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BLEACH in FLAME −晩冬の踊り娘−
作:切香



15. 反撃の閃き


その頃。
燃え盛る天道教本山を見下ろしている3人の人影が樹上にあった。
炎の暑さが届くほどではないが、夜目に燃え盛るその炎は、まるで天の怒りのように見えた。
ひときわ高い枝に腰を下ろし、炎を見つめる少年の髪は、今は朱色に輝いている。

「隊長・・・日番谷隊長!」
頭上を見上げ、黒髪の小柄な女死神が、凛とした声を張り上げた。
「よろしいのですか?」
日番谷は、自分を見上げる朽木ルキアの黒く輝く瞳を見下ろした。
その隣で、不安げに成り行きを見守る、虎徹勇音こてついさねの姿も。
しかし無言のまま、再び炎に視線を転じた。


「射殺せ、神鎗!」
「狂炎!」
男女の言葉が、炎の中に木霊する。
市丸が手にした脇差の刀身が、目にも留まらぬ勢いで伸びた。
それと同時に、後方に飛び下がる。炎が、市丸がさっきまでいた地面を舐めた。
「ちっ!」
揚羽も軽やかな動きで、炎の中から弾丸のように飛んできた刀身を交わした。
そのまま炎が渦巻く屋根の上に降りた。
それは、まるで舞っているかのように優雅に見える。

―― すごい、この娘・・・
それを見守っていた乱菊は、彼女の動きに舌を捲く。
天才と呼ばれた市丸が斬魂刀を始解してもなお、その動きについていっている。
流魂街で、特に訓練も受けていないはずの娘が、百戦錬磨揃いの隊長格と互角だなんて。
この娘はおそらく、市丸をもしのぐほどの才能の持ち主なのだろう。

「ただ、別嬪さんではあるけど、やっぱり経験が足らんなぁ。
炎をいつまでも出してればいいってもんちゃうで」
更に炎を打ち付けるように放出した揚羽に向かって、市丸がニヤリと笑った。
「鎌鼬!」
手のひらを上に差し出す。
その上に、風が巻き起こったが、炎に遮られて揚羽の目には留まるまい。
「なに?」
炎にいくつも切れ目が入り、揚羽は目を見開く。
揚羽が正体に気づくよりも早く、その真空の刃は揚羽に襲い掛かった。

「・・・ホラ。言ったとおりや」
炎が散ったあと、市丸は視界に現れた揚羽を見下ろした。
その肩と足に、交わしきれなかった真空の刃が傷を残している。
鮮血が腕を伝わり、ポタリ、と地面に落ちた。
地面に片膝をつき、手のひらで肩を押さえて、揚羽は苦しげに息をついた。
その体勢のまま、その錫杖を大きく後ろに振りかぶる。
「だから。炎はやめとき・・・ていっても、それ以外の技がないか」
市丸の声に、揚羽はかすかに笑みを浮かべた。

「行くぞ!」
声と共に、中空に跳び、錫杖を一閃させる。
「射殺せ、神鎗」
市丸の余裕の声がそれにかぶさる。
視界を覆うほどの炎と、刃が行きかい・・・
見守る乱菊の頬に、上空からポタリ、と血が落ちる。

「投降しなさい、揚羽!」
思わず乱菊は叫び、一歩踏み出していた。
街で踊り娘として暮らしていた揚羽なら、わずかだが死罪を免れる可能性は残っている。

その時。炎の中から凛とした声が響いた。
「破道の四十四、氷走!」
―― なに?
そう思うよりも先に、市丸の刀身がビシビシと音を立てて凍り付いてゆく。
一気に炎が晴れた先に、揚羽の姿が見えた。
神鎗の切っ先は、揚羽の右手のひらの真ん中を貫いていた。
その右手と、添えた左手で神鎗を受け止め、鬼道を放ったのだ。

揚羽は歯を食いしばって右手を刀身から引き抜いた。
ふっ、とその姿が掻き消える。
「ギン!」
乱菊は思わず叫んでいた。
その乱菊の眼前に、揚羽の姿が現れる。
地に伏せるような体勢から全身に力を入れ、錫杖を神鎗に向かって打ち上げた。
ビシッ!
あっけなく神鎗の刀身に罅が入り、いくつかの破片に別れて砕け散るのを、乱菊は唖然として眺めた。

「言ったでしょ。その刀叩き折ってやるって」
立ち上がった揚羽は、体のあちこちから血を流しながらも、爛々と輝く瞳で市丸を見上げた。
「なるほど。何度も熱された後に氷雪系の力使われたら、さすがの神鎗でもたまらんな」
間合いを取り下がった市丸が、根元から折れた神鎗を鞘に収めた。

そして、後ろに舞う黒揚羽を見上げる。
「砕蜂隊長、すんませんな。負けてもた」
「日番谷の霊圧も補足出来ぬ上、連絡もつかん。
しかたない・・・本隊、突撃の準備を!」

乱菊が市丸の前に踏み出し、斬魂刀を構える。
揚羽がそれを見て、体の向きを乱菊に変えた。
「こんな風に再会したくはなかったわね。
あんた、踊ってるほうが似合ってたわよ」
「誉め言葉と取っておくわ」
そう言いながら、錫杖の先を乱菊へと向ける。
「本当よ。あの隊長が、誰かに見惚れるところなんて、初めてみたもの」
「何が言いたいの?」
「日番谷隊長は、何とかあんたを護ろうとしてた。
その気持ちは今でも変わってないわ。たとえ何があっても」
しゃらん、と炎の中で、錫杖がかすかに鳴る。
その涼やかな音に、ふと揚羽が錫杖に目を落した。



氷輪丸の刀身に、白銀の光がギラリと渡る。
それを間近にした朽木ルキアと虎徹勇音は、ゴクリと唾を飲み込んだ。
氷輪・・・凍てついた冬空に架かる月との名を持つその斬魂刀。
今その刀とその持ち主を、畏怖を呼び起こすほどに強い霊圧が覆い隠そうとしていた。

「市丸の霊圧が急に下がった」
「おそらく斬魂刀を失ったのでしょう」
日番谷が独り言のように呟いた声に、勇音が返した。
その表情からは、隠しようもない緊張が見て取れる。
ルキアも、堰を切ったかのように日番谷に詰め寄った。
「志波副隊長・・・更木隊長も、もう限界です!」
「知っている」
樹上で結跏趺坐を組んだ日番谷が、上空に向かって氷輪丸をかざした。
ルキアと勇音はスラリと刀を鞘から抜き放つと、左右から氷輪丸の刀身に重ねるように刃を置く。

日番谷は、視線の先に燃えさかる寺院と、あちこちでぶつかりあう霊圧を視ると・・・
スッ、と目を閉じた。
「・・・氷結結界」
ピシリ、と。空気に罅が入ったかのように、大気に違和感が走った。







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