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 この話の世界観は、一応幻艦記の世界です。
満州的天空軍 幻艦記外伝
作:山口多聞


 



 1943年9月 奉天飛行場
 満州の夏が終わり、冬の訪れが近づきつつある。
 奉天の飛行場は長大な舗装された滑走路を持ち、格納庫にはヒーターが備えられ、この国を作り上げた日本にある飛行場とくらべても、遜色ない、いや凌駕しさえする機能を持っているといっても過言ではなかった。
 その飛行場の一角にある駐機場の前に、満州国空軍小校(日本の少佐相当)、秋坂吉雄は立っていた。
 「秋坂隊長!」
 タバコを吹かしながら、愛機の見回りに来ていた彼に、部下である李中尉が声を掛ける。
 「李中尉か。おはよう。」
 「いよいよ今日ですね。」
 「ああ、我が満州国空軍にとって歴史に残るぞ、今日は。」
 そう言いながら、彼は愛機を眺める。
 十二式戦闘機飛龍。日本の中島飛行機が開発していたキ43を、満州飛行機が引き継いだ機体で、武装こそ20mm機関砲1基、12、7mm機関銃1基ずつと日本の零戦に比べれば貧弱だが、翼下には2基の250kg爆弾を装備可能で、戦闘爆撃機としても使える機体である。
 満州空軍にはこれ以外にもキ44や屠龍等も少数あるが、それらは主に新京の首都防空飛行団に配備されているので、この基地にはない。
 「楽しみですね。胸が高鳴りますよ。」
 李中尉が笑いながらそう言う。
 「ほう。」
 「だってそうでしょ隊長、自分達5国旗が日本人の上を飛ぶなんて痛快じゃないですか。」
 李中尉は朝鮮系である。彼にとって、今祖国を牛耳っている日本を下に見て飛ぶのは痛快ごとであろう。
 ちなみに、彼らは日本語で会話している。
 と、そこへもう1人人物がやって来た。
 「秋坂隊長、李中尉、おはようございます。」
 多少たどたどしい日本語でしゃべるその男、亡命してきた白系ロシア人、マクラフスキー曹長である。
 彼らは同じ中隊に所属しており、その中隊長が秋坂小校なのである。そして彼らは今日満州国空軍史上に残る、一大飛行に挑もうとしている。
 日本では、9月20日が航空記念日として定められている。去年、つまり1942年から国威発揚と、プロパガンダ目的に、東亜連盟所属各国空軍に記念式典参加を呼びかけるようになった。
 東亜飛行大会とよばれるこの式典に、第一回大会に満州空軍も参加した。その時は日本から供与された九七式戦闘機が参加した。
 そして、第二回大会である今年はついに国産戦闘機での参加である。そして、その派遣部隊に彼らが選ばれたのだ。
 「2人とも、今回の飛行よろしく頼むぞ。俺たちは満州国を代表して日本国民の上を飛ぶのだ。そこをしっかりわきまえてくれ。」
 「「了解!!」」
 こうして、彼らの一日が始まった。
 朝食終了後、8人の隊員がピスト(指揮所)の前に集まった。
 「今回の飛行は、諸君らにとって始めての渡洋飛行である。心してかかってくれ。」
 秋坂隊長が今回派遣される、満州空軍第二飛行大隊第一中隊から選抜された7名に対して訓示を行う。
 今回その人種構成は雑多で、日本人が3人、朝鮮人が3人、満州人と白系ロシア人1人ずつという具合である。これには宣伝効果が多分に含まれていると秋坂隊長は聞いていた。
 ちなみに、全員日本語ができる、またはある程度できる人物である。今回の飛行が日本への派遣飛行である事を考慮している。
 満州国は去年の法律改定で、主要言語は北京官話、第二言語に日本語、朝鮮語と定められている。
 「先にも伝えたが、今回の飛行コースはまず大連の海軍飛行場に飛び、そこで一端給油。その後朝鮮の京城まで飛び二度目の給油を行った後、一気に日本の広島まで飛ぶ。一応渡洋距離は小さいとはいえ、海の上を飛ぶ。我が飛龍には海上に不時着する能力は無いから、各員機体の整備を怠らぬように。以上だ。」
 「敬礼!!」
 隊員全員が敬礼する。それに秋坂隊長も返礼する。
 「各員登場せよ!!」
 その言葉とともに、隊員が愛機のもとへ向かう。秋坂隊長も自分の機体へ向かう。
 「おやじさん、機の調子は?」
 「万全だ。空中で機体トラブルなど絶対起こらん。わしが保障する。」
 日本陸軍より移籍した老齢の大橋整備長が待っていた。彼の腕は基地の全員から信頼されている。最近は慣れない中国語を駆使しつつ、後身の育成にあたっている。
 彼は機体に乗り込む。そして、機器、操縦系統に異常がないか調べる。
 異常なし。
 そして、エンジンの始動にかかった。
 「始動天把回せ!!」
 セルモーターはついてはいるが、万が一に備え手動で始動する。整備兵が取り付き回す。
 「前離れ!!」
十分な回転を得たところで、整備員が離れる。離れないとプロペラに巻き込まれるからだ。
 「点火!!」
 始動スイッチを押すと、エンジンは機嫌よく回り始めた。
 ちなみに飛龍のエンジンは1200馬力の空冷エンジンだ。
 エンジンの暖気を終えると、秋坂隊長は両手を振る。それとともに、整備兵がチョークを外した。それを確認すると、かれはブレーキを解除し機体をゆっくりと滑走路に向け進める。
 彼が列線の先頭に出ると、残りの7機も後ろに並ぶ。
 それを確認したところで、彼は管制塔に無線を入れる。
 「こちら第一中隊隊長機、発進許可願う。」
 この会話については中国語で行う。
 「了解。発進を許可する。隊長、健闘を祈ります。」
 後ろ半分は日本語であった。
 「ありがとう。」
 そして彼はスロットルを吹かす。エンジンの回転が急激に上がる。そして、ブレーキを完全に開放する。
 機体が加速する。風があったおかげで、機体は滑走路の真ん中で浮かび上がった。
 機体が浮かんで若干高度が上がったところで、脚を収納する。九七式戦から転科したばかりのころはこの動作を良く忘れた。高度1000mに上がったところで、機体をグルグル旋回させる。僚機の集合を待つためだ。
 2機、5機、7機。全機集合。
 「各機へ、V字型編隊を作り、高度をさらに4000mまで上昇せよ。編隊が完成した後針路を大連へ向ける。」
 「了解!!」
 こうして、彼らの旅が始まった。





