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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第1章「禁忌破り」

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第1章「禁忌破り」6 女王は全てを剥ぎ取るや

マリラは、顔を上げよ、と命じた。少年の鳶色の瞳に覚悟が宿っていた。彼女は試した。
「そなたの名を訊ねよう」
「カレナード・レブラント。父の名はヒューゴ・レブラント、母の名はカレワラン・マルゥ」
「そなたは私に全てを捧げると申したな。心はどうだ」
彼は即座に言った。
「心を捧げます」
「心臓はどうだ」
「心臓を捧げます。父の命の代償に、僕の命を、命を女王様に奉げます」
マリラは不思議な衝動に駆られた。この少年は自分を捨てることができるのか、試してしてみたくなったのだ。
女王は彼からすべてを剥ぎ取ることにした。
「では、魂はどうだ。魂は捧げぬか」
このとき初めてカレナードにためらいの色が走った。
アナザーアメリカにおいて魂は肉体と精神の両方に宿る不滅の存在だった。
人が死に肉体が滅び精神の活動が終わる時、魂は人が生まれる前の暖かな闇に帰り休息すると信じられていた。
女王の言葉に従えば、少年は自己の拠りどころと人生の安息を失うことになる。幼い子供は理屈でなく本能でそれを知っていた。
子供は黙って女王を見上げていたが、立ち上がって右手を胸に当てた。そしてはっきりと言った。
「マリラさまに僕の魂を奉げます」
彼は禁忌の恐怖を吹っ切った。大した胆力であった。
「そなたの願いを申せ」
「父を生き返らせて下さい」
少年はよくよく父親を慕っているのだろうとマリラは思った。
「では、お前は一生を私のそばで私の人形として生きるのだ。
しかし、生き返った父は悲しむであろう。我が子が魂を失い、虚ろに生きる様を見続けるのだ。ご覧、カレナード」
彼女はコートが汚れるのも構わず跪き、視線を少年の目の高さまで下ろした。この瞬間に少年の魂深く、女王のけぶるような髪と灰色の目、若い大人の女の頬と顎の線が刻み込まれた。
女王は彼の目の中に自分が映し出されたのを認め、満足を覚えた。
マリラは遺体を指差した。
カレナードは女王が指し示す方を見た。
「一度死んだ者を蘇らせることは出来ぬ。たとえ我らヴィザーツであっても、この世の摂理に逆らうことは出来ないのだ。
そなたの願いはかなわぬ願いだ。魂は受け取らぬ」
カレナードは何かにすがるように父の遺体と女王の顔を交互に見た。
女王の厳しい眼差しに納得したのか、やがて彼は無言で頷いた。
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