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真似事探偵2

作者: 月島 真昼

月島 真昼は深呼吸した。


11月も終わりに近づいたとはいえこの寒さは堪える。最低気温は5度だとか言ってた気がする。

だけど前日の雨で空気は澄んでいるのが心地好い。


不意に凄いスピードで目の前を通った車の出す排気ガスが憎くなった。


イヤホンをつけテンポのいい曲を聴きながら自転車を漕ぐ。

真昼は高校生だ。

日曜日でない日には当然学校がある。


もうすぐ学期末テストが始まる。日頃から授業に熱心でない真昼は成績が悪いと最悪落第があり得る。


(進級は出来ないとまずいよなぁ)


時計は8:46を指している。


当然遅刻。ダルい。



「はぁ」


真昼が溜め息をついた時、余り広くない道で不意に何かが飛び込んできた。


「え……」


視界が横向きになり硬い何かに強く打ち付けられる。

その真横を黒い何かが凄い勢いで通り過ぎて行った。



跳ねられた─?


真昼は遠くなっていく奇妙な音を痛みと一緒に噛み締めて、そのまま意識を失った。



「お前バカだろ?」


真っ白な病室で頭と太股に包帯を巻いた真昼を指指しながら大橋 友也はバカ笑いした。

笑いすぎて涙目になっている


どうしよう。なんか泣きそうになってきた。


望月 夕日と常磐 香月が友也から一歩離れたところで喋ってる。


お前ら見舞いに来たんじゃないのか?

