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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第3章「生き脱ぎ」

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第3章「生き脱ぎ」2 女王御下賜(挿絵有)

挿絵は「女官ベル・チャンダル」です。
それはともかく、マリラの心は読みづらかった。乗船を許したはずのカレナードに見せた白蝋の仮面の如き表情は怒りなのか。あるいは無関心なのか、軽蔑なのか。少なくとも、女王を悩ませる出来事であったのは確かなのだ。
「マリラさまは自ら悩みの種を呼び寄せたとでもいうのかしら。そう言えば、玄街もマリラさまの悩みの種には違いないわ…」
女官長はもう一度ページをめくった。
『新年の30日、カローニャ市ヴィザーツ屋敷に玄街の襲撃あり。死者1名、重傷者5名』
『2の月10日、カレナード・レブラント実習中の事故により、女王の浴室を破損』
『2の月11日、ミセンキッタ領主、ララークノ家に玄街の干渉あり』
『2の月13日、カレン人形の件あり』
ジーナは10日と13日の尋常でない女王の怒りを思い起こした。たまに気の利かない女官が女王を怒らせても、女王自らがあのように罰を加えることはなかった。
「マリラさまは身代わりを欲しておられた。私の代わりに死ね、と。初めてだわ、生き脱ぎをあれほどに恐れるマリラさまは…」
女官長は女王に何が起こったのか、量りかねた。ともかく春分まで20日になった。彼女はカレン人形への贈り物の手配をするため、席を立った。
訓練生棟の詰所に故郷から手紙や差し入れの品が届く中、ナサール・エスツェットはまだ青い顔でS班の郵便箱を覗きに行った。そこにベル・チャンダルがカレナードに贈り物を届けに来ていた。ナサールの頬がほんのり赤くなった。彼はベルに頼まれてV班までの案内をした。その後ろを物見高い訓練生がぞろぞろついて行った。
「どうもありがとう、ナサールさん」
挿絵(By みてみん)
ベルは能ある鷹が爪を隠す笑顔で礼を言った。彼は女官が優秀な軍人であることにまだ思い到ることなく、初心さをさらけ出していた。
一方、カレナードはベルの来訪に無意識に予防線を張った。彼は用心深くなっていた。ベルはマリラさまからのお言葉です、と前置きして口上を述べた。
「先日のお詫びにこれを贈ります。快くお受け取りになるよう願う。体をご自愛あれ」
カレナードの後ろで聞いていたV班一同とベルの後ろで盗み聞きしていた訓練生達は、ほうっとため息を漏らした。女王から品物と言葉を贈られる栄誉を目の当たりにして、彼らは感動にしびれていた。だが、カレナードは当惑していた。ベルは彼の口から意外な返事を受け取った。
「私はマリラさまのただのしもべに過ぎません。詫びられることは何もございません。マリラさまがお心を痛めることはありません」
女官は少年が素直になれないのを肌で感じた。あの晩の痛みは体から去っても、記憶に残っているのだろう。彼女は言った。
「マリラさまはあなたをただのしもべや人形とは見ておられません。どうかこの品物に託された女王のお心をくみ取って下さいませ」
カレナードは女官に恥をかかせるつもりはなかったので、そこで折れた。彼は品物を受け取り、儀礼的にお礼を言った。
「カレナード・レブラント、心に勇気をお持ちください。私は、マリラさまがあなたを必要としている気がしますの」
ベルはまだ言いたいことがあったが、訓練生の前でする話ではないと判断して去っていった。
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