ラブカクテルス その46縦書き表示RDF


ラブカクテルス その46
作:風 雷人


いらっしゃいませ。
どうぞこちらへ。
本日はいかがなさいますか?
甘い香りのバイオレットフィズ?
それとも、危険な香りのテキーラサンライズ?
はたまた、大人の香りのマティーニ?

わかりました。本日のスペシャルですね。
少々お待ちください。
本日のカクテルの名前はパブ・家路でございます。

ごゆっくりどうぞ。


私はこのところイライラしていた。
旦那が家に帰って来ないからだ。ひどいものだ。
旦那は無類の酒好きでしかも女好き。
分かってはいた。
なぜなら、少し前まで私は飲み屋でホステスをしていて、旦那はその時の客だったからだ。
私はまんまと当時の旦那にそそのかされ、挙句の果てにデキコンだ。
私はいきなりできた子供にかなり動揺したが、その時の旦那の、面倒をちゃんと見るから産んで欲しいと言う一言のおかげで、私は腹をくくることにしたのだった。しかもあの時の旦那ときたら堂々として男らしく、しかもその言葉が、不安な私には何よりのプロポーズとなり、嬉しかった。
でもそれは前の話。
とは言ってもそんな昔ではない。
そんな昔ではない、どちらかというと新婚に近い頃なのにも関わらず、もうこの有り様だった。
苦手な料理も一生懸命に作り、まだ手が掛かる赤ん坊の世話をして家事をして、かなり自分的には頑張っているはずなのに何がいけないのか?
旦那がいけない。それ以外なかった。
元々私に金をつぎ込んでた癖に、今度は違う女につぎ込んでいる。
私という者がいるにも関わらずに。
私は何かの矛盾を感じた。今のやりくりではかなりシビヤな生活しか送れないのに、どこにそんなお金があるというのだ。考えれば考える程に何だか腹が立ってきた。
店にいた時の私の扱いとは何だったんだ。
今の扱いはなんなんだ。
気がつくと、涙をボロボロと流していたのだった。

毎夜毎夜そんなことを考えていると、私はうっすらと何かが頭に浮かぶのが分かったが、元々頭がよくない私にはそれを具体的に頭の中で形にするのに時間がかかった。
そう、だが何となくではあるが形となったそれが、自宅で始める飲み屋さんだった。
キャバクラのように若い娘を何人も雇うには無理があるが、パブということならどうだろう。しかも経営者もホステスも私だけ。
いや、最近四歳になった娘も、お酒を注ぐくらいは面白がってやるだろう。しかも客は旦那。それが狙いだ。
しかし旦那があまりに帰ってこないようなら、昔馴染みの客でも誘って、旦那を家に入れないようにし、できればなかなか私と会えないくらいの予約の列をつくって、少し突き放すなんていうのもいいかも知れない。
そんなこんなで私は、早速ホームセンターに行き、パーティー用品売り場でミラーボールや、安いブラックライトの球、見た目オシャレなグラス、ラメ入りの生地などなどをあさり、買い揃えて、家のカウンターキッチン辺りをイジッてそれらしくした。
それから玄関を入ってすぐの所に黒のノレンを出して、その上の方に白い字で店の名前をブラックライトに反射するようにして、やや、パブらしくしたのだった。
生地を切ってドレスを作り、娘の物もお揃いのを仕立てやると、狙い通りにお姫様っと興奮して喜び、まんまとその気にさせることに成功した。そして、安いお酒に少し水を足して、酒屋で貰った高級な酒瓶に入れ替える。これまた安売りの菓子を開けて何種類か並べて、支度はとりあえず整ったのだった。

