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ノブ、ずるいやん 作者:奈備 光
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第 8 章 「廃れた神社」

 結局、健治は姿を見せなかったが、急用ができたのだろう、行くつもりなら追いかけてくるのでは、ということになった。
 屋敷の前で舗装は途切れ、裏の空き地で車は通行止めとなる。ここを過ぎると、人ひとり通れるだけの山道だ。ところどころに石畳が敷かれてある、ほぼ平坦な道だ。
 一行は賑やかに歩を進めた。明るい雑木林を抜けるとヒノキの植林の暗がりに入り、しばらくすると再びコナラ林に入る。谷は狭くなり、やがて小川を左に見ることになった。瀬のたてる水音が耳に心地よい。

 歩き始めて二十分。いよいよ渓谷は狭まり、あたりの景色は照葉樹林下の薄暗く湿り気を帯びたものに変化した。
 やがて小さな石の鳥居が目に入った。
 柱状の御影の切石を組み合わせただけのもので、コケやシダがまとわりつき、古色蒼然とした趣。柱の根元にセメントで補修した跡があるが、これさえも雨に洗われ、風に削られて骨材が露出していた。砂利の抜け落ちた小さな穴には土が溜まって雑草が生えていた。

 境内はところどころ石畳が敷かれてあるが、おおかたは雑草が密生していて、荒れ果てた印象を受ける。
 中央辺りだけが少々広がりを持ち、黒い土が露出している。
 拝殿の跡だろう。束石が見える。神事が行われた形跡なのか、煤けた木切れが散乱していた。

「岩代神社です。ここらで小休止としますか」
と、西脇が傍らの石に座りこんだ。

 見上げれば、いつのまにか周囲には急峻な山肌が迫っている。正面、梢越しには、ひときわ目立つ高さ百メートルはあろうかという崖が望めた。
「まさか、あれを登るんですか!」
 優の言葉は道長の不安も代弁していたのだろう。眉間に皺を寄せて見上げている。
「ちゃんとルートは考えてありますよ」
「じゃ、あそこを登るんじゃないんですね」
「ハハハ。たぶんあの向こう側ですよ。アマガハラノは。あ、しまった。ロープを持ってこなかったな」
「ええっ」
「ま、大丈夫でしょう。誰も足を滑らせて落っこちるなんてことはないでしょう」
 西脇は茶目っ気たっぷりにそう言うと、リュックサックからペットボトルを取り出した。

 あたりに点々と転がっている岩や石は、一様に緑色を帯びた黒々としたぬめりをまとっている。
 数万年の間に幾度となく起こったであろう土石流によって押し流されてきた大小の岩石群。
 その最も奥に鎮座する大岩には注連縄が巻かれ、手前には高さ一メートルほどの石の祠に一対の白い陶製の燭台。祠の中には、磨耗し、もはやお姿を想像するだけとなってしまった不動明王が祭られていた。

「あれが獅子岩と呼ばれているものでして」
 仙吉が教えてくれた。白い岩だ。確かに横を向いた獅子の頭に見えなくもない。
 注連縄は朽ちかけ、ささくれだってスカスカになり、すでに無数の小昆虫の住処となっている。

 岩代神社は室町期の創建だと伝えられている。大西村の最奥の采家の屋敷から、猪背川の支流、岩代川というせせらぎを一キロメートルほど遡った渓谷の只中にある。祭神はコシキヌカタメヒコノミコト他。ご神体は獅子岩と呼ばれている岩そのもの、及びその奥にある滝だという。拝殿は昭和初期に火災で消失しているらしい。

「ねえ、滝のところを通るんですか?」
 遠くに水の落ちる音が聞こえ、滝の存在を知らしめていた。
「いえ。この谷から離れて、あっちのほうへ」
と、西脇が指先を動かす。祠の前で沢を渡り、左手の斜面を登っていくらしい。
「じゃ、滝は?」
「通りません」
「残念やなあ。もう少しここで休憩してます? 滝、すぐでしょ。ノブ、見に行かない?」
 立ち上がった優を、西脇があわてて止める。
「あ、だめだめ」
「行けません。道がないんで。それに遠いです」と、仙吉もいう。
 優が食い下がった。
「でも近くまででも行ってみない?」
「やめてください」
 仙吉の声はハッとするほど強い口調だった。

