第十一話 赤竜討伐、そして新たな問題
第十一話です!
今回もハクは派手に無双しています!
お楽しみください!
翼をはためかせる轟音が鳴り響く。周囲の風は明らかに流れを変え、俺を叩きつけるように荒々しくなっていた。
俺と対峙している赤いドラゴンは明らかに俺に対して敵意を向けている。
まあ理由は言うまでもない。間違いなく俺が魔物を全滅させたことが原因だろう。おかしいとは思っていた。種族がバラバラの魔物の集団がなぜこんなところに集まっているのか、そしてなぜ三百体の魔物たちが追加でやってきたのか。
すべてはこのドラゴンの仕業たろう。なにが目的は知らないが、この赤いドラゴンはいたるところから魔物を集めていたようだ。
もしかするとまとめて食料にするつもりだったのかもしれない。あれだけの巨体だ。食う量も尋常ではないはずだ。それはさぞお怒りだろう。
とはいえこちらに害をなすのであれば排除するまでだ。そして俺はもう一度エルテナを構え直す。
『やるのか?主様?』
「俺的にはどっちでもいいんだけれど、あのドラゴンは引く気はないだろう」
『まあ殺気しか感じられんしな。当然といえば当然か……』
「リア」
『何じゃ?』
「あいつは強いと思うか?」
少し聞いてみたかった。何のこともない気まぐれだ。
『まあ先程の魔物よりは強いじゃろうな』
「なら………こいつに俺の能力って通用すると思うか?」
別に弱気になっているわけじゃない。ただ相棒からの一押しがほしかった。これから幾度となく魔物を倒すことになるだろう。そのための景気づけだ。
『フッ、モチのロンじゃ!ささっと吹き飛ばしてしまうのじゃ、主様!』
その言葉に俺は一度深呼吸すると、口元に笑みを浮かべて。
「よっしゃ!行くぞ!」
と言うと俺はドラゴンの下へ駆け出した。
そしてそれとほぼ同時にドラゴンも戦闘態勢に入り顎を大きく開け特大のブレスを放ってきた。
しかしその攻撃は俺に当たることはない。
「効かないんだよ!」
俺の目の前には大きな青い膜のようなものが展開されていた。それはドラゴンのブレスを受けてもひび一つ入らず、見事に封殺している。
その名も「青天膜」。かつてリアが神話大戦のときに全十二階神の攻撃をものともせずはじき返した、守りの盾。
「んじゃ、次はこっちから行くぞ!」
俺は空中にいまだに浮いているドラゴンの頭上まで移動すると、脳天めがけエルテナを振り下ろした。
「グガッ!?」
そのまま赤いドラゴンは地面に叩きつけられた。しかしまだあまりダメージはないようだ。しかし俺は既に次の動きに入っていた。ドラゴンが立ち上がると同時に懐に忍び込み横一線の一撃がドラゴンの腹を薙いだ。
だがこれはあと一歩のところドラゴンの爪で防がれてしまった。そのままドラゴンは自分の尻尾を、体を回転させながら俺に叩きつけてくる。
「チッ!」
俺はとっさにエルテナの腹で受け流すが、衝撃までは抑えられず後方に吹き飛ばされた。さすがに先程の有象無象とはわけが違うようだ。攻撃も防御も思考も、俺の予想の何段階か上に行っている。
「グルァ!」
な!?低空飛行!?
くそ!風圧が強い!このまま突進してくるか?
と思い身構えていると、俺の剣が届くか届かないかギリギリの距離で、いきなり垂直に上昇した。そして再び顎を開くと、今度はブレスではなく巨大な炎球を投げつけてくる。
『主様!』
「くそ!これは避けられない!」
俺はドラゴンが突進してくると思い前足に全体重を乗せてしまっている。いわば野球のピッチャーがボールを投げる直前のような体勢だ。こうなった以上、そう簡単には身動きがとれない。
そしてとてつもない轟音とともに炎球は地面に落下した。もうもうと煙が立ち込め、焦げ臭い匂いが辺りを埋め尽くし地面が融解する。
ドラゴンは勝利を確信したような笑みを浮かべ、翼をたたみ始めていた。
「悪いな、読み合いは俺のほうが一枚上手だったみたいだ」
その言葉を発したときドラゴンの顔に驚愕の色が見て取れた。ドラゴンからしてみれば完全な間合いで俺を欺かせたと思っているのだろうが、俺はそんなに弱くはない。
「転移って奴だ。ちょっとチート染みてるが、何かあったときのために安全策を一つや二つぐらい用意しておくのは当然だろう?」
そう言って俺は空中のドラゴンの後ろに姿を現す。しかし今のはなかなかに危なかった。手を抜いているとはいえ、あの炎球をまともにくらっていたらダメージはなくとも服は完全に消失していただろう。
俺はまだ露出狂になるわけにはいかないのだ!
