5月.黄金週間につき 後
勉強会――
勉強会とは、一般的に出題された課題を解き、その解答の合否を確認しながら、それに対し数学ならば数式がどうだ、英語なら文法がどうだと論じ合うものを言う。つまり、答えを丸写しする行為は、勉強会に参加していると言わない。
だが、んな事は知ったこっちゃありません。俺は、写す! ただ、写すだけだ!
「東吾、答え写すのはいいけどさ、理解しなきゃ意味ないんだよ?」
「りんちゃん、真面目過ぎじゃないかなぁ?」
「そうだそうだ! 頭固すぎるんだよ! お前を今日からハードメタルヘッドりんと呼ぶ!」
「……呼べば?」
「すいませんでしたー!」
「あははは〜」
「もういいから、さっさと終わらせてカラオケ行こうよ」
「サー! イエッサー!」
と言うわけで、高速リード開始!
俺の高速技に2人は見とれてしまっているようだ。これほどの技を駆使できる者は、そうはいないだろう。
「無駄に速いわね、写すの」
「人間コピー機だね」
「バッカ! これを会得するのに、どれほど辛い修行を行ってきたか!」
「わかったから、もういいから」
いい加減にしろ! と言わんばかりの視線を向けるりん。
つまんねぇ〜。テンションガン下がりなんですけどぉ〜。
「りんちゃんよー、俺様やる気無くなっちまったよ」
「ヨっちゃんとカラオケ行ってるから、後から来なくてもいいから」
「じゃあね、トーさん!」
ちょっ? あれっ? 待ってよ! 本当に行っちまったよ!
…………待てよ。
愚かなり、りん! 色々調べてやる! タンスとか、タンスとか、タンスとか。つまり、タンスを調べてやる! めちゃめちゃ調べてやる! 子猫が悪戯するがごとくめちゃめちゃにしてやる!
俺の手がタンスに伸びた瞬間、
「財布忘れ……」
「…………。ややや! こんな時間ではないか! 拙者そろそろおいとまするでゴザル!」
立ち去ろうとする俺の手首を、りんが掴み撤退を阻止した。
「私の衣類タンスに何用か!?」
「い、いや……童心と探求心からくる行動でして、その……」
「つまり、下心全開でしょ?」
「トーさん、さよならー!」
りんは温度の感じない目を俺に向け、一歩づつ近付いて来た。それは、少し前に流行った、呪いのビデオ関係のホラーに出てきた幽霊ばりの恐怖感を感じさせる。
◆
遊戯とは、心のカンフル剤。計算、読み合い、八方美人、そんなものばかりの生活において最も重要な事である。ガス抜きが下手な人間は、とかく生きにくい世界だ。遊べる時に全力で遊べる人間こそ、立身出世するわけだ。
結局、何が言いたいのかってぇーと、俺達カラオケでエンジョイしてるわけ。宿題の内容を理解できたかどうかはともかく、終われば遊ぶ。
「次、りんだろ?」
「え? 入れてないよ?」
モニターに表示されたテロップには、
『ぐるぐる熱視線!』
一昔前に流行ったアニメのオープニングテーマ。内容は魔女っコが悪い魔女っコと戦ったり、恋をしたり、と言うもの。対象年齢は5、6才くらいか。
「りんちゃん、乙女チックだねー。あ、マイクね!」
芳江からマイクを受け取ったりんは、予想に反して歌う気満々。
ポップでキュートな音楽に合わせて青臭い歌詞が流れ、それをりんはノリノリで歌いはじめた。
「すっげえノリノリだよ? どゆことー!?」
「意外だけど、かなりウマいよね?」
「ダメだよー、りんちゃん。ここは、無理矢理歌わされるから面白いんだよ! 嫌がる相手に歌わせてこそ意味があるんだよ! S心わかってないなー!」
『知りたくもない』
りんが歌い終わり、次にモニターに表示されたのは、
『ぐるぐる熱視線!』
ぐるぐる大人気ですか!? 誰だ!
「トーさん、はい!」
ヨっちゃんかよ! 天然なところが余計タチ悪いんだよなぁ。
俺はリモコンを操作し、次の曲にジャンプさせた。
『ぐるぐる熱視線!』
「ふざけんなー! ぐるぐるしか無いの? ここのカラオケ!?」
「みんながぐるぐる歌うまで、それ以外は却下ね」
りん、お前サディストだったのか。新発見だよ。
結局、俺とヨっちゃんはぐるぐるを歌うハメになった。
因果応報。その四字熟語を身を持って知る事となった。
文字や言葉より、身で受けてこそ記憶すると言うが、まったく然り。
『ぐるぐる熱視線!』
「おいコラ、りんボッケ! 一体何回歌わせる気だ、この野郎! サディスティックにもほどがあるぞコラ! 一種の拷問だよ、コレ!?」
「……後35分ぶん」
「35分て……終わりまでぐるぐる歌わせる気か!」
「りんちゃん、さすがに飽きたよー」
「仕方ないわね」
りんはリモコンを操作し、コードを入力していく。表示されたコードは先程までと違うものだった。俺が安心してモニターを見ていると、曲名が表示された。
『ぐるぐる熱視線! REMIX.ver』
「何生意気にリミックスしてんだよ! 根本的に変わってねぇんだよ! どこの会社だよ、ぐるぐるプッシュしやがってくれてんの!」
「トーさん、はい!」
「俺!? 俺が歌うの!? ヨっちゃん歌いなさいよ!」
「えぇー、ぐるぐる飽きたもん」
「じゃあ私が歌う」
「勝手に熱唱しやがって下さい、このぐるぐる女!」
一昔前のコントだな、こりゃあ。
今日覚えたのは、数式でもなく文法でもなく、ぐるぐる熱視線! の歌詞だった。
5月.黄金週間につき
おしまい |