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ノブ、ずるいやん 作者:奈備 光
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第 24 章 「教授の二の腕」

 京都市郊外にある女子大の教授室で、道長は采屋敷で見るときと同じようなラフな服装で、デスクトップのキーボードを叩いていた。

「すみません。急に押しかけて来て」
「とんでもない。うれしいわ。どうぞ、座って。ホットコーヒーでいいわよね」
 ひととおり葬式の様子を報告し終えると、生駒は切り出した。

「言い伝えでは、采家の万一のときには助けが来るんですよね?」
「ええ」
「その助けって、なんですか? というのは、今や采家の一大事です。今も言ったように、被害者と加害者の息子が並んでいるような葬式はおかしいでしょう。采家の人や村の人は、なにか考えていることがあるんですよ、きっと」
「確かに変よね」
 道長は口元に持っていったコーヒーの湯気越しに生駒の顔を窺っている。
 いつものポーズ。生駒もじっと見つめ返した。

「でも、葬式のことと結びつけるのは、唐突じゃないかな」
 道長が根負けしたように視線をはずした。
「だって、あれは昔の伝説。いまどき、そんなことを信じている人がいるとは思えないけど。それに、村の人だって、いまさら采家がどうのこうのって、どうでもいいと思うわ」
「奈津さんがいます。彼女は別格でしょう」

 こんなやり取りを交わしながら、生駒は頭の中で、自分がなにをこの女性から聞きだそうとしているのかを整理しようとしていた。
 生駒の胸には、真相は別のところにあるという確信めいたものが膨れ上がっていた。そしてその糸口のうち、もっとも大きなものは久米と橘の行動と、その目的を知っていそうな奈津と美千代、そして仙吉の行動だ。久米と橘の行動は采家の財宝を狙ってのことだというのが、昨夜の結論にはなった。しかし、その財宝とはなにか、という疑問は持ち越されているのだ。

 久米が創作活動のために、自分の先祖の故郷で屋敷を借りた、というのは方便であって、実は財宝を狙ってのことだった。この思いはもう確信に近い。
 だからこそ、わざわざ東京から、レスキューの訓練を積んだ橘を呼び寄せたのだ。優が言うように、そのターゲットがどこにでもありそうな石の神像であるはずがない。
 道長を訪れた理由のひとつは、久米の強烈な意思の源となっているこの財宝がなにか、ということを確認することだ。

 深夜の岩代神社で見たことを、道長には言わないでおこうと、生駒と優は打ち合わせていた。道長はかつては村の住人で、また久米とも昔からの付き合いだと聞く。滝壷財宝プロジェクトに一枚噛んでいないとも限らない。

「道長さんはいわば地元の方ですよね。その話、信じてますか?」
「だから伝承だと言ってるでしょう。ありえないことだとは言わないけど」
 沈黙しがちな押し問答のような会話に、道長が辟易している。
「仏像とか?」
「そういう人もいるわ。あなたの意見もそうだったわね。でも、正直に言うとね、私は違うんじゃないかなと思ってるの。そんな御伽噺みたいなものじゃなくて」
 生駒は身を乗り出した。

「山の奥の鉱山」
「はい」
「普通に米を作ったり、手工芸品を作ったりするだけでは食べていけない人たちが働いていた。自分の体を身売りしたような人たち。そこで働くことは、とても辛いことだったと思う。奴隷労働に近いものだったでしょうね」
「はあ」
「そんな人たちに、食べさせるものや必要な生活物資などを調達していた先が、近くの村々だったんじゃないかな。そしてそれらは、采家を通して行われた。つまり、采家は大西村や近くの村から、食料や燃料などを集めて鉱山に輸送する。代金を受け取り、村人に分配する。貧しい村人は少しの現金収入でも欲しい。鉱山の役人は鉱夫に食べさせるものには無頓着。その仲立ちをする采家には、おのずと富が蓄積される。村人には言えないあくどいこともしていたんだと思う。そのことが、いつしか、采家を助けるものの存在という作り話に変化したんじゃないかな」
「はあ」
「話として自然に変化したというより、采家だけが繁栄していくことを村人に説明する方便として。山や岩や滝などを持ち出して、伝説風に味付けして語ったということね」
 拍子抜けする話だったが、半ば予期していたことだ。もし、道長が久米と組んでいるのなら、金銀財宝が眠っているなどというはずがない。

