早く、来ないかなぁ。
彩華ちゃん。
僕は、横にある食べかけの真っ赤で綺麗なトマトをよそに、丘のしたから僕の家にやってくるはずの綾香ちゃんをうきうきしながら待ってるんだ。
/
「マ…おかあさぁん、何で僕のお皿に乗ってるトマト多いの〜?」
台所にあわよくばつまみ食いをしようとして侵入した僕は、僕専用の淡い青色のお皿に乗ってるプチトマトをキッと睨みつけてから、ママに猛然と声を上げた。
「ん〜、ちょうど残っていたのが七個でね。やっぱり育ち盛りの隼ちゃんに一個多くしたのよ。」
ママは台所の付近で手を拭いてから、料理の仕上げにかかろうとしていてこっちのことを見もしない。
僕は怒ってるんだ。ママ、僕がトマトを嫌いなこと知ってるくせにわざと一個増やしてる。
「マ、おかあさん!きいてるの!?!」
僕のことをみて笑いすぎて顔を真っ赤にしたみたいなプチトマトのヤツ。
絶対にご飯が終わってもう使わなくなった箸で穴だらけにしてやる。
そりゃあもう穴あきチーズみたいに。
「聞いてるわよ。もう、隼ちゃんのトマト嫌いは食べず嫌いなんだから一回食べてみればいいのよ。」
やっぱりママは振り向きもしないで料理の盛り付けをはじめた。
「それにきっと、彩華ちゃんも好き嫌いしない男の子を好きだと思うな、ママは。」
「――――ッ!もういい!!!」
彩華ちゃん。
かわいくて、きれいで、びじんで、あたまがよくて、かわいくて、おしゃれな、ホントに食べちゃいたいくらい僕が大好きな沖浦彩華ちゃん。僕は一番つかれたくない左側の弱点を攻撃された空飛ぶ白い木馬みたいに、一気に台所から逃げ出した。
やっぱり、僕のハンバーグの横にはプチトマトが乗っかったままでてきた。
僕はもう断然見ないフリ。
ハンバーグはもちろん、横にあるニンジンもブロッコリーもコーンもちゃんと食べてあげるけど、トマトだけは箸でつつきもしない。
ふん。僕の脳みそにはこれからトマトは透明に見えるようにしました。
裸足で逃げ出してくださいこのトマトやろう。
そんな僕にママもお父さんも。
「好き嫌いすると強くなれないぞ。」
「このトマト甘いから、一回食べてみればきっと好きになるわよ。」
なんてホントにしつこい。
「いい。トマトを食べなきゃならない強さなんていらないもん。」
どうやら、このトマトという食べ物は甘いらしい。あんなに中まで赤いのに想像できない。
きもちわるい。
ほんとはハバネロみたいに辛いんじゃないの?
それに、トマトを切ったときの中身、あのどろどろしたゼリーみたいなの。
なにあれ。
ホントにきもちわるい。
「ごちそうさまでしたっ!」
ぱしん、とお箸をおいて僕は食器を台所にもっていく。
ママは少しだけ悲しそうな顔をしていたけど、でも、コレばっかりはママが悪いじゃないか。
少しテレビを見て、お風呂に入って、布団にもぐりこんだ。
「あ〜、神様。いるならトマトをこの世から消してください。」
そんなことをいって、僕、澤田 隼は眠りについた。
/
「隼ちゃん、朝よ〜」
蓑虫みたいに布団に包まって、太陽のビームから眼を護っていると、ぐいぐいとママが布団を引っ張ってきた。
「う〜ん。」
もっと布団に包まって、芋虫みたいにうにうに体を揺らしていたら、ずばぁんなんて勢い良く布団を吹き飛ばされてしまった。
「うん、本当にいい天気。今日は布団干すぞ〜!」
ピザ職人みたいにママは布団を片手でくるくると回し始めた。
ママ、何でママはたまにハンマーユウジロウみたいにそんな力持ちになるの?
