されないという鬼畜仕様だ。
俺はとりあえず、今日のミッションを終わらせるべくスマホに指を滑らせた。
なんでも今日のミッションは階層のボスを倒し、そいつからかなり低確率でドロップするアイテムがどうしても必要なようで、掲示板を見ていると皆相当苦戦しているようだ。
というわけで、俺も挑んでみる。敵の強さ自体はそれほどではなく、始めて数日の俺でさえも楽々クリアすることが出来るレベルだった。
ボスと戦い始めて約五分、無事に討伐することができた。するとアイテムボックスにピロリン!という効果音とともになにやら新しいアイテムが追加された。それは今日のミッションに必要なアイテムそのものだった。
心の中で小さくガッツポーズをしていると急に俺の頭の上から影が忍び寄った。
「ねえ、それっておもしろいの?」
その声につられて顔を上げればそこには、日本では絶対にありえない絹を束ねたような金髪を風になびかせ、空の色をそのままとったような青い双眸をした少女が立っていた。
「……遅い。一体何分待ったと思ってる?」
するとその少女は右手を頭の後ろに回し、あははは、と笑いながら、
「いやー、ごめんごめん。日本の電気屋さんってとっても涼しいからその中で寝ちゃったんだよ。なんか自動で動く椅子もあったし」
それ、絶対マッサージ機だよな?
なんかお年寄りとか小さい子が興味津々で座っているのを見かけた覚えはあるが、俺と同じくらいの女の子があの椅子に座っている姿など、俺は生まれてこの方見たことがない。それはさぞ注目されていたことだろう。
「……。で、一体何のようなんだ?昨日の今日で呼び出すってことは、またあいつらがらみか?」
「うーん、今日はちょっと違うかな。今日はただ単純にハクにこの町を案内してもらおうと思ったの!私日本に来るの初めてだったし」
「初めてのわりには日本語お上手ですね……」
「ああ、それは二妃の力だよ。基本的になんでもできるからね!」
なんだそのウインクは……。
もうちょっと遠慮してもいいだろうに…。
これでは昨日慌てて助けに入ったのが馬鹿馬鹿しく思えてくる。
そう、俺は昨日土曜の学校帰りに、何者かに襲われているこの少女を助けたのだ。そのときこいつは腹から大量の血を流し、目も霞みだしていたので、これはまずい!と思い吐き気を抑え、命からがら救出したのである。
しかし俺は途中で気を失ったらしく、気づけばこの少女の膝の上だったということなのである。
それから俺は彼女の事情を聞いた。否、向こうから話してきた。なんでも一度関わってしまったらもう引くことはできないのだという。つまりはこのままだといつか殺されてしまうと言うことらしい。
正直、そんな突拍子もない話、信じられなかったのだが、昨日実際に俺たちは襲われたわけなので一応信じておくことにした。
というわけで、その次の日である今日、俺はこの少女に呼び出されたわけだが、待ち合わせにも時間通り来ないし、なんか全て二妃の力という得体の知れないちからで解決するし、俺の頭はもうパンク寸前だった。
「で、町を回るっていうのはどういうことだ?隠れ場所でも探すのか?」
「ううん、違うよ。ただ単純にこの町を見てみたいだけ!私だって女の子なんだから少しはそういうのに興味はあるの!それにハクがどんな町で住んでいるか見てみたいし」
「はぁ……。なんでこうもまた緊張感がないかね……。俺はそんなに暇じゃないんだが……」
すると目の前の少女は頬を膨らまし、あからさまに不機嫌な顔をして愚痴愚痴と呟いた。
「別にいいじゃない!それに、あいつらだって昨日の今日で襲ってこないわよ。さ、早く行こう!」
そう言うと少女は俺の手を掴んで走り出す。
「お、おい!?ちょ、待てって!速い!速すぎる!すこしスピードを抑えてくれ!」
「ベーだ!早く行くよ、ハク!私入ってみたいお店あったんだよね!」
「はあ……。どうしてこんなことに……」
そうすると途端、少女が走るのをやめ、こちらに向き直った。
「…………ねえ、ハク?あなたは私の名前覚えてる?」
「は?なんだよ急に……。そんなのあたりまえだろ?」
「だったら言ってみて?」
こいつは一体何を言っているんだ。昨日あれほど刺激的な出会い方をしたんだ。忘れるはずがない。
「あ、あのなあ……。えーと、お前の名前は…………あれ?思い出せない……」
その言葉を聞いた少女は、まるでそれがわかっていたかのように、一度微笑み、俺の顔に両手を当て、静かに呟いた。
「そう……。だったら思い出して……。私はいつでもあなたの中で待っているから……」
その瞬間、いきなり体が浮いたかと思うと、地面が急に消失していた。
しかし、落下しているのは俺だけで、俺は必死に少女に手を伸ばすが、その手はむなしく空を切り、俺の意識はそこでブラックアウトした。
「はあっっっ!!!!」
目に映るのは、ここ数日で見慣れた天上。
ルモス村の宿屋の天井だ。
俺は体は全身汗でぬれ、動悸が高まっていた。心臓がバクバクと鳴り響き荒い息が漏れ出す。瞬間ふらっと倒れこみそうになり必死に気を保つが、それでも頭の中は既に何か得体の知れないものにかき回されたかのようで、まともな思考が働かない。
