6月.台風につき 前
その日は朝からやかましかった。
『――に台風19号が接近しております。住民の皆様は、決して外を出歩かないようお願いします』
有線放送からニュースから、とにかくやかましく台風情報を流しまくっていた。
2度寝を断念した俺は、欠伸をしながらリビングへ向かった。
「あら、おはよう。今日は早いのねぇ」
奏太はハスキーボイスに似つかわしくない女言葉を使いながら挨拶すると、手に持ったトーストを一口かじった。
「はよさん。……あれ、キヨは?」
「まだ寝てるんじゃないかなぁ?」
壁に掛けられた時計に目をやると、時刻は7時45分。いつもならエプロン姿で朝食を食べているわけだが。
「調子でも悪いのか?」
「トー君、様子見てきてくれる?」
「あいよ」
清美の部屋の前には、『清美の部屋』と書かれたプレートの下に、『とうごのバカは入室禁止!』と書かれた貼り紙がある。当然そんなもの守った事はない。 部屋に入ると、性格とは逆にヌイグルミがところせましと置かれている。
それらに埋もれたベッドにモゾモゾ動く物体を発見。
「キヨー、朝だぞ。起きなさいよー」
「うぅ……はぁぅ……」
なんて色っぽい声を出すんだコイツ! いかん! いかんぞ! 実の妹にトキメいては!
「キヨ、起きろ!」
布団をひっぺがすと、清美は寒そうに震えながら猫のように丸まった。
「どうした?」
「うぅ、風邪ひいたっぽい。……寒いんですけど?」
「あ、わりぃ」
顔を真っ赤にほてらせ、苦しそうに呼吸する清美を見ていると。
なんか、……興奮する。これがS心か? て、バカ! 早くカマ兄に知らせないとだな。
「そう兄、キヨ風邪みたいだ。とりあえず体温計」
「え? 風邪!? それで熱は!?」
「だから、体温計出してよ。これから計るから」
「体温計? どこにあるの?」
家事どころか、そう言った管理も全て清美がやっているわけで、つまり、
「体温計どこだー!」
「どこー!」
と、なる。
落ち着け! 体温計は後回しだ! 薬、後毛布とタオル!
そんな感じで体温計や薬探しに大慌て。なんとも情けない限りだ。
「38度6分。結構あるな」
「キヨちゃん、大丈夫? つらい? つらいよね? 私が代わってあげられたらいいんだけど……」
「病院連れてくか」
「外、台風だよ?」
運命の悪戯ってヤツか。仕方ない。なるべく暖めて、後は安静にするしかないな。
睡眠こそ風邪の特効薬。と言う事で、心配するカマ兄を引きずりながら部屋を出た。
リビングに戻ってもカマ兄はそわそわしっぱなし。気持ちはわかるが、かなりウザったい。
「落ち着けよ。薬飲んだし、すぐ良くなるだろ」
「ならなかったらどうするの!?」
「いや、どうって」
「トー君は心配じゃないの!?」
「心配だけどさ、どうしようもないし」
「薄情者っ!」
ダメだな。完全に暴走してるよ。俺がインフルエンザにかかった時なんて気絶したしな。
その時、来客を知らせるチャイムが部屋中に響き渡った。
台風の日に? どこのおバカさんだよ。
「はい」
「……おはよー」
玄関にいたのは、びしょ濡れの政一。
水もしたたる良い眼鏡。
「台風の日のわけのわからないハイテンションにまかせて、ジョギングでもしたのか?」
「なわけあるか! 図書館に本を返しに行ったんだ」
「なぜ今日?」
「今日が返却日だから」
律儀なヤツ。て言うかバカだな。明日にしたって文句言われんだろうに。
「出たはいいが、帰る途中あまりの台風の猛威に、帰宅を断念したわけだ。まあ、とりあえずシャワーでも浴びろ」
「ありがたい」
風呂場に案内し、リビングに戻ると、
『わぁぁあーー!』
『きゃあぁぁーー!』
あれ? カマ兄いないな。また清美の様子見に行ったのか? 心配するにもほどがあるぞ。
リビングに置かれたクッションに腰を下ろし、コップにポットの茶を注ぎ口に含んだその時、
「そう姫がシャワー浴びてた!」
噴いた。
だって裸族が急に現れたんだもの。そりゃあ誰だって噴くさ!
「せめて下を隠せ! お前がどれだけ見せたがりか知らんが、俺は自分のものだけで十分なんだよ!」
「誰が見せたがりだ! 風呂場にそう姫がいたんだよ!」
「そう兄は男っぽくないけど男だ!」
「顔が女なんだから仕方ないだろ!?」
仕方ないってわけわかんないよ。
とりあえずハダカメガネ族とのファーストコンタクト。ハダカメガネ族は、裸が基本なのか、しばらく裸体のまま風呂場の前に立っていたが、意を決して風呂場に突入し、数秒後、服を着て出て来た。
「服、冷たくないか?」
「仕方ない」
「お前まで風邪ひくなよ?」
「? 誰か……清美ちゃん、風邪ひいたのか?」
「まいったよ……」
「おい……ほったらかしか!? タオルとか代えてるか!?」
「代えて、ない」
「おバカ!」
タケ? お前口調変だよ? まさかオネーマン?
とか言ってる間に、清美の部屋に行っちまったよ。俺も行くか。
清美の部屋を戸を開けると、俺は絶句した。
タケ、なんて大胆なんだ。寝間着脱がしてるよ。止めるべきなのか!? そっとしておくべきなのか!?
「トーさん、見てないで手伝え! 清美ちゃん、汗びっしょりだぞ! 体拭いてあげなきゃ風邪ひどくなるぞ!」
「あ、そうか。はは、そうだよなぁ。びっくりさせるなよ!」
「何わけわからん事を。下着姿を見られるのは嫌かも知れないけど、この際仕方ない」
俺が手伝おうと、寝間着の上をはだけた調度その時、
「……ぅん?」
ナイスタイミング! マイシスター!
「きゃああぁぁぁーー!」
その後、わけを説明したのだが、なぜだか俺だけ殴られた。もちろん、グーパンチで。
そんな、6月の午前10時27分……
《続く》 |