 大連までは陸上の目印を頼りに飛ぶので、比較的余裕を持っていけた。
 大連には現在3つの飛行場がある。日本軍用の飛行場2つに、満州国軍用1つである。
 満州国軍用飛行場は海軍航空隊用で、空軍用は現在造成中である。そこで、海軍用飛行場に今回は降りる。
 満州海軍飛行隊は、渤海湾の国境警備と漁業保護、対潜哨戒を主任務としている。機材は日本から供与された零戦と96陸攻、F2Aバッファローである。
 この飛行場で、部隊は燃料を給油する。
 給油の最中、秋坂隊長は零戦隊の大脇中尉と談笑する。
 「零戦は良い機体ですよ。ただ爆装がほとんどできないのが難点ですね。」
 「飛龍は武装が貧弱なのが欠点だよ。」
 お互いの機体の性能を話し合う。
 そこへ、伝令兵が走ってきた。
 「秋坂小校、気象担当官がお呼びです。」






 「低気圧ですか?」
 「ええ、黄海上に発達した低気圧があります。それに、今日本では台風が通過中です。猛烈な気流が発生する可能性があります。」
 これは予期していない事態であった。
 「飛行を取りやめた方が良いかもしれません。」
 その言葉に、秋坂隊長が渋い顔をする。
 「それでは間に合わない。とにかく飛ぼう、もしだめなら引き返すよ。」
 「わかりました。どうか気をつけて。」
 気象官はそう言って敬礼した。
 



