8月.夏休み後編 夏祭りにつき
お盆と言えば? 13日に戻って来ちゃった先祖を迎え、16日に送り火と共にあちらに帰って頂く行事。一般的にお盆とは7月の事だが、8月15日にも旧盆と呼ばれるものがある。こちらは、盆と言うより去り行く夏をしのぶ祭と言う感じか。
と、盆に関するつまらんうんちくはともかく、夏休み最後の祭りを楽しまんと、俺は夏祭り会場に来ていた。
会場入口にてりんと待ち合わせなわけだが。
「遅い」
りんの言葉に左手首に巻かれた黄金に輝くロレックス、なわけもない安物の腕時計を見ると、
「8時……。ぴったりだろ?」
「……今、25分なんですけど?」
再び腕時計に目をやる。長針、短針共に沈黙。つまり、止まってる?
「ややっ! これは恐らくキヨの仕業ナリ! 後で注意しておかねば!」
「…………」
相当頭にキタのか、りんは俺を無言で睨み付けた。 本気でキレると言葉も出なくなるらしいですね。
ここは、アレか? ゴッド土下座。……いや、あんな事したら顔面をサッカーボールキックされそうだ。
「……行くわよ」
「サー! イエッサー!」
まるで主従関係。姫と従者。飼い主と犬?
ともかく、ツン状態の女にはただ従う。これ重要。へそ曲げると後が果てしなく面倒だしな。いや、待てよ? 25分も遅れて来てお咎め無しか。逆に怖いな。
などと言う不安は一気に吹き飛んだ。
りんは手当たり次第に買い物をしていき、俺の財布はあっという間にすっからかんにされた。
可愛いい顔して、男を財布扱いとは。とんだデビルウーマン……いや、デビルマンレディーだな。
「誰がデビルマンレディーよ」
「あれ? 声出てた?」
俺の言葉にりんはにやりと口もとを緩めた。
俺、サトラレ? りんがサトリなのか? なわけないか。
「さあ、どうかなぁー?」
目を細め、にやりと口を緩めるりんに、俺の第六感がエマージェンシーコールを鳴らした。
女は男の心を読めると言うが、これは超能力レベルだもの。怖いもの。
そんな調子で、りんの買い物は続いていた。
買い物の最中、焼きそばの屋台を覗いた時、
「おっ! はいさーい!」
「リョウ? バイトか?」
調子のいい挨拶をしてきたのは駄菓子王子こと良太。
コテを器用に扱いながら鉄板の上に放ったそばを反しながら、つまんでは口に運び、また反す。
おいおい、商品食ってるよ。
「売り物食べちゃダメでしょ?」
「あぁ、大丈夫!」
何が大丈夫なの? いや、どうせ意味のわからん理屈を言うだけだ。ツッコむだけ無駄だな。
「ところで、大原さんもあれ出るの?」
良太が指差した先にあったのは、簡易のステージ。
「何? ライブでもやんの?」
良太は口の前に人差し指を立てると、左右に振り、ちっちっと舌を打った。
お前、リアクションが古いよ。昭和だよ、それ。
って言っても今時のリアクションなんて知らんし、興味もないけど。
「バカだなぁ。ホント、バカ!」
良太の言葉に、なぜかりんも同意するようにうなずいた。
何がどうバカなのかわからんけど、なぜりんはそこまで力一杯肯定するかなぁ。優しさが足りない。
「それで良太、何あれ?」
「サマービューティコンテストだってよ!」
サマービューティ、要するに美人コンテスト。出し物に困った町内会の苦肉の策と言ったところか。参加者が集まらなきゃおしまいだし。
「優勝者には豪華商品が出るらしいぞ!」
「へぇー、面白いじゃない。エントリーはどこで?」
すげぇ出る気満々だな。りんて実は美貌に自信があるナルシスト?
確かにクラス内で1、2を争う美形だけどもさ。
「会場横に受け付けがあるよ」
「OK!」
りんは手をひらひらさせて合図を出すと、受け付けに向かった。
「でさ、優勝商品て何?」
「日向屋の秘蔵タコヤキ粉と秘蔵あんこらしいぞ。後、甘辛だれ団子3箱。
全部、食いもんだな」
俺達男子にはいまいち引っ掛からない商品だが、花より団子。女子には豪華商品と言えるかも知れない。更に、人気の高い日向屋のものとなれば大喜びだろう。
「そろそろはじまるだろ」
「あぁ、みたい……あれ、カマ兄じゃないか?」
ステージに次々、と言っても5人ほどだが、姿を現すなかに見た顔を見付けた。
「おぉ、そう姫だよ! しかも浴衣か! 優勝決まったな!」
男が美人コンテスト? 確かに見た目は女だけどもさ、選考委員は何やってんだよ。性別くらい確認しろよな。
ステージに出て来たりんは少し恥ずかしそうにしながらも、はにかむ笑顔を集まっていた観客に送っている。
「いやー、やっぱりんは可愛いいなぁ。さすが我が彼女!
にしても、焼きそばうまいな」
「だろ! ……お前、ちゃんと金払えよ」
鉄板に乗った出来たてを直接口に運んでいたわけだが、やっぱり金取るんだ。
『サマービューティコンテスト! 第一審査! まずはかき氷早食い対決!』
いきなり王道ボケかよ。王道過ぎてツッコめないぞ、これ。
会場のテンションも微妙だし。
すると、テーブルが運ばれ、出場者にスプーンが配られた。
あれ? マジでやんの? しかも、皆やる気満々? 日向屋パワーすげぇな。すげぇけどさ、美人関係無いよね?
サマービューティコンテストと言う名の謎の大会は、第ニ審査歌唱力、第三審査水着審査を経て、優勝者が決定したわけだが……。
「ほら、リンゴ飴買ってやるから」
「……タコヤキ、あんこ……」
先程から呪文のように、りんはぶつぶつつぶやいていた。
優勝したのは圧倒的大差で奏太。りんは2位。
「リンゴ飴だぞー、大好きなリンゴ飴ー!」
「タコヤキぃ〜、あんこぉ〜。うらめしぃ〜」
あまりのショックに怨念っぽくなってきたな。
「カマ兄に言ってどっちかもらってやるから、とりあえずリンゴ飴でがまんしろ、な?」
りんは黙ってうなずくと、リンゴ飴を舐めはじめた。
「まあ、でも……楽しかったね」
りんの笑顔に俺は無意識に頭をなでなでしていた。
「よかった、よかった。それじゃ帰りますか?」
「え? 花火見て行こうよ」
打ち上がる花火は、美しくも儚く、一夏の思い出のごとし。
今年もクソ暑い夏が過ぎて行くわけだが、俺には厳しい戦いが待ち受けているのだ!
つまり宿題。1ページも終わってない山のごとく積まれた宿題。徹夜しても絶対終わらないな。
……ま、いっか。
8月.夏休み後編 夏祭りにつき おしまい |