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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第3章「生き脱ぎ」

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第3章「生き脱ぎ」15 公人と私人の狭間で

女王は両手を胸の前で合わせた。
「なるほど、私は…あの時…私人であったのか。女王の仕事を忘れるという間違いを犯したのだな。ジーナ、カレナードと私の間に何があったのか教えておくれ」
女官長はマリラさまのプライバシーに関わることですから、人払いしてからにしますと宣言した。そして一気にまくし立てた。
「マリラさまが私人の領域で彼と契約を交わしたこと自体は決して間違いではございません。女王とはいえ、公の仕事だけで生きているわけではございませんから。
私個人の希望でございますが、マリラさまにおかれましては私人としてのご自身も大切にしていただきたいのです。たとえ生き脱ぎでその記憶がなくなろうとも」
ジーナは断固として主張した。マリラはあっけにとられた。女官長がこの種の私見を述べるのは初めてだったのだ。
エーリフは女官長に同意だった。
「女官長殿の言うとおりです。
私人のお姿が魅力的であればこそ、おもてで女王として立たれるマリラさまは一層魅力的でございましょう。
私はいつもと違って髪をみつあみにして垂らしているあなたさまがたいへん気に入りましたぞ。それにカレナードとの間であったことを女官長殿から聞いた時、あなた様のなさりようが可愛らしいので…」
ジーナはキッとなって、彼の茶碗をサッと引いた。
「エーリフ艦長、艦橋から連絡が来ています。どうぞお早くお戻りください」
それを機に、その場に残っていた者達は席を立った。
エーリフはわざともの悲しくエレベーターに向かい、ヤッカは可笑しそうに艦長を見送った。リリィは正午にはカレナードを施療棟に移す旨とマハの交代の助手を寄こすのでよろしくと言って帰った。
マリラは麦粥と野菜スープを少しずつ胃に入れ、いつものように静かに1日目の朝を過ごした。それからカレナードの様子を見に行った。
ジーナはバラバラになった白いドレスを処分するため廃棄箱の蓋を開けた。
血に染まって千切れた袖をたたんでいるとき、マリラがこのドレスをもう一度カレナードに着てもらいたいとねだっていたのを思い出した。やはり女王は、いや、マリラはあの少年を呼びたかったのだ。
マリラが彼に何らかの役割を求めているのは間違いない。
しかし、マリラはその記憶を失った。彼女は彼を打ち据え、傷つけ、詫びたことを覚えていない。2人はほとんど一から人間関係を築き直すことになる。
果たしてカレナードはそれを受け入れられるだろうか。
「私はマリラさまに酷いことを申し上げてしまったわ。私人の思い出が1年ごとに消えるのはお辛いことなのに…。せめて幾つかでいい、生き脱ぎをしても、私人の記憶を残しておけたら…。
それにしても艦長のバカ!カレナードとのことは誰にも言わないって約束したのに、あの男は!本当にいやらしいったら!」
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