「ねぇ、起きてる?」
無機質な部屋にピンクのライト。
私の声が小さく宙を舞う。
吉永さんは寝てしまっていて、規則正しい息遣いが響いていた。吉永さんと寝るのはもう八回目くらいになる。バイト先のアジアンダイニングバーで働く社員で、二つ年上だ。付き合ってはいない。この関係に理由があるとしたら、体の相性がいいことくらい。もしかしたら、吉永さんが上手いだけなのかもしれないけれど。
そう、妻子持ちは上手いのだ。
吉永さんには妻がいて、娘は一歳になったばかりらしい。いつだったか私が、こんなに幸せいっぱいなのになぜ、と聞いたとき、
「それだけ詩織がいいオンナなんだよ」
と苦笑していた。
吉永さんの寝息を聴きながら、先程の情事の余韻がまだ残るそこを、指でなぞり目を閉じる。目を閉じてついさっきまでの吉永さんの指やら舌を思い出すと、小さく声が漏れた。
吉永さんは決して自分勝手なセックスをしない。いつだって私を処女にする。まるで処女を扱うように繊細なやり方で、しかし付き合いたての彼女に対するような熱い愛情を帯びた眼差し。それらの前で私は身も心も丸裸なのだ。
するすると動く指は、何本あるのかわからないくらい神出鬼没で、私を酔わす。そして、どうしてわかるの、と初めての時に聞いてしまったくらい私のイイ所を知っている。
舌は指にはない熱を帯び、時に子供がアイスを舐めるように悪戯に、時にむさぼるように激しく、その熱を私の肌の上で動かしてゆく。キスマークを付けた後、そこをいたわるように舐める癖も、吉永さんらしいと思う。
しかし何より私が好きなのは声だ。
私は吉永さんほど色気に満ちた声を知らない。
その色気は大人独特のものでありながら、どこか母性本能をくすぐるような甘さがある。上気して色付いた唇から漏れる吉永さんの小さな喘ぎ声は、本当に持ち帰りたいくらい色っぽいのだ。その声で、名前を何度も呼ばれながら私はいつも達する。吉永さんはいつも私が達するのを見届けるまで我慢してくれるので、自分が達する頃にはその色香は相当なものになる。
私は吉永さんの達する直前の声を思い出しながら指を進める。
―――っ・・う、は、はぁ
詩織・・・ん!!
達する直前にもう一度私の名前を呼ぶ時、その声の艶は最高になる。頭の中でその声を思い浮べると、指に熱い液が絡まるのがわかった。
先程まで行為をしていたにも関わらず、そこはとめどもなく愛液をしたたらせる。いつしか私の指は吉永さんの指となって脳に認識され、一人での行為はエスカレートしていく。頂点に達しようとした時、枕元でバイブが鳴った。
サブディスプレイに『美幸』の文字。妻だ。一気に熱が引いていく。やがてバイブが止み、無機質な部屋に静けさが戻る頃には、完璧に熱は引いていた。
シャワーを浴びよう。
立ち上がり鏡の前に立つと、嫉妬に顔が歪んだ自分がいた。
ああ、私は―――
私は吉永さんのことが―― |