『普通気にするのはそこじゃないと思うのじゃが……』
ドラゴンはもう怒りを通り越してかみ締める顎から血が出てきている。
おおう、よほどお怒りだな、これは。
下手な被害が出ないうちに片付けたほうがいいかもしれない。こうなると見境なさそうだからな、こいつ。
というわけで、さっきよりもスピードを上げてドラゴンに接近し、鳩尾に拳を打ち付ける。
「ガガアァ!」
そしてそのまま脳天に踵を落として地面に落下させる。そしてそれに追随するように俺自身も降下し、その間にドラゴンの体を切り刻んでいく。赤い鮮血が幾重にも噴出し、周囲の地面を赤くぬらした。
爆音とともにドラゴンが地面にへばりつき、顔を上げようとした瞬間、俺はドラゴンの首に剣を突きつけていた。
「一応聞いておく。こちらにもう戦闘の意思はない。ここで大人しく引き下がるなら、命だけは見逃してやる。あいにく今回の依頼にお前は含まれてないからな」
殺気は出来るだけ殺し、選択をドラゴンに問うた。
ここで引くのならそれでよし。そうでなければ殺すだけだ。
そしてドラゴンはその言葉に目を見開き、頭を下げた。
これは降服の意思表示であろうか。ならば剣を引いてやろう。そう思い、剣を下げた瞬間、途端にドラゴンが顎をあけブレスを吐こうとしてきた。
「だからお前は、俺に読み合いでは勝てないんだよ」
ドラゴンの遥か上空、そこから何かが煌いたかと思うと、それはドラゴンの体を物凄いスピードで押しつぶした。
氷塊。それも直径二十メートルはあろうかという巨大な氷の礫。それがドラゴンに最後の一撃を与えた。
俺はこの赤いドラゴンと戦闘が始まった直後直ぐに上空にこの氷塊を作り始めた。いつでも攻撃できるように。
戦いとは基本的に読み合い、駆け引きが重要な鍵を握る。相手を罠にはめるのも、剣を打ち合わせるのも、ようは心理的要素が大きな要因となる。
つまりこのドラゴンはその部分が足りてなかったのだ。それにわざわざ本気で見逃してやろうと思ったのに、それを踏みにじって俺に攻撃しようとしてきたのだ。
であれば慈悲はない。大人しく眠っているといいさ。
『ふむ、全て計画通りに進んだようじゃな。見事見事!さすが主様じゃ!』
「ありがとう、リア。…………だけど、これどうしようか?」
そう思い切って氷塊を叩き落したのだが、その跡はすさまじいことになっていた。まず氷解が落ちた余波で周囲に木々は跡形もなく吹き飛び、地面は直径五十メートルほどのクレーターが出来上がっていた。
これはどうやってもごまかしきれないだろう……。
どうしよう……。
『それは正直にギルドのあの娘に言えばいいじゃろう。あの娘の口ぶりは何か裏がありそうだったしのう。何があってもこちらの気にすることではないわい』
「うーん、それもそうか。……んじゃ帰るか」
『了解なのじゃ!』
そう言って俺は一応ドラゴンの死骸を蔵に放り込み、氷塊を粉々に砕いた後、村へ向かうべく再び空へ飛び上がった。するとちょうどいいことに俺の腹の虫が鳴き始めた。
うん、とりあえず村へ帰ったら昼飯でも食べよう。
あ、でも金がないからギルドが先になるかな?