となりに寝ていたであろうアリエスの姿は既になく、気配探知を使うと隣のシラとシルの部屋にいるようだ。
「はぁ、はぁ、はぁ……。な、なんで、あいつが夢に……」
俺はかつてともに真話大戦を戦った一人の少女の顔を思い浮かべ、すぐさまそれを思考のゴミ箱に突っ込み、ベッドから立ち上がった。
「とりあえず、顔を洗おう………」
それから俺は部屋を後にし、水を貰いにいくべく宿のエントランスに向かった。
「おはようございます!セルカさん!今日もクエストを受けにきました!」
場所は変わり、冒険者ギルド。
そこに俺とアリエスはいつもの訓練をするために出向いていた。
あの親睦会からさらに一週間、次の日から平常運転に戻った俺たちは、毎日冒険者ギルドに赴き、討伐クエストをこなしていた。
アリエスの成長は著しく既にランクはDランクへと昇格している。魔術に関しても日々上達しているようで、氷魔術はほぼ全てマスターしているのだという。
そして俺はその後魔術や魔法というものについて詳しく調べてみた。
なんでも、魔術は大きく七属性に分類されるらしく、火魔術、水魔術、風魔術、白魔術、土魔術、黒魔術、無魔術に分かれている。またそれぞれの上位互換として、炎魔術、氷魔術、空魔術、光魔術、地魔術、闇魔儒が存在している。無魔術に関しては主に生活に使われるものだそうで、無魔術だけは上位互換はない。
またこれは魔法においても適用されており、同じく七分類で区切られている。
アリエスに至っては、氷の精霊オカリナが懐いていたこともあり、大した時間もかからずに氷魔術を習得できた。
しかし他の魔術に関してはからっきしで、どの魔術も初級魔術すら失敗に終わっている。
「やあ、おはようアリエスちゃん。今日もいい依頼がたくさん来てるよ。見ていくかい?」
「是非是非!見せてください!」
俺は基本的にアリエスに討伐クエストは選ばせている。自分でクエストの内容を判断し、危険を察知してもらうためだ。
俺はアリエスが依頼書と睨めっこしている間に、今朝の夢について考えていた。
あの夢は一体なんだったのだろうか……。
まちがいなくあの夢に出てきたのは「あいつ」だろう。あの金髪と青い瞳は見間違えるはずがない。
しかし今さらなぜ?という考えが頭に浮かんでしまう。そもそもあいつのことに関しては一年前にすでに気持ちの整理をつけてある。それこそ当時は本当に大変だったのだが、今は何も問題がないくらい、回復している。
だから、今さら「あいつ」の夢を見ようが特に気にもならないのだが、あの夢は普通の夢とは少し違った。
なんいうか、あれが夢であることをわかった上で話しかけてきているようで……。
「ねえ、アリエスちゃん?今日のハク君はなんだか少しおかしくないかい?どこか抜けていると言うか……。覇気がないというか」
「え?」
俺は思わずその言葉に反応してしまった。
「あ、やっぱりセルカさんもそう思います?私もそう思ってたんですよ。なんか起きたときからテンション低くて……」
まじか……。そんなに態度に表れていたか……。
アリエスが気づいていたということはシラやシル、クビロたちも何か思っていたのかもしれない。
あまりアリエスたちを心配させるものではないな……。
「あ!わかったぞ!好きな子にでも振られたんだろう?……うんうん、わかるわかるよー。お姉さんも一時期はそんな時期もあったからねぇ……」
「え!?ハクにぃ……す、好きな人いたの……?」
「いるか!というかセルカさん!からかうの止めてください!アリエスも勘違いしない!」
するとセルカさんはフッと顔を柔らかくし、アリエスに話しかけた。
「ほら、もういつものハク君だ。どうやら本当に心配はなさそうだ」
「ですね。……もう、ハクにぃ心配かけないでよ。こっちまで心配になってきちゃうから」
「あ、は、はい。すみません……」
って何を謝ってるんだ俺は!これはまるで俺が全て悪いみたいじゃないか!
と、とにかく、今は目の前のことに集中だ。でないと狩りなんていけたものじゃない。
「そ、それでアリエス、今日行くクエストは決めたのか?」
「うん、決めたよ!このCランク依頼のレッドウルフ三十体討伐っていうのにする!」
「そうか、なら手続きをお願いしますセルカさん」
「はいよ、それじゃレッドウルフ三十体討伐、この依頼を受理するよ。達成期限は……」
そうしてセルカさんがクエストの注意事項を言おうとしたとき、ドタドタドタドタという音が外から響いてきた。するとしばらくして、顔を真っ青に染めた冒険者が大声で何か叫びながら、ギルドに入ってきた。
「た、た、大変だーーーーーー!!!!」
「ああ、もううるさいね。人が気持ちよく依頼を受理しようって時に……。で、どうしたんだい?」
「あ、ああ!セルカさん!!」
そう言うと冷や汗を垂れ流している冒険者はセルカさんのところまで飛びついてくるとこう言ったのだった。
「し、し、神核が第一ダンジョンから出てきたんだ!普段はダンジョンの最深部で眠っているはずの神核が!」
とうとう神核が登場します!前にちょこっと存在に関しては触れていたのですか、ようやく出現します!
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