「そうか。神聖な場所なのね。ごめんなさい」
 首をすくめた優をとりなすように、久米が話題を変えた。
「ところで仙吉さん、お嬢ちゃんが返って来てるそうですね。スキューバダイビングをされているとか」
「そうなんですがな。でもなんでそれを?」
「タクシーの運転手が話してくれたんですよ」
 仙吉が相好を崩した。
「ハハハ。山の子ですからなあ。かえってああいうことに興味があるんでっしゃろ」

 そんな調子で最初の休憩は始まった。
 西脇は行楽気分でゆっくり行くつもりらしい。なかなか出発の声をあげなかった。久米は境内を散策しながら写真を撮っているし、橘は草むらに積み上げられた石を足で動かしながらタバコをふかしている。恭介はタオルを渓流に浸し、しきりに顔や腕を拭いている。仙吉は道長と言葉を交わしながら、持参した手元箒で祠の前を掃き清めている。

 巨体を揺らして木元が近づいてきた。優はさりげなく生駒に話しかけてきた。
「あさっての打ち合わせの件ですが」
「そうだな。朝一番の新幹線の切符を買っておいてくれるか」
 あまりに臭い芝居に噴き出しそうになるが、木元は結局なにも言わずに引き上げていき、所在なげにぶらつき始めた。


 生駒が木元を胡散臭い奴、と思っている理由とは……。

 こんなことがあった。
 まだ屋敷が荒れ放題だった頃。ある日、生駒は久米のボランティアとして、古い台所に残された食器を、そこらに転がっている木箱に入れていた。
 箱はかつては収穫したナスやトマトなどを入れたものであろうが、今はもう泥がこびりついていたり底が抜けかけていたりした。箱ごとすべて廃棄する。横では、橘と木元が食器棚や流しの下から調理用具や使いさしの洗剤などを引きずりだして分別していた。箱が一杯になると仙吉が裏の空き地まで運んでいく。

 橘が軽口を叩いた。
「やれやれ。際限がないな。いつになったらこのボランティアは終わりになるんだ? うへ! この皿、なにかこびりついてるよ。気持ちわるー。おい、木元、おまえの部屋もこんなんじゃないのか? スロットばかりやってないで、そろそろいい娘でも見つけたらどうだ」
「大きなお世話」
 木元は顔も上げず、ぶっきらぼうに応えた。
「この村一番の美人なんかはどうだ? なんなら、俺から親父に聞いてみてやろうか?」

 橘も普段は無口だが、口を開けば人を見下したようにものを言う。しかし生駒の反感を知っているのか、話しかけてくることはまずない。このときも三人は機械的に手を動かしながら、かれこれ一時間も黙ったままひとつの部屋の中にいたのだ。
 橘が木元に軽い嫌味を言ったのは、単調な手作業を紛らわしたいということだけではなく、息が詰まってきたのだろう。

 しかし木元の反応は意表をつくものだった。なにも言わずにのそりと立ち上がると、手に持っていた土鍋を木箱の中に叩きつけたのだ。
 派手な音をたてて粉々に割れ、破片が床に飛び散った。
「おい!」
と、橘が咎めたときには、木元はすでに部屋から出ていこうとしていた。
「待て! こら!」
 振り向きもしない。
 入れ替わりに仙吉が台所を覗いた。飛び散った破片に気づいて怪訝そうな顔をした。
「木元さんが飛び出して行ったけど……」
 橘が珍しくばつが悪そうに引きつった笑いを見せた。
「なんでもないんだ。あいつは……」
 とりあえず木元の弁解を試みようとした。木元は中学出で、そのことに劣等感を持っていて……。

