流れ星の願い:零・ZA・音編
グループ小説第二弾!「グループ小説」で検索すると第一弾の小説も読めます。他の先生方の小説もありますので、是非読んでみてください。
星が一つ流れていく…。
星さん…私の願い、叶えてください。
大好きなあの人と……お話がしたいのです…。
どうか…私の……願いを…。
叶えて…
* * * * *
「クルトっ! 最近、事故多いから事故んなよー!」
「気をつけて帰れよぉ〜」
「ひゃひゃひゃ! 俺は最高だぁ」
手を振りながら帰っていく、うるさい連中を見送り…
「お前等こそ、気をつけて帰れよ」
俺は一人反対に歩いていた。
酒の入った身体に、吹き抜ける夜風は妙に気持ちいい。
友達連中と、訳のわからない宴会をして気付いたら日が変わっていた。
それぞれ明日は学校なので、早めに切り上げる事になった。
まぁ…高校生が酒を飲むのはいけない事だが…。
街灯が照らす薄暗い道を、家に向かい歩いて帰る。家には誰も待って…
「そういえば…あいつの飯、用意したっけ…」
一人…いや一匹、俺の帰りを待つのがいた。こいつは、妙に女の子した顔の可愛い奴。
なんとも可愛いらしい声で鳴いている。
俺は、結構好きなんだが…どうにもそばに寄って来てくれない。
そのくせ、俺が近づかないと寂しそうに鳴くんだよな…。近づかせてもらえないけど…
俺の大切な家族なんだ。
「はぁ〜…帰ったら、可愛い女の子に『おかえりぃ〜』とか、言ってほしいもんだ」
どうやら、俺も親父の仲間入りみたいだ。変な妄想が頭に浮かんできた。
頭を振り、妄想を追い払って帰りを急ぐ。お姫様のご機嫌が悪くなっては大変だからな…。
気付けば、いつの間にやら家の前。そんなに急いだつもりはないが、無意識に早く帰ったみたいだ
酔ったために、帰宅途中の記憶がなくなったわけではないようだな。…と言うかそう願いたい。
目の前にどっしり建つ一軒家…見栄えはいいが、中身はオンボロ…。
築云十年…いつ取り壊しになってもおかしくない物件。
それが我が家で、マイホーム。ズボンのポケットから鍵を取り出し、ドアノブに挿しこみ廻す…。
「ありゃ…閉まった?」
ノブを廻すが開かない。もう一度、鍵を挿しこみ廻す。ゆっくりとノブを廻すと…開いた。
おかしい…確か、出て行く時に鍵は閉めたはずだ。それが何故、開いている?
第一、俺は今現在、一人暮らしだ。だから誰かが鍵を開けると言うことは無いはずだ。
今は誰も家にはいない。両親は可愛い息子を置いて愛の逃避行…もとい、旅行中。
未だ、ラブラブだから手におえない。
それに合鍵を持っている奴なんて家族以外いない…彼女もいない。…言ってて寂しくなってきた。
「取り合えず…侵入しますかぁ」
我が家なのに侵入とは、これいかに…と自分でツッコミながら、物音をたてずに入っていく。
玄関を入って気付いたが、確かに誰かいる気配がする。それに明らかにいる証拠がある。
「電気…ついてる」
消し忘れではない!俺はちゃんと消して出た。これでも倹約家でちょっとは有名な俺。
決して、ケチではないので誤解の無いように…。と誰に言ってるんだ?俺は…。
そんな事はどうでもいい…今は、俺の家に不法侵入している不届き者を成敗する方が先だ!
そろりと足音を消し…気配を消し、電気の付いてるリビングへと向かう。
そういえば、我が家の可愛いあの子はどうした!
まさか、いたいけなあの子にあんな事やこんな事をして…許さんぞ!お父さんは許さんぞ!
「おいコラッ!なんじゃワレはぁ〜!」
「はぅっ!」
リビングに飛び込み、思いきっり叫んだ俺の耳に届いたのは何とも小さな悲鳴だった…。
「女の……子…?」
「はぅ…あ、あああ、あの…その…」
長く綺麗な黒髪と少し切れ長の瞳。スッとした鼻と赤く艶のある唇。年の頃なら、俺より少し下…。
すごく…とても泥棒には見えない、可愛い女の子がリビングに座っている…ていうか腰抜かしている。
俺を見てかなり動転してるのか、オタオタと目が…身体が泳いでいる。
「えっと…」
「ご、ごごごめんなさい!ご主人様」
「……………はっ?」
しばしフリーズ…。なんだ…この子…その、かなり痛くて可哀相な子か?
