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俺の日常につき
作:高田高



10月[延].情けない俺につき 前



 部屋に置かれたデジタルの置き時計に目を向けると、時刻は13時24分。いや、今25分になりました。
 あの後、俺はバカ兄弟をほったらかして家に帰って来ていた。正確には忘れていた。正直それどころではない。

「……出ない、か」

 笹本に電話を掛ける事3度目、仕事中なのだろうか、コールに気付かないようだ。電源を切っているのか、休憩室に置いているのか、仕事とプライベートを分けるとは、なかなかにしっかり者だな。

「……なんで帰って来ちまったんだ。仕事中だろうが、はっきり言うべきだったんだよ!」

 とその時、ケータイの着信音に気付きスライド式の上ブタを手慣れた手つきで操作すると、通話相手を確認したが、登録されていないどころか、ケータイ番号ですらない。

「間違えか?」

 3、4回コールを無視したが、止む事はない。つまり間違いではないわけだ。

「もしもし?」

『あ、やっと出てくれたよ。誰かわかる?』

 これは、あれだな。むかーし、昔あった、後から近付き目を隠す、だーれだ? みたいなやつだ。時代がデジタルに変わってもこんなレトロな事できるんだなぁ、と思う俺なのであった。

「笹本さん、でしょ? つか、ケータイ番号じゃないんだけど。店の電話?」

『ケータイ、家に忘れた。ところで、休憩室に財布落ちてたんだけど、木之下君のじゃないかな』

 財布……?
 辺りを適当に探るが、それらしい物は見当たらない。ズボンに突っ込んだ財布が邪魔だったから座敷に置いて、そのまま忘れて来たわけだ。

「俺のだ……。
 今から行くわ」

『あのぅ、さあ、今時財布に彼女の写真入れるの、止めた方が……』

 しまったぁー! 高校の入学式で親が撮った、りんとのツーショット写真入れたままだっけか!?

「すぐ行くから、それ以上探るなよ!」

『はいはい』

 笹本が電話を切ったのを確認すると、俺は店に戻る事になってしまったわけだが、これは好機だ。
 俺は家を出ると、調度帰宅したバカ兄弟と対面したわけだが、愚痴とか全部無視! 今はそれどころではない!


     ◆


 やって参りました、店の裏。休憩室の事ではなく裏口側の通り。
 なんか雰囲気的に言えば、体育館の裏みたいですごくヤバイんですけど。体育館裏、とか校舎裏、とかあれ、呼び出すためにあるような立地条件だよな。告白かカツアゲのためにあるとしか思えないもの。

「はい、これ」

「あぁ、助かった」

 笹本は笑顔で俺に財布を渡した。その笑顔はなんて事はない、普段の笑顔だが、あんな話を聞かされた後だと妙に意識してしまう。 それは良いとして。とにかく、伝えねば。

「「あの、」」

 ラブコメみたいなハモりかただな。
 しかし、これはマズイ。笹本は恐らく、付き合って下さい、的な事を言う気に違いない。だって、なんか気恥ずかしそうにしてるもの。

「あの、木之下君、」

「待った!」

「えぇ!?」

 笹本は俺のウェイトコールに驚きの表情を浮かべていた。
 当然だな。話出しを止められるなんて事は、実生活であまりない事だ。なにより失礼。
 だがしかし、俺は笹本が言うであろう言葉を聞くわけにはいかない。こちらも必死なんです。

「あのな、笹本、」

「私、好きだから! あなたの事、りんちゃんよりずっと好きだから!」

「……俺は、」

 情けないヤツだ、俺は。涙目になってまで自分の気持ちを伝える笹本に、言葉がつまる。
 なんて言えばいい?
 簡単だ、りんが好きだから、お前とは付き合えない。簡単だ。簡単過ぎだ。そんな簡単な一言で、笹本の気持ちをポイ捨てしていいもんなのか? だけど結局俺は笹本を選ばない。それなら今だろうが後だろうが同じ事だろ?
 笹本は俺の返事を待っているのか、うつむいたまま。どんな返事がくるのかわかっているのか、少し震えている。

「俺は、りんが好きだから……ごめん」

「……」

 笹本は顔を上げない。泣き顔を見られてたくないのだろう。
 泣くのは恋愛の駆け引きにおいて卑怯な技だと言う者がいる。
 俺はそう思わない。
 だって、泣きたいなら泣けばいいだろ?
 要はその涙が本物かどうかの違いだ。

「ごめんね。泣かれたら、困っちゃうよね? ……ごめんね」

 前言撤回。やっぱ卑怯だ。こんな辛そうに泣かれたら抱きしめたくならないわけがない! が、しかし! そんな事したら結局笹本を受け入れた事になるのではないか?
 当然二股とか考えてない。もしバレたら、りんにバラされてお魚のエサにされるだろう。
 とか考えていたわけだが、男はバカな生き物だ。知らないうちに、俺は笹本を抱きしめていた。それはもう、お前を離さないよ、的なくらいにホールドしている。あー、やっちゃったね、俺。

「……木之下君。結局どっちなの?」

 笹本の声は普段と違い随分低い。
 そりゃあ怒るよね。フっておいてこんな事したら。

「いや、なんか、つい。……ごめん」

「……もういいよ。
 はぁ……。なんかスッキリしたし」

 笹本の笑顔に俺は作り笑いで返した。笹本の向ける笑顔はまるで、泣いているようで……。

「もし、りんちゃんと付き合う前に私が……。
 バカらしい。止めた。
 ……じゃあね」

 仕事場に戻る笹本の肩は僅かに震えていた。
 スッキリした? どこがだよ。未練ドロドロじゃねぇか。呪い殺しそうな程じゃねぇかよ。
 でも、俺は笹本に呪い殺されても文句言えないよな。


     ◆


 現在18時11分。
 その日はまるで落ち着かず、部屋でゴロゴロしたり、リビングで何度もチャンネル変えたり、空のコーヒーのペットボトルに醤油入れたり、それを知らずに飲んで、勢いよく噴射する清美の姿に大笑いしたり……別に悩んでないな。
 自室に戻ると、ケータイのライトがチカチカ光っていた。メールの着信を知らせる合図だ。

「りんか?」

 メールの件名は『無題』。りんはよっぼどでない限り件名を入れる。

『件名 無題

 今日はごめんね』

 笹本からだ。
 ごめんね、か。謝ってばっかだな。
 ……りんと付き合う前に、笹本に告白されてたら……、バカらしい。止めよ。


 そんな、10月の午後……。


《続く》












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