「仙吉さんところの彩香ちゃんが入学したとき、三年生だったんじゃないかな。町に中学はひとつきり。顔を合わすことはよくあったんだろう。あいつの父親は大工で、このお屋敷の親戚がやっている西脇工務店の下請け職人として働いていたんだ。けど、貧しくて高校には行かせてもらえなかったらしい」

 あまり効果的な弁解になっていない。仙吉は困惑顔だ。
「うちの彩香がどうって……」
「いえね。あいつの口から、彩香ちゃんの名前を聞いたことがあるっていうだけのことで……」
 仙吉は戸惑っていたが、こんな話題でも繋がなくてはと思うのが彼らしい。
「橘さんと木元さんはどういう関係なんです?」
「あいつが店長をやっているショップに行くことがあってね」
「はあ」
「それで、まあ、話をするようになったんです」
 仙吉はまだ腑に落ちないようだが、とりあえずは頷いている。
「根はいいやつなんだけど、なんだかいつもびくびくしているみたいでね。で、こういう手伝いでもすれば、あいつの世界も広がるんじゃないかと思って誘ってやったんです」
 バイクの音が遠ざかっていった。木元は帰ってしまったのだ。
「もう来ないかもしれないな」
 橘はそういったが、次の日曜日にも何事もなかったかのように木元は屋敷にやって来たのだった。
 生駒はそれ以来、木元ともできれば距離を置くようにしているのだった。

 恭介も近づいてきた。同じ手は使えない。今度は優は、すっと生駒の腕を取った。
 しかし恭介はかまわず話しかけてきた。ただし、生駒に。

「しゃれたナップザックですね。山登り、されるんですか?」
「少しはね」
「僕のなんて見てくださいよ」
と、大きなリュックサックを持ち上げてみせる。
「ほとんど何も入ってないのに、こんなに重い。しかも、でかいから扱いにくくて」
 生駒は笑ってみせた。しかし朝食のときの印象が残っている。
「滝へは行けないんですよ。行き止まりにしてあるんです。近づくこともできない。それに、行ってみる価値はないと思いますよ」
 恭介の行動は子供じみていたが、言うことはまともなようだ。
「いいのよ。ちょっと言ってみただけだから」と、優が微笑んだ。
「栗の木の原っぱ、アマガハラノっていうんですか、本当にあるんでしょうか」
「あったらおもしろいよね」
「はい。なんだかわくわくしますよね」
 恭介が腕を大きく前後に振って走る仕草をした。考えていることや言うことはしっかりしているのに、アクションが大きすぎてちぐはぐな感じを受ける。そんな人かもしれない。優や綾より小さい体に収まりきれないエネルギーを、もてあましているだけなのかもしれない。

 綾がせせらぎに半分浸かった岩に腰掛けて、足をぷらぷらさせていた。恭介をやり過ごし、生駒と優は綾の隣に腰掛けた。
「ね、綾ちゃん。昨日のあれ、なにやったん? 見せてくれようとしたもの」
 綾は優をチラッと見たが、プイッと顔をそむけてしまう。
 生駒は綾と何度も話したことがある。といっても話が合うはずもないから、雲の形がミッキーに似てるとか、セミの上手な捕り方などといった他愛もない話で綾の気を惹こうとしただけのことだったが。そんなときの綾は、小学五年生の女の子にしては珍しく、そんな子供じみた話題に丁寧に反応してくれるのだった。

 しかし今は、かたくなな態度で他人を拒んでいる。
 なにを話そうかと生駒が考え始めたとき、優に先を越された。
「鳥の声を聞ける頭巾やったりして」

 見る間に綾の顔がほころんでいった。
 優は上手い。よくそんなものを思いついたものだ。見事に綾の気持ちを掴んだ。生駒も、
「それって日本昔話の聞き耳頭巾やな」と、繋いだつもりだった。
 しかし、綾はすんなり、「そうよ」といったのだ。
 生駒は思わず、へ? と反応しそうになったが、優はすかさず「いいんだー」と返す。

