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ノブ、ずるいやん 作者:奈備 光
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第 18 章 「バケツとコンロ?」

「圭子さん、お気の毒やったよね」
 生駒と優は、神社への道を辿っていた。
「仙吉さんとはどういう関係かなあ」
 優は夫の従兄弟に対する態度ではないという。小さい頃から一緒に育ったわけでもないのに、あんなにしっかり抱きつくのはおかしいと。

「仙吉さんしか頼れる人がいないからじゃないか?」
「そうかもね。ま、こんなこと詮索しても意味はないか。それより、健治さんの身の回りで起こったことをおさらいしてみようか」
 関心は薄れかけていたが、かといって異存もない。

「一番最初から話して。久米さんがこの村に来るようになった頃のことから。坂井さんと久米さんの関係は道長さんから聞いたから、その後ろ辺りから」
「発端は、久米さんが坂井さんの紹介で、采千寿という老婆と屋敷のリビングで面会した、今からかれこれ五年前にさかのぼる。というあたりからでいいか?」
 生駒は、ほとんど想像ばかりだし、それに昨日今日の思いつきレベルだが、と話し始めた。

 村人の中で、ここにアトリエを建て、将来は芸術村のようなものを夢見ているという久米の言葉を知らないものはいなかった。中でも、この話にもっとも大きな興味を持ったのが西脇利郎だった。

 いまや倒産同然だとささやかれている西脇工務店。
 その社長である西脇にとって、久米は大切な見込み客だった。久米の人脈と、世間での人気の高さに、西脇は関心を持った。大きな仕事に繋がっていく金の卵。
 最初の大きな仕事であるアトリエ新築工事を、是が非でも受注する必要があった。しかし西脇工務店は田舎の落ちぶれた零細企業。簡単に受注できるほど甘くはなかった。

 時は遡るが、かねてから千寿の資産を当てにして、西脇は佳代子を屋敷に送り込んでいた。千寿は西脇のこの申し出を不審がることなく受け入れていた。
 妻に佳代子という連れ子があることを知られていなかったのが好都合だった。万一、ばれることがあっても、千寿のことを思ってしたまでのこと、と言ってしまえばいいのだ。

 そして千寿が老人ホームに移り、佳代子だけが屋敷に残り、西脇の思惑通りにことは進んでいった。
 佳代子が屋敷に住んでいるという実績は着々と積み重なっていく。それに加えて、西脇にとって千載一遇のチャンスが転がり込んできたのだった。やってきた臨時の屋敷の主が久米だったのだ。

 西脇はこのアトリエ工事という久米のお土産に、どうしても食いつきたかった。そこで一計をたてた。佳代子から久米にさまざまなことを勧めさせた。
 井戸の補修や屋根の点検、浴槽の入れ替えやキッチンの改修などの小修繕の数々。久米はそれらをひとつずつ実施していった。いずれも久米がこの古い屋敷で、近代的な暮らしを気持ちよく営むために必要なことだったからだ。
 それらは結構な金になった。しかも、最後の大物であるアトリエの新築工事を受注するための実績作りにもなる。そのはずだった。

「ちょっと待って」
「なんや。せっかく調子に乗ってるのに」
「ねえ。平石を掘り出すことも進言させたのかな」
「そりゃわからんさ。久米さんが佳代子からその話を聞いて、その気なっただけかもしれないし」
「わかった。続けて」
「オーケー。西脇になりきって話してみよう」

 久米のアトリエ構想は順調に進んでいった。
 生駒という設計者が現場を訪れた。
 近々、見積もり依頼が来るだろう。

 ところがある日、久米からではなく、大阪本社のある大手建設会社から電話がかかってきた。大西村でアトリエの新築工事を受注したが、西脇工務店で人夫を出せるかという問い合わせだった。
 西脇は意気消沈した。元請けとして受注するのと、下請けとして受注するのでは、金銭的に天と地ほどの開きがある。そして将来にも繋がらない。

