ダウト
4月1日、日曜日の朝の食卓。
朝食を食べ終えた若い二人。
彼は朝刊を読みながら、彼女はテレビになんとなく目をやりながらそれぞれ食後のコーヒーを啜っていた。
「そういえば、今日はエイプリルフールだな」
記事にあったのだろうか、朝刊から目を離さず彼がボソッと呟いた。
それが聞こえたのかどうか。彼女はテレビの画面をぼんやりと見たまま暫らく黙々とカップの中のコーヒーをスプーンで掻き回していたが、やがてフト何かを決心したように立ち上がると、おもむろに彼の手から新聞を取り上げ顔を覗きこむようにして言った。
「ねぇ、これから私が私自身のことについて話すから、あなたはそれがホントかウソか当ててみて」
「と、突然なんのゲームだい?」
「いいじゃない。たまにはゲームも面白いわよ」
「オーケー。いいよ。でもキミのことならなんだってわかるから、ちゃんとゲームになるかどうか」
「凄い自信ね。じゃあ始めるわよ。まずは……私は女です」
「ハハハ、もちろんよーく知ってるよ」
「私には彼氏がいます」
「そう、今目の前に……だろ?」おどけて自分を指さす彼。
「フフフ……」彼女はイエスともノーとも言わずただ悪戯っぽく笑った。
「なんだよその笑い、気になるじゃないか」
じゃれるような彼の素振りに応えることなく彼女は続けた。
「私は同棲しています」
「そう、ここがキミとボクの棲家だよ。もう4年目だね。ははぁ、さてはそれが言いたかったんだな。
安心して。仕事も順調だし、今年こそはちゃんと籍も入れ…」
ことさら笑顔で話す彼の言葉を遮り女の問いは続く。
「私は左利きです」
「えっ、あれっ……そ、そう。並んで食事をすると肘がぶつかる」
「私はパスタが大好き」
「うん。とくに駅前のパスタ屋、『メンティトーレ』のカルボナーラには目がない」
「私は春に生まれました」
「4月21日。ちゃんと覚えてるよ」
「私はプラチナの指輪が好き」
突然始まったゲームの行きつく先がようやく理解できたようで彼に安堵の表情が浮かんだ。
「あぁ、ハハハ。こりゃ上手く誘導されたな。よしわかった。誕生日には『メンティトーレ』で食事をしよう。そしてお祝いと未来への希望を込めたプレゼントを贈らさせてもらうよ」
彼女は満面の笑みで彼に抱きついた。
「ホント? 凄いわ!本当にあなたは私のことなんでもわかるのね。大好きよ」
よしよしと言うように、彼は彼女の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。無邪気な彼女の様が可愛かった。
「おやおや。どうやらゲームはもう終りのようだね。結局ウソは一つもつかなかったな」
「あら、ウソなら今ついたわよ」
頭の手をそっと払うと、彼女はまたしても悪戯っぽく笑った。