4月.始業式につき 前
7時15分。枕元の目覚まし時計が、爆音を響かせ、俺は耳を塞ぎ、布団に潜り込んだ。
「兄貴、時計鳴ってるよ〜。うるさいから止めろ〜」
部屋の戸をノックしながら、注意されるも、俺は立て篭もり犯のごとき粘り強さで戦う。
ふっ、ヤツはそろそろ力の限界。そら、鳴き声が止みはじめおったわっ!
つまり、俺の勝ちっ……
「うるせぇからさっさと止めろバカ兄貴!」
2度寝に突入しようとした瞬間、部屋の戸が蹴り開けられた。ドラマの警察突入シーンばりの勢いだ。
「……なんだよ、うるせぇなぁ」
俺は寝癖が物凄い状態の頭をぽりぽり掻きながら、起き上がった。
戸を蹴り飛ばしやがりながら、突入しやがってくれたコイツは、妹の清美。
妹、なわけだが、男モノの学制服を着込み、髪は肩にかかる程度の流さのため、一見カワイイ系男子。実際、女子生徒にかなり人気がある。
「今日は始業式だぞ。さっさと起きて支度しろよ!」
「始業式〜? あんなもん時間の無駄だ。式に出る暇があるなら、ちったぁ女を磨きやがれマイシスター!」
ドロップキックが綺麗に顔面にヒット。
清美共々ベッドに倒れ込むと、その場に更に面倒な人物が現れた。
「きょ、きょきょきょきょ、兄弟でそんなっ! しかも朝からなんてっ! 姉さん、ショック!」
今時レアレティの高い正統派リアクションをしやがっているのは、兄の奏太。 兄、なわけだが、ブレザータイプの女子制服を着込み、髪は長く伸ばしたモノをポニーテールにしている。ハスキーボイスと美麗な容姿がウケ、同性からの人気は学級イチ。
説明はいらないと思うが、俺の兄弟はオカマとオナベなわけだ。
後は何? オタマがあれば完璧ですか、この野郎!
「何がショックだよ。おいキヨ、準備するからいい加減離れやがって下さい」
ドロップキック後、覆いかぶさって来ていた清美は、俺に抱き着いたまま寝息を立てていた。清美の特殊能力の一つで、何かに抱き着くと数秒で眠りつく。
抱き着いた清美を、物凄い吸引力でへばり付くタコを剥がすし取るように引っぺがすと、2人を部屋から追い出し、
2度寝、開始!
「寝んなっ!」
ベテラン芸人並に間を間違えない我が妹は、再び怒鳴り込んで来た。
なぜバレた? まさかデビルアイは透視力?
……んな事より、寝る。 昔の人は良い事を言う。
『なぜ寝るのか、そこに枕があるから』
ふっ…………寝よ。
「仕方ないわねぇ、姉さんのモーニングラブキッスで起こしてあげる」
「今日もサイコーの天気ですなぁ! さぁ、着替えて始業式に行かねば!」
0.1秒。世界跳び起き選手権公式記録の新記録をたたき出す勢いで体を起こし、空に昇るまぶしいあんちくしょーを眺めた。 まぶしい太陽だな、今日は一段と。
「バカ兄貴、時間無いぞ。さっさと支度して、飯食おうぜよ」
「ぜよ、ってなんだよ?」
「もお、いいから着替えましょーね? ほら、手伝ってあげるから」
そう言うと、寝間着として着ているジャージの下に手を伸ばし、一気に、
「きゃあああぁぁ(俺)」
下着ごとイったのは、もはやお約束。
◆
俺達はなんだかんだで、ようやく食卓についた。
壁に掛けられた時計に目を向けると、すでに55分。起きてから朝食を頂くまでに40分。何やってんだか。
朝食は、トーストに目玉焼き、付け合わせのサラダ。
トーストを口一杯に頬張ると、ティーカップに注がれたコーヒーを飲み干す。
噴射!
「何やってんだよ、バカ兄貴!」
「バカはてめぇ様ですよ! ウチはいつから麺ツユをコーヒーと呼ぶようになりやがったんでしょうか!?」
「……ソーリー」
清美は軽く謝ると、にやりとさせた。
トラップとは、我が妹ながら恐ろしい。家事全般を清美が仕切っているため、こんな事は日常茶飯事。
ここは、落ち着いて、
「しかし兄貴の胃は頑丈だよなぁ、兄貴の食った目玉焼きの卵、2年前のヤツだよ? 心頭滅却すれば、胃もまた強し!」
「……いや、待て……2年前ですって?」
「冗談よ。もお、清美ったら子供みたいな嘘ついちゃダメよ?」
可愛いげの無い冗談をつきやがる。とりあえず、冷蔵庫にあるコーヒーを……あれ? ぽんぽん痛いよ? 清美に目を向けると、それは悪魔のような笑みを浮かべている。
「2年前のはトーストの方だったかな? 緑色の細菌生命体がびっしり生い茂ってたから、食べごろうだろうと。オレらのは昨日買ったヤツだからな。
兄貴のだけスペシャルメニューだぜよ?」
ぜよ、ってなんだ。
スペシャルメニューどころか、バイオ兵器じゃないか、そりゃあ!
くっ! 腸内善玉細菌が今まさに、侵入者と激戦を繰り広げている! しかし、これは、なんとも……、
「ア○ロ、(トイレに)行きまーす!」
そんな、4月の朝……
《続く》 |