 地鎮祭の日取りが迫ってきた。受注した下請け仕事のひとつに地鎮祭式場の設営というのがあった。
 西脇は考えた。一か八かやってみよう。
 この工事が一時的にでも中止になれば、再度営業攻勢をかけるチャンスも生まれてくるかもしれない。そのときは改めて采家一族のものとしてアプローチしてみるのだ。幸いにも久米は地元に溶け込むことに気を遣っていると聞く。その点を上手に衝けばまだチャンスはあるはずだ、と。

 西脇は野良猫を殺し、胴体は裏の畑の五右衛門風呂に捨て、首を盛砂の中に埋めた。
 思惑通り、地鎮祭は混乱のうちに幕を閉じ、工事は中止となった。
 久米はアトリエの新築工事はもうないと言っているが、そのうち気持ちが落ち着けば再開するかもしれない。そう考えて工務店の西脇としてではなく、今後は采家の西脇利郎として久米に近づいていこうと考えた。

 一方、西脇は、受注に失敗した原因は佳代子の情報不足だと責め立てていた。もともと可愛がっていた娘ではない。結局、苦しんだ佳代子は自殺してしまったが、いまさらあれは妻の連れ子で、自分が千寿に紹介したものだと知らせる必要もない。どうせフライングは失敗したのだから、黙っているほうが得策だ。警察からは、遺体を引き取るようにと言ってきたが、無視しておればいい。

「ノブ、なかなか感じ出てるわよ。でも、そろそろ現在形の話になってくる?」
「ここからな」

 岩穴座談会。
 西脇はいつものように久米を喜ばそうとしていた。
 しかし、予想もしなかったことが起きた。佳代子が妻圭子の連れ子であることを暴露されてしまったのだ。
 そして思わぬところから反応が出てきた。健治だ。

 朝、山に事前調査に行こうと屋敷の前を軽四で通りかかったときのことだ。
 健治とばったり会った。車を降りるなり健治がくってかかってきた。
「今から集会所に行くところでした。ちょうどよかった。聞きたいことがあるんです。あれはどういうことなんです? 佳代子がおじさんの娘だったというのは!」
 西脇は健治の剣幕を怪訝に思いながらも、かねてから考えていたとおりの言い訳をした。
 千寿婆さんの身の回りの世話をさせるのに全くの他人よりはいいだろうと思ったし、親戚の人たちからなにか下心でもあるのかと勘ぐられたくなかった。だから、おおぴらにはしなかったのだ、と。

「佳代子を嫌っていたというのは?」
 嫌っていたわけではない。今言った理由で、日常的には距離を置いていただけのことだ。小学生の女の子の目には嫌っていたというように映ったのかもしれないが、と。

 健治の目に、うっすらと光るものがあることに気がついた。西脇は事情が飲み込めた。健治は佳代子を愛していたのだ。その思いを今こうして自分にぶつけているのだ。

「しかし佳代子は死ぬほど苦しんでいた。距離を置いてなんて、それはあなたの勝手な都合でしょう。佳代子は人形のように操られていただけ。そういうことだったんじゃないですか。違いますか!」

 痛いところを衝いてくる。そのとおりだ。
 西脇は、他の男が圭子に生ませた佳代子を全く愛していなかったし、楽な仕事を世話してやったとくらいにしか思っていなかった。むしろ、アトリエ工事の受注になんの役にも立たなかったことを、今でも恨んでいるくらいだった。

「僕は考えていたんですけどね。地鎮祭のときの猫の首。あんなこと、いくらなんでも佳代子ができることじゃない。おじさん。あなたでしょう。ああして、工事の着工を妨害しようとしたんだ。僕にはだんだん見えてきました。あなたは佳代子を使ってあの工事を取ろうと考えていた。ところが、できなかった。で、佳代子を責めた」
「あんたが代わりに慰めてやってたんじゃないのか」
 突然、助手席から声がした。

 恭介が健治の話を遮り、
「それとも、慰め方が足りなかったのかな?」
と、にやけた笑いを向けた。
「なにだと!」
 健治が恭介に殴りかかった。三人でもみ合いになった。恭介が荷台に載せてあった鉄の道具箱を手にした。
「やめろ!」
と、西脇は止めようとしたが、一瞬遅かった。

