11月.文化祭につき その五
あれから一階をくまなく探したがりんは発見できず、探索は行き詰まっていた。となると、二階、三階、外の出し物か、各部活の出し物、それか体育館。
しかし、二階、三階は除外。もう階段上るの面倒だから。
とりあえず、一階と体育館を繋ぐ渡り廊下に向かう事にした。
渡り廊下では出し物の案内板があり、次はどこに行くかを相談し合う人で込み合っている。
「まいったなぁ、ケータイ使えないのがイタイよなぁ」
体育祭や文化祭の間は置き忘れを防ぐため、携帯電話の使用を全面禁止している。禁止とは言っても罰則がないので、使う人は使うんですけどね。
人込みの中を手を振りながら、こちらに近付く女子生徒が見えた。
「木之下君、どうしたの? 迷子?」
「笹本さん、とあずさも一緒か」
「さっきまでりんちゃんも一緒だったんだけどね」
「りん? 探してたんだけど、どこ行った?」
「クレープ屋、竹本君と交代するって。用事だったの?」
骨折り損のくたびれ儲け。探す必要なかったわけか。こう言う時って、一気に疲れがくるよなぁ。
「先輩、暇なら一緒に回りませんか? 映研がなにかやるらしいですよ」
映研とは言わずもがな、映画研究部の略だが、自作映画とか作ってるわけだから、映画撮影部じゃないのか? 映撮じゃ語呂が悪いからか?
「11時から1回目の上映だって」
「11時? あと20分か。まあ暇だし行ってみますか」
「あのぅ、もしかして私はお邪魔虫ですか?」
「そ、そんな事ないよ。ねぇ?」
「お前が誘ったんだろがよ。つか、あれだよ? 変な気使われると、困るんですけど」
あずさはどうにかして、俺と笹本をくっつけたいらしい。純粋に笹本の幸せを願っての事ではなく、恐らく面白いからだろう。
「先輩は京子姉の事、笹本さんて呼ぶんですね。随分他人行儀じゃないですか?」
「なんだよ、変か? 笹本ちゃんとか?」
「呼び捨てでいいんじゃないですか?」
「ちょっと、あずさ」
笹本はあずさを止めようとはしているが、本気で止める気はないらしく、表情がにやけている。
さん付けだと確かに他人行儀過ぎるかもな。ここはあずさの提案に乗ってやるか。
「呼び捨てか。それでもいい?」
「う、うん……」
「じゃあ、早速呼び捨てで呼んでみて下さいよ」
「名前だけ呼ぶの? 意味わかんないし、恥ずかしいんですけど?」
「さすがに名前だけ呼ばれても、困るよ」
「付き合いはじめたばかりのカップルみたいな事言わないで下さいよ。見てるこっちが恥ずかしいんですけど?」
「お前が言ったんだろがよ!」
あずさにおもちゃにされながらやって来たのは、体育館。
文化祭での体育館利用率は高く、朝からずっと劇やら吹奏楽やらが使っている。
暗幕で閉じられ、体育館の照明だけが照らす中、最前列に座り、しばし上映を待つ事となった。
「でさ、何やるの?」
「アニメみたい。赤ずきんちゃん」
高校生が赤ずきんちゃん? すごいな。すごいチャレンジ精神だな。客足があまりよろしくないのはそのせいか。
体育館の照明がおとされ、正面の幕が開いた。
『あるところに、心優しい少女が住んでおりました。 少女はいつもお気に入りの赤いずきんを被っているので、村のみんなから赤ずきんちゃんと呼ばれていました……』
そうか、赤ずきんちゃんて、あれ名前じゃないもんな。てか村のみんなどころか母親も名前で呼んでないよな。村ぐるみでイジメ?
『……おばあさんは、布団を顔まで被っていました。 おばあさん、おばあさんの耳はどうしてそんなに大きいの?
それはね、お前の声を……、
とその時、赤ずきんちゃんの持っていたカゴから軽快なポップスが流れてきました』
え? 赤ずきんちゃん年のわりに、流行りに敏感? じゃなくて、話の流れが……
『赤ずきんちゃんは、カゴから携帯電話を取り出し、おばあさんに一礼すると、小屋を出ました。
あ、マー君。今? なんかぁ、ばばあの見舞いみたいなぁ、マジうぜえって言うか、マジだりぃんですけどぉみたいな?
え? ヨシオとユキが? マジ!? 行く行く! んじゃ!
通話を終えると、赤ずきんちゃんはおばあさんに挨拶し、友人との待ち合わせ場所に向かいました。
お陰で赤ずきんちゃんは狼に食べられずに済んだのでした。
めでたし、めでたし』
スクリーンにFINの文字が映され、体育館の照明がついた。
しかし、誰一人席を立つ者はいない。
「スレた赤ずきんちゃんだな……」
「赤ずきんちゃんじゃなくて、コギャルちゃんじゃないの、これ?」
「狼に食べられたおばあさん丸無視だったね」
作品に対する意見は必ず賛否するものだが、これに対しての意見は誰もが、終わってしばらく立ち上がれない、と言うだろう。
マー君て誰だよ。
その後、俺達は2−Aに向かう事にした。2−Aとは例の闇鍋状態の仮装喫茶。
「奏太さんがチャイナドレス? 楽しみー」
「兄なんだけどね」
「普段の制服姿もすごくステキですよね」
「男なのに、女子の着てるけどね」
恐らくとんでもない事になっているだろう2−Aの戸を開けると、
「いらっしゃいませ、ご主人様ー」
出迎えたのは犬耳メイド服姿の女子生徒。誰かは知らないが、2−Aの生徒だろう。
「おー! 可愛いい!」
「猫耳じゃないんですね」
「これからは垂れ気味が可愛いい犬耳の時代なんだって」
笹本とあずさは犬耳メイドに早くも食いついたようだが、俺はチャイナの兄がどうなっているか気になってそれどころではない。
「チャイナドレスがいないんだけど」
「あぁ、奏太さん? あそこにいるのがそうだよ」
犬耳メイドが指差した先にいたのは、チャイナドレスどころではない格好の兄だった。
俺に気付いたらしく、奏太は着慣れない服によろけながらこちらに近付いて来た。
「どうかな、これ?」
「十二単? ここは大奥か? チャイナドレスはどうしたよ」
「浜岡さんが着てるわよ」
ヨっちゃんみたいに背の高い人にはチャイナドレスは似合うよな。多分着たかったんだな、チャイナドレス。
「今休憩中で出し物回ってると思うけど」
「チャイナドレスで?」
「そうよ? 着替えるの面倒でしょ? 私もこの格好で回ったから」
チャイナドレスはまだしも、十二単で学校中回ったのかよ。着替えるの面倒なのはわかるけど……。
「そう言えば竹本君が探してたわよ? 幽霊屋敷見つけたからどうかなぁって、トー君幽霊屋敷好きでしょ?」
幽霊屋敷って、まさかアレか? 幽霊少女と顔見知りになっちまったから、もう怖くないしなぁ。
とりあえずタケ探すか。て、なんか人探しばっかしてるな、俺。
「笹本、あずさ、俺タケ探すから」
「あ、うん」
「はーい」
残った二人は犬耳メイドに案内され、窓際の席につくと、あずさはにやけた表情で京子を見た。
「笹本だって。よかったね、京子姉。一歩前進?」
あずさの冷やかしの一言に、京子は悲しげに微笑むと、窓の外を眺めた。
「どれだけ前進しても、彼女にはなれないけど、ね」
「京子姉……」
《続く》 |