「朝ごはんできてるから顔洗って着替えてきなさいね。」
「はぁい」
僕は顔を洗ってパジャマを脱ぎ捨てて、あっという間に食卓に着いた。
そして、愕然とした。
毎朝のご飯はトーストのはずなのに、僕のいつもの席に用意されてるご飯は全部トマト。
お皿にいつも乗ってるはずのベーコンエッグのところにはトマトの輪切り、ポテトサラダのところにはプチトマトの山、ウインナーのところには輪切りのトマト(本日二度目)、パセリのところにはトマトのヘタ、そして、一番おかしいのが。
ぴぃ〜……カション
飛び出すタイプの、ドザエもん型の焼き色がつく自慢のトースターから飛び出したのは本日三度目の正直、こんがり焼けたトマトの輪切り(ドザエもんも涙眼に見えるよ)
「なにやってんのー!」と、木馬の艦長さんが叫ぶ声が聞こえてきた気がした。
僕の後からやってきて、こぽこぽとコップに牛乳を注いだママ。
そんな異常事態演出中なのにご機嫌に鼻歌を歌ってトースターから熱そうにトーストマトをお皿に乗せて、こともなく僕の前にコトリとお皿をおいた。
「…………」
「はい、いただきま〜すっ!どうしたの隼ちゃん?まだ寝ぼけてるの?」
きょとんと僕の顔を覗き込んでくるママを見て、『実録、切れる子供たち!』という三チャンネルでやってたニュースがフラッシュバックみたいに頭にバァ〜ンと浮かんできた。
まてまて僕。
冷静さを欠いちゃだめだ。こうなったことの経緯をママに問いたださなきゃならない。
そういえばお父さんは…?
「マ…おかあさん、お父さんは、この朝ごはんを食べてお仕事に行ったの?」
「この朝ごはんって、いつもとおんなじじゃな〜い。そうよ、幸正さんは一時間くらい前にコレを食べたわよ?どうして?」
僕はママの返事を、テーブルにあごをついて突っ伏したまま聞いた。
ママはどうあってもこの事実をいつもと同じだって言い張りたいみたい。
そんな馬鹿な。
いままでだってミネストローネを残したり、コンソメ味じゃないときのロールキャベツ残したりしてきたのに(チキンライスは食べたっけそういえば。)なんで今更、昨日プチトマト三個を残したくらいでこんな仕打ちをするんだよ。
それに神様あれだけ熱心に(一度だけだったけど)昨日の夜にお願いしたじゃないか。なのに何でこんなトマトきませりな朝を迎えにゃならないんだ。
憤りの炎を鎮火すべく一気に牛乳を飲み干した。
鼻の下の白髭を男らしく親指ではじくように拭いて深呼吸。
「ママ…じゃなくておかあさん!僕食欲無いからもう学校に行くからね。」
「あら、大丈夫?もし体調が悪いならお医者さんに行く?」
「大丈夫!」
ズシンズシンとフローリングを怪獣みたいに踏みしめて、今僕はママの仕打ちに腹を立ててるんですよとアピールしながらランドセルを取りに行く。
昨日宿題があった算数のノートと教科書をランドセルにぶち込んだ。
今日は金曜日。
でも何か特別な行事があるとかで半日の三時間しかない。
少しでも早く学校に言って彩華ちゃんの顔を見溜めしないと土曜日曜と、僕は生ける屍になっちゃう。
「ほらほら、おべんとう。」
いそいそとランドセルを背負う僕の頭を押さえつけて、ママは背中でごそごそ。
よし、ずしんと響くこの重さ、お弁当がランドセルにパイルダーオンしたことに間違いない。
「いってくるから。」
朝ごはんの報復に少しだけ投げ捨てるようにいってから玄関を飛び出した。
通学班から分かれてすぐに靴を履きかえる。僕はもう速攻で上履きに履き替えて教室に向けて駆け出した。
/
教室の木目が浮いた引き戸の前で三回深呼吸。
ここで、教室のドアを開けるなりゼイゼイと息を切らしてるなんて最悪。
朝のせめぎあいが今日はどう転ぶか分からないけれど、もしものときのために暴れ狂う心臓を落ち着けた。
ガラリ。
上半期一最高にさわやかな笑顔を浮かべてドアを開ける。
教室の真ん中あたり、自分の席とその隣に視線を向けた。
とたん表情は急転直下、さわやかな笑顔は陰気のズンドコまで質を落としてから、平静の笑顔に戻る。
「おはよー、おはよー、うんおはよー」
いつも挨拶をしている友達に朝の挨拶をしながら自分の席へ。隣の席をちら見してもやっぱりまだ彩華ちゃんはきていない。
「はぁ〜〜」
一度切ないため息を漏らしてからすぐに持ち直して教科書類を引き出しに捻じ込んだ。
一時間目の算数のノートと教科書を机の上に広げておく。
ほんとはホームルームがあるから出すには早すぎるんだけど、彩華ちゃんが来たときに
「あれ?宿題忘れたの?」
「宿題ならもう終わってるんだけどちょっと、予習をね」
「わぁ、朝早く来て予習なんて隼君ステキ」
「そんなことないよ」
「もっとこっちに机寄せて私にも教えてくれる?」
「もちろんだよ」
ウフフフフフフ……アドレナリンダダ漏れ注意報発令中。
「……はよう……君?」
ウフフフフフフフフフフフ、早く彩華ちゃん来ないかな。
「ねえ!隼君!ヨダレヨダレ!」
はっとなって顔を左に直角に回すと眉をひそめて少し後ずさりしている彩華ちゃん。
なぁぁぁぁぁぁんだとぉぉぉ!?
