4月.始業式につき 後
澤谷市内東部に位置するそこには、1年から3年までを合わせて700人弱の生徒を抱える、澤谷東高校がある。
近くにはコンビニがあったりと、なかなかの立地条件。
そこに通うのが、俺こと、木之下東吾。アダ名はトーさん。
歳に合わないデカイ息子や娘がたくさんいる。
校舎1階の生徒連絡板、いわゆる掲示板にクラス発表が張り出されているので、まずは確認。
これからの一年の行く末を左右しかねない、重大なものである。
「……2C、……タケに、りん、ヨっちゃん……。おいおい、またアイツらと一緒ですか!?」
「トーさん、おはよー」
何かしらの力が働いたとしか思えないクラス表を見ていると、聞き覚えのある声に振り返った。
浜岡芳江。168cmの長身が目立つ幼なじみ。
短い髪のためか、私服だと男子に間違われる事もしばしば。アダ名はヨっちゃん。
「おー、芳江か。見ないうちに大きくなって。どら、一つ成長確認を!」
怪しい手つきでにじり寄るが、芳江はまるで臆さない。と言うより、向こうからキタ。
「トーさんは、相変わらず脳内がピンクだねぇ。どう? 少しは成長したかな?」
「うぅ、凄く成長したな。トーさん、うれしいよ。だ、から、とりあえず、離して、ね?」
芳江に全力で抱きしめられ、危うく朝食と再会そうになったが、その前に拘束が解かれた。
ヨっちゃんの握力は、50を楽に超えるって噂、あながち嘘じゃない?
「あぶねぇ……。そう言えばクラス表、見たか?」
「見たよ。スゴイよね? みんな一緒だよ!?」
確率で言うと、どんなものなのか。工学科は2クラスしかないため、見慣れた顔が揃うのはわかるが、普通科は4クラス。
もっとシェイクされそうなもんだが。
「おはよ、東吾」
「はよ」
「りんちゃん! また一緒だよー!」
「そうなの?」
大原りん。三つ編みおさげと言う、今や絶滅寸前のハイカラスタイル。眼鏡をしていれば、間違いなく毎年学級委員をやらされるタイプだったのに、いかんせん! なぜ、コンタクト? しかも、視力補助用でなく、おシャレ用のカラーコンタクトですって!?
ちなみに俺の彼女。
「東吾、声出てるけど?」
「うるさい、ブルーアイ! カラコンなんと嫌いだ! お前には、メガーネが似合うんですよ!?」
「……あっそ」
冷ややかな視線を向けると、りんは芳江を連れて2年の教室がある2階へ向かって行った。
俺の愛が、メガネラブパワーが、アイツには届かない。悲しい事だ。これも神の与えたもうた試練なのだろうか!?
「トーさん、何熱弁してんだよ。警察呼ぶか? 救急車か?」
「タケ、お前だって眼鏡好きだろ?」
廊下で1人、眼鏡愛を熱弁していた俺に、竹本がイタイ人を見る目で声を掛けてきた。
竹本政一。装備されたナイスメガネから、インドア派に思われがちだが、バスケットボール部に所属するアグレッシブメガネ。さらには、頭も良く、試験において常に学年トップをマークする、パーフェクトメガネなのだ。
「メガネ、メガネ気持ち悪いぞ。だいたいそんなにメガネ好きでもないだろ?」
「……だな」
◆
始業式と言えば、クソ寒い体育館で行われる、行事なわけだが、寒さに耐えながら聞く校長のありがたーい説教は、コレ、寺の修行ですか? と、本気でツッコミたくなる。
「続きまして、今年入られた新任教師を紹介します」
新任教師紹介なんていりませんから、さっさと暖かい教室に戻らせて下さいと、誰もが思ったはずだ。 んな事は、教師同士で慎ましやかにやりやがって欲しいもんだ。
まあ、ぐだぐだ言ってるうちにようやく始業式が終わった。
「続きまして、生徒指導部から連絡があります」
フェイントか!?
◆
教室に戻り、なんちゃら委員やらを適当に決め、ようやくつまらないホームルームが終了し、俺はさっさと家に帰ろうと席を立ち上がった。
そこに現れたのはブルーコンタクトのりん。
「東吾」
「どうした、ブルーアイ」
「……」
「調子乗りすぎました。ごめんなさい」
「日向屋のタコ焼き……」
日向屋のタコ焼きは、おいしいと評判で、女子の機嫌を直すマジックアイテム。280円で関係修復できればなんとも安いものだ。
「……を3箱」
そうだな。お約束だな。なに、たいした事はない。それくらいなら余裕。
「後、タイヤキ2つ」
「お前そんなに食わないじゃない? 今日は、大食い神が降りる日なのか?」
「そうなのよー」
そんな事をしていると、芳江と竹本が寄って来た。仲良しグループ、ここに完全集結!
「トーさん、りんちゃん、一緒に帰ろ!」
「なんか、1年の頃と変わらないな、僕達」
「ま、腐れ縁ってヤツじゃね?」
「腐れ縁て、あまり良い印象ないんだけど」
4人の絆は永遠。
決して消えない友情。
俺達はそう思ってた、あの日が来るまでは……!
「……なんつって」
「トーさん、どしたの?」
「いや、別に。それじゃ帰りますかね」
「僕、途中本屋寄るから」
「私も問題集買ってこ」
「あんま勉強しすぎると、脳が成長して、頭から子供が生まれるらしいぞ!」
「東吾……保険証持ってる?」
4月.始業式につき
おしまい |