俺は、メイドさんなんて持った覚えはないぞ。それにアブナイ趣味はない。
…と言うか、そもそも…誰だ?
「あの…」
「は、はいっ!……何でしょうかぁ…ごしゅ……」
段々と語尾が小さく聞こえなくなっていく。少し俯き加減に、顔を染めて話す仕草は、俺的にはストライク!
モジモジと指を突き合わせている姿は…最高です!
「すいません…どちら様で?」
「あ、あの…私、ミーア……です。あなたの……飼い猫のミーア…です」
「………………へっ?」
再度フリーズ。今何と言った?ミーア?…俺の飼い猫のミーアってあのミーアか!
「マジで…?」
「はい…そうです。ご主人様」
俺を見て恥ずかしそうにニッコリと微笑む顔はとても可愛かった。確かにそうなのかもな…。
もしかしたら、まだ俺酔っ払っているのか…。
でも、確かにミーアだ…あの笑顔はどことなく見覚えがあるような気がする。
「…ほんとにミーア?」
「はい…本当です。……ご主人様の…その……秘密も…しってますから」
モジモジしながら、顔を真っ赤にして言うミーア。試しに聞いてみたら、間違いなくミーアでした。
それは、誰にも言っていない事…ミーア相手に話した俺の悲しい恋の話。本物だ…確かにこいつはミーアだ。
「それで…えっと……なんで人間になってるんだ?」
「あの…えっと、その…流れ星」
「……流れ星?」
あの、お空を流れ落ちてくる…あの流れ星の事か?それが何の関係があるんだ?
「その…流れ星にお願い…すると、一つだけ……願いが叶うって…教えてもらった…ので…」
「それで…人間になったと…言う訳か」
コクリと頷くミーア。未だに顔が赤いというか怯えている?…もしかして、こいつ…俺が怖い?
試しに近づいてみる…。するとどうだ!逃げられた…ちょっとショック。
「あの…その、ご、ごごご、ごめんなさい。ご主人様の事…」
「……いいよ。それ以上は言わなくても…」
そっか…俺、嫌われてたんだ。だから、俺が近づくと逃げてたんだな…。かなりショック…立ち直れないかも…。
こんなにも俺は好きなのに…悲しくてミーアが霞んでみえるぞ。…マジで涙が出てきた。
「ち、違います!その…恥ずかしくて…だから、えっと…その…私…」
「あの…ミーア……さん?」
思いっきり手をバタつかせて俺を見ているミーア。ワタワタと動く姿は、なんとも可愛らしい…お兄さん食べちゃうぞ。
…はっ!…い、いかん!妄想の世界にレッツゴー♪しかけたぞ。恐るべし…猫娘ミーア。
「は、はいっ!何ですか!ご主人様っ!」
スチャっと、その場に正座をして俺を見つめるミーア。顔はとにかく赤い…そんな顔で見られると何とも恥ずかしい。
「いや…俺はどうしたらいいんだ?」
「えっと…分かりません…私には…ここは、ご主人様の家…ですから」
首を傾げて困り顔で、俺を見ているミーア。切れ長の瞳が真っ直ぐ俺を射抜いている。
できれば、俺を見るたびに顔を赤くするのは止めてくれないかな…こっちも恥ずかしいぞ。
「そりゃそうだ…ここは俺の家だ」
「えっと…それよりも……ご主人様」
「んっ?…なんだ?」
改まって俺を見つめて、三つ指ついて…お辞儀をするミーア。
一連の動作にまったく無駄がなく、優雅に見えた。
「おかえりなさいませ…ご主人様」
そう言って顔をあげるミーアは笑顔だった。瞳には優しく笑みが現れていた。
「えっと…その……た、ただいま」
「はいっ♪」
それも飛びっきりの笑顔…最高に可愛い。とても猫だったとは思えないこの仕草。
「それでは、どうされますか?」
「はっ…?何が?」
また顔を赤くして、モジモジするミーア。一々、可愛すぎるぞ!お前は…。
「あの…お風呂か…それとも、もう……お休みになるのか…と思いまして」
「…あぁ…そうだなぁ。どうするかな…風呂にでも入ってくるかな」
なんだ…この微妙な会話は…。はっ…そうだ!まるで、新婚さんいらっしゃ……違った。新婚さんじゃないか!