ゴホン。
一度咳払いをして親指で男らしく涎を拭いた。
「あ、あははは彩華ちゃんおはよう。」
「う、うん。おはよう隼君。その……大丈夫なの?」
リボンで髪の毛を二つに分けている変則ツインテールの彩華ちゃん。
くりくりした綺麗な瞳で見つめられるともう僕の心臓はアイアンメイデンで拘束されたみたいにずきゅんずきゅんとときめいてしまうよ。
「だいじょぶだいじょ〜ぶ。」
「だいじょぶ、じゃないじゃん。宿題忘れてきたんでしょ。」
彩華ちゃんの視線は鋭く僕の前の閉じられたノートに突き刺さる。
「ああ、コレは違…」
「しょうがないなぁ。見せてあげるから汚さないでよね。ヨダレとかで。」
ピンク色のランドセルから可愛い口元血濡れのピンクグマがプリントされたノートを取り出して、彩華ちゃんは僕の前に。
「え、あ、うん。ありがとう。宿題忘れてどうしようかと思ってたんだ。」
こんなはずじゃなかったのに。
僕は心の中で情けない自分に、そして彩華ちゃんの優しさに流れる涙の海に浮かびながら、それを受け取って大事にノートに書き写した。
勉強が終わってお弁当の時間、向かい合いに机を動かして僕は机の上にお弁当を取り出した。
正面を見るとバスケットというおしゃれなお弁当を展開し始めている彩華ちゃん。
空ける前からその中身がハイセンスであることはうかがい知れるというもの。
でも僕のお弁当箱も捨てたもんじゃない。
包んでいる袋を広げるとお弁当箱の蓋にはスーパー合金武者・成金丸が勇ましく刀を振り上げている。
一つ深呼吸。
「じゃあ、彩華ちゃん。」
「うん。せーのっ」
ここで僕のお弁当が煮物ばっかりの地味なお弁当だったら赤っ恥。
彩華ちゃんの掛け声と共にいっしょにお弁当の蓋を開け放った。
「……………」
「サンドイッチ〜♪って、どうしたの隼君?」
「あ、うん。」
お弁当箱の中は煮物ばっかりの茶色弁当じゃなくて、ちゃんと鮮やかな色だった。
鮮やかな、赤色弁当。
もはや当然という勢いで赤はすべてトマト。
ご飯の位置にはサイコロみたいにカットされてる細かいトマト、真ん中のカリカリ梅のポジションにはプチトマト。
おかずはその他すべてさまざまな形のトマト。
――――もう虐待だよコレは。
潤む涙腺を無理やり締め上げる。
弁当の内容なんかでないている軟弱ものだなんて綾香ちゃんに思われたくないから。
そして、彩華ちゃんに見られないようにそっとお弁当の蓋を閉じようとしたとき。
「隼君、どうしたの?お弁当食べないの?嫌いなものだったとか?」
僕の様子に気付いたみたいで綾香ちゃんはお弁当を覗き込んできた。
「いやいやいや、ちがうんだよ彩華ちゃん。僕に嫌いなタベモノなんてあるわけないじゃん。ただ、僕あんまりおなかが減ってな…」
くぅ〜?
