13. 激突
翌日、2月20日早朝。
「思いのほか、人数は少ないですね。40人というところですか」
屋根から遠眼鏡で門の外をうかがっていた僧が、清十郎と揚羽に声をかけた。
「先頭には誰がいる?」
「3人ですね。更木・・・剣八。そして横にいる銀髪は、市丸ギンでしょう。
もう1人は志波海燕。この男は十三番隊の副隊長ですが、隊長の浮竹十四郎の姿は見えません」
更木、の名を聞いた、僧たちの表情が一様に曇る。
剣神と呼ばれる更木の噂は、流魂街にも知れ渡っていたからだ。
鬼のように強く凶悪で、その上決して倒れないという。
「更木剣八とは、俺がやろう」
清十郎が立ち上がった。
「しかし、清十郎様。
昨日揚羽様が戦ったという氷雪系の力を持つ者が・・・この戦いに来ないはずがない」
その言葉を聞き、揚羽が視線を伏せる。しかし清十郎は首を振った。
「その男は、ここには来ない」
「え?でも・・・」
揚羽がその言葉に目を見開き、もの言いたげに父親を見あげた。
「皆、屋根の上に出てくれ。目にもの見せてくれる」
清十郎は周囲に呼びかけると、立ち上がった。
「おう!」
50人の僧達が、身軽な動きで屋根の上に散る。
そして、錫杖を一斉に門外に立つ死神達に向けた。
「撃エッ!」
清十郎の声と同時に、彼らの錫杖から炎が噴き出す。
50人分の炎は、圧倒的な大きさまで膨れ上がり、一気に死神たちを覆い隠した。
「なんだ、口ほどにもない・・・」
僧達の1人が呟いた、刹那。
「父様っ!」
揚羽の鋭い声がその場を貫く。
炎の中から、何かが凄まじい勢いで飛んできた、ように見えた。
それが、生き物のように伸びる刀身だと気づいたときには、その切っ先は既に清十郎の眼前まで迫っていた。
ガキンッ!
激しい金属音を立て、交差する。
「揚羽!」
間一髪、それを受け止めたのは揚羽だった。
―― すごい怪力・・・
苦しげに顔をゆがめながら、
「流炎!」
力ある言葉を叫ぶ。その言葉と同時に、ひときわ紅い炎が刀を伝おうとする。
その炎を避けるように、急速に刀身が縮み、炎は途中で立ち消えた。
「やはり、一筋縄ではいかんか」
清十郎が眼下を見下ろした。
炎が晴れた先に見えたのは、焼き尽くされた死神たちの姿ではなく・・・
無傷の彼らの間に創生された、結界が炎を跳ね返した姿だった。
「水結界、か」
死神たちの一番前に立ち斬魂刀を構えているのは、志波海燕。
大きく斬魂刀を一振りすると、その結界が霧散した。
「市丸、てめえ!俺より先走るんじゃねえ!」
「しょうがないやん。隙だらけやったんやから」
「こんな時に言い合ってどうするの、ギン!」
市丸と更木に返した女の声に、揚羽は目を凝らす。
―― あれは・・・
松本乱菊。間違いない。
―― 本当にいないの?
その近くにいるはずの、日番谷冬獅郎の姿がなかった。
ほっとした、というのがその瞬間に思ったことだった。
天敵になりうる能力を持つ以上、命の取りあいは避けられない。
―― でも。
あの、他のどこにも見つけられない、蒼碧色を思い出す。
あの瞬間に感じた、探していたものを見つけたような気持ち。
そこまで考えて、揚羽はあてどもない考えを頭から振り払った。
「かかるぞ、てめえら!」
更木の野卑な声に、揚羽は我に返る。
「作戦通り行くぞ、お前達!」
清十郎が間髪要れず僧達に叫ぶ。僧達は頷くと、次々と建物の中に消えた。
「俺たちに続け!」
先陣を切って、建物内に乗り込んだのは、一角、弓親。十一番隊の席官である。
玄関から足を踏み入れた途端、ふたりは絶句する。
「なんてこった、あいつら・・・自分の建物に火つけやがった」
玄関から先は、すでに火の海だったからだ。
「どうなってんだ?あいつら建物の中に入ってっただろ。まさかもう・・・」
「いや、一角。よく見てみなよ。
この建物・・・炎に捲かれてはいるものの、全く燃えていないだろ。
恐らく結界が張られ保護されているんだろう」
弓親は、腕を眼前にかざし、チリチリと身を焼く炎から顔を護りながら言った。
「そして。砕蜂隊長が言っていた。ここの僧達は・・・」
そう弓親が続けようとしたときだった。ニヤリ、と笑い、一角が斬魂刀を前に構えた。
「そっから先は、もう分かったぜ」
炎の中で、ゆらり、と人影がゆらめいたように見えた。
次の瞬間、炎の中から僧が3名、一斉に飛び出すと同時に炎を放った。
「ちっ!」
一角と弓親は俊敏な動きでそれを避けたが、後ろにいた数名は炎に吹っ飛ばされ、
自分の服に燃えついた炎に、悲鳴を上げて地面を転がった。
「てめえら!」
一角が踏み込み、刀を振り下ろそうとしたとき、僧達は炎の中にスッと姿を隠した。
「ちくしょう、ストレスたまる戦いだぜ・・・」
炎の中では、追っていくこともできない。
「市丸隊長とか、間合いが長いタイプなら反撃できるんだけどね。市丸隊長は?」
弓親が背後を振り返ったが、隊員たちはそろって首を振った。その時。
「なにボサッとしてやがるんだ!お前ら!」
ズカズカと玄関に足を踏み入れたのは、隊長の更木だった。
「やっほー!」
その肩から姿を現したのは、副隊長の草鹿やちる。
「剣ちゃん!玄関から入るときは草履脱がなきゃダメだよ!」
「うるせえよ」
あまりに場違いな発言に、更木が目を剥いてやちるを見やった。
そのやちるの肩には、こんな季節には明らかに不自然な黒い揚羽蝶が止まっている。
「何をしている、さっさと侵入しろ!」
その蝶から、砕蜂の声が発せられる。
「うるせえ、てめえは高みの見物してろ」
更木はチッと舌うちをすると、斬魂刀を鞘から抜き放つ。
それは、長い間手入れもされないため刃こぼれが酷く、ノコギリの歯のように欠けている。
「おらぁっ!」
更木は野卑な叫びと共に、斬魂刀を一閃させた。
その風圧で炎が撒き散らされ、一角達は顔を腕でかばった。
彼らの前に炎がブスブスとくすぶる廊下が、ゆっくりと姿を見せた。
「ホラ、行くぞ!」
顔を思わず見合わせた一角と弓親を尻目に、更木は何のためらいもなく、建物内に足を踏み入れた。
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