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浮き船ガーランド・第一部 作者:セオ

第3章「生き脱ぎ」

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第3章「生き脱ぎ」1 女官長日記

マリラの懊悩は今に始まったことではないが、1ヵ月の長きに渡ったのは珍しいことだった。
マリラに仕えて24年になるジーナ女官長は気丈だった。女王の私事録を読み返し、彼女が心労に苛まれるパターンをよく知っているジーナは、今回が新しいパターンになる可能性を考えていた。
女官長室の鍵付き書棚には、女王の公私両面を分析したジーナの日記が並んでいる。彼女はその奥から極秘の1冊を取り出した。カレナードが語った10年前の出来事を確認するためだった。
日記には『三の月、17日未明、飛行艇で出奔。午前9時帰投。オルシニバレ市近郊。詳細不明』とあった。その年の春分の儀式は『滞りなく』終わっている。これはマリラに最も多く起こるパターンで、ジーナは一時逃避型と名付けていた。
「当時の艦長は、エーリフだったかしら。彼が記録をつけていれば詳細が分かるわね。紋章人にも詳しく聞いておかなければ」
ベル・チャンダルが扉を叩いた。
「マリラさまがご相談があるようです」
ジーナは日記を戻すと書棚に鍵を掛け、静かにマリラの朝の食堂へ向かった。女王は大宮殿での朝の謁見を終え、朝食を取ろうとしていた。パンとチーズとお茶だけの質素さを見て、ジーナはまるで訓練生の食事だとたしなめた。
「せめて燻製ハムか野菜を一緒にお摂りください。栄養が足りませぬ」
「ジーナ、育ち盛りの訓練生こそ、これでは足りんぞ。私はいいのだ、春分までわずかだからね。この北メイス産のチーズがあればよい」
「ご相談事を承りましょう、マリラさま」
マリラはすっかり落ち着いていた。カレナードを打ち据えた翌日からは、反省したのか懊悩が氷解したのか、精力的に公務をこなす女王に戻っていた。
「あの新参訓練生に栄養のあるものを贈りたいのだが、何が良いか」
「カレン人形に、でございますか。」
「このところ、私は我を失っていた。その後、あの者はどうしているか」
「先頃は貧血を起こし、施療棟で輸血したようです」
女王にジーナは貧血事件の詳細を話した。
「出血があったのか。それでも男子棟に留まるとは…男であるな。しかし、苦しいであろう。ジーナ、新参は今は何を習っている」
「飛行艇の模擬訓練を終え、第4甲板での実習に入っております」
「船酔いの時期か。ならば林檎のジャムと人参入りのクラッカー、ミント水、あとレバーのパテを小分けに包んだものでどうだろう。ジーナが追加の品を選んでくれると助かる」
「承知いたしました」
ジーナは控え室へ下がって、マリラの懊悩が現れた期間の日記を読み、女王の心の襞をたどった。彼女の変調の日は明らかだった。
『新年の17日、女王は禁忌破りの者に乗船許可。玄街22名がガーランドへ侵入。激闘の末、殲滅。警備隊の負傷者6名、うち重傷者2名。
翌日、禁忌破りの少年と女王の契約成立。マヤルカ・シェナンディの体を元に戻す代わりに、カレナード・レブラントはその心体を女王に捧げる契約』
「マリラさまは、なぜ、あの少年と少女の乗船をお許しになったのか…。それに、この契約の曖昧なこと…」
少年は役割も所属も何一つはっきりしないままだった。ジーナはせめて彼をマリラの個人的な兵士、いわゆる独立遊撃隊候補にでも位置づけるべきだと考えた。そうすれば、彼はガーランドでの立ち位置が確保できるのだ。
マリラが生き脱ぎの儀式を終えたら、この件を進言しようと思った。
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