「おねえさん。どうして分ったの?」
「なんとなく、そうかもって。とってもいわくありそうやったもん」
「へえ! おねえさん、すごい!」
「なんで? すごいのは綾ちゃんやん。世にも珍しい聞き耳頭巾を持ってるなんて!」
「ううん。ちょっと借りてるだけ」
 綾は一気に上機嫌だ。でも、こんなことをいう。
「ねえ、聞き耳頭巾って昔話にあるの?」
 やっと生駒の出番だ。

「むかーしむかし、あるとても貧しい山奥の村に……」
 貧しいが正直者の家族が住んでいました。
 山神様にお参りの帰りに手に入れた古ぼけた頭巾は、木や鳥や動物たちの話し声を聞き分けられる不思議な頭巾でした。
 ある日、強欲な庄屋の娘が病に倒れます。その病はどんな医者も治せないほど重く、娘の命は日一日と細っていくのでした。
 庄屋は困り果て、娘の病気を治してくれたものは婿にすると言い出しました。そこで正直で働き者の若者が聞き耳頭巾で鳥や木の話を聞いてみると、庄屋の庭の大きな石を動かすと良いというのです。
 早速若者は庄屋にそう申し出ます。その石は絶対に動かしてはならぬという言い伝えが庄屋の家にはあったのですが、娘の命には代えられません。
 そこで石を動かしてみると、なんとそこから豊かな湧き水が溢れ出し、今まで水不足で困っていた村の畑や田んぼの隅々まで水がいきわたったのです。それまで、庄屋は大切な水を独り占めしていたということだったのです。
 しかし、娘の病気はピタリと治りました。若者と娘は結婚し、幸せに暮らしましたとさ。

「へええー。すごい、すごーい!」
 綾が手を叩いて喜んだ。

 突然、後ろから道長のするどい笑い声が聞こえた。
「昨日の橘さんの話は、聞き耳頭巾で綾ちゃんが聞いた話の受け売りってことね」
 聞かれていたのだ。
 それにしても相変わらず神経質なもの言いだ。こんな少女にそこまで挑戦的である必要はないだろうに。この歴史家の大学教授は、いわゆる言い伝えや昔話のような出所のあいまいな情報に過敏に反応する。せっかくの楽しい雰囲気が台無しだ。

 綾の反応が気になったが、案の定、
「そうです」と言いつつ、ムッとしたのだろう。顔がほてっていた。
 道長も大人気ないと思い直したのか、声音が急に優しくなる。
「すごいわねえ」
 道長はさらに口を開きかけたが、結局はなにも言わず、微妙な笑みを綾に投げて、自分の失礼さを取り繕った。
 あなたは本当にその頭巾でいろいろなことを聞くことができるの? とでも言いたかったのだろう。しかし道長は、それに対して綾が、はいと明確に答えることを恐れたのだ。

 優がまた綾に話しかけた。
「何が聞こえるん?」
「木とか鳥とかの話」
 綾は優には完全に心を許したのだろう。声音まで違う。
「へえ、すごいやん! ねえ、ねえ、誰にでも使えるん?」
「ううん」
「練習しても?」
「練習も必要だけど、もともとできる人とできない人があるみたい」

 綾はサンタクロースを信じているような年頃ではない。
 聞き耳頭巾という不思議な道具が実際に存在すると信じているのだろうか。あるいは、そろそろ信じられなくなってきている段階なのか。いや、そうではないだろう。存在しないというのは大人の分別くさい勝手な思い込みであって、綾はごく自然に信じているのだ。
 優と話している綾に、ぎごちないところや不安なところ、あるいは恥じた様子など、これっぽっちもない。道具の力、あるいは自分の力をごく自然に受け止めているのだ。

 綾を大人として扱うのか、まだ子供として扱い、迎合してあげるべきなのか。その分岐点に立つことになるのがいやで、道長は黙り込み、優と綾のやりとりをただ聞いている。いまにも綾が、冗談ですって! と言うのを期待して待っている沈黙なのかもしれない。

