俺の日常につき(30/30)PDFで表示縦書き表示RDF


俺の日常につき
作:高田高



3月.俺の日常につき 最終回



 しばらくして、あずさと別れ、りんと二人きり。
 普段、こうして二人きりになる事はあるし、沈黙なままの事もある。
 それは別に重苦しい沈黙ではなく、凪というヤツである。
 凪ってのは、波一つ無い穏やかな海を言うわけで、つまり穏やかな場面の意。 しかし、現在の沈黙はなんともはや、息がつまるって言うか息出来ない。窒息しそう。

「あの、りん、」

「東吾」

 つぶやくように俺の名前を呼ぶと、りんは俺の背中側から力強く抱き着いて来た。
 風すら吹き抜けない程に密着され、立ち止まっていると、りんの声が聞こえる。なんとも小さな声。
 振り向き様に、りんの唇を奪う。それは、道端で見せるものではないくらいに熱烈なもの。
 りんの苛々の理由は、なんて事はない、不安だったんだろう。
 高校生3年。
 モラトリアムのラストタイム。このラインの先にあるのは、目眩を覚えるくらいに広大なコンクリート・ジャングル。
 りんは大学に進むため、猛勉強中だとか。
 気を抜けず、しかし、去り行くモラトリアムに別れを惜しみ、積もる焦燥感。 俺は?
 俺はどうだろう。

「東吾……家、来てよ」

 招かれたりんの家は、いつも通りの内装。のはずだが、少し落ち着かない。
 リビングに置かれたいつものテーブルを挟み、向かい合うように座ると、ため息一つ。

「落ち着いたか?」

「……」

 うなずきはすれど、キョロキョロソワソワ。時計を見たり、空のコップに何度も口を付けたり、俺を見ては目を背けたりと忙しい。 挙動不審のりんて珍しいな。なんか小型犬がソワソワしてるみたいで愛らしいかも。
 りんの心情は理解してるつもりなので、キレる前に行動に移りますか。
 あ、でも、もし違ってたら……いや、違ってたって構うもんですか!
 テーブルを回ってりんの隣に座ると、肩を掴んで強引に押した倒した。まではよかったが。
 あれ? 涙?
 選択ミスか?
 このミスは命取りじゃないんですか?

「あの、ごめん……」

「なんで謝るのよ」

「だってお前、泣いてるぞ?」

 りんは自分が泣いていた事に気付いていなかったらしく、頬を伝うそれに少し驚いた風だったが、泣き顔を隠すでもなく、微笑んだ。

「東吾、好きだよ」

「俺はその好きの何倍も、りんが好きだ」

「は? ふざけてんの?」

「マジです。大マジです」

 ふざけてるようなセリフですが、俺は至って真面目です。真剣です。
 りんはくすくす笑ってるけど、これでいい。
 理由はどうあれ、泣き顔はどうにも苦手だ。
 女泣かせ? 変な称号いりませんから!

「……で、どうしたらいいんでしょうか?」

「女に聞く事じゃないでしょ!」

 押し倒しておきながら、なんて情けない事言ってんだろうねぇ? 俺。
 まあ、いっか……。


     ◆


 あの後、りんの部屋に場所を移し、まあ、ヨロシクしちゃったわけです。
 りんてば、有り得いくらい可愛いかったなぁ。って、そんな事人に話す事じゃないよな。
 しばらく寝てしまったようで、目を覚ますと、辺りをキョロキョロ。置き時計は18時を知らせている。 今更気が付いたが、りんがいない。

「あれ? りんさん?」

 まだ両親とも帰っていないのか、それとも出掛けているのか、家は静かなもの。ただ、リビングのテレビから声が聞こえる。
 当然リビングに向かうと、りんが頬杖をついて、テレビをぼーっと眺めている。

「りん?」

 俺の声が聞こえているのかいないのか、石像のように固まったまま。

「りんさーん」

「東吾」

 りんは向かいに座るように指さして指示してきたので、とりあえず正座。
 これ基本スタイル。

「どうする?」

「へ?」

 よくわからない質問に俺がほうけた声を出すと、りんは笑みを浮かべた。
 笑顔ではあるが、なぜだろう。背筋が冷たいのは、なぜだろう?

「木之下りん。案外しっくりくるよね」

「えーと、つまり?」

「まあ、急ぐ必要無いよね。大学受かってからでいいかな?」

 ドナドナが聞こえる。


     ◆


「行きますよー」

 あれから緩やかに時は流れて……

「ちょっと、待って」

 キヨは県内随一の有名校に入学し、なんだか兄弟ながら遠くに行ってしまった気がする。
 将来の夢は教師だと。
 出刃包丁持って、不良を追い掛けそうで怖いよ。

「なにそれ? 重箱?」

 カマ兄はなんと、何をどう間違ったか芸能事務所にスカウトを受け、女優として頑張っている。
 え、女優? カマ兄は男だよ? 将来的には、ヨっちゃんの旦那だよ?

「お弁当だけど? 昨日お母さんに教えてもらったの」

 ヨっちゃんとタケは大学進学のため、勉強漬け。
 たまに外でタケを見掛けるが、向こうの景色が透けて見える。
 タケ、頑張ってぇー!
 ヨっちゃんは、カマ兄に勉強を教わりながら、カマ兄の部屋にこもって奮闘している。
 ちゃんと勉強してんの? なんか18歳未満お断りな事してんじゃないの?

「ちゃんと食えるんですか?」

 良太と笹本。アイツら実は別れたらしい。理由は良太が浮気したとか。
 そんな事があっても、笹本は相変わらず明るい。
 すごいよ、笹本さん!

「大丈夫よ。……多分」

 マル先輩は売れない画家をやってる。
 明日は我が身だな。
 ただ、噂によるとアップル多丸という二つ名があるとか。
 あずさ師匠は毎日、ぶっ飛ばしてやりたいくらい元気で生意気だ。
 いや、女の子だからぶっ飛ばすとか、ないよね?

「多分じゃ困りますよー。ミートボールにチョコ入れた人の多分は怖いんですけど」

 礼子と吉野がどうしてるかは知らないけど、知りたくもないけど、冴は毎日元気ハツラツ? オフコース! みたいに元気だ。
 昨日は休みだったため、りんと冴と三人で遊園地に行ったのだが、しかしまあ、冴のタフネスは半端じゃない。
 本当に十年後、動けない体になるのか?
 今も信じられない。

「もういいから。早く行かないと遅刻するでしょ」

「はいよ」

 りんは大学進学のはずだったが突然変更、ヘタレ男の家で学生妻をしている。 高校生で人妻って、背徳的だよなぁ。イイよ。
 あ、正式に結婚したわけじゃなくて、あくまで押しかけて来ただけですよ?

「りん、将来苦労するよ?」

 俺は画家見習いをやりながら、残り一年のモラトリアムを貪る毎日。

「なんか言った?」

「いんや、空が高いなぁって……」

 今日もどうって事ない日常がはじまるわけで。



 まあ、つまるところ

 俺の日常は、

 あ、違った

 俺とりんの日常は、

 これからも続いてく

 それだけの事。


 ―俺の日常につき―

    おしまい


 はい。ようやく最終回です。あー、疲れた。    とりあえず適当にシメたからよかったかな。    それからですねぇ、反響次第では続編を考えなくもないのですが……いや、やっぱいいや。ネタ無いし。 なんによせ、読んで下さった皆様ありがとうございました!         でん助作品見掛けたら、覗いてみて下さいナ!   それでは、see you!











ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




BACK | TOP


小説家になろう