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BLEACH in FLAME −晩冬の踊り娘−
作:切香



20. 春を望む


2月28日。朝。
日番谷は、旅支度をする揚羽の姿を、何となく見つめていた。
本調子には程遠いが、歩くくらいなら支障はないくらいに、その体は回復していた。

「どうすんだよ、これから」
日番谷の声に、揚羽は微笑を浮かべて振り向いた。
痩せてしまってはいるが、その顔に数日前にあった影は、薄らいでいる。

「天道教が没落してから、この辺りはやっぱり治安が悪くなってるみたい。
あたしは、あたしの出来ることをやるわ」
「できることって、何だよ」
「あたしは踊り娘よ?暗い時だから尚更、踊ってみんなを笑わせるの」
「変わらねえな、お前は」
日番谷は、口角を上げて揚羽を視る。
揚羽は、帯をキュッと締めなおしながら続けた。
「母様の反対は凄かったわよ、最後まで。
でもきっと母様なら、心の底では、踊り娘になることを認めてくれてたとあたしは思ってる」

日番谷は、それを聞いて、一度だけ深く頷く。
自分を育ててくれた祖母も、死神になりたいと言い出した時、自分が1人きりになるのが分かっていても、認めてくれた。
―― お前が、ばあちゃんのために何かをがまんするのが、一番つらい。
そういってくれた時の穏やかな表情を思い出す。
家族なら。死がふたりを分かつとも、その言葉はいつまでも届き続けると思いたい。

「だから・・・」
揚羽は日番谷に歩み寄ると、手にしていた錫杖を日番谷に手渡した。
「なんだ?」
「預かってて」
あっけに取られた表情の日番谷を、揚羽は微笑んで見下ろす。
「あたしは、もう二度とこの錫杖を使わない。
踊り娘として、みんなが幸せになれる方法を探すわ。
だから、冬獅郎に持ってて欲しいの。あたしが誓った証拠として」
「あぁ」
日番谷は錫杖を受け取ると、揚羽に視線を戻す。
「聞かないんだな。お前の父親が死を選んだ理由を」
「聞いたって言わないでしょ」
即座に揚羽はそう返した。言葉に、以前のような機転が戻ってきている。
「それに。父様やあんたが言わないのには、きっとそれだけの理由があるはず。
だからあたしは聞かない」
「・・・そうか」
揚羽の瞳に浮かんだ労わりにも似た感情に、日番谷はかすかに顔をゆがめ、うつむいた。

もうじき去る自分に何か言おうとしているのに、きっと言葉にならないのだろう。
むくれた子供のようにも見えるその表情に、揚羽からふっと笑みがこぼれた。

額にかかったその銀髪を指で払う。
怪訝な表情で自分を見上げた日番谷の顔が近くなり――
揚羽は、日番谷の額にポツンと唇を落した。
ポカン、と目と口を見開いた日番谷の顔を見て、思わず声を立てて笑い出す。
「なかなか見事な男っぷりだったわよ、あんた」
そのまま立ち上がると、くるりと日番谷に背を向けた。

「おっ、おい!揚羽!」
そのまま戸口から外に出ようとした揚羽に、日番谷が慌てて声をかける。
「何か、俺にできることはないのかよ!」
「そうね」
揚羽はちょっとだけ振り返る。
「また会える?」
「当たり前だ!!」
即座に返した日番谷の声に、無邪気な笑みを返す。
傷の癒えた右手を上げて空中でヒラヒラ、と振り、入り口の戸を引きあけた。
光あふれる外の景色は白く、旅立つ揚羽の姿は、額縁に入った絵のように日番谷の脳裏に焼きついた。


同日、午後。
日番谷は、天道教の跡地へと辿り着いていた。
寺院は見るも無残に燃え尽き、大黒柱でさえ、その原型をとどめるのみだった。
辺りは煤であふれ、風が吹くたびに黒く舞い上がった。
転がっていたはずの死体は、恐らく死神たちが埋葬したのだろう。どこにも見当たらなかった。

