12月.クリスマスにつき 後
たかだか簡単な料理のはずが、やけに疲れる事に。 それと言うのも、りんが急にあれをやってみたい、これをやってみたいと言いだし、エリンギをバター――は無いのでマーガリンで炒めたり、目玉焼きを焼いたり、ベーコンを焼いたり、とにかく色々焼いた。
ついでに、フライパンの柄を深く持ち過ぎて手も焼いた。
「あっつぅー」
「大丈夫?」
水で手を冷やしていると、いつもなら、よそ見してるのが悪い、とか言うだけなのだが、今日はやけに優しい。
「今日は随分優しいけど、どうかしたのか?」
「え? 別にいつも通りでしょ?」
そう言いながら色々な料理の乗った皿をリビングのテーブルに運びはじめた。 特によそよそしくもなし。気のせいだろうか。
「東吾、食べるよ」
「はいよ」
カーペットに置かれたクッションに腰を下ろし、テーブル一杯に敷き詰められた料理皿を見ると、今更ながらやり過ぎた感は拭えない。
「……多い?」
「皿は多いけど、量はどれも大した事ないし、大丈夫だろ」
「「頂きます」」
25分。ようやく全皿制覇。一皿の量は少なくても、品数が多ければ結局キツイ。うん、当たり前だね。 メニュー名を並べると、クリームスパゲティー、マッシュポテトのサラダ、エリンギのマーガリン炒め、目玉焼き、野菜炒め(チンゲンサイ、パプリカ、ナス、ブロッコリー、キャベツ、ベーコン)、焼きナス、春巻、シューマイ。
合計8品目。
野菜炒めにナス使って、更に焼きナスって、お前はどんだけナス好きだよ。
仰向けに寝転がり、腹を摩っていると、りんも横に寝転がり、こちらを向いた。何かやけに視線が熱いような。
「ねぇ」
呼ぶ声にわざと振り向かず、天井を眺めていると、俺の首にりんの腕が巻き付いてきた。
急な出来事に体を起こすと、りんは寝転がったまま俺に悪戯な微笑みを浮かべている。
「意気地無し」
意気地無しか。
情けないとか意気地無しとか、彼氏に向かって言いたい放題だな。
まあ、実際そうなのだから仕方ない。
最初からこうなる事は予想してはいたが、いざとなるとなぜだろうか、気が引ける。
壊れ物注意って感じがして、いつも何気なく触れたりしていた肩や顔にすら触れられない。
「……嫌なの?」
りんは何もしようとしない俺に、いい加減痺れが切れたのか、体を起こし、睨むような悲しむような眼差しを向けた。
「嫌じゃないけど。むしろ嬉しいけど。なんだろうな、傷付けるみたいでちょっと、気が引ける」
情けないし、意気地無し。俺のためにあるような言葉だな。
再び俺の首に腕を絡め、ゆっくり体を寄せるりんを見て、覚悟を決めた。
わけだが、
来客を知らせるチャイムが、家中に響いた。
「…………」
「りん?」
しばらく見つめたままだったが、四度目のチャイムにりんはため息をつくと、玄関へ向かった。
内心ほっとしている俺は、ホントにダメなヤツだな。……ただ、彼氏彼女とかってそう言う事をしてこそなのか? 少し違う気がする。こんな考えは一歩踏み出せない、情けないヤツの言い訳にしかならないか。
『メリクリー! 一緒に騒ぎましょー!』
『いいけど。えっ? 酔ってる?』
『ジュースと間違えてリキュール飲んだんよ』
『気ぃにしないの!
……おろ? 男物の靴? さては木之下のヤローですね! 私の事フリやがって、バカヤロー!』
玄関側から聞こえてきたのは良太と京子の声。
酔ってるって、デキ上がってんじゃねぇかよ。キャラが180度違うし。
リビングに三人の足音が近付くと、勢いよく扉が開き、酔っ払いが入ってきた。
「あー! やっぱり! 木之下! なんでフルんだよー、寂しいじゃんよー」
と俺に抱き着き今度は泣き出した。
怒って、泣いて、吐いて、寝る。酔っ払いの行動パターンだ。
とりあえず酔っ払いを引き離すと、りんと良太もリビングに入り、酔っ払いをなだめはじめた。
しかし、どうも酔っ払いはりんが気に入らないのか、睨み付けている。
「りん!」
「は、はい! え?」
笹本に呼び捨てにされ、りんは相当驚いたのか、正座している。
「許さないから」
「京子……」
「絶対、幸せになってよ。でないと許さない!」
結婚式の感極まった友人みたいになったな。
幸せにって、いつの間に話が発展してたんだ? 知らないの俺だけで、すでに極秘で結婚させられてたとか。
「どうした、トーさん。頭悪そうな顔して」
「頭悪そうってお前……。 にしてもリョウと笹本が一緒って珍しいな」
俺の言葉になぜか二人の顔は赤い。
酔ってるはずなのに、笹本もしおらしい。酔いを無効化しちゃう程の質問か?
「実はな、京子と結婚する事にしたんだ」
…………?
いやいや、待てよ。今、なんて? 結婚? そんなバカな。確かに口約だけなら幼稚園児だろうが関係無いけど。
問題はそこじゃない。いや、そこか? あれー? めちゃめちゃ混乱してるよー。
「えぇ! おめでとう!」
あららー、案外すんなりだよー、この娘ったら。
りんは滅多な事じゃ動じないタイプだけど、えぇー、俺だけ変みたいじゃん。
「結婚するって言っても、高校出てからだからまだ先だけどな。
ただ、うちのばあさんが古いタイプの人間で、婚姻を決めた相手とは床をともにするべし、とかで京子は俺んちにいんのよ」
ばあさんが古いって当たり前だろ!? 新しいばあさんなんて聞いた事ないから! なんだ、あれか? 次世代ばあさんか?
しかも一つ屋根の下って風紀的にヤバヤバだろ? イワザルもびっくりだよ。
「それで、二人も結婚するんでしょ? いつ結婚するの? やっぱり高校出てすぐ?」
「えっ、と、あの……」
りんは困った顔でこちらに向くが、そんなの俺だって困るよ。
それ以前に、結婚するだのって事に対して否定しないって事は、本気なんだな。ただ、わがまま言わせてもらえるなら30くらいまでは独身がいいなぁー。
と言うわけで、
「まあ、30とかじゃないかな。社会人として落ち着いたら、みたいな」
……正論ぽいはずなのに、部屋の空気がやけに冷たいような。
俺のセーフは、世間的には3アウト、チェンジなのか?
「それじゃ、りんちゃんが可愛そうだよ。せめて20代前半でしょ?」
「男なら覚悟決めろ」
リョウ、お前は父親か。文化祭の時なんか、カマ兄に告白してたくせによぉ。 笹本もだよ。可愛そうってなんだよ。意味わかんないんですけど。
「私、25までには結婚したいんだけどなぁ?」
そんなお願いされてもなぁ! 俺に拒否権ないもんなぁ! ドナドナだよ、ドナドナ!
「そんな先の事、約束できるか。
……覚えてたら、な」
「私は絶対忘れないから」
「料理の勉強しとけよ」
「わ、わかってる」
その頃、窓の外はふわふわの雪が辺り一面を白く染めていた。
室内から差す光に照らされたそれは、まるで冬の妖精からの贈り物のように、キラキラと美しい。
ちょっと詩人ぽいかも。
にしても、胃が苦しい
12月.クリスマスにつき おしまい
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