いや、頭脳明晰、容姿端麗などっかの漫画から抜け出したような天才の友也くんに付いてきただけなのはわかるけど……




あのあと、道路の上で気絶していたのを道行く親切な人が見つけて救急車を呼んで運ばれた。


ようするに轢き逃げされたわけだ。


脳震盪を起こしていたがその他には打撲等の軽傷のみで特に問題なく検査入院だとかなんとかになったらしい。で、放課後に友也と女子2人がお見舞いにやってきたわけだ。


「見舞いに来たんなら普通ひま潰しになるようなもん持って来てくれませんか?」


「お 持って来たぜ」


言いながら友也がカバンから取り出したのは、


平家物語。

陰陽師。

三国志。


その他諸々歴史小説&オカルト小説。



「あなたの趣味嗜好を押し付けてるようにしか見えないんだけど」


真昼はとりあえず睨んどいた。


「うん」


素直に頷いた友也がなんだかぶち殺したくなってきたが、堪えて呆れ顔を作った。


隣で夕日がバックを開けた。


「まっぴーはこれでしょ?」


某作家の推理小説が20冊ぐらいどかっと置かれた。


「さすが♪」


真昼が微笑を作ると夕日は手のひらを上に向けてこっちに差し出した。


「なんですか? それ」


だいたい想像はついたがおそるおそる訊いてみる。


「代金。5000円ぐらいでいいよ」


よく見るとラベルに100円と書いたシールが貼ってある。


古本市場あたりで中古を漁ったらしい。


「あ 剥がし忘れてた。ちっ」


シールに気づいたのを察知したらしく2000円渡すと夕日は不満足そうにしながらそれを財布にしまった。


まっぴーのケチ、と小声で呟いたのが聞こえた。


「………」


無言で香月を見る。

気まずそうにしながらポケットから飴をいくつか取り出した。


「これで勘弁」

そう言って手刀を切った。

元々期待してなかったのであるだけマシと礼を言って受けとった。



飴を1つ口に入れたのとほとんど同時に扉がノックされた。


「はぁーい」


香月が勝手に返事をする。


がらがら音を立てて横開きの扉が開いた。

そして、男が2人入ってきた。知らない顔だった。


なかなかの二枚目と熊のような大男が酷くミスマッチしている。

「申し訳ありませんが月島真昼さん以外は退室願えますか?」


そう言って大柄の男が警察手帳を示した。


「嫌です」


大橋 友也はきっぱりと言った。


「どーせ真昼から俺たちに伝わるんだからここで聞かせてください。口は出しませんから」


男2人は顔を見合わせて片方が真昼を見た。


「僕も別に構いませんよ」


飴をもごもごさせながら真昼が答えた。


そして2人は諦めたように頷いた。


前置きもほどほどに大柄な男が切り出した。


「君は自分を跳ねた車を見たか?」


「いいえ」


「ということは車の特徴なんかは?」


「なんとなく黒っぽい車だった気がしますが、それ以外は覚えていません」


ほんの一瞬だけ2人の表情が変わったのを真昼は記憶する。


落胆─? いやどちらかと言うと……


「何か音はしませんでしたか?」


「あぁ、えーっと、何かした気はするけどどんな音かはよく覚えてません」


「そうか、じゃあ何か思い出したことがあったら連絡ください」


大柄の男は名刺を渡した。

普通高校生相手にこんなものを渡すだろうかと疑問に思ったがとりあえず受け取った。


名刺には前島 晃弘と書かれていた。


「あ、すいません 1つだけ良いですか?」


友也が横から言った。


「救急車呼んだ人の連絡先って教えていただけますか?」


「ごめんね。個人情報に関することは教えられないんだ」


二枚目の男が答えた。


2人組はきっちりドアを閉めて出ていった。


「刑事って初めてみた」


後ろ姿を見送って夕日がやたら目を輝かせていた。




真昼はすぐに一瞬脳裏に浮かんだ考えを打ち消した。


あの2人の表情は落胆というより、安堵だったという考えを。




約一週間後、月島 真昼は退院した。


荷物を纏めて病院を出て家に帰って、風呂に入って友也から借りた歴史の本を読んでいた。

ちなみに推理小説は入院中に全部読みました。


なるほどこれはこれで面白いとか考えてるとひょっこり彼の兄が現れた。


「ドラ〇エ7の最初の神殿どうやって越すんだっけ?」


軽く殺意が沸いた。

今朝退院してきたばかりの弟に向かって他に言うことはないのだろうか?



まあ、ドラ〇エ7なんか引きこもり歴のある真昼は3〜4回クリアしたから楽勝だが。


せがまれてゲームをやっていると不意に携帯電話が鳴った。


「あとは自分でやれ」


真昼が兄を突き放して画面を見ると着信は友也からだ。



「事故現場、見に行かないか?」


電話越しに彼はそう言った。


「行ってどうするんだ?」


「おいおい。しっかりしてくれよ真昼くん」


言いたいことはだいたいわかった。


「正気か?」


「もちろん♪」


大橋 友也は愉快そうに言った。


「俺らで轢き逃げ犯捜そうぜ」


そういえばまだ捕まっていないらしい。


断ろうかとも思ったがひまだったし真昼は結局付き合うことにした。


「見るのはいいけど流石に警察が調べた後じゃ何もないだろ?」


歩きながら真昼は友也を見る。


「まあなんとかなるだろ」


友也は軽く返したが彼がなんの根拠もなく調べると言うように真昼には思えなかった。

多分刑事達が一瞬見せたあの表情が引っ掛かってるんだろうと真昼は推測した。


「えーっと、先ずあれだ」


真昼が跳ねられた交差点についた友也は少し離れた場所で井戸端会議をしている主婦らしき人達を指した。


真昼は付き合ってられないとばかりに自分の事故ったあたりを見にいく。


たしか自転車に乗って、音楽を聞いていた。

寒かったからマフラーと手袋もしてたな。



遅刻してたが特に焦ってスピード出してたわけじゃなかった。


信号も青だったはずだ。



(俺、どうして跳ねられたんだ?)