そんなことを思いながら俺はルモス村へと出発した。
「お!早かったね。お疲れ様!見たところ怪我もなさそうだけれど首尾はどうだった?」
ギルドに入るなり、受付でなにやらメモ帳のようなものと睨めっこしていたセルカさんが話しかけてきた。
「どうだった?じゃないですよ……。セルカさん、あなたドラゴンがいることわかっててこの依頼俺に渡したでしょ?」
「ハハハ、その通りだよ。君は初めて見たときから強いと思っていたからね。確かめてみたくなったのさ。悪く思わないでくれよ」
まじか……。一応出来るだけ力が漏れ出さないように気をつけていたんだがな。
もう少し気をつけたほうがいいのか?
『そういうことではない。単純に主様の身に付けている雰囲気が特殊じゃっただけじゃ。そもそも初めて冒険者になりますというやつが、動揺一つせずに面倒な冒険者を吹き飛ばしたのじゃ。少しは不思議に思う者がいてもおかしくはないじゃろ?』
うーん、そういうものなのか。今度からもうちょっとオドオドしてみようかな。まあ気持ち悪いだけだと思うけど。
「俺は別にいいですけど、他の新米冒険者にこんなことやってないですよね?」
「もちろんさ!これは君だけの特例だよ、特例。……それで魔物は討伐できたかい?」
「ええ、それは問題ありません。できればそれも売りさばきたいのですが、できますか?」
「ああ、かまわないよ。それじゃ付いてくるといい。あっちに解体所がある。そこで査定もしよう」
俺はそう言われたので大人しく付いていった。ギルドの奥を進み入り口とは反対側の職員専用の出入り口に入っていく。
扉をくぐったさきには、ちょっとした広場のような場所があった。さながらミニ闘技場といった具合だ。
「それじゃあ、討伐した魔物を見せてくれ」
ふむ、ではまずは三百五十体の魔物から。手をかざして蔵の扉をあける。一応量が量なので蔵の扉は大きめに開けておく。
するとドサドサドサドサ、と音を立てて大量の魔物が転がり落ちてきた。
さすがにこれにはセルカさんも絶句しており、言葉を失っている。
「あ、あ、あの、ハク君?確かクエスト内容は五十体だったよね?この量はなにかな?」
「ああ、これはなんか追加で魔物の群れが襲ってきたのでついでに討伐しておきました」
「そ、そうなのか……」
「あ!あと……」
「あと?」
そう一番のトリが残っている。俺はさらに蔵の扉を大きく開け、奴を取り出した。
バコンッと音を立てて先に出した魔物の上に赤いドラゴンが投げ出される。
「せ、赤竜!?た、たしかに、私は赤竜が出ることを知っていて依頼を受理したけれど、まさか討伐してくるなんて……。てっきり、姿を見て帰ってきたのだと思っていたのだけれど……」
「ええ、まあ、そこそこ強かったですよ?まあ討伐しなくてもよかったですけど、このドラゴンが襲ってきたので、とりあえず倒したって感じですかね」
セルカさんの顔が引きつっている。うーん、ドラゴンというのはそれほど珍しいのだろうか?そこのところもこれから調べなければいけないな。
「と、とにかく、この量の魔物を一度に引き取るのは難しい。……六時間ほど待ってほしい。買取はそれからでいいだろうか?」
「ええ、大丈夫です。ですがクエスト達成報酬は今いただけますか?」
でなければ昼飯が食べられない。それは困る、大いに困る。
「ああ、それは大丈夫だ。それでは一旦戻ろうか」
そう言うとセルカさんは足をギルドの中に向け歩き始めた。
するとなにやら外から騒がしい音が聞こえてきた。
「なんか、外がうるさいですね。何かあったんですか?」
俺がそう呟いた途端、セルカの顔が暗くなった。
「ん?どうしたんですか?」
「そうか、君は知らないんだな。……隠しておけるものでもないし、私の口から言っておこうか」
そしてそれからセルカさんが語った内容に俺はとっさに反応できなかった。
「ダキリオ街公爵家当主、バリマ=カリラスがアリエスちゃんを娶りにきたんだ」
次回は、またしてもアリエスのお話です。
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