「は、はいっ…そ、それでは…ご一緒に…」
「はっ?……今、何と言った?」
だから、顔を真っ赤にしてモジモジしてると俺が大変なんだが…。理性保つか…心配になってきた。
「……ご一緒…します。…お背中……流させてください!」
胸の前で小さく拳を握っているその姿は、とても愛らしいが言っている事はぶっ飛んでいる!
「ぶっ!…ちょ、ちょっと待てぇ。それは嬉し…じゃなくて、ダメだ!」
「な、なんでですか?…いつも一緒じゃないですかぁ。わ、私は恥ずかしいですけど…頑張ります!」
「頑張らんでいいっ!そこで待ってろ!」
俺は慌てて風呂場に駆け込み鍵を閉めた。扉の向こうでは、ミーアの悲しそうな声が聞こえている。
俺…何か悪い事してる?いや!間違ってないはず…猫の姿ならともかく、人間の姿は非常にまずい!
精神衛生上まずいっ!これでも、健全な高校生…女の子の身体に興味は…って、猫相手に何考えてるんだ!俺は…。
冷水を浴びて、心頭滅却………寒い…風邪引きそうだ。早くあがろう…。そそくさと着替えた俺は、風呂場を後にした。
風呂を上がった俺を待ってましたと言わんばかりに寄って来るミーア。
パタパタと可愛らしい音の足音を響かせてやってくる。
「ご主人様…酷いですぅ!…折角、一緒に入ろうと思って…覚悟を決めていたのに…」
涙目で俺を見てクスンと鼻をならしているミーアに、とてつもない罪悪感と後悔の念を持ってしまう俺…。
薄っすら赤い頬は、なんともおいし…じゃなくてだな!
覚悟ってなんだ!俺はもしかして…とんでもない間違いをしたのか!それなら…ちょっともったいない…。
「そ、それでは…もう……お休みになられますか?」
「えっ…いや…もう少し起きてるよ」
「そうですか…それでは、私もお付き合いします」
そういってパタパタとリビングに入っていくミーア。その後姿を見ながら、俺も後をついて入っていく。
いそいそとキッチンを動き回っているミーアが、何かを用意してくれているみたいだ。
しばらくして、トレイに何かを乗せて現れミーアは、少し危なかしい手つきでテーブルの上にカップを置いていった。
「どうぞ…少し熱いかも知れません」
「ありがと…」
湯気の出ているそれを口に含む。香りが口の中に広がり爽やかな気分になっていく。
こんなの家にあったか?俺は知らないぞ…親父か、お袋の秘蔵の品ってやつかな?
「これ…なんだ?」
「紅茶です…銘柄はよく分かりませんが…キッチンにありました」
そう言って息を吹き掛けながら、恐る恐る飲んでいるミーア。そうか…ミーアは猫だから熱いのはダメなんだ。
必死になって冷まそうとしているので、顔が少し赤くなっている。…どこまでも可愛い奴だな…。
「ミーア…無理に飲まなくて、冷めてから飲んだ方がよくないか?」
「えっ…いえ、あの…ご主人様と同じものが…飲みたくて……その…」
両手でカップを持って俯き加減で話すミーア。その顔は、また赤く染まっていた。グッジョブ!ナイスだ…ミーア!
そこまで、俺と一緒がいいとは…見上げた飼い猫精神。それならば…誉めてやろう。
「ひにゃ!…あの、えっと…ご、ごごご、ご主人様っ!」
「んっ…あぁ、ごめん。嫌だったか?」
真っ赤な顔を高速で横に振るミーア。なんか文字が見えるペンを思い出す…。
頭を撫でているだけなんだが…それが、どうにも恥ずかしいみたいだ。キョロキョロと目が泳いでいる。
なるほど…ミーアさんは恥ずかしがり屋さんなんだね…。
「そっか…」
「はにゃ〜…ご、ご主人様」
幸せそうな顔で、うっとりしているミーア。こうしているとやっぱり猫なんだと思ってしまう。
しばらく撫でていると、コトンと俺にもたれかかって来る重みがある。見れば、静かに寝息をたてているミーア。
規則正しい呼吸音が聞こえている…もう遅い時間だ。いつもなら寝ている時間に待っていたんだ。
相当、無理していたんだろう…なれない人間の姿だし…。そっとしといてやるか…それに俺も眠くなってきた。
このまま、寝るのはまずいかな…でも、もう動くのもかったるい…。お休み…。
* * * * *
ご主人様…私嬉しいです。
こうして…お話できて…。
もっと、もっと…お話したかったです…。
それも…もう…。
ご主人様…私…。
* * * * * *
身体にかかる柔らかい感触。暖かいような…それでいて気持ちのいい温もり…。
薄っすらと目を開けると、そこは見慣れたリビング。そして…見慣れた女の子……女の子!?