ガチャっていう音がして玄関のドアが開いた。
目の前にあるその光景に旦那は、すいません。間違いましたと、出ていく始末で、数分経ってまた入ってきた旦那はヨソヨソしく、あの〜っと声を掛けてきた。
私は、すっとぼけて、ノレンを妖しく捲ると、あらっいらっしゃいと、甘い声を出して旦那を向かえた。
久々にめかし込んだ化粧がいい香りを漂わせる。
でも旦那は、冷めた目で何の真似だと不機嫌そうに言った。私はそんなことに構わずに、旦那のカバンとコートを受け取ると、こちらへ、とカウンターに案内した。
旦那はその変わり果てたキッチンの様子にまた動きを封じられて、眉間にシワを寄せた。そこにタイミングよく娘がご機嫌で登場し、旦那はしばしカチンコチンになった。その姿に私は内心ざまあ見ろと思うのだった。
全くの仕事感覚を保ち、私は旦那に接し、勘弁してくれと言う旦那に、私は自分で考えたの決心を伝えてグラスに氷を入れて娘にそれを手渡すと、娘は教えた通り上手にお酒を注ぎ、満面の笑みでそれを旦那に差し出した。
旦那はもう飲み屋には行かないから勘弁してほしいと言うので、私は娘の前で指きりをし、もし約束を破ったら針を飲ます代わりに、他のお客さんを取って、旦那を家に客としてでないと入れてやらないと指きった。
旦那の、苦い顔でグラスを傾ける姿がとても印象的だった。

しかしそれから大して時間も経たずに、旦那は懲りずに飲み屋へ行った。
私は仕方なく、ウキウキと、昔のお得意様に電話をして事情を話した。すると、何だか面白そうだから行ってみるかと、何人かの人達が覗きにきてくれたのだった。
年配で紳士なそのお得意様達は、娘のことも気に入ってくれ、私は何だか複雑な気分だった。
当時は私が店のナンバーワンだったのにと。
当然その日は旦那は帰っては来たが、中には入れずに玄関の外で少し騒いだが、どうやら近所の人に指摘されたらしく、大人しくどこかへいなくなった。違う女のところか、仕事場辺りだろう。
私は全然お構いなしだった。
そしてそれから噂は噂を呼び、家はかなりの繁盛ぶりで、ありきたりな飲み屋に飽きた人達が、安らぐと言って利用してくれた。
私は少し前の主婦から、元のホステスに戻って、娘もさすがに私の子だけあって、お客さんに愛想を蒔いて、この頃ではおねだりまで上手になった。実質の店のナンバーワンだったのは間違いなかった。
そしてそんなことが続いて約三ヶ月。旦那は時々客として現れるだけだったが、最近は男性に見られる度にあの頃の若い頃に戻っていく私に惚れ直したのか、一緒になる前のように二日に一度、もしくは毎日顔を出して、元の生活に戻してくれと頼むのだった。
私はそんなに馬鹿じゃないし、今の生活が嫌ではなく、娘も今日はどのパパがくるかな〜とはしゃぐ始末で、前の生活に戻る必要がなかった。が、しかし、私には考えがあり、旦那を家に戻すことにしたのだった。
家も元に戻して店はたたんだ。
お得意様にも話は通して詫びた。
旦那は何だか、キョトンとして帰ってくる。
まるでキツネに摘まれたように。
それもそのハズだ。確かに店は閉めた。しかし私はお店で稼いだお金で、家の隣にもうひとつ家を買い、そこで人妻向けのホストクラブを開いたのだった。
狙いは大成功で、以前のお得意様の中の紳士な方々も、相談の上、アルバイトで何人かはホストをしている。
なかなか自分には恵まれた才能があったらしい。
そして旦那は、飲み屋に行くのを止めてホストになった。
ナンバーワンになれるように頑張るのだそうだ。
理由はともあれ、そうして旦那は毎日家に帰ってくるようになったのである。

おしまい。


いかがでしたか?
今日のオススメのカクテルの味は。
またのご来店、心よりお待ち申し上げております。では。














ケータイ表示 | 小説情報 | 小説評価/感想 | 縦書き表示 | TXTファイル | トラックバック(0) | 作者紹介ページ


小説の責任/著作権は特に記載のない場合は作者にあります。
作者の許可なく小説を無断転載することは法律で堅く禁じられています。




◆BACK
小説家になろう