5. 風舞いの揚羽
軽快な太鼓の音、そして鳴り響く手拍子。
シャリン、と鳴る鈴の音が少しずつ近くなる。
「わっ、隊長、踊り娘さんが来てる!」
人ごみを掻き分け、乱菊が歓声を上げた。
自分より頭一つ分以上小さな日番谷を、自分の前に押しやる。
「綺麗な娘・・・」
乱菊が思わずそう漏らすほど、その娘の容姿は整っていた。
腰の辺りまである鳶色の髪は豊かに波打ち、娘の動きのたびに扇のように広がる。
大きな二重の瞳は濡れたように輝き、頬は桜色に上気している。
袖がなく、白い腕は肩からむき出し。裾も極端に短く、太腿が露になっている。
緋色の着物から伸びる手足は、驚くほどすんなりと長い。
その真っ白い肌とあいまって、女でもその境目にドキリとさせられる。
華奢な手首や二の腕、足や頭につけた鉄製の飾りが、しゃらん、しゃらんと音を鳴らす。
太鼓の音にあわせ、伸びやかに長い四肢を躍らせ舞う姿は、人々の熱狂を呼んだ。
娘の瞳が、ふと日番谷と乱菊に合わせられる。
日番谷の蒼碧の瞳を見て、少しだけ娘は目を見開いた。
翡翠色の目はソウル・ソサエティでは滅多に目にすることがないからかもしれない。
しかし、娘はすぐに、日番谷の目を見つめたまま、にっこりと口角を上げた。
そして、ひときわ高く宙に舞う。群衆の中から口笛や歓声があがった。
乱菊が見ると、日番谷は魅入られたように娘を凝視している。
―― あらまあ。仏頂面してても、やっぱり男の子ね。
ほくそ笑む乱菊を、日番谷は眉をひそめて見上げる。
「見ろよあの格好。若い女が腹冷やしたらダメなんじゃねえのか?」
―― ジ・・・ジジくさい・・・
乱菊が絶句している間に、娘の舞が終わった。
沸き起こる拍手の中、息も弾ませずに着地した娘は、軽やかに頭を下げる。
前に置かれた桶に、一斉に金が投げ込まれた。
「あそこに金を入れるのか」
日番谷は見よう見まねで近づき、チャリン、と中に金を投げ入れる。
それを見ていた娘が、背をむけた日番谷の腕をパシッ、と掴んだ。
「多すぎ」
日番谷の目を見て、一言そういう。
乱菊が後ろから覗き込むと、確かにそれは、大道芸を見たにしては、異常に高い金額だった。
しかし日番谷はその辺の加減が分からないらしく、眉をひそめる。
「少ないより多いほうがいいだろ。大体2人分だ」
「2人分にしても多いの!」
「うるせーよ。いまさら戻すな」
娘の手を振り払い、日番谷が背を向けた時、人々から飛んだ声に、日番谷はぴたりと足を止めた。
「お前、寺の娘の癖にそんな格好してたら、親父殿に怒られるぞ!」
「なによー。あんな線香臭いお寺に篭るなんて絶対に嫌!」
「寺?」
日番谷が肩越しに振り返り、娘を見た。
「お前、寺の誰かの娘なのか」
「お前よそ者だな、この娘の父親は、あの寺の当主の天道清十郎様さ」
「・・・」
日番谷は、言葉を止めて娘を見やる。
その数秒の間に、娘は身軽な動きでぴょん、と日番谷に歩み寄った。
「じゃ、たくさん貰った分、あたしが奢ってあげる!
甘味処あたしも行きたいし!そっちのお姉さんも一緒にどう?」
「あのなあ、俺たちは今食ったばっかり・・・」
言いかけた日番谷の口を、すかさず乱菊がふさぐ。
「行く行く!」
「オイ松本、お前な・・・」
「ハナシ、色々聞き出せますよ」
その日番谷の耳元で、乱菊が呟く。
「大体っ、甘いものは別腹です!」
「知らねえよ・・・」
「決まりね!一押しのところ案内してあげる!」
娘はパーッと広がるような笑みを浮かべ、先に立って歩き出した。
「おい女、俺たちはな・・・」
「女じゃないっ!」
また逆鱗に触れてしまったらしい。
娘はプーッと頬を膨らませて日番谷を見た。
「人を呼ぶときは、女!とか言わないの。
名前があるんだからね!名前で呼ばなきゃ」
「・・・お前の名前しらねーよ」
「揚羽。天道揚羽!いい名前でしょ」
さっきまでのふくれっつらとは打って変わって、娘は明るい笑みを広げる。
根っから明るい性格らしい。
ころころと表情が変わり、ちょっとしたしぐさも機敏だった。
「あたしは松本乱菊よ」
ふたりにじーっと見つめられ、しぶしぶ日番谷が答えた。
「・・・日番谷冬獅郎だ」
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