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BLEACH in FLAME −晩冬の踊り娘−
作:切香



10. 夢ノ終ワリ 前編


少年は砕蜂を顧みることなく、前を見据えている。
ひゅうっ、と、風が吹き抜け、水蒸気を拭い去っていく。

微動だにしなかった少年の肩が、その時ビクリ、と跳ね上がった。
正眼に構えた刀を下ろすのを見て、砕蜂は眉をひそめる。
「揚羽・・・」
「と・・・冬獅郎?」
晴れた視界の先に佇む互いの姿に、2人はあっけにとられた顔で立ちすくんだ。

「なんで、ここに」
いきなり電源を抜かれた人形のように、揚羽は錫杖を持った手を脇にだらりと下げて、一歩歩み寄ろうとした。
そのときだった。
「日番谷隊長!なぜここに・・・!」
隠密機動の1人が、ほっとした声を上げて日番谷に駆け寄った。

「隊長・・・?」
その言葉に、揚羽の足が止まり、その場に凍りついた。
「隊長って、どういうこと・・・?」
揚羽の白い拳が、ゆっくりと錫杖を握りなおす。

日番谷は、ゴクリと唾を飲み下した。
「俺は・・・護廷十三隊の隊長の1人」
揚羽が、ゆっくりと錫杖を体の前にかざす。
日番谷が、ざっ、と体勢を低め、斬魂刀「氷輪丸」の切っ先を持ち上げる。

「・・・そう。敵、だったのね。あなたも」
パキン、と氷の割れる音が響く中で、その声は消え入りそうに小さかった。
ギュッと目を閉じていた揚羽の瞳が、ゆっくりと開けられる。
眦を決して続けた。
「私は、天道家のただ1人の娘。次代当主を継ぐ女」
「揚羽!待て・・・」
日番谷がぐっと歯をかみ締め、刀を握っていないほうの手を揚羽に伸ばした。
「立ち塞がるならお前も敵だ、死神!」
伸ばした腕が、あっという間に炎に捲かれる。
「ぐっ・・・」
日番谷が腕を押さえて跳び下がるよりも早く、揚羽は日番谷の間合いに飛び込んだ。

ガイン!!
激しい金属音と共に、紅く火花が飛び散った。
片手の日番谷は、両手で押し込んでくる揚羽の錫杖にじりじりと押される。
「なぜだ揚羽!戦いは嫌いだってさっき言ったばっかりだろうが!!」
氷輪丸が、日番谷の叫びに呼び起こされるように青白い光を放つ。
途端、パキパキと音を立て、揚羽の錫杖が刀と交差したところから、凍り付いていく。

「その女が・・・!」
揚羽が歯を食いしばり、2人は飛び離れた。
氷のカケラと炎が周囲に待ち散らされる。
「その女が!母様を殺したんだ!絶対に許せない」
「!」
日番谷が弾かれたように振り向き、背後の砕蜂の顔をまじまじと見つめた。
「砕蜂。それは・・・」
「事実だ」
目を見開いた日番谷に、淡々と砕蜂は告げた。
そして、雀蜂を構え、ざっと前に出た。

「そこをどきなさい。私にはその女を殺す理由がある」
砕蜂の視線の先には、自分に向かって歩み寄る揚羽の姿。
「何でだ・・・」
日番谷の呟きが、揚羽の母を殺したという砕蜂に向けられたものか、豹変した揚羽に向けられたものかは、分からない。

ふたりの女が、弾かれたバネのような動きで地面を蹴る。
その錫杖から放たれた炎が自分を襲っても、日番谷は動かなかった。
「どけっ!!」
砕蜂がその日番谷の肩を掴み、手荒に押しのける。
砕蜂と揚羽の武器が交差した時だった。


「揚羽!」
その声に、揚羽がビクリ、と肩を跳ね上げ、初めて後ろに飛び下がった。
「父様!」
「ここは一旦退け!揚羽」
ざっ、と木の枝から地面に飛び降りた清十郎が、揚羽に歩み寄る。
その後ろには、何人かの法衣をまとった僧の姿も見えた。

それとほぼ同じくして、
「隊長!」
瞬歩で現れた乱菊が、日番谷のすぐ近くに膝を着く。
「松本、お前・・・」
「申し訳ありません、隊長。町は異常ありません。
こちらで激しい霊圧のぶつかりあいを・・・」
そこまで言った乱菊は、自分を見つめる目に気がつく。
「あ、あんた・・・」

揚羽は、乱菊から視線を落とすと、無言で背中を向け、清十郎の下へと歩み寄った。
「覚えておけ、死神」
清十郎が錫杖を構える。
その隣に立った揚羽も、顔を伏せたまま錫杖の切っ先を持ち上げた。
「我々は力を手放す気はない。認めぬならかかってくるがいい。
ただし、消し炭になってもよいならな」

その清十郎の言葉からは、微塵も迷いは感じられない。
その言葉に顔を上げ、ちらり、と揚羽は冬獅郎を見た。
まるで泣いているように、その瞳に光が渡った。

「待て・・・!」
一歩日番谷が踏み出す。
それを拒絶するかのように、清十郎と揚羽は同時に錫杖を大きく振りかぶり、3人に向けて振り下ろした。
「くそ・・・!」
3人の視界が炎で埋め尽くされ、日番谷はとっさに2人の前に飛び出すと、氷で炎をなぎ払った。
「隊長!」
日番谷が刀も構えず、水蒸気の中に飛び込むのを、乱菊は唖然として見た。
いつも自分の何倍も慎重で、冷静に事を運ぶ日番谷が、初めて見せた「焦り」。
やがて、水蒸気が晴れた先に見えたのは、たった一人で両拳を握り締めて立ちつくす、日番谷の背中だった。







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