しばらく見ていたが全くわからなかった。

少し狭いが見晴らしは悪くないし跳ねられる要素が余りない場所な気がした。


「おーい」


真昼は友也が戻ってきたのを見て思考を中断する。


「第一発見者に話、聴いてきたぞ」


「は?」


ふとこいつのこの行動力はどっから沸いてくるんだろう?と思ったが口には出さない。


「その人によるとお前が倒れてたのがそこで」


真昼は道路と歩道の境目あたりを指さす。


「自転車が倒れてたのは」


言いかけて友也が目の色を変えた。


「どうした?」


「紙と鉛筆」


ニヤリと笑った友也を不審に思いながらポケットに入っていたコンビニのレシートと持ち歩いているボールペンを渡すと友也は何かを書き出した。

真昼はそういえば跳ねられた日もボールペンをポケットに差していたことを思い出す。


友也が書いているのはなにやら数式らしい。

だが高校レベルでないのは傍目に見ても明らかだ。


「真昼。横断歩道渡ろうとしたら真横からあたった、であってるよな?」


「うん」


「この位置から、自転車が向こうまで吹っ飛ぶには時速100kmぐらいは必要だ。どうやらお前を跳ねたやつはよっぽど急いでたらしいな」


大橋 友也は不敵な笑みを浮かべた。


そして、

「無傷で済んだお前の悪運は筋金入りだな」、とつけ加えた。


真昼は驚いた。


直線とはいえ時速100kmで車に突っ込まれるのはいくらなんでもあり得ないだろう。


「向こうの人達に聞いた話によると」


井戸端会議を続けている主婦達を指指す。


「少し離れた場所で車同士の衝突事故があったらしい。そのまま片方が逃げてパトカーとカーチェイス状態になったんだってよ」


暗に示していることはわかった。


「そりゃ100km出してるならそれぐらいの状況だろうな」


「でも、お前黒っぽい車だって言ったよな?」


真昼は頷く。


「その車、銀色だってよ」


友也は残念そうに首を傾げたが、真昼はそれで全てを理解した。



3日後、月島 真昼は刑事の片方から貰った名刺の番号に電話をかけた。


「思い出したことがあるんで会って話せませんか?」


電話ではいけないのか?と聞かれたので出来れば会って話したいと答えると刑事はあっさりと大通りの喫茶店を指定した。


真昼は喫茶店の一番奥に座ってミルクティーを頼んだ。

思っていたより直ぐに前島 晃弘は現れた。

ミルクティーを持ってきたウェイトレスが前島に注文を聞いたが彼はそれを制した。長居する気はないということらしい。


「刑事さん。正直に話してください」


真昼はミルクティーを啜った。


「どういう意味だ?」


「僕を跳ねたのは、パトカーですよね?」


狼狽した様子は見せなかったが、ほぼ間違いないと真昼は踏んでいた。


「意味がわからないね。君が見たのは黒い車なんだろう?」


「僕は地面で頭を打つ前に一瞬だけ車を見た。だから車の下半分しか見えなかったんです。そのせいで黒い車だと記憶してしまった」


「なるほど。しかし本当に黒い車だったかもしれない」


「自転車が吹っ飛んだ距離から計算すると車は時速100km近い速度が出ていたことになります。物理と数学の教師に確認しました。

先ず間違いないそうです。


あの道を100kmなんて速度で走るのは普通あり得ません。それをやっていたのは衝突事故を起こして警察から逃げていたシルバーの車と、それを追っていた警察の車しかないんです」


「では、黒い車を見たというのが君の思い違いじゃないかな?君は頭を打って動転していて車は本当はシルバーだった」


真昼はかぶりを振った。


「思い出したんですよ。僕はたしかにあのときパトカーでしかあり得ないあるものを聴いてたんです」


「なんだい それは?」


「サイレンです。イヤホンをしていたからかなり至近距離に近づくまでまるでわからなかった。僕にも非はありますね。それで向こうは気づいて避けると思ってスピードを緩めなかったんでしょう」


前島は最後の悪あがきをした。


「証拠はあるのかね?」


真昼はボールペンの破片を取り出した。

「あのとき僕のポケットに差してあった物です。よく見ると白い塗料がついています。親父が自動車会社に居るんで調べて貰えばはっきりすると思います」


「参った。降参だ」



タバコいいかい?と聞かれたので真昼はどうぞと答えた。

ついでにウェイトレスを呼んでコーヒーを頼んだ。


「目撃者もいなかったし、君が覚えてないのをいいことに上層部はそれを揉み消しにかかったのさ」


煙を吐き出しながら前島は語った。


「運転してたのは若いやつだ。事故を起こして逃げた車を追っていた。

手柄を立てようと必死だったんだろう。


俺と一緒に君の病室を尋ねたやつがそうだ」


「あの人が」


真昼はあの二枚目の警官を思い出した。

いま思えばずっとなんとなく俯いていた気がする。


「本当に申し訳なかった。これが裁判になりマスコミに流れた日には警察の威信は地に堕ちるな」


前島は卑屈に笑った。


「誤解しないでください。僕は別に裁判を起こす気もマスコミに言う気もないですよ」



面倒なことは嫌いなんです、と付け足す。


「いいのか?」


「はい。ただ治療費と、自転車の賠償金、それと」


一瞬、望月 夕日の顔が浮かんだ。

そうだ、あの金ぐらい請求してもバチはあたらないだろう。


「雑費2000円戴けたらそれで構いません」


月島 真昼は微笑を作った。



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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったです 真昼かっこいいー 友也とのコンビもめっちゃいいです もっとこの二人の話しよみたい感じです 最後の雑費2000円がこれまたいいですね 笑 私も推理小説書いてるので目標にしたいと…
2008/12/10 19:55 ブルーミラー
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