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想いを伝えて
■イラスト小説企画『小説風景12選』<12月>■参加作品です。
 小さな村から少し離れた場所に、小さな丘がありました。
 その丘には、大きな大きなモミの木が、いつも村中を静かにみまもっています。

 春のお祭りでは、子供や女たちが着飾り、花冠をかぶって歌をうたい、華やかに踊る。
 夏には、村人たちがみんなでお酒やバーベキューで大騒ぎ。
 秋になれば、収穫物を集めて、豊作を祝う。
 そして冬。クリスマス前に大人たちがモミの木を飾りたて、一緒に聖誕祭を過ごす。

 大きな大きなモミの木は、誰からも愛されていました。

 長く長く続いている戦争の火の粉は、そんな平和に暮らしている小さな村も、見逃してはくれませんでした。
 若い男たちは兵として村を出ていきます。
 断れば、村ごとなくなってしまうかもしれない。と、小さな村をまもるために出ていきます。

 残された者たちは、戦闘機の音におびえながら戦争をにくみ、その戦争を終わらせる気のない国をにくみました。
 そして空をみあげては、同じ空の下で戦っている愛しい人たちを想い、涙しました。
 しかし、それでも季節はめぐります。
 老人や女、そして子供たちも手伝いながら畑をたがやし、生きるために作物を育てなければなりません。

 大きな大きなモミの木は、同じ場所で同じように村をみおろしていましたが、口数が少なくなってしまった村人たちは、モミの木を振り返ることも笑いかけることもありませんでした。

 冬が来て、モミの木にクリスマスの飾りをつけることに、反対する人が出てきました。
 老人たちでは、大きなモミの木にのぼることは、危ないというのです。
 女たちは、残念がる子供たちを想い、男たちがしているような大きな飾りつけは出来ないけれど、自分たちで苦労して飾りつけました。

 大きな大きなモミの木が、帰ってこない男たちに見えるように。

 誰もいなくなり、静かになったモミの木の下に、少女が一人やってきました。
 きれいに着飾っているモミの木を抱きしめて、泣きました。
 戦争に行ってしまった父が、よく連れてきてくれては、話してくれました。

「この大きなモミの木は、どんなに遠くの木ともお話が出来るんだよ。とても遠くの木に用事がある時は、他の木が協力して伝えてくれるんだ」

 戦争に行ってしまった父に、ずっと聞かされていた、モミの木の話。
 少女は、そのとき父からもらったペンダントをにぎりしめます。

 どうか。どうか大切な父に伝えて。
 無事に戻ってくることができますように。と、モミの木に祈りを伝えました。

 少女が帰った小さな丘に、少年が一人やってきました。
 綺麗に着飾ったモミの木の下に、赤い花を一本置きました。
 少年は、きれいなモミの木をみあげます。

 戦争に行ったお兄ちゃんのそばに、木があるのなら。モミの木よ、伝えてほしい。
 お母さんがお兄ちゃんのことを心配しているよ。病気は、どんどん悪くなる。
 ぼくじゃ、ダメなんだ。早く帰ってきて。どうか、どうか無事に帰ってきて。

 少年は、しばらくモミの木をみあげていましたが、モミの木はひっそりと静かにみおろしてくるだけ。
 暗くなってきた夜空には、星が悲しそうにまたたきます。
 冷たい風は、なぐさめるように少年の顔をなでました。
 ひんやりとした風に、少年はあふれてきた涙をぬぐいました。

 少年はマフラーで鼻から下をかくしながら、暗闇に包まれる前に帰らなければと振り返りました。
 たくさんの小さく揺れるオレンジ色の光が、モミの木に向かって進んできます。
 少年はみんなが自分を心配して探しにきたのかと思いました。
 しかし、その光は列を作っています。くずれることもあるけれど、ならんでいます。

 その光をながめて、少年は立ち止まりました。
 おこられることはない。と、確信に近い思いをもって、みんなを待ちました。
 村長のお爺さんが、少年をみつけて抱きしめました。
 そして、ランプを手に持った村人たちは、小麦の入った袋や花、いろいろな物をモミの木にささげていきます。
 みんなはそれぞれ、モミの木にさわったり、抱きしめたりしながら泣きました。
 モミの木を囲み、手をつないで。古くからお祭のたびにうたってきた歌を、涙で声にならないながらもみんなでうたいました。

 届け。届けと、心を込めて。
 愛しい人へ、想いを込めて。

 モミの木は、ざわりと音をたてました。
 北風が葉を揺らしたのかもしれません、リスが声を聞いてのぞきにきたのかもしれません。
 でも、村人たちは大きく喜びの声をあげました。
 お願いしますと声をそろえて。

 夜が明けても、戦争は続きます。
 しかし、村人たちの顔は不安に暮れるだけでなく、明るく顔をあげている人が増えました。
 つらいことだらけの村の中で、それでも笑顔が増えました。

 小さな村の小さな丘に、大きな大きなモミの木がありました。
 村人たちの移り変わりを、むかしから見てきました。
 なにをするでもなく、なにかができるわけでもなく。ただ変わらず静かに。
 悩みも、怒りもよく聞いてきました。
 結論は出せなくても、みんな満足そうに帰っていきます。

 しかし、寒い日の夜は村人たちのようすが違いました。
 みんなが涙を流し、モミの木に想いをたくしてきました。
 静かに聞いていたモミの木は、周りの木々に、村人たちの想いを伝えました。

 木々は戦争を止めることなどできません。
 木々は人間のように言葉を話せません。
 しかし、伝えることはできるのです。男たちが木を見て、故郷を思い出すたびに。少しずつ想いは伝わるのです。
 戦場にかり出された男たちは、実際に木を見ては大きなモミの木を思い出し、故郷に残された者たちを想いました。

 無事で帰る、絶対に。絶対に。

 そしてモミの木は、その想いを伝えるように、大きくせいいっぱい枝葉を揺らしたのでした。

読んでくださって、大変ありがとうございます!
これからも、もっと頑張ります。
イラスト小説企画『小説風景12選』
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*12月はカドタク様のイラストを元にしております。

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