 しかし、ありそうな話でもある。
 もしそれが本当なら、久米は道長の今の説を信じず、あくまで財宝が隠されていると考えているのだろう。ちょっと考えにくいことだが、奈津や美千代は、采家の昔の悪事が暴かれることを許せない、と思っているのかもしれない。

「なんやあ、そういうこと?」
 盛り上がらないやりとりに、優が痺れを切らして口を開いた。
「鉱山なんて言うから、やっぱり金塊かと思ってたのに。ほら、徳川の埋蔵金って話があるやん」
 道長は優の素っ頓狂な問いかけに笑い声をたてたが、冷めた目は変わらない。あの晩のように、生駒社長に飽きられるわよ、などと軽口を言う気もないらしい。
 むしろ、あんたたち、そんなことを聞きに来たの? という苦い気持ちが顔に貼りついていた。

 しかし、優の戯言は別のことを聞く前触れだった。

「滝をご覧になったことはありますか?」
「ううん」
「皆さんの話では、通行止めになっているんですよね? 今のお話のようなことなら、なにも、そこまですることはないんじゃないかなあ」
 道長の表情がかすかに動いたが、考えていることは隠されたままだ。
「あ、そうか。滝を、采家の守り神として神格化していたのかも。それにしても、その神様を拝むこともできない。采家の人たちは村人をまったく信用していなかったということかな。興味あるなあ。ね、ノブ」
 無理やりな話の展開に、優が生駒の腕を叩いて、同意を促す。
「そうやな」と、とりあえず応えておくしかない。
「ぜったい見せたくないって感じやったから」
「ああ」
「もしかするとさ、人身御供のサヨさんの遺体が安置されてるとか」
 道長の反応は微笑むのみ。

 優が新手を繰り出した。
 その質問には道長も驚いた様子だったが、生駒も驚いた。
「アマガハラノで道長さん、佐吉の話の続きをしてくれましたよね。ふたつの説があるって。あのとき、滝の財宝も実はお宝でもなんでもなくっておっしゃったきり、尻切れトンボになりました。あの話の続きをしてください」
 優はあっさりそう投げかけると、コーヒーに口をつけた。
「すごいわね、あなたの記憶力」
「でもないですよ。たまたま思い出したんです」
「聞きたい?」
「もちろん。久米さんや仙吉さんのいる前では、話しにくいことだったんでしょう?」
「うわ! そんなことまで覚えてるのね」
 道長が大げさに驚いた。優はニッと頬を持ち上げた。

「じゃ、研究者としての意見を言うわね。結論だけ」
「はい」
「佐吉の栗の木は、采家の先祖に奪われたという考えよ。滝の財宝の話というのは、もともとは、佐吉の家族を沈めた、というのが正解じゃないかな」
「あ」
「それで人を寄せ付けないようにしたけど、長い年月の間に采家を助けるものの存在、という話にすり替わってしまった。意図的にであれなんであれ」
「うーん」
「後世になって、財宝の話になったり、滝そのものが神格化されたりして、ますます史実は闇の中に」
「なるほど、ですね!」
「実をいうとね、私もなにが真実なのか、わからなかったわ。でも、綾ちゃんが見せてくれた頭巾。あれが実際に存在するものだということを知って、今の結論になったの。といっても、あくまで私の胸の中の結論ということであって、正解かどうかは保障しないわ。ね、あなた達、綾ちゃんから聞き耳頭巾の本当の秘密を聞いた?」
 生駒と優は顔を見合わせた。
「いえ、秘密というほどのことは……」

「佐吉の家は代々、鳥や木の声を聞くという頭巾の使い方だけでなく、本来の隠された用途を伝えてきたのよ」
「本来の使い道……」
「あれはね、アマガハラノの栗の木へ迷わずに行き着くための、ただひとつの道具。あの日、綾ちゃんが持っていたからこそ、私達は栗の木を見つけることができた……」
 道長がため息をついた。
「貴方の携帯ストラップのお不動さんのお守りの効き目も、少しはあったとは思うけど」
「はい!」
「お屋敷の屋根裏部屋から収集した古文書に、頭巾のことが書かれていたのよ。まさか本当に存在するものだとは思ってもみなかった……」
「あ、屋根裏部屋! ずるいんだ!」
「登ってみたい? いいじゃない。久米さんの目を盗んで。でも、生駒さんは嘘のつけない人だからね」