 その1時間後、部隊は再び空に舞い上がった。
 だが、飛びたって30分するかしないかの内に、雲いきが怪しくなってきた。
 「まずいな・・・・・」
 ここで引き返すか?とも考えるが、どうも戻るのも引け目を感じる。しかし、そうこう迷っている内に雲は四方を巻いてしまった
「隊長、どうしますか?」
 2番機の李中尉が無線で聞いてきた。その声には、若干焦りが含まれていた。
 ここで、秋坂隊長は、下手なことを答えれない。また、少しでも隊長が取り乱していると受け取られるように喋ってもいけない。どちらにしろ、大きく隊員の統制を崩しかねないからだ。彼は言葉を選びながら答えた。
 「落ち着け。とにかくもう逃げようがないんだ。これより、雲の中へ突入する。各機エンジンの出力を上げ、また機同士の感覚に注意せよ!」
 ここで彼はとにかく雲に突っ込む事にした。もはや逃げようが無いからだ。機同士の感覚を取らせるのは雲の中の風力が強い可能性があるからだ。
 だが、雲に入るのはいわば賭けに近い。もし強風が吹いている中へ突っ込めば、機体がバラバラになるからだ。
 「全機いいか?」
 「了解!!」
 隊員の意思は一つになっていた。
 そして、8機の飛龍は雲の中に突入した。
 雲の中は強風は吹いていなかった。しかし、雨は土砂降りだった。視界がほとんど聞かない。
 「こちら隊長機!全機無事か?」
 全機それにたいし返答を返してきた。幸い、無線は生きていた。
 「全機翼端灯点灯!衝突に注意せよ!」
とにかく今は衝突しないようにせねばならない。彼は矢継ぎ早に指示を出す。しかし、そこへとんでもない報告が入る。
 「隊長!!」
 「どうした!?」
 「コンパスが利きません!!」
 「!?」
 彼が計器盤を見ると、確かにコンパスがくるくる回って用をなしていない。これでは方位が全くわからない。
 「隊長!?」
 隊員の悲鳴が無線を通じて入ってくる。
 しかし、隊長としてなんとしてもここを乗り切らねばならない。
 「各機へ、とにかく僚機を見失わないようにせよ。今は雲を出るのを待つしかない。」
 彼は心を落ち着かせつつ、とにかく今考えれる命令を下すしかない。
 



 それから2時間。いつ衝突が起こらないかとひやひやしながら、とにかくひたすら耐えて雲の中を飛ぶと、ようやく雲を出た。
 「やっと出たか。」
 と安堵するのも束の間、下を見ると一面海。つまり、目指していた朝鮮半島につかなかったことになる。それどころか、今どこを飛んでいるかさえ特定できない状況になってしまった。なにせ天測用の六文儀さえ持ってないのだ。
 「隊長、どうします?」
 4番機の朴上尉が無線で聞いてきた。
 「とにかく、各機海面上に注意せよ、陸地が少しでも見えたら報告せよ。」
 コンパスが利くようになったが、下手に針路を変えるのも危険である。とにかく今は飛行時間や太陽の位置などから凡その位置を考えるしかない。
 だが、もともと陸軍出身である彼は海上飛行に慣れていなかった。地図も、良く見るのは満州や本土の地図ばかりで、黄海等が載った地図にはあまり縁がなかった。
 その頭で考えた結論は、黄海上のどこかにいるということであった。
 嵐の中を飛んだせいで、残りの燃料は3分の1程度に減っていた。
 もし燃料切れになったらそれこそ部下とともに心中となる。それだけは何とか避けたかった。そんなことを考えていると、マクラフスキー曹長の声が聞こえた。
 「隊長、陸です。右、右。」
 その言葉に顔を右に向けると、確かに右30度方向にかすかだが島影が見える。彼は即決で命令を出す。
 「全機針路変更、右30度。」
 8機の隼は針路を変えた。
 しばらくして、島影が大きくなるとともに、その島から飛行機が近づいてくるのが見えた。
 「敵機!?まさか?」
 万が一に備え、全機に機銃装填を命令しようとしたが、その時彼は気づいた。その機体が見慣れた日本の一式戦闘機に酷似していると。
 そして、無線が入る。
 「こちらは、帝国陸軍第4飛行師団那覇分遣隊。貴機の所属を答えよ。」
 なんと、沖縄の陸軍航空隊だった。
 「こちらは満州国空軍、本当にここは沖縄なのか?」
 信じられなかった。いくら嵐に流されたとはいえ、沖縄につくなんて。
 その後、彼らは事情を把握した陸軍機に誘導され沖縄の北飛行場に着陸した。
 それは奇跡であった。嵐を抜け切り、機位を失ったにもかかわらず、沖縄に全機無事で辿りつくなんて。
 彼らは皆英雄とされた。特に秋坂小校は見事絶望的状況下において隊をまとめ、見事沖縄へ導いた。
 これが、満州空軍の名を日本全国へ轟かし、戦後の満州国の地位を高める事となる。ちなみに、満州空軍第一飛行中隊の面々は沖縄で一泊した後、日本本土へ向かい、式典に参加している。もちろん、一機の脱落もなく。


 
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