「うおっい!」
「きゃっ!…ど、どうしましたか?ご主人様」
パニックに陥った女の子…ってミーアか…。びっくりした…それじゃ、あれは夢ではなかったんだな。
俺の上に掛けられた薄手の毛布は、ミーアが掛けてくれたんだろうな。本当に優しい子だよ…。
「おはよう…ミーア」
「あっ…はい♪おはようございます。…でも、もう夜ですので、こんばんわです」
にっこりと微笑むミーア。今、何と言った?夜?…こんばんわ?ゆっくりと首を廻して時計を確認。
現在八時。うん…朝だね。多分、朝だろう…ミーアの勘違い。きっと、朝日がサンサンと輝いて…て、おいっ!
「なんで真っ暗なんだぁ!……うぉい、ほんとに夜だぁ!。つー事は何か?俺は一日中寝てた?」
「はい…それはもう、気持ちよさそうな顔で…。可愛いかったですよ…ご主人様の寝顔♪」
「ぐはっ…やってしまったぁ」
寝顔が可愛かったとか…今はどうでも、いや良くないが…。学校さぼってしまった…これでも、皆勤賞狙ってたのに…。
しょうがないか…あんなに遅くまで飲んで、帰ったらミーアが人間になっていて…色んな意味で疲れたし…な。
「ご、ごめんなさい…起こそうと思ったのですが……どうしても…」
「…あっ、いやミーアが悪い訳じゃないから。気にするな…なっ?」
ポンッっと頭に手をおいて、撫でてやると恥ずかしそうに俯いて目を細める。
気持ちよさそうに…嬉しそうな顔をしていた。
「さて…どうするかなぁ。飯でも食うか…何にも食ってない訳だし…」
「それなら、用意してます。…すぐ、温めますので…ちょっと、お待ちください……っ!…」
俺の元から立ち上がり行こうとしたミーアだが、少し苦しそうにうめいて胸を押さえていた。
前屈みになり苦痛に顔を歪ませている。少し呼吸が荒く、とても辛そうに見える。
「大丈夫か!ミーア」
「……はいっ…大丈夫です。それでは、すぐに用意しますので…」
少し汗の浮いた額を拭い、キッチンへを歩いて行くミーア。その足取りは少しおかしい。
よろよろと、危なかしい…ほんとに大丈夫か。なんだか、フラフラしているように見えるが…。
キッチンでは、動き回るミーアの姿が見える。あっちへこっちへ…手伝おうと思い声を掛けたが、丁重に断られた。
それから、しばらくしてキッチンからやってきたミーア。用意してくれたのはカレーとサラダ。
「ありがとう…つーか、ミーア…お前、カレーとか食えたか?」
「いえ…私は食べれませんが、ご主人様が喜んでくれたら……嬉しいですから」
微笑むミーアの顔は少し疲れているのか顔色が悪い。
やっぱり調子が悪いのか…それは人間の姿は無理がかかるのだろうか?