 恭介が力任せに振り下ろした箱は、健治の後頭部を一撃し、血をほとばしらせて健治はその場に崩れ落ちた。

 後頭部の傷は、素人目にも致命的なものだった。
 助からない。とっさにそう判断した西脇は、すぐさま健治を下の川めがけて突き落とした。
 そして恭介に、集会所のバケツで道の血を洗い流してから追いかけて来るように命じた。自分は屋敷の裏に車を停め、石段を駆け上がっていった。
 誰にも見られていないはずだが、屋敷の様子はどうだろう。誰かが健治が出て行ったことを知ってやいないか、と思ったのだった。

 幸いなことにまだ屋敷は静まり返っていた。みんなまだ眠っている。
 離れに入り、健治が寝ていた部屋を探し当てた。ここにも健治が自分に会いに行ったというような印はない。

 西脇はほっとした。しかし、なんとしても息子の犯行を隠し通さねばならない。そう思い詰めていた。
 誰にも気付かれていないという安心感と、息子を守りたいという一心が、ここで西脇に意外なことを思いつかせる。

 浴室に入り、シャンプーとリンスの空袋をひとつずつポケットに入れた。健治が風呂に入らなかったことにしようとしたのだ。犯行時刻を朝ではなく夜に。捜査をかく乱させることができるかもしれない、と。

 門を出ると、恭介がバケツを持って走ってくるのが見えた。道の横を流れている水路の水を汲め、と身振りで指示してから、自分は血の付いた道具箱を水路で洗った。そして山に向かい、予定通り朝の八時前には采屋敷に何食わぬ顔で戻ってきたのである。

「うおおっ、ノブ、絶好調やん!」
「ま、そういうこともあるかと」
「じゃ、私も少し想像を膨らませて」
「おっ、ユウもいくか」
「岩穴座談会のあった夜、健治さんは恭介くんに電話を掛けた。ほら、電話を貸してくれって、言ってたやん」
 優がアレンジ版を披露した。
「私のは健治さんと恭介くんの視点から見たバージョン」

 健治は、村の誰もがまだ寝ているような時間に起きだした。
 恭介が自分のことを嫌っていることは知っていた。自分は采家を名乗り、東京の大学を出て宮司という職についている。つぶれかけた会社の跡取りである恭介にしてみれば、うっとおしい存在としか映っていないに違いない。健治にしても、恭介と会いたいと思ったことなどなかった。しかし、今日は恭介に確かめておきたいことがある。

 待ち合わせの場所は屋敷の下。
 石段を降りると恭介のバイクがすでにとまっていた。恭介がまだ暗い川面を眺めている。
 こんな時間に会うことになったのは恭介の指定だった。六時に父親と会う約束がある、というのだった。

 挨拶抜きで単刀直入に聞いた。
「恭介。佳代子はおまえの姉さんだったって、ほんとうか?」
 恭介は驚く顔をするわけでもなく、そうだというようにあごを引いた。健治の顔を見ようともしない。バイクのガソリンタンクをさすっている。

「なぜ今まで隠していた」
「さあ。それは親父に聞いてくれ」
 健治は佳代子が圭子の連れ子だったということが、どうしても信じられないでいた。
 圭子は心のどこかに暗いところのある女で、西脇と一緒になってからも、村のものとは全く交わろうとしない。年に何度かある行事にも、来るのは西脇だけ。采家の集まりでも、おもしろくない顔をして隅っこに座っているだけ。
 村人や采家のもので、圭子に親しみを持っているものはいない。健治もそうだ。むしろ嫌いだった。西脇も好きな叔父ではなかったが、最近はますます疎遠な存在になっていた。

 それが、こともあろうに、佳代子があの女の娘だったとは。昨夜、健治は驚きが去ると、愕然とした思い、やるせない思いにとらわれて眠ることができなかった。
 こうして恭介を呼び出したのは、事実を確かめておきたいという思いだけだったが、しらけた顔でバイクのハンドルをいじり始めた恭介を目の前にして、とんでもない怒りが胸の奥底から噴き出してくるのを感じた。

 一年前、佳代子は死んだ。
 その死の原因は健治にはわからなかった。
 ふたりは愛するもの同士として付き合ってはいた。
 しかし、その関係は恋人同士というには、あまりにも希薄だった。