あいつらは・・・
聖人じゃなかったし、だからといって悪人でもなかった。
ただ、仲間を想い、娘を想う、自分たちと同じ人間だった。
人生にたった一度、許せないことがあったくらいでこんな結末を迎えるような・・・
そんなバカな生き方を貫いた、ただの人間だった。
「俺だったら・・・」
日番谷は無意識にそう呟いて、自分の声に我に返ったかのように黙り込んだ。
しばらくして、わずかに首を横に振る。
真摯な瞳で自分の言葉を聞いた、清十郎の表情がチラリと頭をよぎっていた。

それ以上思いつく言葉もなく、日番谷は歩みを進めた。
その時、その視線がふと、少し離れたところに見える背中を捉えた。

―― アイツは・・・
日番谷は、歩みを止めず、地面にしゃがみこんだその人物の後ろまで歩み寄る。
「砕蜂。何をしてる」
日番谷がここに来たことをとっくに気づいていたはずの砕蜂は、声をかけられても尚振り向こうとしなかった。

―― なんだ?
日番谷は砕蜂の背中越しに、地面を覗き込む。
かすかに桜色がかった、名前も知らない小さな花が一輪。
焦げ付いた地面の上に、手向けられていた。
「もう、花が咲いていたのだ。春が来るのだな」
その声音は、日番谷がこれまで聞いた砕蜂のどの言葉よりも、穏やかだった。

そして肩越しに振り返った砕蜂の瞳が、日番谷の持つ錫杖に吸い寄せられた。
「その錫杖。あの娘の霊圧が強く残っている。・・・逃がしたのか」
立ち上がった砕蜂の眼前に、日番谷は無言で錫杖を突きつけた。
「あいつは、天道教が遺した最後の希望なんだ。絶対に、殺させない」

無言のまま、日番谷と砕蜂は見つめあった。
―― ボロボロだな。
一瞥して砕蜂はそう思う。
着物の胸の部分には穴が開き、乾いた血で固まっている。
足元すらおぼつかない状態で自分と遣り合って、勝てるはずもないだろうに。
それでもこの男は、一瞬の迷いもなく戦おうとするのだろう。
―― 「死神の役割は、人を護ることだろ」
数日前、日番谷が怒鳴ってよこした言葉が、耳に蘇った。
その想いが、一旦回りだした歯車を、最後の最後で止めたのかもしれない。

「・・・砕蜂隊長」
沈黙を破ったのは、近くに止まっていた黒揚羽だった。
「北流魂街B1457地区に野盗が出現、街を襲っています!」
「分かった。私がでる」
日番谷は、不思議なものを見るような視線を砕蜂に向けた。
「砕蜂?」
「貴様とやりあうだけ時間の無駄だ、ということは既に学んでいる」
相変わらずの無表情でそういうと、砕蜂は日番谷に背を向けた。
「初めから言っているとおりだ。北流魂街は必ず護る。それが私の役割だ」
ちらり、と足元の花に目を落す。
そして、砕蜂は瞬歩でその場から姿を消した。


ひとり、その場に残された日番谷。
ひゅうっ、と冷たい風が吹き抜けるが、その風の中には、かすかに花の香りも混ざっているようだ。
今は最も寒い時期だが、春はもうすぐ傍まで近づいている。
願わくば、またあの娘が軽やかに舞える季節がくるよう。
かすかに微笑むと、日番谷は精霊廷の方角を見る。
そして強い瞳で、その一歩を踏み出した。



bleach in flame fin.





読んでくれた皆さん、ありがとうございました^^
着想は「フラガール」から。

頭のどこをどう通ったらこんな暗い話になるのかというのは、ナイショ。
続編構想中です。






新しい小説は、HP「halcyon days」上で更新しています。
「小説家になろう」で掲載中小説のリバイス版も順次、追加していますので、
よろしければこちらもどうぞ^^







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