 道長が優に合わせて、ずいぶん砕けた調子になっていた。
 しかし生駒は優のように、心の内を隠して快活な素振りを見せることは不得手だ。にやりと口元を歪めただけで黙っていると、道長がまた優に話しかけた。
「記憶力のお嬢様、ほら、坂井さんの話では、行者様はどう言った?」
「あ! 不動明王の被っていた紫の頭巾ね!」
「さすが。そう。行者は佐吉に、不動明王の力を借りてアマガハラノの栗の木へ行けと言った。あれがないと、迷ってしまうのね。それが本当の頭巾の力なのよ。信じがたい?」
 生駒と優は首を振った。
「私はね、信じられなかった。でも、今は信じられる」

「なぜです?」と、生駒は聞いた。
「今も聞き耳頭巾として実在しているから。飾り物じゃないのよ。実際に手にとって使えるもの。それがまがい物だったら、こんなに長い年月の間、伝承され続けるなんてことはないでしょうから」
「ああ、そういう論拠の立て方もあるんですね」
「綾ちゃんに聞いてみたわ。頭巾は代々采家に伝わるものかって。奈津さんはどう説明してくれたって。そしたら、奈津さんも村人の誰かから授かったんだって」
「ええ、そう言ってました」

「ということわね、頭巾は采家のものじゃなかったということ。采家のものだったとしたら、一族以外のものに渡ってしまうかもしれない伝承方法なんて、考えられないでしょう? 屋根裏部屋の文書もそれを裏付けているわ。頭巾を采家に差し出すように求めたが、出てこなかったという内容だった。もうわかるわね。采家は佐吉の子孫じゃなく、佐吉の一族から栗の木を奪ったの。しかし実際には行き着けなかったし、頭巾も手に入れることはできなかった」
 生駒と優は揃って頷いた。

「ただ、そんな過去は、今の采家の人達まで正しく伝承されてこなかったんだろうと思う。たぶん奈津さんも含めてね」
 生駒はまた黙って頷いた。
「でね、頭巾の使い手は、その本当の使い方をきちんと伝えてきたのかどうか。綾ちゃんがあの日、ちゃんと持ってきたところをみると、案外今も、っていう気はするけど、さすがにこれを彼女に確かめるのは、どうかなって思うし」

 優が投げかけた質問は、道長の舌をすこぶる滑らかにはしたが、本来聞きたかったことからは離れていた。
 頭巾の素性やアマガハラノの秘密を聞きたかったわけではない。
 優もそう感じたのだろう。微妙に軌道を修正した。

「それで、滝の財宝はどう関係するんですか?」
 しかし道長は、途端に、それはわからないわ、だ。

「実はご存知なんじゃないですか? 隠された滝へのルート」
「方法はあるんだと思う」
と、慎重な口ぶりに戻っている。

「誰かに聞いたら、わかるでしょうか?」
「千寿さんや奈津さん? 絶対に教えてくれないと思うけど」
「仙吉さんは?」
「あの人は知らないと思うわ。采家の一族でありながら、そう扱われていないから」

 財宝は何かという点から、滝へのルートへと話は移行しているが、それはそれでいい。今日の訪問目的のふたつ目だ。
 つまり、久米の財宝探索ルートないしは方法を知ること。目的の対象とその入手方法を知らなければ、彼らの行動の核心に迫ることはできない。その上で、ふたつの殺人事件の真相に、ようやく近づくことができるかもしれないのだ。
 迂遠な話ではあった。
 しかし財宝探しと殺人事件の間には、必ず接点があるはず。滝に隠されたものが金銀財宝であれ、佐吉家族や人身御供のサヨの骸であれ、あるいは他の何かであれ。