「冷めたら、おいしくありません…熱いうちにどうぞ」
「んっ…あぁ、いただきます」
スプーンで一口、カレーをすくって食べる。辛い…でも、それ以上においしかった。
空腹も手伝って俺はカレーを食べ進めていた。無言で食べる俺を、ミーアは嬉しそうに見ていた。
なんかいいな…こういうのって。いつの間にか、空になっていたお皿を眺めながら両手を合わせて合掌した。
「ごちそうさまでした」
「はい…お粗末さまでした」
お皿を持ち立ち上がるミーア。俺は本でも読もうとテーブルの上に置いてある本に手を伸ばす。
突然、キッチンの方から響く音。続いて何かが倒れる音…まさか。
「おいっ!ミーア」
キッチンまで走った俺の目に映ったのは、床に倒れこむミーアの姿。苦しそうに上下する肩…胸…。
荒い呼吸がミーアの今の状況を物語っている。倒れるミーアに駆け寄り抱き起こして…
「ミーア!しっかりしろ!…どうした?大丈夫か!」
「はぁはぁ…だい…じょ…うぶ……です」
苦しそうに…それでいて俺を心配させまいと笑顔でこたえるミーア。どうしたんだ?ミーア。
何が起きてるんだ…俺はどうしたらいい。何ができる…。
「そうだっ!病院…」
「ダメ…ですよ。…ごしゅ…じんさ…ま……私、…ねこ……です」
そうだった…ミーアは猫だった。普通の病院に連れて行ってもいいのか?ここは動物病院か?
「取り合えず…」
「えっ…あ…」
俺はミーアを抱き抱えてリビングに移動した。思った以上にミーアは軽かった。
ソファにゆっくりと横にさせて俺はミーアのそばに座った。
「どうしたらいいんだ…」
「もう…時間……なん…です」
俺を見る目が儚げに揺れていた。時間…何の事だ?
悲しそうに揺れている瞳は、何かを必死に訴えているようにみえる。
「何の事だ?…ミーア」
「……私…昨日の夜…寂しくて……ご主人様を……探しに…行ったんです」
唐突に話し出したミーア。声に今までの元気はなかった。
「…えっ…ミーア?」
「いっぱい…探して……やっと…ごしゅじんさま…みつけた……です」
段々と声が弱弱しくなっていく。なんの冗談だ…ミーア。お前…どうしちゃったんだよ…。
「うれしくて……ごしゅじん…さま…のそばに…いこうと…したとき…」
嬉しそうに…でも、悲しそうに言うミーアの言葉に俺の中で何かが繋がった。
「っ!……それじゃ、あの時の事故は…」
力なく頷くミーア。嘘だろ…そんな事って…。
あの時─俺は友達と遊んでいた。まだ、訳の分からん宴会をする前だ。時刻にして、午後九時頃だろう。
その時、俺たちの目の前で事故があった。車が何かを轢いた…と。
友達が言った…「猫だ…かわいそうに…」そう言ったんだ。
だから俺も「猫か…かわいそうにな…」そう言ったんだ。まさか…それが、ミーアだとは思わなかった。
猫は…小さな声で鳴いていた。まだ…生きていたはずだ。それを俺は…俺たちは…。
「つい…うれしくて……とびだしちゃい…ました」
「ミーア…」
舌をチロッと出しておどけてみせるミーア。今はそんな顔をしないでくれ。
俺は…お前を助けてやらなかった主人なんだぞ?目の前で苦しんでいたお前を見捨てたんだぞ!
「わたし…かえらないと……ごしゅじん…さま…しんぱいすると…おもって…」
「ミーア!もういいから…喋らなくていいから…」
苦しそうに話し続けるミーアを俺は見ていられなかった。この場から逃げ出したい…そればかりを考えていた。
どうしてこいつは…そんなに笑っていられるんだ。苦しいだろうにどうして…。
「そうしたら……ながれ…ぼしが……だから…おねがい……したん…です」
「ミーア……ミーァ…」
「おねがいして…きづい……たら……いえに…いました」
「っ…ミーア」
ゆっくりと伸びてくる腕…宙を彷徨い、何かを探している。俺は堪らず、その手を握る。
握られた感触が伝わったのだろう…嬉しそうに微笑むミーアを見て、俺の目から涙がこぼれていた…。
「ごしゅ…じん……さま…なまえ…よんでも…いいです…か…」
焦点の定まらない目で俺を見ているミーア。もう…俺の姿は映ってないのかも知れない。
俺を探して揺れ動く瞳に薄っすらと涙がたまっていた。
「あぁ…いくらでも呼んでくれ…好きなだけ呼んでいいから!」
名前ぐらい好きなだけ呼んでくれ!だから…だから…。お願いだから…俺のそばから…。
「くると…さま……わたし…しあわせ…でした」
「ミーア…そんな事言うな…」
ミーアの身体が光を放ち始める。淡い光がゆっくりとミーアを包み込んでいった。
全身を包む光は次第に細かな粒子に変っていく…。そんな事言うな!…そんなお別れみたいな事言うな!
