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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第3章「生き脱ぎ」

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第3章「生き脱ぎ」10 ウーヴァに遭う

女官長と警備隊の隊長が追ったが、飛ぶように歩くカレナードを止めることが出来なかった。女王の執務室の前にベル・チャンダルがいた。その次の間にアライアや他の女官達が控えていたが、カレナードは風のように通り過ぎ、何もない例の大部屋を一気に横切った。
ジーナとヤッカとピードが、儀式部屋の前で立ち止まっているカレナードを取り押さえようとした。彼は開くはずのない扉を開けて、向こう側へ行ってしまった。
「あ…あの子はどこへ行ったの」
ジーナは扉を押したり引いたりしたが、びくとも動かなかった。彼女の足元にマントと布靴が落ちていた。
「本当にこの向こうへ行ったのなら…かわいそうに。命はないわ。助けることも出来ない」
ヤッカは嘆息した。
「伝説どおりになるとは限りません」
ピードはまだ伝説を知らなかった。部下のためにヤッカは話した。
「ある時、女王は生き脱ぎの儀式を終えて半日もこの部屋から出てこなかった。心配した女官達は扉を破って中に入った。
恐ろしい悲鳴が起きて、誰一人生き残ったものはいなかった。彼女らはウーヴァに命を取られたのではない。ウーヴァはとっくに女王の命を戴き、彼女を新しい体にしていたからだ。誰が女官達を骸にしたのか。分かるか、ピード・パスリ」
「信じられませんが…分かります」
ジーナが言葉を継いだ。
「ただの伝説です。しかし私達は教訓を得たのですから、守らなくてはなりません。マリラさまもそれをお望みです。女王が真に人間として蘇られるまで、そのお姿を見てはならないのです。禁忌と同じです。…カレナードはマリラさまに呼ばれたと言うけど、マリラさまが呼ぶはずがないのです」
ヤッカは施療棟から医師を呼んで待機させてはどうかと言った。ジーナは応じた。
「気休めでしかありませんが、手配しましょう」
扉に近寄って耳をそばだてた。中の気配を知ることは出来なかった。
カレナードは生暖かい暗闇の中にいた。足の裏に床の感触はあったが、そこは部屋というよりウーヴァの領域であり、何もかもが混沌とした感じを受けた。
「マリラさま…!」
彼は足元を探り、混沌の中をさまよった。恐ろしさは消えた。死んだのちに魂が還る場所とはこういう所かと思えるほど、静かだった。彼はマリラを探した。
彼女はこのどこかに居る。
意識を全てマリラの気配に集中した。彼の五感は限界を超え、暗闇の中で霊感が出現した。彼は初めてウーヴァの存在を感じた。それは圧倒的な質量とエネルギーだった。引き寄せられるように、両手を差し延べた。
「マリラさま、あなたを見守りに参りました。どこにおられるのですか。マリラさま…」
左手の紋章が弱く光り、微かに物が見えた。カレナードの眼前にウーヴァの想像を絶する姿があった。
ありとあらゆる黒、天鵞絨の黒と汚泥の黒、墨の黒と残滓の黒が渦を巻いていた。そこに烏の羽、鵜の羽、蝙蝠の羽が浮き沈みを繰り返し、赤と黄色が所々に現れては消え、大地と血の香りが蒸せるように立ち上った。あらゆる生命を育み、また飲み込んでいく香りが鼻腔をくすぐった。
鳥のような顔が現れ、ゆっくりと左回りに回転した。彼は霊感によって目の前のそれが偉大なものだと分かった。
「マリラさまはどこですか。大いなる…大いなる闇よ…」
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