 優が道長に、今度、一緒に探しに行きましょうよ、と誘っている。
「ね。久米さんも一緒に。あっ、そうか。もしかするとルートを知ってるかもしれないですね。それこそ采家のお屋敷に住んでおられるんですから。ね、道長さん、行きましょう。ノブ、久米さんに聞いてみてよ」
 強引過ぎて短絡的な優の言葉に、生駒は冷や汗が出る思いがした。
 しかし、気持ちを奮い立たせて、
「よし。善は急げやな」と、携帯電話を取り出す。
「もう、村を出たかな。電波の届くところにいてればいいけど」

 生駒が繋がらないなと言うと、道長はふうっと弱いため息をついた。
「やっとわかったわ。あなたたちが訪ねてきてくれたわけが」
 生駒は携帯を耳に当てたまま、道長に目を向けた。視線がまともにぶつかった。

「最初から、そう言ってくれればいいのに。それとも、私もあの人たちの一味だと思っているの?」
 ストレートに鎌をかけてきた。
「あなた方、財宝より久米さん自身を詮索しているんじゃない? 彼がなにかおかしなことをしているのを、見たんじゃない?」

 道長の目元は笑っていたが、瞳には困惑だけが広がっていた。
 応え方に迷った。そうだといえば、それは久米のどういう行動かと聞いてくるだろう。できればそれは道長の口から聞きたい。
 生駒は黙って見つめ返した。

「あの人達、いったいなにをしているのかしら……」
 そうはいいつつ、自分から久米の行動がおかしいと思っているのかと聞いた以上、思い当たることはあるのだ。
「あの人達って、久米さんと誰のことですか?」
 優がいいところを突いた。
「あら。尋問を受けているようね」
 しかし、コーヒーカップに目を落とすと、
「ね、ざっくばらんに話しましょうよ」と、くだけた調子でいった。
「いつまでもこんな調子で話していたら疲れてしまうわ」

 道長がパソコンの電源を落とした。立ち上がって窓にカーテンを引いた。
「訪ねてきてくれるのはうれしいわ。これは本当の気持ち」
 声から警戒心が消えていた。
「まさか、お葬式のことを報告しに来てくれたわけではないでしょう? 久しぶりにっていうほど、会ってなかったわけでもないし。当然、事件の話があるのかなとは思っていたけど」
 そういってデスクの角に腰を下ろし、コーヒーを飲み干した。

「だいたい察しがついたわ。ねえ、生駒さん。もう一度聞くけど、私も財宝探しの一味だと思っていない?」
 生駒はぐっと詰まった。しかし、もうその言葉についていくしかない。

「まあ。可能性はあるな、と」
 今日初めて、道長があの笑顔を見せた。
「そうよね。実をいうとね、私、反省しなくちゃいけないの。もともと、ことの起こりは、私が久米さんに吹き込んだことなのよ」
「はい?」
「彼が、どこか田舎の一軒家にアトリエを、と考えていたのは本当のこと。そこへ坂本さんから耳寄りな話が出た。互いの出身地である大西村に、つてを頼って話をつけることができるかもしれないという話がね。でも、初めのうち、久米さんは乗り気じゃなかった。いくらなんでも遠いよって」
 生駒は黙って頷いた。

「でも、私が例の話をしてしまったのね。もしかしたら、山中には金塊が眠っているかもって。ちょっとした冗談のつもり。出来心よ。今から思えば、しなければよかったなって思うけど」
 道長がデスクからチョコレートの箱を出した。一粒つまむと、箱ごと滑らせてくる。
「そしたら、彼、ロマンがあるじゃないかって、俄然、興味を持っちゃって。ちょっと大げさに言いすぎたのよって言っても、後の祭り。一旦その気になると、引かない人でしょ」

「滝は見たことがない、というのは本当よ。でも、見に行こうとしたことはあるの。とうせんぼされてて行けなかったけど」
 優が微笑みを返す。
「とにかく一度、現地を見に行こうということになって、三人で村に行ったの。まるでハイキングにでも来たみたいな格好でね。国土地理院の地図には滝のマークが出ていたわ。で、小川に沿ってどんどん歩いていくと、なんと」
 道長がいたずらっぽく笑った。
「実際に、自分の目で見たほうがいいわね。いや、本当はもう見てるのかな」

