11月.文化祭につき その四
文化祭当日。文化祭がかぶらない他校の生徒も訪れたりして、会場は大賑わい。
一番人気は3−Dのケーキ屋。担任教師は若い頃パティシエを数年やっていたらしく、味は本物。
二番は1−Aのテイクアウトのみのドリンクショップ。ファーストフード店が使うようなフタ付きの紙コップ、あれを問屋に頼んでわざわざ取り寄せたらしい。
お前ら、頑張り過ぎだ。 三番は、なんと我がクラスのクレープ屋。タケと二人のサポーターの計三人で奮闘しているようだ。
頑張れ、タケ!
俺はと言うと、出し物を手伝うでもなく、ふらふら店を回っていた。
「あ、1−Dは幽霊屋敷か! よっしゃ、突入」
どうでもいい話だが、俺は幽霊屋敷が好きだ。幽霊は苦手なんですけど、幽霊の屋敷は好きです。
あれ? おかしな事言ってるか?
ともかく、幽霊屋敷に入ったわけだが。
「……休憩時間?」
入ったはいいが、幽霊どころかただ暗いだけ。暗いだけの教室。
「……出よ」
教室の出口側の戸を開けようとしたが、なぜか開かない。
「……?」
がたがたやっていると、後から、ひたひた足音がしてきた。くっきり聞こえる事から、恐らく録音したのを流しているんだろうけど。
ひた……
ひた……
ひた……
な、なんだ? とくに何もないはずなのになぜだか怖いんですけど。
しかも出口が開かねぇ!
ひた……
ひた…………
足音、止まった?
振り返っても、当然何も無い。と思ったら急に出口の戸が開いた。
「……え? 終わり? 出ていいの?」
『ばいばーい』
録音されたテープから聞こえた少女の声に、言い表せない恐怖を感じ、俺は逃げるように出口を出た。
「なにこれ? よくわかんないけど、かなり怖かったよ! なんで怖かったのかわかんないとこが、余計怖いよ!」
開いたままの教室を見るとそこには、ところどころ黒いシミのある、ボロボロの大人サイズの白い上着を着た、長い前髪で顔を隠す少女が手を振って立っていた。
俺は引きつった笑顔で少女に手を振りながら、早足でそこを離れた。て言うか逃げた。
「あー……ビビった。貞子だよ、あれ。録音だってわかってて、なんであんなビビっちゃうんだろうなぁ」
俺は1−Aで買ったコーラ片手に、外の出し物を見て回った。
「よー、バカ兄貴」
通り掛かったのは我がクラスの出し物、クレープ屋。嘘で言ったはずなのに、清美は例の格好で売り子をしていた。
「売れ行きは?」
「結構売れてるよ」
「おぉ、トーさん。手伝いに来たのか?」
政一は手早くクレープ生地を量産している。鉄板に生地を適量垂らし、ヘラを器用に回して円形に伸ばしていく。
クレープ三級は伊達じゃないな。
「んじゃ、売り上げに貢献してやるよ」
「百枚?」
「それの百分の1で」
「政一、一万だって。出来る?」
「百倍すんなよ! 1つでいいんだよ!」
「せっこー」
清美は屋台の裏側に回ると、作り置きしてあるクレープに色々とトッピングし、俺に渡した。
「まるごとバナナ?」
トッピングしてるように見えたのは気のせいか。
「普通はハーフスライスだけど、特別一本な」
「これじゃお前、バナナ食ってるだけじゃねえかよ。 味は? チョコソースとか無いの?」
「チョコソース、生クリーム、チリソース、ブラックペッパー、あと、タバスコもあるけど、どれがいい?」
後半三つは恐らく俺用のものだろうな。チョコソース頼んでもタバスコとかやりそう。必ずやるだろう。
「チョコソースで」
「はい」
手渡されたのは、チョコソース。
おや? 普通にチョコソースがきた。っつかセルフなの、ここ?
「やけに素直にチョコソースが出てきたな。タバスコがくると思ったんだが」
「だって、政一が作ったものだから、マズイとか言われたくないし」
あららー、随分可愛い事言うようになったな。
て言うか、それならなんでタバスコとか言ったんだよ。必要ないよね?
とりあえず俺は、チョコソースをたっぷりかけて、クレープ(8割バナナ)にかぶりついた。
「どう?」
「うまいバナナだな。バナナだよ、これ。バナナ率高すぎなんだよ、これ。他にフルーツなかったわけ?」
「あるよ」
手渡されたのはキウイ。皮に果肉を保護されたキウイ。まるごとどころか、皮を剥いてすらない。
「清美、あんまりイジメたらダメだよ」
「うん」
清美? タケも呼び捨てかよ。確実に恋愛経験値上がってるよね。魔王とタイマンで殴り合えるくらいの経験値ですよね。
娘を彼氏に取られた父親の気分ってやつか?
さよなら、子供だった頃の清美。こんにちは、大人の階段上った清美。
「トーさん、りん呼んできてくれないか? そろそろ交代時間」
「りん? アイツ、クレープ作れるのか?」
「昨日教えたから大丈夫だ。一階を回るって言ってたから、頼むよ」
「あいよ」
と言うわけで、一階を探索する事になったわけだが、そこで俺は幽霊屋敷での恐怖体験を思い出させる出会いをする事になった。
長い髪の少女が辺りをキョロキョロしながら歩いている。服は先程のボロボロシャツではなく、花柄のワンピース。
「あ! さっきのビビり!」
「覚えてんの? 幽霊少女はこんなとこで何してんだよ?」
「幽霊少女じゃないよ。冴だよ」
「んで、冴は何してんの? 迷子か?」
冴はうなずくと、再びキョロキョロしながら歩き出した。
「待て待て! そっちは渡り廊下だ。1−Dは逆」
「1−D? 何それ?」
「幽霊屋敷。ほれ、連れてってやるから」
「うん。誘拐しないでよ」
最近のちびっ子は警戒心が強いな。結構な事なんだが、なぜだか悪い事してる気がするんですけど。
1−Dに着くと、教室の前で何かを探している女子生徒を見つけた。
女子生徒を見るなり、冴は駆け寄って行った。
「冴! 探したよ!」
「迷っちゃったの」
冴は安心したのか無邪気な笑顔を浮かべている。
それを確認し、俺はりん探索に戻る事にしたわけだが、
「兄ちゃん! ありがとねー!」
「もう迷子になるなよー」
人込みのせいで、りんのヤツも迷子になってたりして。
《続く》 |