 健治が恋焦がれるほどに、佳代子は超然としていた。佳代子はあの写真のようにいつもふんわりと笑いかけながらも、するりと体をかわして逃げていった。健治の前には、目に見えないほど細く、しかし強靭な一線が引かれてあるようだった。健治はそれを超えることができなかったし、佳代子も超えさせようとはしなかった。やがて実りのない恋は最悪の終末を迎えることとなった。

 佳代子が死んだとき、健治は自分をどれほど責めたことか。
 佳代子はもっと真剣な求愛を待ち望んでいたのではないだろうか。
 彼女の目には、自分の行為や気持ちが中途半端なものに映っていたのではないだろうか。
 自分は父の病気をその中途半端さの理由にしてはいなかっただろうか。
 そして、佳代子はそのせいで自ら命を絶ってしまったのではないだろうか。
 そんな悔やんでも悔やみきれない、そして情けない思いが健治を責めさいなみ続けていた。

 しかし今、わかった。
 自分の愛を佳代子が受け止められなかった理由が。

 健治は奥歯を噛み締めた。
 あの人は圭子の子であることを隠し、この屋敷に何らかの目的を持って勤めていたのだ。それは千寿の遺産目当て、そして久米に近寄りたいという西脇の身勝手な目的のためだったのだ。
 そんなことのためにあの人は身や心を縛り上げられていたのだ。

 しかも、彼女の死の本当の理由は、圭子や西脇や、そしてこの恭介との関係に根ざしていたのだ。西脇は佳代子に辛く当たり、彼女はそれを悲しんでいた。そして西脇が口走った許しがたい言葉。
 いや、もしかするとあの男が……。

 健治は激しい怒りがすでに全身に充満していることを悟った。その暴発を止められるのは、もう理性と強い意思だけであることも。
「おまえんところの親父、どうせ、やましいことを考えていたんだろう」
 怒りをなんとか抑えて、健治は静かに聞いた。

 ここで恭介からなんらかの追悼の言葉が聞けていたら、事態は別の展開を見せていただろう。
 しかし、恭介は、
「ふん。マザコンのやつに詮索されたくはないな」
と、口の端から言ったのだった。

 もはや怒りを抑えこむことはできなかった。
「なに! もう一度いってみろ!」
「息子に惚れ込んでいる女でよかったじゃないか。なにもあんな女にちょっかい出さなくても」
「きさま!」
 健治は恭介に掴みかかっていった。
 しかし、恭介は鮮やかに身を翻すと、
「ふん。やるのか? おまえ、うざいんだよ!」
と叫んで、道の脇に置いてあったバーべキューコンロを造作なく振り上げた。

 前もって準備してきていたのだろう。はっとして身構えるやいなや、コンロが風切り音を上げた。
 健治は避けようとした。しかし、恭介の腕の振りの方が早かった。
 コンロが後頭部を打ち砕く鈍い音。全身の感覚を一瞬のうちに破壊してしまう痛み。
 意識は急速に遠のいていった。

 恭介は自分なりに考えていた。
 采家の富は田畑や山林を始め、そのほとんどを千寿が所有している。ただ千寿はもう永くはない。子のいない千寿の遺産は兄弟姉妹に相続されることになり、我が家でも分け前に預かれるだろう。ただ、その取り分は多い方がいいに決まっている。どうせ健治の父親も先は長くない。しかも母親は狂人だ。

「恭介じゃないか!」
 声をかけられて、恭介の心臓は縮みあがり、もう少しのところで駆け出しそうになった。しかし振り返った目に映ったのは父親の姿だった。
「おまえ、なにしてたんだ。待ってても来ないから、先に行こうと……。あっ!」
 西脇がバイクの後ろに倒れている健治に気がついた。
 駆け寄って健治の息がないことを確かめた。そしてさっと辺りを見回し、誰にも見られていないと判断すると、
「早く!」
と、健治の体を引き摺り、川への斜面の上まで押し出した。
 健治の体はどこにも引っかかることなく、そのまま川面に向かって落ちていった。
「親父!」
「後で聞く!」

