11月.文化祭につき その三
「「ただいまー」」
「お邪魔します」
三人の声は絶妙にハーモニクスし、家中に響いた。その声に、ペタペタとスリッパの擦る音が聞こえ、現れたのはエプロン姿の清美。
「おかえり」
お邪魔します、と言う良太の声を政一の声と聞き間違えたらしく、いつもなら返事もしないくせに、わざわざ玄関まで出迎えたようだ。
「おっす」
「なんだ、良太か。出迎えまでして損した」
俺と清美と良太は、三人で出掛ける事もあるため、顔見知りで仲も良い。
「おいおい、そりゃないよ。今日はスゴイプレゼントあるんだからよ。なあ、トーさん!」
俺は段ボール箱を玄関マットの上に置くと、ガムテープをはがし、中から例の衣装を取り出した。
それを見た清美の反応は、予想通りあまり良くない。
「……なに?」
冷ややかな視線で見られるのも予想通り。
だがしかし、我々は家に帰るまでの間、ある策を思い付いていた。
「まあまあ、そう怖い顔するなって。タケがさ、出し物のクレープ屋の売り子やって欲しいんだと」
「この服で?」
「そうだよ。クレープにゴスロリ。どうよ? 案外マッチしてるっしょ?」
「ミスマッチだと思うけど」
「タケがさぁー、どうしてもって。無理にとは言えないけど、タケのヤツ楽しみにしてたからなー」
清美は衣装を手に取ると、しばらく見つめていた。 あと、一声で落ちるな。
「その格好みたらタケのヤツお前にメロメロだよ。もう一気にゴールインだよ」
言っておいてなんだけど、今時メロメロは無いよなぁ。逆にテンション下がらなきゃいいけど。
「……わかった」
それだけ言うと、清美は衣装を持って奥へ走って行った。リビングとは違うようだから自室だろうか。早速着てみるつもりなのか?
「うまくいったな」
「100%バレるけどな」
「私、知らないよ」
後でエライ事になりそうだが、是が非でも清美のゴスロリ姿を見たかったのだから仕方がない。
男には、死ぬとわかっていても、行かぬばならぬ時があるのだ。
まあ、そんなたいそうな覚悟ではないんですけどね?
あれからリビングに場所を移し、清美が着替えてくるだろう事を楽しみにしながら談笑していた。
しかし、気になる事が一つある。
「いつまでチャイナ着てるつもりだよ」
「えー、ダメ?」
「いえいえ、いいですよ! すごく似合ってますよ! こんなにチャイナが似合う人は中国にもいませんよ!」
「ありがとー」
奏太の猫撫で声に、良太は顔を真っ赤にして照れている。
もう誰がなんと言おうと、リョウにとってカマ兄は女なんだろうな。どうしようもないな、これは。
「あの、俺、いや、僕、あなたの事が……好きです」
タケに続いてリョウまでも俺がいるのも関係なく、告白しちゃったよ。臆さないところは確かに男らしいけど、出来ればそれを女に言ってやれよ。
「ごめんなさい。私、付き合ってる人いるから」
「そう、ですか……」
「え、ちょっ、待って。誰と付き合ってんの? 男? 女?」
俺の質問に奏太は、乙女のように頬を赤らめ、恥じらっている。
なんかすっげぇームカツクんですけど。
「誰よ? 早くゲロしてくんない? くねくねされると、ムカツクんだよ」
「お前、いくら兄弟だからってひどくないか?」
「あのねぇ……」
・ ・ ・ ・
「早く言えコラ! 折りたたみ式ケータイを折りたたむべき方向でない方へ折るぞ!
ミリオネアか? みのさん気取りか!?」
「落ち着け! そのケータイ俺のだから!
そんなだと、そう姫怖がって言い出せないだろ!」
とりあえずケータイを良太に返すと、腰を下ろす。今だ苛立ちが治まらず、机を人差し指でコンコン叩いていると、
「……浜岡さんと、付き合ってるの」
浜岡? 浜岡……。
誰だっけ。男だっけ、女だっけ。いや、待て、確かヨっちゃんの名字浜岡だったような……。
「え? ヨっちゃん?」
「ヨっちゃんて、芳江? え? だってヨっちゃん女だよ?」
いや、合ってるから。生物学上正解だから。カマ兄は男だから。
しかし、そうか。女性に対して恋愛感情あったんだな。安心したよ。
「いつから付き合ってたんですか?」
「えーと、先月かな?」
「先月? 不思議の国に迷い込んだ日?」
「なんだよそれ? 澤谷に不思議の国への入り口があんのか?」
「アーケードにあるケーキ屋がカオスゲートだ、気を付けろ」
不思議の国に迷い込んだ影響で、男性としての性に目覚めたのか。捨てたもんじゃないな、カオスゲート。しかし、兄弟が親友の彼氏彼女って微妙な感覚だなぁ。
「待てよ。2−Aは仮装喫茶なんだよな。
まさか、そう兄その格好って!?」
「浜岡さんにどうしてもって、頼まれたの。3年は文化祭参加自由だし、ウチのクラス出し物無いから、調度いいかなぁーって」
彼氏がチャイナドレスってどうなのよ。ヨっちゃんも変わった趣味してるよなぁ。二人が並ぶとヨっちゃんが彼氏でカマ兄が彼女だもの。
とか考えていると、リビングの戸を開け、世界色を一気に塗り替える姿の清美が入って来た。
黒を基調としたシックなデザインながら、ところどころにあしらわれたフリルが可愛いらしさをアピールしている。
思った通り、びっくりするくらい似合ってる。
「やっぱり恥ずかしいなぁ、これ。この格好で売り子するのか? 政一の頼みじゃなきゃ絶対やらないよ」
「政一? おいおい、いつから呼び捨てするようになったんだよ? 服なんかよりそっちの方が気になるんですけど!?
そう言う関係になっちまったのか! ただれた関係になっちまったのか! 俺は許さ、」
「バカ兄貴! 今すぐ冥府へ案内してやるよ!」
清美は飛び蹴りを俺の顔面に叩き込むと、瞬時に背後に回り、チョークスリーパーホールドを仕掛けてきた。
「ゴスロリの、妹に……絞め落とさ、れるなら……ほん、もう……だ」
「キヨちゃん、ブレイク! ブレイク! それ以上やると本当にイっちゃうから!」
「トー君、目閉じたらダメよ!」
さらば、すばらしきこの世界――
なんやかんやで準備は終了し、ようやく文化祭当日を迎える事となった。
《続く》
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