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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第3章「生き脱ぎ」

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第3章「生き脱ぎ」3 人のロマンチズムを笑うや?

V班の部屋は御下賜の品を見たがる訓練生であふれ、大騒ぎになった。カレナードはそれらをベッドに並べてから、ミシコに皆に分けてくれないかと頼んだ。 彼の手元にはジーナが追加で入れたオレンジの皮の砂糖漬けのひと袋が残された。アレクが小さなレバーパテの包みを差し出して言った。
「お前、これが何に効くか知ってるか。貧血だよ。次のお月さんの時にちゃんと食べなきゃ許さん。あの女官の代わりに俺が見届ける。いいな」
「アレクは物知りだな」
「うちは姉貴が3人もいてな、3人とも血が薄いんだよ。それでな、女王さまはきっとお前のことが心配なんだ。そうでなかったら、こんな品物を選ばないよ。高貴な方のお心遣いを無駄にするとバチが当たるって婆ちゃんが言ってた。あの女官さんの言ったこともわすれちゃいけない。いいな」
普段は余計なことをしゃべらないアレクが饒舌になるのは、訳があるのだ。カレナードは素直に包みを受け取った。
艦長ワレル・エーリフは司令室に珍しくジーナ・ロロブリダの姿を見かけて、会釈した。
彼女は「艦長の記憶を頼りに来ました」と言った。
それに対して彼は「私自身を頼りにしないのかな」と本気とも冗談とも取れる態度で答えた。
司令室階下の艦長室に彼の10年分の覚書があった。艦長日誌と違い、彼が特別に書き留めたい事柄を細かく綴った記録だった。
それらは寝室にしまってあったので、ジーナは男臭く狭いベッドと積み上げた本や書類に埋まった机があるその部屋まで同行しなくてはならなかった。彼女は無性に片付け魔の血が騒いでならなかった。エーリフが覚書の束をひっくり返している間、女官長はベッドのシーツを直し、脱ぎ散らかしたブラウスやシャツを畳んだ。
「ありましたぞ、女官長殿。おや、私のむさ苦しい部屋が少しはマシに見えます。あなたさまが居るせいでしょうかな」
「私はすぐに戻らねばなりません。早くそれをお見せください」
艦長の脱線に付き合う気のないジーナは、彼の話をばっさり切った。
エーリフは直したばかりのベッドに腰掛け、満足気にシーツを撫でた。その仕草はジーナの女心に嫌悪と好感の相反するざわめきをもたらしたが、彼女はすぐにそれを打ち消した。
覚書には新任艦長だった頃のエーリフの文字が踊っていた。
『女王の無断外出にこの胸がいかに激しく揺れたか、かの人はご存知あるまい。日が昇ってからオルシニバレ鉱山の近くで女王の飛行艇から連絡が届いた時の安らぎを、かの人はご存知あるまい』
ジーナは吹き出しそうになった。ロマン小説もかくやと思われる文章が延々と続いている。肝心の記述にたどり着くまで、彼女は肩の震えを必死で隠した。
『女王は誰かと御一緒のようだった。誰だ!誰なのだ!女王は問うな忘れろの一点張りを繰り返された。ああ、女王よ、マリラさま、この新任艦長には打ち明けていただけぬか。信を得たいこの男の願いを御照覧あれ』
「アホらしっ!」
女官長は声に出さずに言った。
「この男!対玄街作戦参謀の一員のくせに、心に少年を住まわせたままなのね!」
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