 昨日、見た人止めの柵は、生駒の眼に焼きついている。連続する殺人事件、葬式の違和感、綾が聞いたクスノキの予言、そういったあらゆる疑問を解くには、滝の秘密を暴かなくては、という気持ちにさせる光景だった。

「ただ言えることは、それを見て久米さんはあの村に決めたということ。ねえねえ、まさかあの人達、本気で財宝探しなんか、やっているんじゃないんでしょう? どうなの? あなたたち、なにか知っているんじゃないの?」
 矢継ぎ早に迫られて、生駒がどう応えようかと迷っていると、
「そして、一番大事なこと。なぜおふたりが、久米さん達の行動に関心を持っているのか」
 道長が、袖の中に手を入れて、二の腕をさすり、
「もちろんそれが、今度の殺人事件に関係があると考えているからじゃない?」
と、核心に迫ってきた。

 生駒は、すべてあなたの言うとおりだと言おうとした。しかし、優の反応の方が早かった。
「さっきから久米さん達って、誰のことをおっしゃってられるんですか?」
「橘文雄さん。じゃないの?」
 道長はもうあっさり応えを返してくる。

 生駒も、もう隠すことはしなかった。
 不審が払拭されたわけではないが、情報を得るために、あるいは場合によっては道長の嘘を暴くためにも、彼女の懐に飛び込んでいかなければ始まらない。
 生駒は、深夜に神社で見た光景を話した。

「そうなの……。もし本当に金目のものが沈んでいたんだとしても、今まだそこにあるなんて、考えられないのに……。村の人なら誰でも知っている話なんだから……」
 道長が後悔の念を口から吐き出した。
「采家の力がとうの昔になくなってしまっているのに、財宝だけが眠っているなんて。本気にしてどうするのよ」
 眉間を寄せて目をつぶった。

「でも、誰もがそう思ってるけど、実は、なんてことはないですか?」
「そうね、そういうこともあるかな。美千代さんが後をつけていたってことは……」
 眼を閉じたまま、考え込んでいる。
 やがて「まさか、あの人達……」と、時計に目を向けた。

 生駒はすでに居てもたってもいられなくなっていた。
 様々な不安が膨れあがっていた。この事件は健治と恭介を殺すことがエンディングであるはずがない。
 今夜も雨が降らなければ、久米は橘と山に入っていき、滝へのルートを行くのだろう。もしかすると、あの縄梯子を降りていくかもしれない。
 奈津や美千代も監視の目を緩めていないはず。
 仙吉は彼女達を守れるだろうか。

 そして今日か明日にも西脇と木元が釈放されるかもしれない。彼らはどう動くか。少なくとも、西脇はあの縄梯子の存在を知っていると考えた方がいいだろう……。
 そして最も大切なこと。
 綾は不安がっていないだろうか。

「今から村に戻ります。ちょっと気になってきましたから」
と、生駒は立ち上がった。
 道長からたいした情報は得られていなかったが、不安が生駒を突き動かしていた。

「えっ、今から?」
 道長は驚いたようだったが、なぜか、とは聞かなかった。
「ご馳走さまでした」と、優がふたり分のカップを揃えた。
 生駒は、ぶしつけな質問をして申し訳なかったと謝った。
「ううん。いいのよ。ちょっと待ってね」
 道長がチョコレートの箱をポケットに入れ、クロゼットの扉を開けた。靴を履き替え始める。見たことのあるスニーカー。
 そして、
「いいニュースよ」といった。

「西脇さんと木元さんが明日の朝、釈放されるんですって。嫌疑不十分っていうやつよ。どうせ釈放するのなら、お葬式に間に合うようにしてあげたらいいのにね」
「そうですよね。でも、誰から聞いたんです?」
「久米さん。さっき電話があってね」
 意味ありげな笑みを見せた。道長は久米が今夜も屋敷にいることを知っていたのだ。さっきの臭い芝居は見透かされていたのだ。

「お待たせ。さ、私はいつでも出発できるわよ」
「え?」
 生駒と優は道長に背中を押され、教授室を出た。慣れた手つきで名札を裏返し、またあの笑顔を見せた。
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