17. 押し寄せる死
もう何度目だろうか。
砕蜂と清十郎の体が交錯し、シンメトリーのように飛び離れた。
清十郎の腕といわず胸といわず、蝶のような独特な紋様が刻まれていた。
二撃必殺の砕蜂の技の、一打目が刻まれた証拠である。
同じ場所に二度食らえば、いかなる相手でも命はない。
―― さすが、よく調べられているらしいな。
かすかに息を荒げながら、砕蜂が向かい合う清十郎を見やった。
紋様がある箇所を狙おうとすると、いつもひらりと体をかわし、場所を逸らす。
初めから戦い続けたからだろう、清十郎の息は砕蜂よりも遥かに上がっている。
それでも、瞳に浮かんだ憎しみは、まったく陰りがない。
あの、白羽とかいう妻のためか。
「やさしい・・・本当に、やさしい女だったんだ、白羽は」
不意に、清十郎が顔を伏せた。その表情は、影になっていてよく見えない。
「でもな・・・あの日、白羽と揚羽は大喧嘩をしたんだ。
踊り娘になって家を出るっていう揚羽を、白羽は何とか止めようとした。
そして最後に白羽が口にしたのが『戻ってこなくていい』・・・。
後悔してたなぁ。
次会ったら、踊り娘になってもいい、って言って抱きしめてやるんだって、そう泣いてた。
それが2人の最後の会話だ。もう二度と分かり合えないんだぞ!」
顔を上げた清十郎の表情に、砕蜂は動きを止めた。
泣いている。
戦いの最中に、憎しみも恐れも忘れたかのように、ただ、涙を流している。
「お前達にとってみれば、どれも同じ魂魄に過ぎないのかもしれん。
でも、俺達も1人1人生きているんだ!
分かるか?いきなり日常を断ち切られる苦しみが!大切な人間を失う悲しみが!」
ふっ、と砕蜂の頭に流れ込んできた記憶があった。
ソウル・ソサエティから追放され、一切の消息を絶った夜一を思った何千もの夜のことを。
なぜ、自分も連れて行ってくれなかったのかと泣きに泣いた、長い長い時間のことを。
「死神には・・・感情は、要らぬ」
ポツリ、と砕蜂は呟いた。
2人の間を断ち切るかのように、建物の柱が唐突に倒れてきた。
砕蜂は息を飲み、建物を見やる。
―― 建物が崩れてゆく・・・
それは、日番谷たちの張った氷結結界が第二段階に進んだことを示す。
天道が長年建物に張り巡らせていた「不燃」の結界が崩れ去ったのだ。
ごう、と炎が建物から上がり、少しずつ崩れる建物から、死神や僧が次々と飛び出してきた。
「見事な術だ」
それを見上げた清十郎の瞳は、いっそすがすがしかった。
その表情は、死に際の白羽を思い出させた。
「日番谷と昨夜、接触したのか・・・?」
砕蜂は、清十郎に問いかける。それが、気になっていたのだ。
初めに日番谷がここにいたと知ったときは、天道側に付き、死神を裏切るつもりかと思った。
しかし、日番谷の行動は蓋をあければ、全て砕蜂が指示した通りで、想像以上と言ってもいい。
清十郎は、炎の中で、少しだけ微笑んだように見えた。
「誰のことかな」
そして、清十郎の足が地面を蹴る。
最後の力を振り絞って、砕蜂に覆いかぶさるように錫杖を振るった。
対する砕蜂の初動は明らかに遅れていた。しかし、腕は半ば無意識のうちに動いた。
「・・・」
砕蜂の肩に、ずしり、と清十郎の体重が重くのしかかった。
清十郎の胸、蝶の紋様の真ん中に、砕蜂の斬魂刀の先が深く食い込んでいた。
清十郎が、大きく一度、あえぐ。
錫杖を取り落とした手が、空を掻くように、一度大きく動き・・・だらりと垂れた。
「頼む・・・」
崩れ落ちようとする間際、清十郎は砕蜂の腕をがしりと掴んだ。
「どうか、この地に流れる血が・・・これで最後になるよう・・・この地を護ってくれ」
ヒューヒューと鳴る苦しい息の下で、それだけ言うと、清十郎の腕から一気に力が抜ける。
無言で立ちつくす砕蜂の真横に、その体が崩れ落ちた。
「あ・・・げ・・・は」
それが、天道清十郎の最期の言葉だった。
砕蜂はやや置いて顔を上げると、周囲を見渡す。
既に、戦況は大きく死神に傾こうとしていた。
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