「く…ると……」
次第に消えていく声。小さく小さく…消えていく声。なぁ…嘘だろ…嘘だって言ってくれよ。
「……だ…い……すき…」
「ミーア?…おいっ…ミーア!」
そう聞こえた…。俺の手の中…光の粒に変っていくミーアの手がすり抜けていく。
身体が全て光の粒子に変って…そして、消えていった…。
俺は力なく、その場に座り込んだ…。消えていった俺の大切な…。止めどなく流れてくる涙が頬を幾筋も伝い流れ落ちる…。
「ミーアァーーーー!」
俺の声は誰もいない部屋に響いている。誰もいない…もう…ミーアはいない。
また…流れてくる涙。ミーア…俺は幸せだったよ。お前と出会えて…本当に幸せだった。
俺はいつの間にか眠っていたようだ。重い瞼をゆっくりと開けていく。そこはリビング…。
ソファに、もたれかかるようにして寝ていたみたいだ。外は薄っすらと明るくなっている。
もう…朝なんだ。昨日の事は夢なのか…ミーア…。そう思いたかったが、頬に残る感覚に現実に戻される。
また…涙が溢れてきた。ミーア…もう、いないんだよな?本当に…いなくなってしまったんだよな…。
ソファに突っ伏して、俺は目を閉じた。もう、いないミーアを思い出して…。
「……ミーア」
どうして…こんな事になってしまったんだ。あの時、俺がちゃんと助けていたら…。
─みゃ〜─
声が聞こえた気がした…。もう二度と聞く事がないと思っていた声…鳴き声。
俺は立ち上がり、駆け出していた。呼ばれている…そう感じから。慌てて靴を履いて玄関を開ける。
薄っすらと明け始めた空の中、俺は走り出した。呼ばれている…導かれるように走っていた。
胸が苦しい…息がうまくできない。それでも俺は走り続けた。
「……はぁはぁ……ミー…ア」
俺が辿り着いた場所。それは…一昨日、事故があった場所。ミーアが…轢かれた場所。
…ここにいるのか?俺はここに何を求めて来たんだ…。いるはずもないのに…何を期待して、ここまで来たんだ。
「……ははっ……俺…なに…してん……だ」
崩れるようにその場に座り込んだ。止まっていた涙がまた…頬を伝い落ちる。
ごめんな…最低の飼い主だな…俺は…。本当にごめん…ミーア…。
「みゃ〜…」
小さく鳴く声が聞こえた。俺の背中をくすぐる感覚。俺は慌てて後ろを向くと…
「みゃ〜…」
一鳴きして、俺の膝の上に乗り、身体をすり寄せてくる。その姿はまさしく…
「ミーア!」
俺は堪らず、ミーアを抱き上げていた。腕の中にいるミーアは嬉しそうに…それでいて恥ずかしそうに鳴いていた。
それはまるで、「ただいま」と言っているように聞こえた。だから、俺は迷わず…
「おかえり…ミーア」
そう言った俺に、また嬉しそうに鳴くミーア。
一筋…また涙が流れ落ちる。
「ミーア…よかった…」
ミーアはその瞳で俺を見ている。少し潤んだ瞳は優しく、俺を包んでいた。
夢じゃない…俺の腕の中には確かな温もりがある。帰ってきた…俺の大切な家族。
「ごめんな……ミーア。…もう…どこにも行かないでくれ」
困ったように…でも、どこか嬉しそうに鳴くミーア。優しく頭を撫でると甘えたように目を細める。
その姿が昨日のミーアと重なる…。ミーアの腕が…手が…俺を優しく暖かく包んでいるようで…。
「俺の大切な…家族なんだから…」
ミーアは鳴く…。その鳴き声はとても綺麗な声に聞こえた。言葉はもう分からない。でも、伝わる思いはある。
朝日が俺たちを照らし出していた。重なり合う影…二人の影。ただ、俺たちはその場で抱き合っていた。
腕の中…確かな温もりと柔らかい笑顔のミーアが、そこにいた…。
* * * * *
私…帰ってきました。
ご主人様のそばが…一番好きです。
もう喋る事ができなくても…。
いつまでも…おそばに居させてください…。
大好きです…クルト…様…。