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ちんちろりん
作:雨宮雨彦


 猫坂には第一高等学校と呼ばれる学校があり、男子だけの学校なのだが、バンカラというかあまり上品ではない校風で知られていた。といっても悪さや乱暴を働くというのではなく、せいぜいが町の通りを大きく広がって歩いたり、大声を上げておしゃべりをするという程度なので、人々も大目に見ていた。

 だが一つだけ、町の人々も腹にすえかねていることがあった。この学生たちは通学に電車を利用しているのだが、いつも車内の床に座って車座になり、すぐにサイコロ勝負を始めてしまうのだ。サイコロはもちろん座布団や茶碗、点数を数えるための点棒まで用意しているという本格的なもので、車内は一瞬で賭場の雰囲気となり、茶碗の中でサイコロがチンチロリンと涼しげな音を立てるわ、誰かが点を入れるたびにわあわあ大きな歓声が上がるわで、他の乗客たちはひどく迷惑していた。

 だが学生たちも馬鹿ではなく、見ている限り金を賭けている様子はまったくなかった。あるいはうまく隠していたのかもしれないが、しっぽをつかまれないように気をつかってはいるようだった。

 それでも迷惑なことに変わりはない。乗客たちは学校に苦情を入れた。学校は当番を決め、教師たちを電車に乗せて巡回させるようにした。しかしすべての電車を見張ることができるわけではない。学生たちは教師の目のない電車を器用に見つけ出して乗り込み、いつものように御開帳となった。

 乗客たちは別の手を考えることにした。車内にガラスびんを持ち込み、その中にあらかじめ水を入れておくことにしたのだ。学生たちが乗り込んでくる気配を見せると、ふところやカバンの中からビンを取り出し、おっとっととわざとらしく口にしながら、床に水をまくのだ。こうすると座ることはできなくなる。だがこの方法も、数日しか効果がなかった。

 数日後には学生たちは、それぞれレンガを一つずつ手にして乗車してくるようになったのだ。ぬれた床の上に置き、サルのようにその上にちょんと腰かけるのだ。座布団の下にももちろんレンガが用意されていた。こうして電車は、再び走る賭場と化したわけだった。

 乗客たちも、これにはほとほと困ってしまった。再び学校へ苦情を入れたが、これ以上のことは何もできないという返事が返ってきただけだった。鉄道会社も有効な対策をとれずにいた。乗客たちは相談して、一計を案じた。

 翌朝も、一日は同じように明けた。通勤時間となり、電車は混雑し始めた。登校する学生たちも姿を見せ始めた。いつものように床の上に車座になり、サイコロ勝負が始まった。学生の一人が茶碗を手にし、サイコロを入れて振り、座布団の上にさっと伏せた。そしていざ茶碗をとり、目を見ようとしたとき、車内にいた乗客たちは声を合わせ、一斉に口を開いた。

「南無阿弥陀仏」

 学生たちはぽかんとした顔をした。何が起こったのかわからずキョロキョロしたが、見ても何も変わったところはない。乗客たちはみな、なんでもない顔で本や新聞を読んだり、窓の外を眺めたりしている。気を取り直して、学生たちは勝負を続けることにした。次の一人がサイコロを振り、目を見るためにまた茶碗を持ち上げようとした。

「南無阿弥陀仏」

 再び同じ唱和が響いた。乗客たちは全員が声を合わせ、窓ガラスがびりびり震えるのではないかと思えるほどの大きな声だった。何が起こっているのか、やっと学生たちも気がついたようだった。だがここでやめるわけにはいかない。意地でも勝負を続けることにした。チンチロリン。

「南無阿弥陀仏」

 そのたびにありがたい仏の言葉が車内に響き渡ったのは言うまでもない。乗客たちは、同じ行動を一週間飽きずに続けた。そしてついに、床に座り込んでサイコロ勝負をする学生は一人もいなくなったそうである。














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