最悪のタイミングで疑問形のおなかの虫の雄叫び。
さしずめ『食べないの?』ってところ?少し静かにしてろよバカー!
「おなかなってるよ?」
「あ、あはははは。なんでだろね。」
「もしかしてダイエットとか言うの?かっこ悪いよそれ。」
少し上目遣いで苦笑する彩華ちゃん。
ちくしょぉぉそうだよって一瞬言いそうになっちゃったよ。
「ん〜。彩華ちゃんが美味しそうに食べてるのみたら急におなか減っちゃったんだよ。じゃあ、食べよっか。」
「ほんとに〜?」
いつもみたいに悪戯っぽく笑ってくれた後、ぱくりと赤いものを手に持って口に放り込む彩華ちゃん。
――――ん?
ごしごしと目をこすってみた。
そして、やっぱり相変わらず見えたのは綾香ちゃんが輪切りのトマトを手に持って口に運んでいる様子。
おかしい。
視線を落としてみた。
やっぱり、バスケットに詰まっているのはすべてトマトオンリー。
さっき、彩華ちゃんは『サンドイッチ』っていってたのに。
「ね、ねえ。そのサンドイッチさぁ…」
「ん?サンドイッチがどうかした?食べたいなら一個あげるよ〜」
でも、おかずもらうね。
なんて、弾むようなキャルンとした可愛い声で、彩華ちゃんはトマトを差し出し、代わりに僕のお弁当から一つトマトを持っていった。
「ん〜、隼君のママお料理上手だよねぇ。私今度弟子入りしようかしら。このから揚げなんか最高だよ?」
「そ、そう?でも、彩華ちゃんのおかあさんも…」
そこまで言って、渡されたサンドイッチ(だと綾香ちゃんが言うトマト)に視線を落とした。
好きな子が手渡してくれたお弁当を、たとえトマトとはいえ、まだ小学生とはいえ男の僕が食べらいでか!!
生唾を飲み込んで深呼吸してから、僕は勢い良く半分一気にかじりついた。
「ん〜っ!!」
涙がこぼれないように上を向いてガシガシ噛み砕いて、一気に飲み込んで。
「え?」
サンドイッチの味がするそのトマトは、本当に、美味しかった。
「『私のお母さんが、え?』な腕前ってこと?」
ぷぅと口を膨らませる彩華ちゃん。
可愛いけどこりゃマズイ。
あ、サンドイッチがじゃなくて。
「ち、違うよ彩華ちゃん。サンドイッチの枠を飛び越えるくらい美味しくてびっくりしたんだ。」
信じられない。
手元にある、残り半分のトマトを見下ろした。そして、残りを一気に口に放り込む。
やっぱりそれはサンドイッチの味のトマトだった。
「うん、ホントにおいしい。ありがとね彩華ちゃん。」
「え、えへへ。ホントはこのサンドイッチ私が作ったんだよ〜」
「きっと、彩華ちゃんは将来いいお嫁さんになれるね。」
僕の言葉に、はにかむように頬を染めて、にこりと彩華ちゃんは微笑んだ。
うわぁぁ、殺人級にかぁわぁいいー!!!
