3. 囚われの白羽
中々立派なものだ。流魂街にこれほどの建築があるとはな・・・
隠密機動ともども門内に通された砕蜂は、ちらりと周囲を見やる。
それは、確かに50人以上の人数は住めそうな、堅牢な木造の寺院だった。
―― 霊圧が、報告と違う・・・
ちっ、と砕蜂は心中舌打ちをする。
巧妙に隠されてはいるがこの気配。もしかすると、我らの力の総量をも上回る可能性がある。
そう思ったとき、ざっ、と土が鳴った。
「私がこの天道教の当主、天道清十郎という。お前達は死神と見受けられるが」
「死神、で結構。名前など必要ない」
中年か初老に見える、白髪の男。
顔には縦横無尽に皺が刻まれているが、意外と年齢は若いのかもしれない、と砕蜂は見て取る。
その力は、恐らくこの寺院内で最も大きい。
―― 私とは比較にならんがな。
天道清十郎という男の力が5としたら、始解状態の自分で7か8。
瞬時に砕蜂はそう目分量をつけ、清十郎に向き直った。
「斬魂刀に比する力を隠匿することは重罪だ!
ただちに、力の源たる錫杖を我々に渡し、縄につけ!それが出来ぬなら力づくで拘引する」
寺内に朗々と響き渡った砕蜂の声に、様子を伺っていた僧たちが、ぞろぞろと姿を見せる。
「横暴だ!」
「我々の事情も知らずに・・・」
「待て!」
死神達に近づこうとする僧たちを、清十郎が制した。
「死神よ。我らには、力を失えない理由がある。力を使わず、ただ持っている理由がある」
「何を言うかと思えば、理由など。理由がなんであれ処遇は変わらぬ」
「ここに来る途中、村や町を見たか?」
清十郎は遮るように強い口調で言うと、砕蜂をまっすぐに見た。
「北流魂街では珍しいほど、栄えていただろう?
それは下賎な輩が、我らの力を恐れて近辺の地域を襲えぬからだ。
我らがもしも力を失えば、この地の平安は失われる」
確かに・・・と、砕蜂はやってくる途中の町や村を思い出す。
決して治安がいいはずがないエリアにしては、驚くほど栄えていた。
街では子供が遊び、大人が談笑し、死の匂いはまるでしなかった。
しかし・・・そこで砕蜂は考えを断ち切る。
「治安の維持は、死神の役割。貴様らの出るところではない」
「しかし、ソウル・ソサエティ全土を死神だけで護ることなど不可能だ!
死神はそれを認め、我々のような民が自衛の力を持つことは認めるべきだ」
「精霊廷の規則は絶対だ!例外は認められない」
砕蜂はにべもなく言い放った。
対峙する清十郎はそれには答えず、一歩も引かぬ、という表情でこちらを見ている。
じり、じり、と周囲の僧たちが間合いをつめてくるのが分かった。
―― 本気でかかってこられると、厄介かもしれんな。
まともにぶつかり合うのは避けたかった。
実力が伯仲している以上、こちらにもある程度の犠牲が出るのは間違いないだろう。
ここで兵力を失えば、これからの任務に影響が出かねない。
―― さて。どうするか・・・
そう思ったときだった。
カランカラン、と下駄が石畳を鳴らす音に、砕蜂は鋭い一瞥を投げる。
「貴方?一体・・・」
そこにいたのは、紺色の着物をまとった、顔に少し皺が目立ち始めた女だった。
髪を結い上げ、地味な装いではあるが、凛とした気品が感じられる。
その女が向けた視線が、清十郎を向いている。
そう思った途端、砕蜂は地を蹴った。
「まずい、逃げろ!」
清十郎の声が初めて動揺を見せる。
しかしその時には、すでに砕蜂は女の背後に回り、その喉元に斬魂刀「雀蜂」を突きつけていた。
「白羽!」
清十郎が一歩踏み出し、女のほうに手を伸ばした格好のまま固まった。
「貴様・・・!」
「妻を殺されたくないなら、錫杖を渡せ」
苦悩にゆがんだ清十郎を前に、砕蜂は無表情で言い放った。 |