「後は一緒」
「よくもそんな、恐ろしいでたらめな思いつきを並べられるな」
「お互いさま」
「それにしてもなぜふたりとも西脇ではなく、恭介が実行犯なんや?」
「んー、なんとなく」
「こんな村のことやぞ。きっとみんな朝は早い。誰にも見られていなかったとしたら悪運が強いとしか言いようがないな」
「そうやね。ね、ノブの想定ではバケツに汲んだ水で血を洗い流したことになってたけど、集会所のバケツ? 取りに戻るより、お屋敷の方がずっと近いけど?」
「誰か起きだしてるか、わからない」
「そんなこというなら、民家の間をバケツ持って走るほうが、よほど怪しまれるけどなあ」
「どこのバケツでもいい。たいしたことじゃない。おまえこそ、バベキューコンロはないだろ。前もって用意してきたんなら、鉄パイプとか」
「山登りに行くんだから」
「ないない」
「でも、西脇さんも恭介くんも大きな荷物を運んだって橘さんが。バケツとコンロ」
「バケツはともかく、コンロは却下!」
「まあね。いずれにしろ、今のふたりの推理はでたらめ。完全な思いつき」
「言い切ってくれるやないか」

「西脇犯行説……」
 優は立ち止まって、眉をそっと撫でた。

「鍵は佳代子さんの事件」
「工事が取れなくて、かっとなった西脇が、佳代子を殺したって説か?」
「うん。岩穴座談会のとき、奈津さんの出現でうやむやになったけど、あのとき、健治さんは西脇さんに、なにかを言いかけてた」
「ありえないことではないよな」
「そうだとすると、健治さんが西脇さんに復讐しようとしたことも、ありえない話ではないし、今のふたりの推理も現実味があるんやけど」
「そうやな。でも、工事が取れなかったからって、娘を殺す動機としては弱いような気がするよな」
「うん。たとえ妻の連れ子だとしてもね」

 雨が額にあたった。
「あ、降ってきた」
「おい、明日は快晴とちがうんか」
「へへ」
「こいつ」

「うーん、やっぱり、どうもしっくりこないなあ。それに、もうひとつ。西脇さんと山の中で出会ったときのことも気にかかる。あのとき彼は、下痢をして手を洗いに行ったといった」
「ああ」
「急に下痢というのも不自然やけど、そう言われてしまえば、そうでしたか、としか応えようがないしねえ。でも、よりによって息子が殺されようとしているときに、たまたま用を足しに、その場を離れていたというのもおかしな話やんか」
「単に運がなかっただけとか?」
「でも、釈然としない。それに、ズボンの血」
「こけた、というのも、なんかなあ」
「健治さんの血? まさか息子の血?」
「朝食のとき、ズボンは破れていなかったし、血もついていなかったと思う。それにアマガハラノから村まで降りて、健治を殺してからまた登ってきたとも考えられない。例の山伏じゃあるまいし。それに時間的に合わない。健治が殺されたのは、もっと早い時間帯……」

「とにかく、事件は解決、という気にはどうしてもなれない、というところよね」
「そうやな」
「ま、それは置いといて、次は、アマガハラノで恭介くんが殺されたときのことを再現してみようか」
「あいつの場合は簡単。木元が犯人だとして」
「うん」

「恭介は久米さんや道長さんと別れ、父親の元へと急いでいた。と、目の前の笹が、急にザワザワと動いて、恭介はビクッとして足を止めた。笹の中から姿を見せたのは木元だった。驚かされて気を悪くした恭介は、罵声を浴びせかける。このイノブタやろう、うろちょろするな、とかなんとか。こう言われて、普段から怨みを抱いていた木元が切れた。持っていた草刈鎌を振りかざす。逃げる恭介の背中に一撃を」
「そうね。その間にひとりでいた時間があったのは、西脇さんと木元くんだけ。やっぱり、それでいいのかな。あ、ヤバ!」
「げ!」
 突然、猛烈な雨が落ちてきた。
「引き上げろ!」
 生駒は、もと来た道を駆け出した。
「あっ、滝は!」
「ひとりで行ってこい!」
「もう!」
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