僕も照れくさくなって、自分のお弁当に手を付けた。全部トマトだったけど、確かにどれも違う味。
ご飯の味だったり、カリカリ梅の味だったり、から揚げだったり。
一つだけ、甘酸っぱいような知らない味があったけど、それもおいしかった。
―――もしかして、昨日の夜に神様にお願いしたから、神様が嫌いなトマトがなんだか分からないように僕の願いをかなえてくれたのかもしれない。
そう思ったら、うれしくなった。
途中喉にトマト(ほうれん草とコーンのバター炒め味)を詰まらせた僕に、しょうがないなぁって彩華ちゃんがお茶を分けてくれたからもう僕は夢見心地でお弁当を食べ終えたんだ。
「ねえ、今度の日曜日に、隼君の家に遊びにいっていい?あの、その…ほら、隼君のお母さんに料理教えてもらいたいし、さ。」
帰り際にもじもじとしながら、彩華ちゃんが僕にそういってきたときには、死んじゃってもいいって思ったくらい。
「うん!大歓迎!」
そんなやり取りをして僕はスキップしながら帰ったんだ。
「たっだいま〜!」
勢い良く玄関を開いて家に駆け込んだ。
ママはそんな僕の様子を見て、
「よかった。元気になったみたいね。お帰りなさい。」
って笑ってた。
すぐに空になった弁当箱を手渡して、今日の出来事を報告。
日曜日に綾香ちゃんが来るんだよっていったら、よかったわね。
じゃあ、とっておきの料理を彩華ちゃんに伝授しちゃうわよ〜。
ってママもうれしそうだった。
僕は部屋にランドセルを駆け足で置いてきて、すぐにまた降りてきた。
そろそろ、スーパー合金・成金丸の再放送がやるんだ。
冷蔵庫からジュースを取り出してコップに汲んで、テレビまで早足で戻る。
特等席に座布団を二枚敷いて座った。
うん、座り心地は悪くない。
てててってててててー!!
オープニングの音楽が流れ始める。
わくわく胸を躍らせて眼を見開いていると。
「あら?隼ちゃんっ」
「も〜!今歌が一番熱いところなんだから後でにしてよぉ」
「お弁当の中のプチトマトちゃんと食べたの〜?えらいじゃない。」
てってててってててっゴウゴウ!
「え?」
ママに振り向いた僕の後ろではサビに突入した『唸れ札束・救え大貧民』が流れてる。
「ね、言ったでしょ?プチトマトって甘いからきっと食べれば美味しいよって。」
そういえば、一個だけ味が分からないトマトがあったっけ。あれって、ホントのトマトだったの?
「うん、ホントに美味しかったよ。」
その日の夕飯もトマトばっかりに見えた。でも、どれも美味しかったし、それはそれで面白かった。
僕は神様ありがとうってもう一度寝る前に心の中でお礼を言っておいたんだ。
/土曜日
テレビに映る料理まですべてトマトに見えるようになっちゃった。
でも、今僕はトマトが大好きだから嫌じゃない。
なぁがぁぁぁぁい一日を終わらせて、やっと明日は綾香ちゃんが来ることになってる日曜日。
朝一番に一番お気に入りの服を着て、僕は家の前で待ってることにしようって心に決めた。
/日曜日
約束は午後二時。
僕は昨日吟味した服を着て、後で出来上がるご飯を楽しみに朝ごはんとお昼ごはんを食べないで、玄関に行ったり戻ってきたりを繰り返していた。
午後一時になってからは愛用の自転車を乗り回すフリをしながら玄関先でずぅっとまってる。
時間は、午後一時五十分。
丘を駆け上がってくる影が見えた。
「彩華ちゃん!?」
声を張り上げて一歩踏み出しかけたけど、その足は急に止まった。
目の前に丘を登って転がってきたのは、今まで見たこともないくらいにおっきなトマトだった。
ころころと転がって、僕の目の前で、そのトマトは止まった。
真っ赤で、つやつやしてて、みずみずしそうで。
きっと、彩華ちゃんがトマトになったらコレくらい綺麗なんじゃないかな、なんて思うくらいだった。
『えへへ。少し遅くなっちゃったかな。』
「早く、来ないかな。綾香ちゃん。」
―――そういえば、こんなに大きなトマトだと、どんな味がするんだろう。
いい加減おなかがすいていた僕は、ちょっとだけ自分を甘やかすことにして。
パクリ。
そのトマトにかじりついた。
―――美味しいッ!!なんだろコレ!?
僕は、歯止めが利かなくなっておなかが一杯になるまでそのトマトを食べた。
それでも、おっきすぎるトマトは半分以上のこってる。
びしょびしょになった口の周りのトマトの汁を、親指で男らしくぴんと拭って。
これじゃあ、綾香ちゃんといっぱい遊ばなきゃおなか減らないんじゃないかな。
なんて心配した。
時間は午後二時五分。
「おそいなぁ。彩華ちゃん。」
僕は、横のトマトをよそに、丘の下をじっっと見つめ続けた。
THE END
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