「聞き耳頭巾って、本当にあったんやなあ」
 生駒は言った。
 優だけに孤軍奮闘させておくわけにはいかないと考えたからではない。思わず心から出た言葉だった。

 聞き耳頭巾は魔法がかけられた道具ではない。未来から来た不思議で便利な道具でもない。
 ただ単に、人が自然の声を聞こうとするものだ。この世には心を揺り動かす、反対に心を落ち着かせるものはいくらでもある。身の回りにもたくさんあるのだ。聞き耳頭巾はそういったもののひとつなのだろう。
 これをかぶれば、心の中が絹のシーツを広げたように平坦で穏やかになり、精神や感覚が周りの自然と同化し始め、やがて木や鳥の声のひとつやふたつ、聞き分けられるようになるかもしれないではないか。
 なんとなくそう思ったのだった。

 驚いたことに、道長も、
「そうよねぇ」と、ごく自然に応えたのだった。
「大人になると、そういうものって、ついつい作り話だと思っちゃうけど。ね、綾ちゃん、今日は持ってきた?」

 生駒はなんとなくうれしかった。しかし同時に、付き合い難い人だと改めて思った。

 綾は聞き耳頭巾を持ってきたという。しかし、見せてはくれず、いくつかの話をしてくれた。
 木々や鳥や昆虫や森にすむ動物たちの世界で起こった出来事。バス停横のエンジュの木が病気になったわけ。樹種ごとの勢力争いの話。水の流れが少しずつ変化しているわけ。
 いわば、里山の自然の摂理や生物層における現象を、人間の側からみた知識としてではなく、自然の生き物たちの噂話として平易に語っているといってもいいだろうか。

「ね、ね、後で見せてくれる?」
 優が眼を輝かせていった。
「うん」
「木って、どんな話をするんだろ。試してみてもいいかな?」
「いいよ。でも、それはまた今度。人が少ないときに。それに木の話を聞くには夜中でなくちゃ、効き目はないんだよ」
「やっぱりー」
「鳥なんかは昼間でもいいけど」

 生駒は、昨夜の老婆が口にした祟りや呪いのことを聞いてみたかったが、綾のあのときの反応を考えるとためらわれた。
 それでも、
「木や動物の噂話じゃなくて、村の人たちのおもしろい話は?」
と水を向けると、綾は困った顔をした。
「それは言っちゃいけないことになってるんだ」
「どうして?」
「だって、みんな内緒にしてる話だもん」
「あ、そうか。そうやね」
「でも、昔話なら話せるよ。昨日の晩、久米のおじさんにあてられたらしようと思ってた話だけど」
「へえ! どんな話?」
「聞き耳頭巾で聞いた話じゃないよ。人から聞いた話」
「うん」

「昔、この村の奥にもうひとつの隠れ里があったの。その村の人たちはとても乱暴者ぞろいで、あちこちの村から食べるものや着るものを奪って暮らしていたんだって」
 いわゆる山賊だと綾はいう。
「村といっても掘っ立て小屋を集めただけのものなの。人目から逃れるために、いつも山の中を移動していたんだって」
「七人の侍って映画、知ってる? あれに出てくる山賊みたいなものかな」
 さあ、と綾は首を捻った。
「大西村もその標的になったわけやね」
「うん。食べるものや着るものだけじゃなく、女もかどわかされたんだって」
 綾のきわどい表現に意表を突かれて、思わず噴出しそうになった。
「で、どうなったん?」
「さあ。これでおしまい」

 生駒はこれから登っていく山道を目でなぞっていった。
 いよいよ本格的な登りに差し掛かる。道は木立の間を抜けると小さな尾根を巻き、その先は見えない。
 と、そこに小さな人影が現れた。山から下りてきたようだ。
「あ、あれ」
 人影も、神社に群れる人々に気づいて立ち止まった。
「奈津さんや」
「えっ、どこ?」
 綾が振り向いた。しかしすでに奈津の姿はなかった。

 ようやく西脇の出発の声がした。
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