7月.夏休み前編 海水浴場につき
サマーバケーション到来。いやー、アツがナツいねぇー、とか頭の悪い、脳みその緩いギャグをかます季節。
俺達、つまり、俺とキヨ、カマ兄は近くの海……は無いので、海水浴場に来ていた。
正確には泳げる海が無い。
東に少し行けば海はあるが、遊泳禁止。噂では、10m強のエチゼンクラゲが浜辺に打ち上げられたとか。考えるだけでもおっかねぇ。そんなのモンスターだよ。某有名ゲームのハンターに狩ってもらいたいもんだ。
そんなわけで、海水浴場はごった煮状態。まるで万国博覧会。プールに入ろうものなら、全身がふやけるまで出られない事必至だな。
プールサイドから、楽しんでいるのか、よくわからないキヨとカマ兄を見ていると、そこから少し離れた場所で何か異変に気付き目を凝らした。
「……あれ、溺れてないか?」
俺は立ち上がると、人込みを掻き分けそこへ向かった。
溺れている少女は、プールサイドからは近いが、いかんせん、人が多過ぎて辿り着けないでいるのだろう。
人を押し退け、と言うか蹴り倒しながら、ようやく溺れていた人物のところへ辿り着いた。
溺れている人の正面に立つとしがみついて来るので危険。らしいが、そんな事は知らないので正面から向かいガッツリしがみつかれた。
とは言え深さは1.6m。俺は余裕で足が下に届く。
プールサイドまで運ぶと、ようやく落ち着いたのか、表情が緩んだ。
「ありがとうございました。……あ! 木之下君!」
目の前に立つ少女は、俺を知っているようだが……。見覚えないなぁ。
「あはは、わかんないよね? 普段眼鏡だし」
長髪で眼鏡? ウチのクラスだと……
「あぁ、笹本さん?」
笹本京子。派手でもなければ、地味でもない。一般的な女子高生。クラスでは、俺の左横の席。
なんて適当すぎるか? 部活は帰宅部。書道が趣味らしく、タケいわく、人に教えられるほどらしい。
まあ、こんなもんか。
接点は、席が隣?
「木之下君は、一人で来たの?」
「姉みたいな兄と弟みたいな妹が一緒」
「変わった兄弟ねぇ」
変わった? そんなオブラート必要ないぞ。はっきり言って変だろ。
「笹本さんはあんなところで溺れる練習?」
「溺れる練習って、そんなわけないでしょ。足がツッタのよ。誰も気付かないから焦った」
「そうだなぁ。一見下手くそなバタフライ?」
「あーらら、ひどい言いようね。りんちゃんに、プールで木之下君に抱き着かれたって言っちゃおっかなぁ?」
「ごめんなさい」
などと話しながらフェンスにもたれ掛かっていると、フェンスの外側、つまりプールの外、歩道側から俺を呼ぶ声が聞こえてきた。 りんが腕組みをして、つまらなそうな顔をしている。
「東吾、家にいないと思ったらプールでデート、かしら?」
勘違い。なわけだが、こう言う時の女ってヤツはなぜだか、ひどいひねくれようなんだよな。
「あ、違うの! さっき会ったんだよ!」
「ふぅん」
ほら見た事か! ふぅん、てなにさ!? どうしたら満足だよ! いっそ、付き合ってるとか言っちまうか!? いや、落ち着け! 何一つ解決しないどころか、悪化するだけだ。
ここでの選択肢は……
A.普通に謝る
B.遊びに誘う
C.髪切った?
D.一旦CM……
個人的にはCの結果が気になるが、人生にはセーブとロードがないからなぁ。恋愛シミュレーションのように分岐セーブができないのが、リアルの厳しいところだな。
まあ、とりあえず……
「大原女史、そこは暑かろう。一緒にプールでエンジョイ、ジョイフルライフといこうぜ!」
「何が大原女史よ。……プールかぁ、たまにはいいかもねぇ」
正解ルートか。ちょっと面白みに欠けるな。
何かスパイスを……
A.笹本とイチャつく
B.先に帰る
C.最近太った?
D.一旦CM……
D以外、生命を脅かしそうだな。これやめよ。
と、バカな考えをしている間にりんが水着姿で現れた。
「……なんともコメントしずらい」
「え? 変かな?」
変と言えば変。高校生が学校以外でスクール水着って。どうなんだ? あちら側的にはアリなのか?
「りんちゃん、さすがにスクール水着はちょっと」
「そっかなぁ。でも京子みたいなの私似合わないし」
ちなみに笹本は、セパレートタイプ。グラマーであるほどセパレートが似合い、スレンダーであるほどワンピースが似合う。
とは言っても笹本はグラマーではない、まあ中間だな。りんは……ワンピースが非常に似合う。
「さっきからジロジロ、目付きがやらしいなぁ」
「彼氏なんだからいいだろ。なめ回すように見させろ!」
「それはちょっと……」
俺の言葉に、りんは眉をハの字にして困った表情を浮かべた。
彼氏と言う部分での許す心と、なめ回すと言う部分での戸惑い。
困ったような、恥じらうような様が辛抱たまら……
清美の繰り出した、たっぷり助走をつけた飛び膝蹴りが後頭部をイイカンジに打ち、別次元へ飛びかけていた意識が、地の底のように暗い、なにやら危険な方向の別次元に急降下した。
「りんさん、大丈夫?」
「清美ちゃん、奏太さんも一緒だったんだ」
「りんちゃん、その水着ステキねぇ!」
「あ、そう姫さん。そっか、そう姫の苗字木之下だっけ。あ、はじめまして。笹本京子です」
「あなたが笹本さん? 書道コンクール3年連続優勝したって聞いたわ。お近づきになれてうれしいわぁ」
「いや、そんなぁ……」
膝蹴りをかまされ、倒れた俺の頭を清美はグリグリ踏み付けてくれちゃっていた。
そんな状況にもかかわらず、一同は会話を弾ませているわけで、相変わらず蚊帳の外か……。俺の存在意義ってなんだ? 俺、いらない子?
虫の声が聞こえはじめた夕暮れ時、自宅への帰り道ある重大な事に気付いた。
「俺、結局泳いでねぇ」
……ま、いっか。
7月.夏休み前編 海水浴場につき おしまい |