16. 日番谷 対 揚羽
建物内では、更木と海燕が背中合わせの戦いを続けていた。
「日番谷隊長はまだなんですか!」
「うるせえ、黙ってろ!」
一角の声に、更木が声を返す。
―― 普段なら、こんな奴に遅れはとらねえはずが・・・
海燕が歯噛みし、清十郎の攻撃をかわした。
とにかくこの炎が、こちらの攻撃を一切よけつけないのだ。
パキン。
その時、かすかな音が、炎の中に響いた。
「なんだ?」
海燕は、音のしたほうを見やる。
炎の中でも傷一つ付いていない欄間の一角が、キラリと白い光を放っていた。
「こ・・・氷?」
それに気づいた僧の1人が、思わず声を上げる。
次の瞬間。炎が霧散した。
天井が、床が、襖が、障子が。突如薄い氷に包まれていく。
「なにごとだ!」
姿を現した僧達が、初めて慌てふためいた様子を見せた。
「これは・・・氷雪系の結界か!」
清十郎も更木と海燕から跳び下がり、あたりを見回す。
更木が、ニヤリと笑った。
「待たせやがって、あのガキ大将が・・・」
「砕蜂隊長!今です」
海燕は黒揚羽に向かって叫ぶ。
「畳み掛けろ!」
続く砕蜂の声は、黒揚羽からではなく・・・外から聞こえた。
「清十郎様、新手が上から仕掛けて来ました!先頭はあの女です!」
その声に、清十郎は更木と海燕を尻目に、外へと一気に駆け出した。
清十郎の目に、山の裏手から一気に駆け下りてくる、30名近い隠密鬼道の姿と、先頭に立つ砕蜂の姿が映った。
「砕蜂!白羽の仇を討たせてもらうぞ!」
―― 隊長・・・!
乱菊は、結界の中に紛れもない日番谷の霊圧を感じ取った。
自分が行かねば、部下や仲間は炎にまかれて息絶える。
自分が行けば、死神は助かるが、揚羽たち天道教はその場で死ぬか、生き残っても精霊廷で死罪となる。
日番谷の性格なら選べないはずのこの選択肢から、無情ともいえる決断を下した苦渋を思うと、心が痛んだ。
目の前の揚羽は、右手の痛みにも気づかないのか、両方の拳をぎゅっと握り、結界の源・・・南の上空に目をやっていた。
気づいているのだろう。この結界を創りだしているのが誰なのか。
「揚羽!揚羽はおるか!」
建物内から、清十郎の声が響き、揚羽は弾かれたように顔を上げた。
「父様!無事で・・・!」
「揚羽、お前はあの結界の源に向かえ!あれを切り崩さねば、我らの勝利はない!」
「・・・分かったわ」
揚羽は身を翻し、塀の上に飛び移ろうとしたが・・・
そのすぐ上に現れた乱菊が、打ち落とすように揚羽の頭上から斬魂刀を振るった。
「・・・行かせない」
塀の上に代わりに降り立った乱菊が斬魂刀を構え、地面に落された揚羽と向き合った。
「ムリ、と言ったはず」
その揚羽の視線の先で、乱菊の斬魂刀が、ドロリ、と突然溶けた。
「な・・・」
目を剥く乱菊の真横に瞬歩で移動し、手刀をその首元に見舞う。
「揚羽!!」
苦痛に表情をゆがませ、乱菊が揚羽に怒鳴ったときには、揚羽の背中は既に小さくなっていた。
―― 松本。無事だったか・・・
揚羽とぶつかった乱菊の霊圧を感じ取り、日番谷は心中ほっと息をついた。
少し離れれば尚更よく分かるが、乱菊と揚羽の霊圧では、明らかに揚羽に分があった。
「虎徹、朽木。このまま結界を維持していろ。もうすぐ第二段階に入る」
日番谷は両脇に控える二人にそう告げると、抜き身の氷輪丸をだらりと下げて立ち上がった。
「え?日番谷隊長、どちらへ・・・?」
勇音がそう言いかけたときだった。
「何者・・・」
「ぐっ!」
木の下から、次々と悲鳴が上がった。
「あれは・・・警備兵たちか!」
ルキアが慌てて見下ろしたが、木の下は影に覆われ、樹上からは全く様子が分からない。
「ここにいろ」
日番谷は2人に言い残すと、ふわり、と枝から下へ舞い降りた。
「ひつ・・・」
勇音が下を見やったとき、下から弾丸のように何かが上昇してくるのが見えた。
風を鳴らして飛び降りた日番谷が、空中で刀を振りかぶる。
ガキン!!
中空で2人の刀と錫杖が斬り結び、2人とも近くの枝へ着地する。
その緋色の着物を見て、日番谷はふと、昨日のことを思い出す。
ひらり、と軽やかに翻る鮮やかな紅。重さがないかのようにふわり、と舞う肢体。
そして、一点の曇りもない明るい笑み。
出会うところさえ違えば。立場さえ違えば。
一瞬全身を貫いたあの気持ちを、持ち続けられたかもしれない。
ゆらり、と揚羽が樹上で立ち上がった。
「それでもまだ、少しは・・・信じてたのよ、あんたのこと」
「お前が呼んだ通りだ。俺は・・・死神なんだよ」
日番谷が立ち上がり、氷輪丸の切っ先を揚羽へと向けた。
2人の視線が、闇の中でまっすぐに交錯する。
「結界を解きなさい。解かなければ、あんたも地獄へ道連れよ」
「望むところだ」
日番谷の刀が青白い光を、揚羽の錫杖が紅い光を放つ。
刹那、2人の武器が衝撃音と共にぶつかり合った。
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